01 奄美剣星 著 法則 『ヒスカラ王国の晩鐘15』
*あらすじ
勇者とは、超戦士である大帝を討ち果たすことができる王国唯一の超戦士のことをさす。二五年前、王都防衛戦で帝国のユンリイ大帝と刺し違えた指揮官ボルハイム卿がそうだ。やがて二人の超戦士がそれぞれ復活。暫定的な講和条約が破綻しようとしていた。そして、大陸九割を版図とする連合種族帝国が、最後に残った人類王国ヒスカラを併呑しょうとする間際、一五歳の女王は自らを依代に勇者転生を決断した。
冬季連合種族帝国軍攻勢は、実質、ヒスカラ王国に対する威力偵察であるとともに、巨大な虫型兵器である「カブトガニ」の実験でもあったのだが、女王オフィリアの機転とカリスマ的なスキルによって、初号機を寝返らせることに成功。そのため、帝国軍は、地団太を踏みながら、戦線から後退せざるを得なくなった。
挿図/Ⓒ奄美剣星「ユンリイ大帝」
15 法則
バン、バン、バン……。
横並びになった王国軍の主力戦車四両が、先の国境紛争で帝国軍から鹵獲した最新鋭生物兵器「カブトガニ」を、狙い撃ちにした。四発のうちの一発が直撃したのだが、ツルッとかすって、あらぬ方向へ飛んで行き、土煙をまき上げつつ落ちた。
「なんと、あれでは実弾でも不発だ。Ⅴ号戦車の模擬弾を弾くとは!」アンジェロ卿が声を上げた。
王国の宰相相当職を護国卿という。名はアンジェロ、人族や亜人族よりも上位にある亜神族で、彼は、この時代において、牡の灰色猫を依代としていた。
灰色猫がⅤ号戦車と呼んだのは、全長九×幅四メード、主砲七五ミリ・メード主砲搭載、乗員五名の重戦車で、マーコ・シオジ上席研究員が指揮するシオジ機関により、軍都一九四五で発掘されたものを、コピー量産したものだ。
飛空艇というのは、気球部全体を装甲した飛行船のことだ。護国卿専用飛空艇「バステト」は、全長三百メード、プロペラ・エンジン五基を備え、五機の艦載機を搭載している。司令ゴンドラ・展望窓から、広大な原野で対峙する四両の戦車と、「カブトガニ」による演習が望めた。
演習場は、ヒスカラ王国の同名州、同名王都に最も近い演習場のキア・キャンプだ。二〇ガロス四方もある広大な敷地内には、実弾演習場のほかに、兵舎、各種倉庫、工廠、そして飛行場までもが付設してある。
「カブトガニ」は、Ⅴ号戦車とほぼ同じ大きさで、甲殻はこれより頑丈だ。
日常、その魂魄は、ヒューマノイドの宮廷侍童・カミーユを依代としているが、有事には、「カブトガニ」本体に移るわけだが、このとき、侍童の身体は抜け殻となる。――抜け殻となった侍童は、飛空艇士官室の一房で、ぐったりと、椅子の背に身を預け、眠っていた。
Ⅴ号戦車は高価な兵器で、一回の演習で「カブトガニ」に破壊させるのはもったいない。シオジ博士は、代わりに、この重戦車と同じ厚さの装甲板で四つの箱を造り、戦車の前に置かせた。
「カブトガニ」は、弾丸に相当する「飛鎚」を、体内分泌させた火薬に点火、射出孔から発射させることができる。これで射程圏内にいる四つの装甲板箱を貫通して見せた。
「まるで、鯨の潮吹きみたいだわ!」シオジ博士が感嘆して言った。
飛空艇ゴンドラには艇操縦室がある。三方が展望窓になった操縦室には、各種メーターのついたパネル、伝声管、そして昇降舵輪スタンドと、方向舵輪スタンドとが設置されている。舵手や船長といった士官達に挟まれた格好で、上席研究員マーコ・シオジ博士と姪のシズク・シオジ、そして護国卿アンジェロの三者が立っていた。
シオジ博士が、さらに、「確かに王国軍Ⅴ号戦車は、帝国軍生物兵器『カブトガニ』には劣る。だが、『鷹』に戦車隊を指揮させたらどうなるか?」と続け、横にいる童女に目配せした。
――鷹の眼――
従来の地上部隊の指揮官は、味方戦列の後方で、斥候部隊の報告と地図とを照合しながら、敵軍各隊の配置を観測していたものだ。やがて、気球・飛行機といった航空機が登場すると、索敵の精度が上がる。だがそれでも、報告を待っている間に、実際の戦況は変わっている場合があった。だが指揮官自身が、空に飛び、戦車隊を指揮したらロスタイムは防げるではないか。
飛空艇・司令ゴンドラ後方には航法室がある。VIPの三者がそこに移った。大机の上に地図が広げられ、飛空艇の航路と現在地を線引きしていく。シオジ博士の姪は戦車小隊を表した「兵棋」を手にしていた。兵棋というのは、士官達が図上演習――すなわち兵棋演習――のときに用いる駒のことだ。シズクは目を閉じ、鷹に擬態した無人偵察機を依代とし、地上にいる四両の戦車隊無線係に、彼我の正確な位置を教えた。
ただちに四両の戦車は砲塔を回し、「カブトガニ」の胴体の一点に模擬弾を集中させた。
――全弾命中、この戦法ならば「カブトガニ」の分厚い甲殻を食い破ることができる!――
「どう、カミーユ?」
「降参だよ、シズク!」
当人達二人は、念話で応答していたので、周囲の人々には聞こえない。
侍童カミーユの魂魄は依代を、地上の「カブトガニ」から、飛空艇士官室で抜け殻になっていたヒューマノイドに代えた。同時に彼は、飛空艇搭乗員達が沸き立っているのを聞いたのだった。
演習からほどなく王国軍に、「鷹の眼」およびⅤ号戦車からなる実験部隊「ホルス」が創設され、童女シズクは「ホルスの娘」と呼ばれるようになった。
ノート20210630
〈ヒスカラ(人類)王国〉
01 オフィーリア・ヒスカラ三世女王……転生を繰り返す王国の英雄ボルハイム卿の依代。ボルハイム卿は25年前の王都防衛戦総司令官となり、帝国のユンリイ大帝と相討ちになった。卿は、その後、帝国辺境の町モアで少年テオを依代に復活、診療医となるも流行り病で没し、女王の身体を依代に、再び王国側に転生した。ヒスカラ暦七〇二〇年春現在15歳。
02 アンジェロ卿……灰色猫の身体を依代に、古の賢者の魂魄を宿す王国護国卿。事実上の王国摂政で国家の最高決定権がある。ボルハイム卿の移し身も彼が執り行ったものだ。巡洋艦型飛空艇パルコを居館代わりに使用している。/十年前に異界工房都市の〈量子衝突〉実験で事故が生じて〈ゲート〉が開き、男女十人からなる異界の学者たちが迷い込んできた。学者たちは、ノスト大陸の随所にある飛行石鉱脈を採掘し、水素やヘリュウムの代わりに、飛行石をつかった飛行船の一種・飛空艇を開発した。/アンジェロ卿は彼らを自らのブレーンにした。ヒューマノイドのレディー・デルフィー、ドン・ファン大尉のロシナンテ戦闘機飛行中隊の戦闘機シシイも、異界学者たちが製作したものだ。
03 レディー・デルフィー(デルフィー・エラツム)……教育・護衛を職掌とする女王顧問官で、年齢、背格好、翡翠色の髪まで似せたヒューマノイドだ。オフィーリア女王の目が大きいのに対し、レディー・デルフィーは切れ長になっているのは、彼女の製作者が女王との差別化を図ったためである。レディーは衣装を女王とそろえ、寝台も同じくしているが「百合」関係はない。さらに伊達眼鏡を愛用する。
04 ドン・ファン・デ・ガウディカ大尉……二五年前、連合種族帝国によって滅ぼされたガウディカ王国国王の息子。大尉の父王は、滅亡直前にヒスカラ王国に亡命してきて客分となり、亡国の国王はヒスカラ王族の娘を妃に迎えて彼が生まれた。つまるところオフェイリアの従兄で幼馴染、そして国は滅んでいるがガウディカ王太子の称号がある。女王より二歳年長のドン・ファンは、「オフィーリアを嫁さんにして、兵を借り、故国を奪還するんだ」というのが口癖。主翼の幅一〇フット後部にエンジンを取り付けたシシイ型プロペラ戦闘機の愛機に「ロシナンテ」と名付け、同名の飛行中隊20機の指揮官に収まっている。
05 マーコ・シオジ博士………一〇年前の量子衝突実験失敗でノスト大陸に転移してきた都市、軍都2040(別名、第三工廠)の主席研究員で、同都市の市長兼務。ヒスカラ王国賢人会議会員。親族は「災害」で生き残った姪シズク・シオジ(一〇歳)。
06 ムラマサ少尉……シオジ博士に連絡役として推挙され、ヒスカラ王国の侍従武官となった。ややBL趣味があるものの、有能。秘密警察「王ノ目」に所属。
07 カミーユ……ヒスカラ王国の宮廷侍童。もともとは敵対する連合種族帝国の重戦車型生物兵器「カブトガニ」だったが、両国が国境紛争で小競り合いをした際、女王オフィーリアに篭絡され、寝返った。平時は、シオジ博士を首班とする調査隊により、軍都二四〇〇の廃墟で発掘されたヒューマノイドを依代とし、王宮の侍童として仕えるようになった。
〈連合種族帝国〉
01 ユンリイ大帝……一代でノスト大陸9割を征服し大帝国を築き上げた英雄。あまたの種族を従えていた。25年前の王都攻略戦で、ボルハイム卿の奇襲を受け相討ちになるも、帝国臣民に復活を待望されている。比類なき名君。
02 フィルファ内親王……大帝が不在となった帝国を預かる摂政皇姉にして大賢者。王国の勇者ボルハイム卿に対するアンジェロ卿のようなもの。黄金の髪、青い瞳、透けた背の翅が特徴的な有翅種族女性。火の粉が降りかかれば払うが、弟と違って戦いを好まず、戦禍で荒れた土地の迅速な復興など内治に功績がある。
03 テオ・バルカ……帝国の版図に収まった辺境都市モアで診療所を開いていた猫象種族。帝国側道士によってボルハイム卿の魂魄が移し身されるとき10歳の少年だった。すでに両親はなく、看護師の姉ピアに愛情深く育てられた。本来は大帝復活のための依代であったが、大帝の遺言により、ボルハイム卿が王国側で復活しないようにするための措置で、テオはボルハイム卿の依代となった。町から出ることを許されず、事実上の軟禁状態にあった。その後25年後、流行り病で没し、共同墓地に葬られた。猫象種族の妻を娶り、二男三女をもうけた。
04 ジェイ・バルカ……テオの息子・猫象種族。両親を流行り病で亡くし、弟妹たちとともに伯母ピアに育てられる。少年兵で従軍し戦地で上等兵となるも、王国軍の捕虜になる。捕虜交換で帰国後、士官学校入学の名目で帝都に召喚され、ユンリイ大帝転生に際し、依代となる。戦友はガンツ上等兵。




