02 柳橋美湖 著 季節の花・桜 『北ノ町の物語 84』
【あらすじ】
東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。
……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。
季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。
異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。
挿図/ⓒ奄美剣星「神魚」
84 季節の「風景」
ご機嫌いかが、クロエです。
全十三階層中第十二階層攻略中です。
◇
「――スタートは一宮神社大鳥居前、ゴールはクロエさんのお爺様・鈴木三郎邸となります」
審判三人娘の一人・黒の法衣をまとった〝密室の鯉〟さんが、台地の上にある軽便鉄道停車場〝一宮神社前〟から、上下二つの湖の向こう側に広がる海岸を指さしました。そこはJR駅に近い漁師町で、小高い丘の上に佇む洋館がお爺様の家です。
「〝密室の鯉〟さん、ここって本物の北ノ町でしょうか?」
「はい。実は北ノ町って、ここ〝浮遊ダンジョン〟第十一階層に連結していたのです」
「なんて無茶苦茶な設定だ」従兄の浩さんと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんの二人が、マダムを挟んで肩をすくめて見せます。
〝一宮神社大鳥居前〟と書かれた看板が立っている停車場には、街灯とベンチが一つずつあり、降りてすぐのところに大鳥居があります。異世界へ出発したのは、この停車場からです。
〝浮遊ダンジョン〟に至る旅は、私が、マダムと連れ立って、東京発の夜行列車に乗り、北ノ町に向かう途中にある駅の待避線に停車する列車車窓に、寂しそうな少女を見かけたことに始まります。たまたま境内の神主さんご夫妻とお話しをしたとき、少女は、神主さんのお子さんで、死神によって〝神隠し〟にあったとのこと。異世界勇者のお爺様は、浩さんや瀬名さん、マダムと私を伴って、異世界行きの軽便鉄道に乗りました。
後に、この異世界が、女神であるお婆様・紅子や、母・ミドリが支えていたこと、〝神隠しの少女〟の正体が母・ミドリで、彼女をさらった死神の正体はお爺様だったこと。そして異世界中枢であるここ〝浮遊ダンジョン〟に故障が生じていて、修理の必要があること。さらには私自身が見習女神であったことを知ります。そして私が正式な女神となるための修行として、北ノ町関係者のパーティーを率い、〝浮遊ダンジョン〟全十三階層を攻略、故障箇所を修繕せよと、祖母と母から命じられました。
鳥居をくぐった神社参道には、異界に通じるトラップがあって、私も落ちたことがあります。――参道には向かわず、大鳥居下に整列した私達が、下り坂を海に向かってスタートすると、一本道が湖畔に沿った通りとなります。湖は二つ。神社寄りにあるのが上ノ湖、海岸寄りにあるのが下ノ湖。以前、皆で神社を詣でたとき、ここ上ノ湖で、主である神魚さんに出会い、御神木の枝木を戴きました。帰ってから、お爺様が枝を加工して笛に仕立ててくれました。その笛を異世界で鳴らしたところ、何と、炎龍のピイちゃんが飛んできて、懐かれたという経緯があります。
季節は初夏で、辺りの山々は新緑に覆われ、湖面すれすれを燕が舞い飛び、岸辺で蓮華草が紅の花を咲かせています。私達の後を歩いていた炎龍のピイちゃんが、急に飛び発つと、湖面でホバリングをしだし、そのままカワセミみたいに水柱をたててダイブしました。その瞬間、翼を持った炎龍の姿はなくなり、一〇メートルくらいはあるでしょう巨大なイトウの背中が見えたのでした。
浩さんと瀬名さんが呆気にとられたように交互に呟きました。
「ピイちゃんって、上ノ湖の主さんの化身だったのか!」
「もしかして、このまま湖に帰って、もう我々のところへは戻ってこない?」
マダムは感無量という顔で、「ピイちゃん元気でね」と手を振っていました。
え、ピイちゃん、お別れが突然過ぎですよお!
ピイちゃんは、本当に帰ってしまうのでしょうか?
◇
では皆様、次回も第十二階層でお会いしましょう。
By.クロエ
【主要登場人物】
●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。
●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。
●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。
●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。
●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。
●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。
●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。




