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自作小説倶楽部 第22冊/2021年上半期(第127-132集)  作者: 自作小説倶楽部
第131集(2021年05月)/季節もの「風景」(新緑 燕 蓮華草)&フリー「楽しみ」(飾り、映画、デリバリー、菓子)
20/28

01 紅之蘭 著  楽しみ 『ガリア戦記 23』

【あらすじ】

 共和制ローマ末期、南仏・北伊・アドリア海北端の属州総督となったカエサルは、実力者のポンペイオスやクラッススと組んで三頭政治を開始し、元老院派に対抗する一方で、不安定なガリアの鎮静化のため、行動を起こした。


挿絵(By みてみん)

挿図/ⓒ奄美剣星「ゲルマン騎兵」

   第23話 楽しみ


「ええい、蛮族どもめ。なぜ戦わぬのだ」

「未開人は大軍を擁しての大戦が苦手でゲリラ戦を好む」

 ローマの大軍が迫ると、ガリア人は集落を捨てて森林の奥へ逃げ込んだ。ローマの将兵が口ぐちに不平を漏らした。

 農耕民族のローマ人は、羊毛や繊維織物の衣類を羽織り、麦類でパンを作って食べる。穀物ばかりを食べるからか一六〇センチ以下という小柄な体躯をしている。都市を築くのが得意だ。対して、狩猟採集民族のゲルマン人はというと二〇〇センチ前後、毛皮で腰をまとい、狩った獣肉を食べる。肉食が主体だからか大柄だ。基本、ちょっとした村落は築けても、都市というほどの集落は築けない。


 ガリアは、基本、ライン川から西側、フランスやベルギーを中心とした地域だ。

 ガリア北東部に相当する、フランス東部や、ベルギー、ルクセンブルクあたり一帯を、中世以降、フランドルとかフランダースとか呼称するようになる。湿地帯に立地する各都市は運河を開削して結ばれ、新大陸に匹敵する収入をもたらす一大工業地帯となった。多数の都市の人口を支えるため、燃料、建材として、森林面積は大幅に削られ、耕地や牧草地になった。

 深い森林といえば、ベルギーとフランスの国境に〝黒林〟という所がある。第二次世界大戦〝西部電撃作戦〟の際、ドイツ軍は、〝黒林〟を戦車軍団で通り抜け、フランスに奇襲をかけた、一気に占領してしまった。〝黒林〟はカエサルの時代の名残りをとどめている森林地帯だ。――カエサル麾下のローマ軍は、同地域の森林地帯を伐採して、得意の木柵で囲った砦を多数構築、連結させて〝ハイウエイ〟を構築した。全軍は破竹の勢いで、ゲルマン人がひしめくライン川の岸辺に到達したものの、間もなく冬になるのを前に暴風雨が続いたため、後方にある冬営地まで、撤退することになった。


 暴風雨の勢いが弱まったので、カエサルは、騎馬隊の指揮官である青年クラッススと連れ立って、西岸から混濁するライン川を眺めた。

「ライン川はいずれローマ北方を守る天然の濠となるだろう。――さてクラッスス君、君ならこの大河をどのように渡河する?」

「カルタゴの将ハンニバルは、ガリアにあるいくつかの川を、川舟や筏で渡ったと聞きます。普通、そうするのでは?」

「橋をかける」

「橋に、どのような意味が?」

「考えても見ろ、橋をかけるには、ゲルマン人にはない高度な文明が必要だ」

「つまり、カエサル閣下にとっての〝橋〟とはローマそのものなのですね」

 カエサルと馬の轡を並べていた青年将校は、先日滅ぼした海洋民族ヴェネディーを思い出した。

 奴隷にしたヴェネディー人達が交易していたのは、ドーバー海峡の向こう側にあるブリテン(イングランド)島にいるケルト系住民だ。

「聞くところによると閣下は、ブリテンをも征服なさるおつもりだとか? この海峡にも橋をお架けになられるのですか?」

「ブリテン島への上陸は来年以降だ。可能なら彼の島まで橋を架けたいところだが、さすがに現在のローマには、そこまでの技術がない。――残念だが仕方ない、船で渡ろう」

 親子ほどの年の離れた初老の総督と、三十代に入った騎兵隊長の二人は笑った。


 ローマ軍は、ガリア地域でも信頼のおけるガリア部族が支配する安全圏まで退却し、冬営した。

 共和制末期のローマは、元老院派と三頭政治派に二分されていた。カエサルが属する三頭政治派だ。毎年麾下のローマ将兵が非戦闘モードの冬営に入ると、カエサル自身は首都ローマ市に入り、盟友である老クラススや、ポンペイウスと会合。それが終わると、いい植民都市になりうる、征服地優良土地物件について斡旋業者を介し、植民希望者に売り込んだ。――この不動産ビジネスがカエサル軍最大の軍資金になる。――さらにそれが終わると、総督として統治している南仏・北伊・アドリア海北端の三属州を巡回。……そして春を迎えて、再び未開地のガリアに戻り、麾下の将兵と共に戦うのだから激務である。この頃のカエサルの楽しみといえば、ローマの市街地再開発計画で、頭の中で何枚も官庁街の設計図を描いていた。彼は側近達に言ったものだ。文明というのは都市そのものだ。文明の高さというのは建築水準の高さなのだ。私はガリアやブリテン島に、文明を波及させたい。


          つづく

【登場人物】


カエサル……後にローマの独裁官となる男。平民派として民衆に支持される。

クラッスス……カエサルの盟友。資産家。騎士階級に支持される。

青年クラスス……クラッススの子。カエサル付き将校になる。

ポンペイウス……カエサルの盟友。軍人に支持される。

ユリア……カエサルの愛娘。ポンペイウスに嫁ぐ。

オクタビアヌス……カエサルの姪アティアの長子で姉にはオクタビアがいる。

ブルータス……カエサルの腹心 

キケロ兄弟……兄キケロと弟キケロがいる。兄は元老院派の哲人政治家で、弟はカエサルの有能な属将となる。

デキムス……カエサルの若く有能な将官。

ウェルとイミリケ……ガリア人アルウェルニ族王子と一門出自の養育係。

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