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自作小説倶楽部 第22冊/2021年上半期(第127-132集)  作者: 自作小説倶楽部
第129集(2021年03月)/「季節もの」花鳥(桃梅・鶯・鳳凰」&「フリー」空(青空・星空・宇宙ほか) 
15/28

04 らてぃあ 著  花鳥 『嫌いな女』

挿絵(By みてみん)

挿図/ⓒ奄美剣星「女優、渚にて」


 僕は彼女のことが大っ嫌いでした。


 両親を失った可哀想な甥を助けたい。と人に話したことがあったそうですが僕にとっては点数稼ぎとしか思えませんでした。当時彼女は2番目の夫と離婚して女優の仕事に四苦八苦していた頃だったからです。何よりも父の妹だというのに両親が事故で死ぬまで一度も会ったことはありませんでした。

 葬式の最中に派手なメイクと黒であってもレースのついたドレスを着た彼女は連れて来た弁護士に命じて僕を引き取る手はずを整え、両親の財産の処分も決めてしまいました。一度だけ両親と住んだ家に戻った時、そこがすでに他人の家になっていたことにショックを受けました。

 一緒に暮らすといっても僕の面倒を見たのは〈はあや〉さんでした。彼女が子供のころから面倒を見ていた召使いだそうで、ばあやは彼女をお嬢様、僕を坊ちゃんと呼びました。僕が寮のある高校に入学するまでの2年程の生活でしたが、僕は彼女から常に距離を置き、彼女はそれに苛立ち、時として物に当たりました。

 女優の彼女には上品で華やかな印象を受ける人が多いと思いますが、実際はわがままで癇癪持ちでした。


 彼女が病気に倒れたのは僕が大学に入った年でした。屋敷に帰るつもりはありませんでしたが、ばあやは何かと理由をこしらえて僕を呼びよせました。


 春先で桜も咲き始めたのに屋敷の庭は小鳥の姿もなく寒々とした雰囲気が漂っていました。ばあやに命じられて庭の木の枝を切っていました。剪定した枝を別の方向から見てみようとして、二階の窓辺に彼女の姿を見つけたのです。

 痩せて白い肌はますます薄くなり、しかし歳を重ねて、衰えてもなお美しい彼女の姿に目を奪われていました。彼女と目を合わせた次の瞬間、僕は派手に転倒していました。

「大丈夫?」

 降ってきた弱弱しい声は彼女のものでした。

 見下ろす彼女に恥ずかしくなり、僕は返事もせず立ち上がり、転がったバケツや鉢を元に戻し始めました。

「ねえ」背中で彼女の声を聞きました。

「私の指輪、あなたにあげるわ。ばあやに言っておくから」

 鈍感な僕が顔を上げた時、窓は再び閉ざされ彼女の姿はありませんでした。

 彼女の死を知らされたのはそれから1か月ほどことでした。僕はのんきに次はいつ庭仕事を頼まれるのか、花を植えたほうがいいのかと考えていて、自分が何を聞いたのか理解できないでいました。

葬式の後、ばあやが僕に指輪を渡して言いました。

「こんなことになって残念です。いつかお嬢様と坊ちゃんはわかりあえると思っていたのに。坊ちゃんは亡くなったお母様を慕うあまりお嬢様を嫌っておりましたが、お嬢様と坊ちゃんの本当の関係を知るならばお嬢様の悪口を吹き込んだことはあの人の罪です」

 ばあやの言葉の意味をすぐに理解することは出来ませんでした。あとになって、母が不良娘の〈父の妹〉をひどく嫌っていて、家を訪問することを禁じているだけでなく、幼い僕にひどい悪口を吹き込んでいたことを思い出しました。


 彼女のことを好きになったのかって? いいえ、今でも嫌いですよ。

今でも思いだすと悔しくって泣けて来ます。

 すぐには受け入れられなくても、知らないよりはずっと良かったと思うんです。

女優としての見栄だったのか? 

 僕が傷つくなんて気にせず、自分が僕の実の母親だって教えてくれれば良かったんですよ。

     了

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