02 柳橋美湖 著 花鳥 『北ノ町の物語 82』
【あらすじ】
東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。
……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。
季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。
異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。
挿図/ⓒ奄美剣星「第十階層にて」
82 花鳥
ご機嫌いかが、クロエです。皆様、褒めてくださいね。機械に強いベンチャー企業社長をしている従兄・浩さんがメカ炎竜を助けたため、私達パーティーは、ついに二桁、異世界浮遊ダンジョン全十三階層中第十階層の偉業に達成できました!
◇
――清水の舞台から飛び降りるつもりで――
という常套句がありますが、浮遊ダンジョン第九階層の階段を昇りきったところにある第十階層スタート・ゲートを抜けると、そこから鶯の声が聞こえ出し、やがて、桃園の花が咲き誇る、清水寺のような木組構造建築物が姿を現しました。
ほーほけきょ、けきょけきょけきょ……
瀬名さん、浩さん、マダムが順にこんなことを言っていました。
「清水寺もどきは、『鶯谷』を隔てた向こう側だな」
「おおっ、鶯が長くさえずっている」
「鶯の谷渡りってものね。谷を飛び越えるとき、鶯はいつもよりも長くさえずるって聞いたことがある」
そこでです。
黒い人影が背後から迫り、すぐに追い抜いて、谷底の石橋を渡り、清水寺もどきのある向こう岸に走り去っていきました。
ですが問題は、別なところにあります。
例の如く、予測不可能な、炎龍のピイちゃんの存在です。
私の肩に乗ったピイちゃんは、黒い影を追いかけて、火炎ブレスを吐き続け、桃園を焼き、ゴールと思われる清水寺を炎上させてしまったのです。
審判三人娘さんたちに、
「これでは第十階層クリアはできそうにありません。初期状態にリセットできませんか?」
と伺ってみると、
「清水寺もどきはまだ焼け落ちていませんし、ゴールはあの舞台から飛び降りたときに開きます」と、そんなふうに、軽く答えてくださいました。――というか、軽く答えないでください!
しかもです、清水寺もどき舞台の欄干上には、実は死神だったチートなお爺様が、試練のディフェンス役として、立っているではないですか。それからお爺様は、おもむろに、――かの邪宗教団、大海賊『北洋艦隊』をも壊滅させた――百発百中の腕前を誇る弓矢を構え、射てきたではありませんか。
私とマダムは防御系術式「プロテクション」で、瀬名さんや浩さんを守りながら、前進して、谷底へ降りて行き、小川の石橋を渡って、崖に設けられた上り坂を駆け上っていきました。
あのお、ピイちゃん、ピイちゃん。ときどき分からなくなるのけど、貴方は敵なの味方なの? 崖道前面をファイアー・ブレスで塞がないで!
◇
それでは皆様また。
By Kuroe.
【主要登場人物】
●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。
●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。
●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。
●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。
●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。
●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。
●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。




