01 奄美剣星 著 空 『ヒスカラ王国の晩鐘 12』
*あらすじ
勇者とは、超戦士である大帝を討ち果たすことができる王国唯一の超戦士のことをさす。二五年前、王都防衛戦で帝国のユンリイ大帝と刺し違えた指揮官ボルハイム卿がそうだ。やがて二人の超戦士がそれぞれ復活。暫定的な講和条約が破綻しようとしていた。そして、大陸九割を版図とする連合種族帝国が、最後に残った人類王国ヒスカラを併呑しょうとする間際、一五歳の女王は自らを依代に勇者転生を決断した。
冬季連合種族帝国軍攻勢は、実質、ヒスカラ王国に対する威力偵察であるとともに、巨大な虫型兵器である「カブトガニ」の実験でもあったのだが、女王オフィリアの機転とカリスマ的なスキルによって、初号機を寝返らせることに成功。そのため、帝国軍は、地団太を踏みながら、戦線から後退せざるを得なくなった。
挿図/Ⓒ奄美剣星「侍従武官ムラマサと侍童カミーユ」
12 空
王宮内通信室――
青い髪をしたヒューマノイドは、ヘッドフォンを必要としない。通信用ブースターからコードをつかって、直接、王都から西に遠く離れた軍都二〇三〇にいるシオジ博士と交信した。
「レディー・デルフィー、暮れの『定期健診」で判ったことなのだけれど、『大爆発』のとき、貴女が失った機能の一つを復活させておいたわ』
「マーコ・シオジ博士、失われた機能って?」
「量子衝突実験の失敗で『大爆発』が生じ、異なる時空軸にある三つの軍都が、この世界に飛ばされてきた。その際、三つの軍都の一つ、二四〇〇で生き残ったのは、当初、飛空艇一隻と船長であるヒューマノイドの貴女一人と思われていた。それが、発掘調査団の奮闘で、『カブトガニ』のカミーユ君の依代になった、修理可能なヒューマノイド素体、さらにかの廃墟上空には、静止衛星八基があることを確認した」
「つまり博士のチームは、静止衛星とのコンタクトに成功したというわけですね?」
「ご明察。――じゃあ、静止衛星と貴女との回線を接続しておくわ。――ちょっと目を閉じてみて」
レディー・デルフィーの瞼の裏側に、王宮の庭園が映し出され、そこに青年武官と侍童の二人が何やら修練に励んでいる姿があった。
近頃の宮廷では、若き女王オフィーリアの従者に、数名の新顔が見られるようになった。
従来からいるオフィーリアの影武者にして女王顧問官レディー・デルフィーの配下として、侍従武官ムラマサ少尉、「カブトガニ初号機」の日常形態である、ヒューマノイドを依代にした、侍童カミーユが付き従うようになった。
「右脚と右腕を後ろに引きながら、左の脚を前に出して片膝をつきつつ、左腕を前にやる。宮廷流の作法だな」
「こうですか、先輩?」
カミーユ少年は飲み込みが早く、春になるまでに、一通りの宮中作法をマスターし、少し前から宮中に上がったムラマサ少尉は舌を巻いた。
「綺麗に決めたな、カミーユ君、褒めてつかわす。――じゃあ、次は、言い寄ってくるマダムどもをやんわりとした言葉で断るテクニックを教えてやろう」
ムラマサ少尉は美麗な青年だった。
知らぬものは「色好み」という噂を信じたが、実は違う。――これはごく一部にしか知られていないことだが、――彼は同性にしか性的な関心を示さなかったのだった。
大陸西部にあるヒスカラ王国は、偏西風によって、比較的温暖であるのだが、やはり春は木々草花の花がいっせいに花開く。バラ科の樹木のいくつかは、よい香りを放ち、庭園散策路をゆく人臣を楽しませていた。
本館から離れたところにある、ガラス温室――
英雄ボルハイム卿の依代であるオフィーリア女王は、テーブルの向かい側に座った、顧問官のレディー・デルフィーと温室で、各種報告を交えた「ティータイム」を過ごすのが慣例だ。
「――その点に関しては、『カブトガニ』のカミーユ君は、ムラマサ少尉による性的搾取の脅威に、絶えずさらされているというわけだね?」
「左様に存じます。しかし宮廷内における風紀の乱れは忌々しき問題。不肖、『ニュー・スペック』を獲得した監督の立ち位置にある私めが、是正していく所存」
「『ニュー・スペック』?」
染付白磁のティーカップを手にした貴婦人二人が、そんな話しをしていると、席を外していた青年と少年が、再び植物園に戻ってきて、気まずそうな顔をした。
ノート20210331
〈ヒスカラ(人類)王国〉
01 オフィーリア・ヒスカラ三世女王……転生を繰り返す王国の英雄ボルハイム卿の依代。ボルハイム卿は25年前の王都防衛戦総司令官となり、帝国のユンリイ大帝と相討ちになった。卿は、その後、帝国辺境の町モアで少年テオを依代に復活、診療医となるも流行り病で没し、女王の身体を依代に、再び王国側に転生した。ヒスカラ暦七〇二〇年春現在15歳。
02 アンジェロ卿……灰色猫の身体を依代に、古の賢者の魂魄を宿す王国護国卿。事実上の王国摂政で国家の最高決定権がある。ボルハイム卿の移し身も彼が執り行ったものだ。巡洋艦型飛空艇パルコを居館代わりに使用している。/十年前に異界工房都市の〈量子衝突〉実験で事故が生じて〈ゲート〉が開き、男女十人からなる異界の学者たちが迷い込んできた。学者たちは、ノスト大陸の随所にある飛行石鉱脈を採掘し、水素やヘリュウムの代わりに、飛行石をつかった飛行船の一種・飛空艇を開発した。/アンジェロ卿は彼らを自らのブレーンにした。ヒューマノイドのレディー・デルフィー、ドン・ファン大尉のロシナンテ戦闘機飛行中隊の戦闘機シシイも、異界学者たちが製作したものだ。
03 レディー・デルフィー(デルフィー・エラツム)……教育・護衛を職掌とする女王顧問官で、年齢、背格好、翡翠色の髪まで似せたヒューマノイドだ。オフィーリア女王の目が大きいのに対し、レディー・デルフィーは切れ長になっているのは、彼女の製作者が女王との差別化を図ったためである。レディーは衣装を女王とそろえ、寝台も同じくしているが「百合」関係はない。さらに伊達眼鏡を愛用する。
04 ドン・ファン・デ・ガウディカ大尉……二五年前連合獣人帝国によって滅ぼされたガウディカ王国国王の息子。大尉の父王は、滅亡直前にヒスカラ王国に亡命してきて客分となり、亡国の国王はヒスカラ王族の娘を妃に迎えて彼が生まれた。つまるところオフェイリアの従兄で幼馴染、そして国は滅んでいるがガウディカ王太子の称号がある。女王より二歳年長のドン・ファンは、「オフィーリアを嫁さんにして、兵を借り、故国を奪還するんだ」というのが口癖。主翼の幅一〇フット後部にエンジンを取り付けたシシイ型プロペラ戦闘機の愛機に「ロシナンテ」と名付け、同名の飛行中隊20機の指揮官に収まっている。
〈連合種族帝国〉
01 ユンリイ大帝……一代でノスト大陸9割を征服し大帝国を築き上げた英雄。あまたの種族を従えていた。25年前の王都攻略戦で、ボルハイム卿の奇襲を受け相討ちになるも、帝国臣民に復活を待望されている。比類なき名君。
02 フィルファ内親王……大帝が不在となった帝国を預かる摂政皇姉にして大賢者。王国の勇者ボルハイム卿に対するアンジェロ卿のようなもの。黄金の髪、青い瞳、透けた背の翅が特徴的な有翅種族女性。火の粉が降りかかれば払うが、弟と違って戦いを好まず、戦禍で荒れた土地の迅速な復興など内治に功績がある。
03 テオ・バルカ……帝国の版図に収まった辺境都市モアで診療所を開いていた猫象種族。帝国側道士によってボルハイム卿の魂魄が移し身されるとき10歳の少年だった。すでに両親はなく、看護師の姉ピアに愛情深く育てられた。本来は大帝復活のための依代であったが、大帝の遺言により、ボルハイム卿が王国側で復活しないようにするための措置で、テオはボルハイム卿の依代となった。町から出ることを許されず、事実上の軟禁状態にあった。その後25年後、流行り病で没し、共同墓地に葬られた。猫象種族の妻を娶り、二男三女をもうけた。
04 ジェイ・バルカ……テオの息子・猫象種族。両親を流行り病で亡くし、弟妹たちとともに伯母ピアに育てられる。少年兵で従軍し戦地で上等兵となるも、王国軍の捕虜になる。捕虜交換で帰国後、士官学校入学の名目で帝都に召喚され、ユンリイ大帝転生に際し、依代となる。戦友はガンツ上等兵。




