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わがままと嘘

作者: 中田カナ
掲載日:2020/09/11

「ゴメンね、ちょっと遅くなっちゃった」

「いや、たいして待ってないよ」

ふわっふわのパンケーキが大評判のカフェ。そして向かいの席には彼。

パンケーキをオーダーするが、店員の女性より焼き上がりまで少々時間がかかるとの説明を受ける。


「ちょうど1年だよね、私達が付き合い始めてから」

「そうだね」

しばらくの沈黙の後。

「・・・あのね、私達、今日でお別れしましょう?」

「・・・そうか。わかった・・・それじゃ」

伝票を持って立ち上がろうとする彼。

「ちょ、ちょっと待ってよ。理由を聞かなくてもいいの?」

「もう別れるのなら聞く必要もないだろう・・・じゃあな」

とっさに彼の腕をつかむ。

「だから待ってよ!貴方は本当にそれでいいの?」

「僕は今まで君のわがままにすべて応えてきた、そうだろ?」

「・・・うん」

こくっとうなずく私。本当に何を言っても断ったことなんてない。

「だから君が別れたいというのなら、その望みをかなえるだけだよ・・・それじゃ」

彼の腕は離さない。離しちゃいけない。


「ねぇ、待ってよ!ごめんなさいっ!別れるなんて嘘なの!

ちょっとびっくりさせたかっただけだったのよ。お願い、だから行かないで!」

「イヤだね」

冷たい目をする彼。

「どうしてよ?!さっき私のわがままは何でも聞くって言ってたじゃない」

「君とはついさっき別れた。恋人でもない女のわがままをなぜ聞かなきゃならない?」

彼の目は冷たい目のまま。

「じゃあ、改めて私と付き合ってよ・・・じゃなくて、付き合ってください!お願いします!」

少し考えるように黙っていた彼が口を開く。

「男なんてそれこそ星の数ほどいるだろ。いったい僕のどこがいいんだ?」

座ったまま彼の腕を離さず、うつむいて小さな声で答える。

だって恥ずかしくて顔が上げられない。

「・・・とってもかっこよくて、いつも私に優しくて何でもかなえてくれるところ。

いつも頭をなでてくれる手が大きくてとっても温かいところ。

それから、ぎゅっとされるといい匂いがするところ。

クールそうだけどホントは甘いもの大好きで、特にチョコレートには目がないところとか、

ペットの猫ちゃんの前ではデレデレで、ちょっとだけ赤ちゃん言葉になるところもかわいいの。

・・・だから、もうわがままも嘘も絶対言わないって約束する!だから戻ってきてよ!」

涙目のままガバッと顔を上げると、そこには満面の笑みの彼がいた。

「それ、最後のはあんまりかっこよくないんじゃないか?」

「・・・え?」

彼が目の前の席に座り直す。

「別れようってのが嘘だってことくらい最初からわかってたよ」

「え、なんで?・・・どうして?」

「君のバッグから僕の大好きなチョコレート専門店のリボンが見えてる」

視線をバッグに移すと、確かに深い緑色に金色の文字で店の名がプリントされたリボンが少しだけ顔を出していた。

きれいにラッピングされてリボンがかけられた小さな箱をバッグから取り出して手渡す。

「嘘ついちゃってごめんね。そしてこれからもよろしくね」

「チョコ、ありがとう。でも、わがままと嘘はもう勘弁してくれよ」

そう言って私の頭をなでてくれた彼の手は大きくて温かかった。


「大変お待たせいたしました。パンケーキセットでございます」


いつものクールさはどこへやら、嬉しそうにふわっふわのパンケーキを切っては口に運ぶ彼を見つめる。

実は嘘はついてないけど彼に隠してることがある。

本当は甘いもの苦手なんだよね、私。

だから今日も小食の振りをして私のパンケーキの半分以上は彼に譲る。

だって彼の笑顔が見たいから。

現代恋愛ものの2作目。今回も思いつきと勢いだけで書いてます。

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「名前のない物語」シリーズ
人名地名が出てこないあっさり風味の異世界恋愛ジャンルの短編集
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