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昼休み。
1時間20分と少々長めの休み時間だが、ここ東雲学園は給食と言う制度はないため各自で弁当を持参するか、購買に行くか食堂に行くか選べ、昼食時間混みの休み時間となる。
初等部や幼稚舎だとまともな栄養がきちんと取れるように、それからまた金銭感覚がまだ安定してないため安定するまでとのことで必ず全員で食堂にて給食を食べる決まりにはなっているが。
さてそんなことはさて置き、弁当を食べてから全く見知らぬ先輩を探そうと思うと1時間20分は到底短い。
さっさと弁当を食べようと机の上に出した弁当を前に頂きますの構えを取ると、どぉぉんと後ろから横から何か衝撃が降ってくる。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いわっ!」
「いっちゃんひどぉい、君と食べるお昼ご飯が一番だよって囁いてくれたあの言葉は偽りだったのお」
「衣織がみっちゃん泣かせたねぇ」
「あ、いくらママでもみっちゃん泣かせたら許さないんだからっ!」
なんか喚かれてるが無視だ無視。時間ないのにこいつらの相手してたら、更に時間が足りなくなる。
「ママが無視するぅ」
うええぇえん、と抱きつかれ視界が狭くなる。えええいっ!もう!無視しても埒があかん!べしんと裏拳と名の実力行使で抗議すると右と左からいやぁんと甘ったれた声がしてくる。
「ママがぁ」「ぶったぁ」
なんでぶたれた割には嬉しそうなんだろうか。実尋さんと喜紗さんは。そしてやはりあたしの視界を遮るほどの大きな物体は喜紗のきょにゅーだったか。はぁとひとつ溜息を落とすと素直に言えない娘さんにご提案とご報告を零す。
「実尋も喜紗もご飯一緒に食べたいならそう言えば良いし、由宇衣もツンデレして無いで素直に甘えて来たらいいじゃん! つぅかそんなふざけた言葉は囁いてないし! ちなみに私は今日は予定ありますので、ご飯食べたら即出ます。ご了承くださいませ!」
三人はぽかんとした後喜色満面ふふふと笑始める。
どうやら性格に癖のあるこいつらは素直に弁当を一緒に食べたいと言えないらしい。それ故あんまりにも壊滅的な人間関係に一度痺れを切らして殴ってから何故か懐かれた。その懐かしい思い出話はまたいつか時間がある時に思いだそう。出来れば思い出したくはないが。
「あっ、あたしも一緒に……良いかな?」
おずおずといった様子でそっと右手を上げながら申し出てくるのはもう一人の友人である石森藍。中々洒落た名前をしてらっしゃると思う。
「それは良いけど…あの二人は?」
あの二人とは藍の幼馴染である弥永と税所の両名である。いつも三人でいるのに今日は一人とは珍しい。幼なじみ三人組、紅一点の藍を蝶よ花よと可愛がっており、一人にしたがらない筈なのに。
「司は委員会。慎一はなんかパパさんとの仕事の関係との事で帰っちゃった」
成る程。一人になってはいけないと重々言われたからここに来たのか。過保護なあの二人らしい。しかし、一緒に食べるのに問題は無いけど椅子が足りない。
セッティングはいつの間にやら終えたのか机も椅子も各々準備は出来てるみたいで三人ともこちらを見てくるがさてどうしよう。あたしの椅子を半分こして座っても良いけど食べ辛いのは大変だろう。
「源、アホヅラしてないで食堂行くなら藍に椅子貸してよ。馬鹿が待ってるんでしょ」
由宇衣が心底めんどくさそうにあたしの隣の席の源君に声を掛ける。源君は珍しくぼんやりと座っていた。珍しい。いつもは食堂にダッシュして特製メガ大盛りセットを食べてる時間なのに。
「あぁ、うん…今日は雄介がダッシュの番だから時間はあるんだけど…金元はその口の悪さが無ければもてると思うんだけどなぁ…」
源は呆れた様に笑うがその口の悪さは今更なのだろう。特に反発するでも咎めるでもなくただ素直な意見を述べた後、また小さく溜息を落とす。
「源はどしたのさ? 悩み事?」
「……悩み事ってか、朝のあれが気になって?」
「朝のあれ?」
「都月先輩」
予想外の所から予想外の名前が出て来て衣織は耳を澄ます。
「朝のあれって、掲示板の?」
「そう。都月先輩って委員会の先輩なんだけどさ、なんかイメージ違ったつか、」
「イメージって?」
藍が聞くとあのさと続ける。
「どちらかと言うと体育委員は委員長とかめちゃくちゃの目立ちたがり屋だし、他にも目立つ人多いんだけど……ほら、三年の二弥先輩とか。逆に都月先輩は体育委員会としては珍しく地味つか目立つことをあんまり良しとしないんだよ……」
彼の所属する体育委員会はスポーツが得意な人が集まることもあり、目立ちたがり屋か目立つ人が多い。彼はそう言いたいのだろう。
「じゃああの掲示板は何なのさー?」
実尋が質問する。
「ワカンナイ……本当は委員長と一緒で目立ちたがり屋だったのかと思ったりもしてさ」
「なんでそこでそんなに委員長にこだわるの?」
「あー、まぁそこは置いといて。それから、もう一つ気になってさ……字がさ」
字? と実尋が続ける。
「字って言うとしっちゃかめっちゃかなあのギャル文字?」
「うん……普段はあんな書き方しないんだ。どちらかと言うと丸っこい字。なんか絵本みたいな可愛い書き方される」
「わざと違う書体で書いたんじゃ無いの?」
由宇衣が会話するのも億劫だと眉を顰める。本当にこの子は男嫌いなんだから。
「でもゆうちゃん。名前をフルネームで晒すなら違う書体で書く必要はないんじゃ無いの?」
それもそうだ。名前無記入なら書体から自分だともばれない様に、書体を変えるだろうがわざわざフルネームで名前を晒すなら書体だけ変える必要は何処にも無い。
「……じゃあ誰か違う人が都月先輩の名前を使って書いたってこと? 何のためにぃ?」
…そうだ。何の為にそれをする必要があったのか?違う人間が書いたのなら何故都月先輩の名前を晒す必要があったのか。
うん、さっぱり分かんない。
「都月先輩に対する嫌がらせ?」
「誰が何のために?」
「わかんねぇ……なんか都月先輩に俺騙されてたのかと思ったりもしてさ。でも人騙して喜ぶ人じゃ無いし」
源は悶々と悩んだ様に腕を組む。
卵焼きを一個咀嚼しながらひとまず思ったことを口にした。
「……私はその都月先輩を見たわけじゃ無いからよくわからないし推測だけど、いくら目立ちたがり屋が多い委員会だからと言っても人を騙す様な人達なんて居ないんじゃないかなって体育委員会は。だからきっと源君が知ってる姿が先輩の本当の姿だと思うよ? 掲示板はもしかしたらただならぬ事情があったのかもしれないから、信じてみたら?源君が信じなくて誰が信じるのさ」
もしかして…考えたく無いほど悲しい事態なのかもしれない。出来たらそんな悲しい真実ではない事を願いながら、自分に言い聞かせる様に源君に言い聞かせる。源君は少しだけ困った顔したけれど、スッキリした様な顔をしてあぁと笑った。
「ありがとう、二宮。少しだけ楽になった。石森もごめんな。ここ使って」
紳士な彼は自分の席なのに快く謝って席を譲ると食堂へと足を進める。
早く行ってきちんと食べなきゃ、委員会まで持たないしねとボヤかれる。鬼の体育委員会、イベント前は注射打ってでも出て来無ければいけないという規則があるらしい。腹ペコで委員会できませんとか以ての外とかなんとか。
そんな委員会に所属する人なんて。
「……都月先輩ってどんな人?」
興味本位、と聞くと源は首を傾げ真っ白な人と答えてくれる。
「ましろ先輩は白くて小さくてふわふわしてて強くて尊敬できる人、かな。なんだって俺の先輩だしね」
にぃと笑うとそれだけで教室の女子が色めき合うのだからこの男の笑顔の魅力は窺い知れない。
つかそれだけで分かるかと心の中だけで色男に悪態をつくとさてとと弁当をご飯を咀嚼する。
「源君ストイックでかっこいいよねぇ……」
「そう? 私にはただのむっつりにしか見えないんだけど」
喜紗が頬杖ついておっとりしながらの言葉に由宇衣は噛み付く。本当この子は男嫌いなんだから。
「由宇ちゃんは潔癖症だもんねぇ。理想のタイプはなんだっけ? 早乙女先輩だっけ?」
早乙女先輩とは高等部に在籍するとてもとてもお綺麗な人である。件の女帝とも、もしくはハートの女王様とも呼ばれている。傍若無人な女王様なのだ。
「早乙女先輩みたいにお綺麗で強くてかっこいい男が理想であって、早乙女先輩は憧れの先輩なだけだよ」
そんな男実在するのか、むしろしてたまるか。
「お仕事?」
パタンと弁当箱を閉めると藍に聞かれいたずらっ子の様に笑って返すと藍も楽しそうに言ってらっしゃいと返してくれる。
「じゃあいって来るね」
ええぇ〜とぶー垂れる三人を無視して教室を飛び出し(その件については先に伝えてた筈である文句言われる筋合い無い)二年3組へと足を向ける。
ひよっこりと頭を出して3組を見るが白くて小さくてふわふわしてる感じの人は見当たらない。美化委員の先輩が何事かと声を掛けてくれたので質問したがやはり教室には居ないらしい。うぅうむ。やはり体育委員らしく校庭とかに居るのか。
悶々と悩みながら校舎を彷徨い歩く。
「よっ、そんなに悩んでどーしたんだよ?」
「わっ! びっくりした。こんなところで弥永は何してんのさ?」
突然現れた級友に驚き瞬時にそう言えばこいつ委員会ではなかったかと言う情報も思い出す。なんでこんな所居るんだろ?
「二宮の悩み解決しまっせ?」
ちゃりんとお得意の銭の形を右手で作った弥永は八重歯を光らせ笑い、都月先輩の現在地……だろ?と正確な内容を突いてくる。
「払い値はそちらで決めて良いぜ? 放課後の魔術師さんよ」
藍との一件から放課後の魔術師に協力してくれる様になった弥永はこうやって情報料は取るが情報をくれる様になってくれた。藍とも上手く言ってるようで、その件についてはまた機会がある時にお話しよう。
「……シュシュ十」
「社長! もう一声!」
払い値はこっちで決めて良いって言ったのに。もう癖の様に繰り出される弥永の可愛い掛け声になんだか笑がこみ上げてくる。こう言うこと言っても腹立たないんだから凄いことだよなぁ。
「シュシュ十、簪三」「まいどっ!」
もう弥永の脳内では販売先が決まってるのだろう。うっへへっと楽しげに笑っている。こえぇぜ。金の申し子。
「お前の作る簪とシュシュ人気たけぇからな! ジンクスあるって評判だぜぇ」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃねぇって。Rioの知名度信じろよな」
特に何か出来てる訳では無いけど、そう言ってもらえるのは純粋に嬉しい。ちなみにRioなのは衣織をひっくり返したrioiの最初二文字である。
「っと、都月先輩の居場所だったよな。あの人時間があれば図書館裏の秘密の花園にいるぜ? さっきも居たから確かだ」
「ありがとう。処でなんで都月先輩捜してるって分かったのさ? やけに協力的だし」
「んー? 朝の一件がやっぱ俺も気になってさ。ちょっと独特な人だけど物凄くいい人でさ。それにあんな事しそうに無い人だからもし本当に放課後の魔術師に助けを求めてるなら手伝えたらって……そう思ってたら二宮が頭抱えてキョロキョロしてたからカマかけたらビンゴだったってわけ」
成る程。現実主義者なのにそう言う人情味溢れる所が弥永の愛される所以なのだろう。……金と見返りさえ求めなければ。
「そう言えば藍どこいるか知らね? 急に委員会無くなって暇になったから藍捜してるんだけど」
「藍ならさっきまで教室で実尋達と一緒弁当食べてたけど……委員会無くなったって図書当番は?」
昼休みの貸し出しや返却の管理などの図書当番の担当日なのに無くなったって事は無いだろう。ただでさえ人手が足りない、館内が広過ぎるとボヤいてる委員会なのに。
「なんか突然藍沢先輩が当分の昼休みと放課後の当番全部させてくれってさー。俺は藍との時間増えるから良いけど……」
ふぅん。世の中特殊な人も居るもんだねえ。図書委員会なんて大変だろうに。
さてこうしちゃ居られないと、丁重にお礼を言って、一週間以内に報酬を準備することもきちんと約束してその場を離れる。ただでさえ短い昼休み。もうだいぶロスしている。
今から図書館に向かうとなると更に時間が足りない。科学室の集合は難しいかもと悩みながら、図書館へと足を運ぶ。
図書館裏の秘密の花園とは、前図書委員会委員長が美しい景色の中読書をしたいと願い丹精込めて作られた知る人ぞ知る癒やし系スポットなのである。何故知る人ぞ知る、なのは現図書委員長が怖くて皆近寄らないとのことだ。
大講堂からの中央庭園を抜けて学園の全ての書物を管理する大きな図書館の脇へとそっと足を踏み入れる。中央庭園もなかなかご立派な花園が有ることも秘密の花園の存在を希薄な物にする事に拍車を掛けていたりもするのだが。
そぉっと覗き込む様にそこを見ると色とりどりの艶やかな春の花が一面を彩っている。その中にポツンと浮かぶ色。
成る程、白だ。
それは白と言うよりは白菫色と白銀を混ぜたような銀に近い髪色。彼女は小さな身体を更に押し込める様に小さく折り曲げ、ちょこんと図書館の壁に背を預けぼんやりと空を眺める様に座っている。足元には、自然界の色で無い小さな塊があり、その上には一枚写真らしき物が置いてある。
その写真を拝見したいなぁ、と知的好奇心に駆られほんの少し身体をズラす。が、
「だぁれ?」
ぼんやりとしているかと思ったいたら違ったらしい。つぶやく様な、それでいて警戒する様な声が此方に向かって発されている。その暗い色合いである塊と写真はもう隠されており確認しようが無い。仕方ないと彼女の前に姿を表す。
「突然すいません……初めまして、都月ましろ先輩。私、1年3組の二宮衣織と申します。宜しくお願いします」
「ご丁寧にどうも~。初めまして」
きっちりと頭を下げて挨拶をするとクスクスと笑う。小さな花が飛ぶ様なそんな可愛いらしい笑み。瞳は顔の半分程あるんじゃ無いかと思うぐらいに大きく、そして、力強く煌めいている。まるで全てを見透かしそうな純粋無垢な灰青色な双眸。その目に捉えられると逃げられない錯覚すら覚える。まるで真実を見透かすかの様な、そんな、眸。
小さな口はぽかんと空いてて可愛らしい。まるでお人形さんみたいだ。
本当に歳上なのかとびっくりするぐらい細くて華奢な体つきをしている。これでかの体育委員と言うのは驚きである。
「突然ですいませんが、質問があって参りました。単刀直入に言います、放課後の魔術師に依頼されましたか」
びくん、と彼女は肩を跳ね上がらせると困った様に俯いた。
「ごめん……なさい。放課後の魔術師については今日何回か質問してるけど全く知らないんです。今日初めて知りました」
彼女の大きな吸い込まれそうな瞳には虚偽は含まれて無い様で、先ほどの怯え様からしてもしかしたらだいぶからかわれたのかもしれない。確かにあの内容はインパクトがあり過ぎる。からかいのネタにはもってこいだろう。
「きっと、こんな見苦しいボクの事心配してくれた誰かが、ボクの代わりに魔法使いを呼んでくれたんでしょうけど、ボクは美少女になれないしお姫様にもなれない。だから魔術師なんて必要ないんです……呼んでくれた人には大変申し訳ないんですが」
ならない、じゃなくなれないと言った彼女に引っかかりを覚える。自分のこと諦めきってる様な言い方……悠斗さんが聞いたら泣いて悲しむだろう。
ごめんなさいと俯くましろ先輩はまた小さく笑う。そのキラキラした大きな瞳を小さく歪めて。
「……どうして二宮さんはそれを聞いてくのでしょうか?」
警戒する様な声色ににっこりと笑って返す。
「申し遅れました。他の皆様には内緒でお願いしたいんですけど私が噂の放課後の魔術師なんですよ」
茶化した様な巫山戯た言い回しで口元に人差し指を当てて二つ目の自己紹介をすると警戒心はいくらか解けたのか、そっかと微笑んでくれる。
「……大変、秘密バラされちゃった」
けたけた声をあげて笑うましろ先輩はとても愛らしい。美人とか可愛いではなく愛嬌があると言うのだろう。ひときしり笑うとでもごめんねと声を細める。
「無駄足掛けてごめんね。でも本当に依頼はしてないんです」
「…私も急に押しかけてすいませんでした。もし今後お手伝い出来ることがあれば此方を私にお持ちください」
直接持って来られるのは正式な依頼方法では無いが、こちらが自己紹介してしまっているし、何故だろうか、直接貰った方が良い気がしてそっとその手に放課後の魔術師への依頼希望用紙である金の用紙を乗せる。名刺ほどのサイズでわずかな凹凸で蝶が描かれておりその紙は不正されない様に特注品である。
「この……単語は?ぐろう……アンド?」
見慣れない単語にましろはなんだと聞いてくる。
「これはグロウ ーgrow&glowーと読みます。二つのグロウを足してグロウ ーgrow&glowー。放課後の魔術師の正式名称、まぁいわゆる店名?みたいな感じですね。本来はこの名称を知れてようやっと放課後の魔術師との契約が成立するのです」
「まるで魔法のランプみたいなんだなぁ」
魔人では無くて魔術師ですけどね。
「ふふ、ありがたく頂きますね。魔法使いを呼び出す呪文はびびでばびでぶー、で良いのかしら?」
「残念、スイーツ食べたいなんです」
嘘ですけどね。そんな呼ばれ方してくるのは一人しかいません。
「な、なかなか斬新な呪文……」
えぇ、魔法少女もびっくりです。
なんて馬鹿げた会話をしていると、そんな空気をぶち壊す様な能天気な放送音が鳴り響く。
ピンポンパンポンと少々音痴めいたその音が平穏な空気をぶち壊す。こんな時間に学園放送とは嫌な予感しかしない。学園長のまたよからぬ突然の思い付きで大変な思いをするのかと構えていると聞こえた来た声は予想より幾分か高い少年の声であった。
『お昼休み中失礼致します。学園長先生のお達しにより放課後の魔術師主催ジューンブライドイベントを行います! 来たる6月の末日、学園の皆に祝福されながら、綺麗なドレスでバージンロードを歩いてみませんかっ?また詳細は学園掲示板に記載致しますので是非参加希望の方! 生徒会まで申し込みくださいませっ以上中等部生徒会会長白井祥太郎でした!』
……嫌な予感ってあたるんだなぁ。
ピクピクと口の端が痙攣しかけてるのが自分で理解できる。
「放課後の魔術師って言ったねぇ……」
余談だがあの時の衣織ちゃんは般若の様な相貌だった、とは後日のましろ談である。
落ち着け落ち着けと構えた拳が震えてるのが自分でも分かる。
あっの、野郎……っ!
「あっのデコ眉毛がっ!!」
がっと立ち上がるとましろにぺこりと頭を下げ口早に告げた。
「すいません、都月先輩。大変非常に緊急性が高過ぎる急用を思い出しましたので今日の所は失礼致します! またお時間ありましたらお話してください! ではまたっ」
ばっと去ろうとしてふと折角ならと思い付いた事を先輩に提案する。
「……それから、もし宜しければですが、仲のいい先輩になって頂けませんか?」
ゆっくりゆっくり警戒されない様に極力柔らかな声でお願いする。この大きな瞳の可愛らしい先輩ともっと仲良くなりたい一心だった。
「ふふっ、ボクからもお願いします」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、またね」
ひらひらと手を振ってくれるましろ先輩の穏やかな頑張ってを背に受けながら放送室を目指す。
廊下に張り出されてる廊下は走るなは私的緊急時なので無視させてもらおう。うん。
ばぁんっと音を立てて放送室に乗り込むとそこに居たのは放送委員だけで問題の放送をしてくれたふざけた男は居ない。
そこに居た放送部員に聞くとどうやら生徒会室にも同じ様な放送器具が設置してあり、それで放送したんでは無いかとのこと。
ええぃまどろっこしい!と中等部生徒会室へと走り込む。しかし、そんなあたしをあざ笑うかの様に生徒会室の扉は部外者立ち入り禁止と言わんばかりにきっちり施錠してある。
あ の 野 郎。マジどこいやがる。
もしかしたら中等部生徒会の放送室以外に居るのかも知らない。学園長は学園全体を巻き込んで突然の思い付きを実行する時は高等部にて声高らかに発表する筈だ。
でも中等部の生徒が高等部生徒会室に伺うなんて一般生徒には恐れ多すぎる。
ギリギリと歯噛みしているといおりちゃん、と聞き馴染みがある声がする。
後ろを振り向くと困った様に笑う悠斗さん。
「やっと見つけた。中々来ないから心配して探しに来ちゃった!……放送聞いた?」
「聞きました!なんですかあれ?」
「なんでも学園長が放課後の魔術師なんて面白いものを知らなかったから見たかったんだって。で、恋する乙女を支援する男前な学園長を目指した結果そういうイベントをしたぁいになったらしくてねぇ」
どんな理由だ。もしかしたらお孫さんに何か言われたか最愛の奥様に何か言われたか?
「残念ながら拒否権無しよ。実行出来なかったら学園全員で夏休み返上の特別補習だってさ……」
悠斗さんの後ろから出てきてチョコレート……と哀愁たっぷりに呟くのは久女先輩。そう言えばこの人夏休みに同クラスの葉山環奈先輩と富山二泊三日チョコレート屋巡りを計画してたっけ?
「所で本題、都月さんの事は確認取れた?」
「あぁ、そのことなんですが……」
先ほどの件について先輩達に報告しようと口を開くと、それを遮る様にまたピンポンと間の抜けた放送音がする。
おかしい。昼休みに何度も緊急放送が入るなんて。しかも今の放送から20分も立っていない。
「……なんかひしひしと大変なことが起こりそうな怖い予感がするねぇ」
「悠斗さん嫌なフラグ立てないで下さいよ……」
『お昼休み中何度もすいません。生徒会です。追加でのイベントが決定いたしました! 先ほどのジューンブライドとの同日、ジューンブライドイベント後に今日の朝高等部中等部を騒がせた、件の少女のお披露目を開催いたしますっ! もし放課後の魔術師が彼女を宣言通りの美少女に出来たら告白されるのは貴方かもしれませんっ! あんまり美少女に変わってたら逆に告白もありかもですよっ?ぜひこちらのお披露目もご参加下さいねっ! 以上中等部生徒会長白井でした』
「……なっ、にそれっ?……ふざけんなっ!、都月先輩はっ!」
ぎりっと、歯噛みしたくなるほどふざけた内容。あの人は依頼してないって言ったのだ。そんな全校生徒の前に吊るし上げみたいなそんな目立つことさせたくない。
「……目立つことは望んでない。むしろ……依頼すら無かったのかな?」
まだ告げてないのに、まるで話を聞いてたかのなそんな口ぶりの悠斗さんに驚いてパッと見上げる。
「何か聞いたんですか?」
「まぁ噂の域だけど、目立つ事は極力避けてた様みたいだったからねぇ……人は差異を認めない生き物だから目立たない様してたのかな」
美容科の生徒達に何か聞いてるのだろう。その口ぶりは悠斗さんにしては珍しく鈍い。
「私、抗議してきます! 依頼してないのにっ! 望んでないのにっ! こんな見世物みたいなの……辛すぎるっ!」
「行っといで、って言ってあげたいところだけど休み時間終わっちゃうから放課後にしようか?もうすぐ予鈴もなるし」
澪先輩が冷静に今の時間について教えてくれる。
確かに休み時間がそろそろ終わる時間だ。澪先輩達は高等部の校舎に戻らないと行けないのでそろそろタイムアウトだろう。
「私も夏樹にちょっと探り入れるし、とりあえずひとまず解散して放課後集合。衣織は一人で行く?待っててくれたら一緒行くけど?」
「一人で行かせて下さい。中等部生徒会長に一人でも直談判してやる!」
そう……と澪は笑うと任せたと衣織の肩を叩く。意外に大胆で肝が座ってる彼女なら一人の方が足手まといにならないだろう。きっと無駄足だろうけど。
じゃあ頑張ってね、と澪達は衣織を見送る。
「どうしたの? 澪ちゃん、難しい顔して」
「……なんで全校生徒参加型のイベントなのに、告知したのは中等部生徒会長だったのでしょうか?通常なら、全生徒会会長の名前が上がる筈です。しかも1日に2つもイベントだなんて……いくら学園長の思い付きで、似た様な内容にしても無理矢理過ぎないかと……それにこんな一人を吊るし上げみたいなイベント……通常ならあり得ない」
顎の下に手を当てて悩む澪の頭をそっと悠斗は撫でる。先輩に失礼だと思ったが年下の女の子にはどうしてもしてしまう悠斗の癖だった。案の定、澪は少しだけむくれている。
「もしかしたら……何か重大な事が隠されてるのかもしれないねぇ」
「……他にも何か聞いたんですか?」
「その件についての諸々は後でゆっくり話をしようか……こんなところで話して良い様な穏やかな話じゃ無いしね」
ね? と微笑まれて澪は少しだけ頬を赤く染める。
ずるいひと。
ずるいおとこ。
私の知らない時間を歩むこの年上の後輩は、私なんかと比べ物にならないぐらい大人の男の人で。でも悟られないずるい大人だと思う。
きっとこの人はこの笑みで数多の人を惹きつけてやまないのだろう。自分もその一人である。
そしてこのずるい人間はそんな私の気持ちもきっと知ってる上でこんな事をするのだ。
それでも澪は騙されたふりをする。
このずるい人が好きなのだから。
そんなやり取りをしていても、衣織の事を目線だけで見守る悠斗の優しさに、また澪は惹かれるのである。
そしてそのずるい生き物と連なる様にして高等部へと戻るのだ。




