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それは青春でした!  作者: 雨森晴
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 「……あれって以前依頼を貰って引き受けなかった方の依頼ですかね?」

 腹いせかそれともどんな手段を使ってでも依頼をしてほしかったのか。

 思い至る可能性を告げるが、二人は緩やかに首を振って否定するだけであった。

 「どうも違うみたい。僕達が知る範囲ではあの子の名前の依頼書なかったんだけど、その反応だと伊織ちゃんも知らない子みたいだね」

「……え……」

 それ、ヤバくないですか? と視線を向けると長い髪を掻き上げた澪にとまずいと苦笑いされた。


 澪こと里中澪は高等部2年食物科のお姉様である。美化委員委員長。チョコレートををこよなく愛し、世界で一番美味しいチョコレートを作りたいからと進学科に進んで欲しい先生達の説得も振り切り食物科に進学した変わった秀才。美人なのに勿体無い! が周りの評価である。彼女の鞄にはチョコレートがたくさん入ってるのは有名な話だ。

 その横で困ったね、とほんとに困っているのか分からない調子でぼやくのが崎津悠斗である。

 高等部1年、美容学科の18歳。美容の道を極めたいと憧れの人に師事するために留年覚悟で海外留学を決めた酔狂な人である。

 その時にひょんなことから衣織と出会ったのだがあんまりの荒れように一回ブチぎれたら何故か懐かれてしまった。何でだろうか。

 そんな悠斗さんとは海外で出会ってずっと悠斗さんと呼んでいたのだがそれが定着してしまった訳である。

 そんな悠斗さんは二年で師事した人から盗める全ての技を盗んで、伊織の入学に合わせて日本に帰ってきた風変わりな人である。

 なんでも可愛い可愛い伊織ちゃんの手足となって働きたい! らしい。って事で伊織の我儘に付き合わせている訳なのだが……。


 閑話休題。

 元々放課後の魔術師とは学園の七不思議物語の一つであった。

 姿を見ると幸せになれるという幻の歌姫。気付けば増えている教室。年を取らない理事長の秘密……と様々ある七不思議の一つが、女の子を幸せにする放課後の魔術師である。

 長年、噂だけで活動してなかったとされる放課後の魔術師。

 それがここ1~2年で復活したと言われている。

 そして最近復活したと噂の放課後の魔術師には色々取り決めがある。


 一、放課後の魔術師の正体を明かさない、何かに示したりもしない

 一、きちんとした手順を踏んで放課後の魔術師が用意したカードに名前と願いを書いて出すこと


 その二つが絶対条件であり、さらには依頼方法はちょっと特殊で幼稚舎から大学院生全ての生徒が共通して使う大講堂の掲示板裏に放課後の魔術師あてにカードを出す。

 放課後の魔術師が誰か分からない様にするために。

 悩んでいる女の子がひっそりと、でも、依頼しやすいように。

 そして放課後の魔術師が依頼を受ける場合はその生徒の元へ伺い名乗りをあげると言うわけだ。

 わざわざこんな面倒は手法を取るのは女の子を守るためだ。見ず知らずの噂話に助けを求めるほど悩んだ女の子が不用意に傷つけられないように。

 それから無暗に放課後の魔術師の正体が明らかになってしまわないように。

 放課後の魔術師の正体がばれてしまうと女の子の悩みを解決する手伝いが出来なくなってしまうから。

 それからイタズラ目的かどうか見極めるためにだ。イタズラ目的で依頼されてしまったらそれこそ女の子の手伝いも出来ず、正体が露見してしまう。

 だからこそこんな手段をとっていたと言うのに……。

 「……どうします? あれ」

 「ほっといても良いけど、……なんか引っかかるんだよね」

 ふぅ、と澪が溜息つくとそれに、と続ける。

 「本当に困ってて藁にもすがる気持ちであんなことしちゃったなら見捨てる事は出来ないし……」

 「そうだねぇ、放課後の魔術師のモットーに反しちゃうよね、リーダー」

 悠斗さんにむず痒い呼ばれ方されて微笑まれる。そう言われてしまっては嫌とは言いにくい。

だって本当は助けを求めた女の子をすべて幸せに出来るように、がモットーなのだから。

 そう。

 お分かりだと思うが放課後の魔術師の正体は伊織たちなのだ。

 二年前にこの学園に来たときに元々あった噂をなぞらえて衣織達が復活させた小さなヒーローだ。その復活に際して、色々あったのだがそれもいい思い出だ。

 「確かに私も引っかかりますけど、けど、けど……何かあってからじゃ遅いし、それに……一人だけ特別扱いは出来ない」

 「……衣織ちゃんの気持ちも分かるけど」

「そしたら……うーん……とりあえずは調べてからでいいんじゃない? もし活動の邪魔になる様なら申し訳ないが見て見ぬ振りをする。元々放課後の魔術師は根も葉もない噂話。さらには正式な手順を踏んでなければ依頼は受けないって言い伝えはあるから私たちが下手に反応しなければこの件は風化してなかったことになる。それじゃダメかな?」

 「……先輩たちはそれでいいんですか? もし何かあってからじゃ遅いですよ」

彼女だけ特別扱いして今後の活動に影響が出てしまうのが怖い。それでいいと思われてしまいたくない。

 「勿論」

 悠斗はふんわりと笑う。

 「だって放課後の魔術師は伊織ちゃんのものだもの。伊織ちゃんが決めてことに従うよ。ただ、伊織ちゃんが後悔しないやり方を取って。それで伊織ちゃんが傷つくことになったりしたらちゃんと僕が守るから」

 その言い方は狡い。頬を膨らませて悠斗に抗議すると優しい手つきで頭を撫でられる。五歳も離れていたら完全に妹扱いだ。


 「……悠斗さんがそう言うなら……。一旦その先輩について調べてみます。それから決めます。ただ、今回の依頼だけ特別扱い出来ないので、もしかしたら依頼受けないかもですけど」

「うん、分かってる」

「……そしたら彼女のこと、昼休みに調べてみます」

「それじゃあ分かり次第、報告して。もし可能であればそこに集合しようか」

「あ、じゃあ僕も美容科の子に聞いてみるよ。噂好きな子沢山いるしね」

悠斗さんの言葉と同時にタイミングよくチャイムが鳴る。

「さて。教室に戻ろうか。僕達は近いからいいけど衣織ちゃんは中等部まで戻らなきゃだから急がなきゃまずいでしょ」

「あ、ほんとだ」

元々中高一貫の進学校だった名残で中等部と高等部は繋がっている。そこに無理やり初等部を増設したのでこの学園の委員会は小(5年より参加する)中高一緒でやることになっているのだが集合場所は大体高等部校舎である。

その為こういった時はちょっと大変なのだ。

急いで戻らなければ。

では、また後でと丁寧に腰を折って挨拶しては衣織はくるりと回れ右をしては中等部へと足を速めるのであった。







 ーーねがわくば、一生懸命頑張る女の子を幸せに出来ますように。





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