13
とりあえず、結論から言おう。
なんとか、ジューンブライドのイベントは終わった。
あれら色々あり、時間を置いてからの再開、
参加してた他の女の子もなんとかステージに上がりお披露目となったのだ。
(その間の女の子の機嫌は最高潮に悪かったし色々あったがとりあえず今は省く事とする)
嫌がらせをしていた人物はどうやら体育委員長になれなかった山田らしい。
なんでも自分の変わりに高崎が委員長なのが気に食わなく、そこで高崎お気に入りのましろに目をつけることとしたらしく、工藤ファンとと源ファンの女の子達と手を組み、徹底的に嫌がらせをしていてたということである。
そしてそこに放課後の魔術師の噂を聞きつけ、ならば晒しあげようとの考えになったらしい。
閑話休題。
そして、その掲示板事件を見てフツフツと怒りが込み上げた高崎先輩は、どうにか可愛いいとこ(なんと二人はいとこだったらしい。それはかわいがるはずだ)に嫌がらせをする奴ら逆に全校生徒の前で吊し上げれないかと理事長に相談し、由々しき自体に何をしても構わん!との学園長からの一言で生徒会主催の大お披露目大会と相成ったらしい。
事が大きくなればなるほど、ましろ先輩が追い詰められたらその分、嫌がらせしてる奴が喜び、捕まえやすいからと。
それが今回のことの全容であった。
そして、ジューンブライドの参加者お披露目も終わった舞台横の小上がりになってるような小さなスペースにて、ましろ先輩とお友達である河北有希先輩が手を繋いでお話されてた。
「有希、ごめんなさい」と聞こえるから
きっとあの調子だと仲直り出来るのは直ぐであろう。
それよりも気になるのは、ちらちらとそちらを気にして見上げる藍沢幸恭先輩である。
その姿は友人二人を心配してる様にも見えるし、何か他のことを気にしてるようにも見える。
先ほどましろ先輩を守るため熱烈ハグをしてたぐらいだから、そういう事なのだと思うのだけど、もしかしたら前の図書室でのやりとり以来、ずっとこの気まずげな関係だったのだろう。
早く終われば良いなぁなんてニヤニヤとちょっかい掛ける拓海先輩。やめて上げてください。
すると、二人はひとまずは話が終わったのか、河北先輩だけ降りてくる。何でもこれから委員会だそうだ。
「仲直り出来たか?」との拓海先輩の言葉に、「うん、今日ましろんち泊ってたくさんの事話してくる」と恥ずかしそうに有希先輩が言っていたから多分二人は前よりもっと親友になれると思う。
そんな中、話しかけていいか分からず、目線を泳がす藍沢先輩。
――仕方ない。藍沢先輩の為にも最後の魔法、使おうか。
「悠斗さん、澪先輩」
二人を呼ぶと、ん? と優しく微笑まれる。
ジューンブライドの企画も終わった。もう私たちは何をしてても問題は無い。
「完成のお手伝いをしたいのです」
それだけで意味がわかったのだろう、先輩達は各々の荷物を持つと一緒にましろ先輩の前まで来てくれる。
「あ、衣織ちゃん。あのね、」
申し訳なさそうに話しかけてくるましろ先輩にしぃーと口元に人差し指を当てる。
謝罪なんて聞きたくなかった。
むしろ悪いのは、ちゃんと護れなかったこちらなのだから。
澪先輩が簡単にリップを塗る。
ましろ先輩に似合う淡い桃色を。
悠斗が、髪を結わえ直す。
その手には服に合わせて染めた淡い桃。
その首元にピンクゴールドのハートの形を。
それは最後の魔法の完成であった。
鏡を差し出すと、ましろ先輩は頬をほんわりと上気させ、笑う。
「ほんとに魔法使いみたいなんだな、ほんとにとびっきり可愛くしてもらってボクじゃないみたいそれにさっきも思ったんです。ほんとに勇気が出るって。だから、立ち向かえると思いました」
「ならば、約束覚えてますか?」
衣織が聞くと、うん。と肯定が返ってくる。
約束。
もしましろ先輩をとびっきり可愛く出来たら、衣織のわがままを聞いてくれるという、普段なら絶対しないお願いごと。
「魔法使いさん、わがままってなぁに?」
可愛いらしい質問に笑が零れる。
だから、願った事を口にする。
「好きな人に告白しましょう」
それが衣織のわがままでお願いごと。
するとましろ先輩は喜色ばんでた表情を一瞬歪め、うんと、静かな決意を決めてくれた。
「こんだけ魔法を掛けて貰ったから今なら出来そうな気がするんだな」
彼女がいてもいなくてもいい。振られてもいい。と笑ったましろ先輩。
後から聞いた話だと、彼女だと思ってた河北先輩は他に好きな人がいるからとましろ先輩に直前に言っていたらしい。だからこそ、遠慮しなくていい分勇気が出たのかもしれない。
階下にいる彼の姿を認めると、ましろ先輩は歩みを進める。
「スマイルですよ」
そう言って微笑むと、ましろ先輩も小さく花のように笑った。
その姿は、決意した姿は。
今まで見た中で一番の輝きを持っていて。
決意をした少女が変貌するその瞬間。
その瞬間が堪らなく綺麗だと素直に思うのだ。
「……やっぱり私たちって何にもできないですよねぇ」
魔法使いだと言ってるけど、輝かせるとか言ってはみるけど、結局、自ら頑張る少女の背中を押してやるぐらいのことしか出来てない。もしかしたら、それすら出来てないのかもしれない。もしかしたら自ら頑張ろうとしてる少女達の邪魔になってるかもしれない。
「…それでも願う事は出来るんじゃないかな」
彼女達の幸せを。
彼女達の笑顔を。
下で藍沢先輩相手に今まさに奮闘してるましろ先輩の成功を。
――ねぇ、しってますか?
ましろ先輩。
図書室で、藍沢先輩がなんて言ったか。
あの時、ましろ先輩が走り去った後、どんな表情を浮かべてたか。
それから。
貴女がどんな表情で好きな人を語ってたか。
貴女が図書室で彼にどんな表情を向けてたか。
ましろ先輩の後ろ姿に微笑むと、空気を読んでやって来た拓海先輩と四人その場を後にする。
魔法使いは最期まで関われない。
それはセオリーなのだから。
僕が藍沢くんの前に降り立つと、藍沢くんは困り果てた様にこちらを見上げてきた。
その表情に僕のありったけの勇気は萎みそうになるけど、それでも、告げると決めたから。
意を決して、彼の表情を見つめた。
「……あのね、藍沢くん、聞いて欲しい事があるの」
ばくばくと心臓が跳ねる。
それでも。
勇気をもらったから。
「……俺のこと押したのって、抱き締められるの嫌だったからか?」
是でも非でもない斜め上の質問が来て、よくわからないまま首を振る。そのまますぐに抱きしめられた時のだと思い出して違うよ、ときちんと否定した。
「藍沢くんに飛んできたものが当たりそうで怖かったから。たっくんが直前で払い落としてくれたけど」
「そっか……気持ち悪がられたかと思った」
小さく苦笑する姿にブンブンと首を振る。
「まさか! 気持ち悪いとか! むしろ嬉しかったです! 藍沢くんすっごいかっこよかったし! ドキドキして倒れるかと思った! 声とか! 心臓止まるかと、思って!」
「…ちょ、ちょっとストップ! 待て都月止まれ!」
慌てた藍沢くんに手のひらで唇を覆われる。
年の割にはしっかりした大きな手の体温を感じて、自分の心はまた条件反射の様に高鳴りを覚えた。
とめた藍沢くんを見ると頬と耳まで紅く染め、もう片方の手で自分の顔を覆っていた。
「都月、そんなん言われたら都合の良い解釈しか出来ないぞ」
唇を覆われてるので、発言できないまま首を傾げてると、あーとかうーとか唸られた。
「嬉しかったとか、かっこよかったとか、そのドキドキしたとか、言われたら期待、するだろ」
ほんとうに? 藍沢くんが僕の言葉で期待してくれるなんて。
「……藍沢くん、が、期待してくれるなら、それがうれしいです」
その期待するって言葉におされて、素直な気持ちを言うと、腕を掴まれ、ひどいぐらい乱雑に抱きとめられた。
「嘘とか冗談とか、友達としてとか言うなら今だぞ」
熱いまでの体温と、激しく鳴り響く鼓動に、自分の熱も鼓動も呼応してしまう。
二度目の彼の腕の中はとても気持ちいい。
「言わない、藍沢くんだけ、特別」
その自分の言葉に藍沢くんは身体を離すと、熱を宿した瞳でこちらを見つめてくる。
その間は一瞬で。
彼の見たことない色に戸惑ってると、熱っぽい口付けに呼吸も言葉もすべて飲み込まれた。
「都月、俺のになって」
その言葉にこくりとうなづいた。
「つか、俺かっこ悪いな」
ボソリと吐かれた言葉に「なんで?藍沢くんかっこいいよ?」と聞くと、不服そうな顔をされた。
「……告白するつもりだったのに先こされてるし、彼女になる子は飛びっきり可愛いのにかっこいいし、立つ瀬ないなと」
「でも藍沢くんは一番かっこいいよ?」
ずっと思ってる事を話すと、藍沢くんは馬鹿と言いながら、耳元でとびっきり甘い恋を囁いてくれたのであった。
「つか、俺は本人に直接聞いてたから知ってたけど、お前なんでわかったんだ?」
イベントの片付けの最中に問われた質問になにかでしょうか? と聞くと、「幸恭のこと」と言われる。
そう端的に話されてもよくわからないんですが、と言ってやりたい気分は山々だが、なんとなく何を言いたいのかわかってしまったのでそのまま話を続ける。
「藍沢先輩の恋心なら会話をしてたらふと、理解しましたよ」
あの日、あの後、なんとなしに聞いてみた。
好きな色は何ですか?と。
『瑠璃紺…それから、桃色かな』
『…え』
なんだ? 意外そうだな』
『えぇ瑠璃紺はまだしも可愛らしいお色がお好みなのが驚きでして』
『…似合いそうだから』
『へ?』
『この世で一番綺麗で好きな色の"しろ"ににあうと思う色が桃色だから好きなんだよ』
そう言って切なげにましろ先輩が出ていった後ろ姿を追うように入口を見つめた藍沢先輩。
その表情で、言葉で、理解した。
藍沢先輩はと都月先輩のことが好きなのだと。
ならば藍沢先輩が逃れられない程、もっと魅力的に映るようにふんだんに桃色を使おうと、そう決めたのだ。
「…うっわ、相変わらず小っ恥ずかしいやつ。しってるか? あいつ、しろとはじめて遊びに行った時に、初めて見た私服姿に天使が舞い降りたって言いやがったからな」
あの時は怖かったと腕をさすりながら答える拓海先輩。え? それ冗談じゃなくて本気ならちょっと怖い。
そう思いながらも片付けを終えると、心地よい疲労感に包まれた。
「さて、これから反省会と行きたいところだけど、どうしたい?」
澪先輩の問い掛けにちらりとこちらを見た悠斗さんが首を振る。
「今日はみんな疲れてるだろうし、月曜日にしたいかなぁと……ダメかなぁ」
拓海くんも部活行かなきゃいけない時間帯だよねぇと悠斗さんが拓海先輩に聞くと、そうですね、との返しが聞こえる。
ならばとあっさり掛かる解散との声に各々了解の返事を返した。
「衣織ちゃん、気になって仕方ないことあるんでしょ?」
「気づいてたんですか?」
クスクス笑う悠斗さんはだって、と続ける。
「何年一緒にいると思ってるのさ。ほら、行っておいでよ」
ぽん、と背中を押され自分はその場を後にした。
気になったことがある。
あの時、壇上に上がってた時の、あの、珍しい表情は。
あれは謝罪に見えて。
あいつの事勘違いしてたのかもしれないと思ったから。だから、少しだけでも話せたらと思った。
会ってせめて勘違いしたことぐらいはごめんぐらいは言いたい。
「……って思ったけど、生徒会室にいないかもだし帰ってるかもだよねぇ」
勢い押されて出てきたけど、そういえばとはたと思い出し後悔の念が押し寄せてくる。
むしろ居たとしても、イベント後の後片付けを向こうもしてるだろうし邪魔?
悶々と悩んでいると、あれ?と後ろから声を掛けられる。
「やぁ、二宮さん。こんなところでどうしたの?」
「豊福副会長」
からりとした声に思わず睨んでしまうと楽しげに微笑まれた。
「親の敵を見るような殺意に満ちた表情で見られると少し凹むんだけどね」
ひょうひょうと言うあたり、凹んでる感じが見当たりませんが。
「豊福副会長はこちらで何をされてるんでしょうか?」
敵意を示しながら聞くと、困り果てた様な弱々しい笑みで返事をされる。
「体育委員会に呼ばれたりとか、会計委員会に呼ばれたりとか色々あってね。生徒会役員の一部除名のための手続きもあったしね。高等部の先輩達が学園長に捕まってるから僕らで後片付けするしかなくて」
そう言えば体育委員会からの以来があって今回の騒動が起きたのだったし、衣装代とか何やらは、会計委員会が特別枠で組んでくれたとの事だったからその為に色々動いてくれたのだろう。
そう思うとさっき睨みつけてしまったのが申し訳なくなる。
「ごめんね」
こっちが謝る前に豊福副会長に謝られてしまう。
何のことだと問い掛ける前に、豊福副会長は言葉を続ける。
「今回大変な思いをさせてごめんね。学園長のわがままとはいえ、イベントの準備を丸々お願いした訳だし。その上、僕らの計画に無理矢理巻き込んじゃって」
それに存在を明かしてしまうきっかけを作ってしまってごめんねと優しく言われてしまう。
「ひっそりと活動したいのは知ってたんだ。けど、どうしても君達の力が必要だった。隠れ蓑にしてしまって申し訳ないけど、大元を叩かない限り、都月先輩の件は終わらなかったから利用してごめん」
「こちらもすいませんでした。何も知らなかったとはいえ、暴言吐いたりして」
利用されたのは腹立たしくないといえば嘘となる。けど、悪気があったわけじゃないとわかってしまったから恨めなくなるじゃないか。
「それは僕はいいんだけどね。怒りたくなる気持ちも分かるし、そんな言い方をしてしまったこっちにも非があるし。けど、申し訳ないと思ってくれてるなら、ちょっとお願い聞いてもらおうかな」
大したことないからと言われ、
そのお願いとやらがとんでもなく殴りたくなる内容だったわけだけど。
「生徒会室に今からこれ持ってってよ」
殴らなかった私を誰か褒めてください。
祥太郎以外誰も居ないから、と言われた中等部生徒会室の扉の前に立つ。
行きたくない、開けたくない。と思うが、約束してしまった以上行かなければならない。
前回は怒りのあまり勢い良く開けれた扉が、今は罪悪感で開ける気持ちになれない。
「うー」とか、「あー」とか格闘すること数分。諦めてその扉をノックすることを決める。
コンコンと礼儀正しく扉を叩いたが反応はない。
おかしい、いると聞いたハズなんだけど。
再度叩いてみる。が、やはり反応はない。
しかし、これは届けなければならない。副会長との約束だし。
腕に下がる袋の中には甘味と渋めの緑茶。
白井を少しでも休ませたいとの副会長の思いやりがここにはつまってる。
ちなみに副会長は高等部生徒会長と副会長を回収してくると学園長室へと向かってしまった。
色々と気苦労が多そうな豊福副会長には今度なにか労ってやろう。
気苦労が多そうな副会長の為。
そう決意して、生徒会室の扉をこっそり開ける。
誰も居なかったらそれでいい。とっとと入ってとっとと置いてとっとと退散しよう、そうしよう。
一人そう決めてこっそりと生徒会室に忍び込むと、物音一つしない静かな空間が広がっていた。
やはり誰も居ないのかと思ってると、視界に奴の姿が入る。
「寝てるし」
西日が眩しい窓の下のソファの上で、白井は、静かに眠っていた。
静かに立ち寄ると、机にビニール袋を置く。
まだ仕事が終わってないという、副会長の言葉がほんとなら起こしてやるべきかと思うが、でも、こんなに気持ちよさそうなのを起こしてしまうのは気が引ける。
気持ちよさそうに寝てるのがなんだか腹立たしくて睨んでいると、その目元に隈があるのが見て取れた。
白井にそっと近づいて舌から除くとその濃さに驚く。
「また隈作ってるし」
以前も隈を作って悲惨な顔になってたのを見た事がある。
前も色々気張りすぎて、睡眠時間削ってた様だがきっと今回もそのパターンなのだろう。
「あんまり無理しない様にって前にも言ったのに」
そっと目の下の隈を撫ぜると、くつくつと白井の肩が揺れる。
ん?と思ってると、その双眸は開き、隈を撫ぜてた腕をつかまれる。
「そんなに無防備で僕の心配してどうしたのさ? もしかして、僕に惚れた?」
その強い瞳にたぬき寝入りだということに気がつく。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!!」
恥ずかしさのまま、思いっきり生徒会室を飛び出した。
思わず白井を殴ってしまったけど、お礼もごめんなさいも言えなかったけどもう知らねぇ。
これはやつが悪い!
そう言い訳を重ねると、火照る頬を抑えつつ、猛ダッシュを続けた。
途中、幸せそうに微笑んでる都月先輩と藍沢先輩を見掛けた。
それは物語のヒロインがするハッピーエンドの笑みで。
それは任務完了の証。
魔法使いがもういらないという素敵なサイン。
願わくば、その笑顔が壊れませんように。
そう祈りながら、さて、次の依頼が来てないか、探しに行くのであった。
ーーねがわくば、一生懸命頑張る女の子を幸せに出来ますように。




