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それは青春でした!  作者: 雨森晴
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 ざわざわと祭りの前の高揚感に皆、ざわついている。

 ステージ上にいるのは、中高一貫の生徒会長と副会長の四名のみ。

 ステージ前ではほかの執行役員が並んでおり、興奮で騒ぎ出す生徒達を宥めている。

 結局ましろ先輩はどこにも見つからず、この幼稚舎から大学生までが一斉に集う事が出来るこの大講堂の周辺でも見つけることは出来なかった。

 自分達は参加者の女の子に不測の事態が起きないよう、ステージの裾で待機してる訳だが、ましろ先輩が見つからないため自分達の顔は浮かない。

「あのタイミングで来たってことは、生徒会もグルってことっすかね?」

 拓海先輩の問いに澪先輩が首を振る。

「それはないと思う。環奈がごめんって言ってたから」

「ってことは、何かしらの事情は知ってて一枚かんでるってことだよねぇ。生徒会長たち」

 さて、ならば、奴らは何を知っているというのか。

 壇上で悠然と立つ白井を見ると、奴はにこやかにこちらに微笑んでくる。

 あぁ! 腹立たしい!


 殴りたくなる衝動を必死にこらえるてると、彼は小さく口を動かした。その口唇の動きだけで何を言われてるか全くわからない。しかし、申し訳なさそうな顔を一瞬だけ見せると、そろそろ時間とばかりに私から目線を外しマイクを持った。

 それは今までみたことない珍しい表情だったのだけど。

 ずきり、とその表情が胸に刺さった。


「では、皆様お待たせしました。生徒会長、放課後の魔術師主催、ジューンブライドを始めます」



 望まない、舞台の幕が上がる。



「早速参りましょう、エントリーNo.1、まきや……」


 一番最初に呼ばれる少女の苗字が聞こえ、その子を裾ギリギリまで誘導する。

 しかし、そのコールする白井の声が聞き慣れない機械音で憚られる。

 違和感にステージ上を見ると、理事長の『インパクトある登場がしたい!』とのわがままだけで出来たというステージ中央のセリが上がってきていた。

 そこに現れるは見覚えのある白菫色の髪の毛。

「しろ!」

「生徒会長達があそこに連れてったのかな」

「それにしては豊福と生徒会長の表情がおかしい」

「環奈も表情が暗い。夏樹も顔を顰めてるし、あの四人は知らなかったったのかな」


 ぼう然と立ち尽くすましろ先輩はステージ下からの数多の視線に、こらえ切れなかったのだろう俯く。

 その表情を見た一部の観客からヤジが飛ぶ。

 ジューンブライドを素直に楽しみにしてた者、単純にましろ先輩に対するヤジ。

 目立ちたがり屋だからと順番乱すなよや踊ればー?なんて言葉ならまだ可愛い。

 明らかな暴言が聞こえてきた時には、拓海先輩がキレた。

「ふざけんな、あいつら、」

 飛び出していこうとする拓海先輩を悠斗さんが押し留める。

「なんで止めるんですか!」

「今ここでろじくんが出ちゃうと、放課後の魔術師だってバレちゃうよ」

「それが怖くて、友達守れるか」

 潔い言葉。この人こういうとこ、好感持てる。

 拓海先輩が止められてる隙に前に出ようとする。

 苛立ちが募ってるのは彼だけじゃない。私もだ。

 あたしがリーダーなのに。私を守るために身代わりになってくれた先輩を、今度は私が守りたい。

 その為にステージ上で堪えてる少女の元へ駆け出そうとすると澪先輩に止められる。

「なんで!止めるんですか!」

「衣織は更にダメ……貴女は絶対正体がバレたら駄目」


「ひっこめブス!」

 野次馬から飛んだそんな罵声に拓海先輩とふざけんな! とステージに飛び出す。

 ステージ下から何処からともなく何か飛んでくるのが視界に映る。彼女に当たると危ない。

 まもらなきゃ、それしか心に無かった。







 服を着たら、科学室に戻ってきてくださいね。

 その声に返事をした後、真っ白なその洋服を持ち上げる。

 ふんわりとしたそれは手触りがとても良くて、とても既製品のような出来ではなかった。

 悠斗さん、って人に髪の毛ふんわりだねぇと言われながらしてもらって

 美人な里中先輩に、とびっきり可愛くするからと化粧をされて

 花って難しいんだっつぅの!と言いながらも、たっくんがネイルをしてくれて。(たっくんがネイルするのはすごい驚きだったけど)

 まるでお姫様みたいでふわふわな時間だった。

 可愛いとたくさん言ってもらえて幸せだった。

 それから衣織ちゃんが渡してくれたこのふわふわの真っ白。

 まるで、結婚式のウエディングドレスみたいで袖を通すのはこそばゆい。

 でも、魔法を掛けてくれると、とびっきり可愛くしてくれると言ってくれた。

 こんな僕に、友達ひとりまともに大事にできない僕に大丈夫と言ってくれた。

 なら、その思いに応えたいとは思う。

 さっきまでの落ち込んでた気持ちが、ふわふわに膨れ上がって、やっぱり衣織ちゃん達はすごいなぁと思う。魔法使いみたいだと思う。

 お洋服を観てこんだけ幸せな気分になれるのも初めてなのだから。

 そっと腕を通し、身につけると、オフホワイトとワンピースであった。

 肩はちょっと恥ずかしいけど少し空いており、グラデーションなのか、オフホワイトから裾にかけて淡い桃色へと色が変わる。

 まるで鈴蘭みたいなふんわりした裾はワイヤーも入ってないのに綺麗な形である。

「可愛い」

 まるで、どうしよう。ほんとにお姫様みたいで。結婚式のドレスみたいで。

 その上に紺色のデニムジャケットを羽織る。そのデニムにしては柔らかな硬さは、今まで体験したことのない肌触りであった。

 一緒に用意されてた踝までの編上げブーツも履いて完成。

 まるでパンフレットに載ってそうな可愛い服である。

 鏡を見るとそこには自分じゃない、少女がキラキラと映っていた。

 魔法だと思った。

 ほんとに魔法使いだと思った。

 この魔法があったら、どんな勇気も出そうだと思った。

 すると準備室のドアが開かれる。

 衣織ちゃんかと思いそちらを振り向くとそこには見慣れぬ生徒が立っていた。

「色仕掛けもそこまで露骨になると、いっそ笑えるわね」

 嫌われてるという事だけは理解して、黙っていると隣の部屋に気付かれないようここを出るよう言われる。

「もし逆らったら放課後の魔術師の正体を壇上で公開するわ」

 それはやめて欲しい。

 あの子の思いを知ってるから。

 魔法使いでありたいと、物語の鍵であってモブでありたいと語ったあの子を思い出され、隣の部屋の壁へと視線をやる。

 初めてであった時、光だと思った。

 目立ちたがり屋だと言われクラスでもひそひそ言われて、――それはどうでも良かったのだけど、――一人でいたボクに何のためらいもなくよろしくと言ってくれた、仲良くしたいと言ってくれた。

 大事にしたい後輩のひとりだから。

 だからこれはあの子を守る勇気だと思ったから。


 言われたように気付かれないようその人についていき、言われた通り、暗い場所でずっと突っ立っていた。

 そして、視界が急に眩しくなって、突き刺さる悪意に仕方ないとは諦めはついた。

 これであの子が守れるならなんてことはないのだけど、突き刺さる視線を見たくてなくて俯く。

 この視線の一つが藍沢君だったらとか、有希だったら、とか思ったら怖くて耐えれなかったから。

 不思議と音すらも聞こえなかった。

 だから何かが飛んでくる事なんて全く気づかなかったのだ。


「ふざけんな!」

 そう、何かが叫んで、自分の事を抱きしめるまで。

 それは見慣れた黒髪。艶やかであでやかで芯のあるその髪は、大好きで憧れてる。

「……しろ、怪我してない?」

「……ゆ、き?」

 喧嘩したはずの友達の名前を呼ぶ。

「怪我してない?!」

 泣きそうな顔で聞かれ、とりあえず小さく返事をする。

「……うん」

 視界が暗くなり、ふと異変の方に視線を向けるとそこにはろじくんと、

 ーそれからもう一人、会いたくなかったかった人がこちらを見たいた。

「……藍沢、くん」

 一切の表情がない真顔の彼が今何を考えてるか全く分からず、首を傾げると、力強い衝撃が己の身体を包んだ。

 へ?へ?と意味が分からず、困惑していると有希が「私のしろに抱き着くな!」と叫んでいる。

 耳元で五月蝿いと呟くのは、恋しくてたまらない、好きな人の声で。

 自分の体は一瞬で全身の熱を上げる。


「こんな、可愛い格好してんの、他の奴に見せてたまるか」


 なんて、まるで自分の都合のいい言葉すら聞こえてくる。

 どうしよう、衣織ちゃん。魔法の効果は抜群ですよ、好きな人が可愛いだなんて言ってくれるなんて。

 あわあわとばくばくとした心臓に初めて触れた彼の体温は毒でしかない。

 そんな今の状況を忘れてしまってた罰のように、静まり返っていたステージ下から再度罵声が飛び、一瞬で自分の熱は一気に冷める。

 事件の始まりやら、今までの事全て思い出されて、藍沢くんに離してと訴える。

 しかし、彼は首を振るだけで、離さないと訴える。

 それからまた自分への誹謗中傷が飛ぶ中、今度はしっかり何かが飛んでくるのが見えた。

 藍沢くんに当たる!

 それだけは避けたくて彼の身体を強く押すと同時に、たっくんがそれを払い除けてくれる。

「…お前ら! 誰がやってるか知れねぇけど! 陰険な真似そろそろやめろよな!」

 どうやら飛んできたものは腐った玉子みたいで、辺りには異臭が立ち込めている。

 しかし、ろじくんの言葉は反発を生んだらしい。次々と腐った玉子が飛んでくる。

 けれどそれがステージ上まで届く事は無かった。


「工藤!源!」

 ぎぃーんと、講堂内を震わす大きな声が響く。

 その声にはっ! と三人の声が響いたかと思うと、その腐った玉子爆弾が撃ち落とされていく。


 ばん、とステージ前に悠然と立つのは二人の先輩と一人の後輩。

「まひろちゃん……工藤先輩、源くん」

 呼ぶと、工藤先輩が後ろ手でひらひらと返事してくれる。

「ちったぁ先輩頼れよ」なんて。










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