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それは青春でした!  作者: 雨森晴
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「……直接?」

「えぇ。ましろ先輩のお友達の気持ちはお友達にしか分かんないんですよ……あ、ましろ先輩。遅くなってすいません」

「お前! その言葉はまず俺に言えよ!!」

 相変わらずよく吠える拓海をサラリと無視をし、ましろに向き合う。

 ましろはまた俯くと、できないとつぶやく。

「直接、無理……多分嫌われたから……怖くて話が出来ないです」

「嫌いかどうかは友達にしか分かんないんです。多分は、ましろ先輩の主観であって、お友達の意見でないんですよ。」

 だってそうだろう。直接話してないのだ。

 ならば、自分勝手は考えで測れてしまうものではないのだ。

 それでも悩むましろに衣織は心の中だけでため息を零す。

 まるで大喧嘩した時の実尋と由宇衣ビみたいで。

 本当はお互い大好きでお互い仲直りしたいのに、自分だけの感情でぐるぐるしちゃって、落ち込んでいくのだ。

 この目の前の先輩は大喧嘩では無いのだろうけど、多分初めての喧嘩で、終わらせ方が分からないのだろう。

 むしろその事よりも、気になることがある。

 そちらもうまく立ち向かって欲しいから。

 時計をちらりと見る。

 時間はもうない。


「さて、ましろ先輩。ならば、話し合いする勇気が出る魔法かけましょうか。本当はそんな魔法なくてもましろ先輩なら大丈夫だと思いますけど、ね!」

 にったりとわらうとましろはぱちくりとその綺麗な双眸を大きく見開いた。





 ーもしも自信がなくて卑屈な考えになってしまうのなら、とびっきりの魔法に掛かってしまえばいい。


 何たって私たちは魔法使いなのだから。



 そう告げると、悠斗さんと澪先輩が察したのかそっとましろ先輩を誘導する。

 意味がわからず、慌てるましろ先輩を宥めながらも椅子を動かし、やりやすい様にセッテングすると櫛を持った悠斗さんが口を開く。

「今回ベースは何色?」

「オフホワイトですね」

「パステル?」

 澪先輩に問われる。

「パステルですね」

 拓海先輩ががしがしと頭をひっかいた後忌々しげに口を開く。

「色のせるか?」

「色も柄もいりません。あくまで健康的な可憐な色、出せますか?イメージは桃で」

 え? え? と困惑するましろ先輩が可愛いらしい。

「桃かぁ」

 なるほどーと笑う悠斗さんに笑い返して、小物の準備を始める。

 髪留め、靴に、ストッキングに、目に止まった一番大きな袋。

 それを手早く準備して、拓海先輩が持ってきた香水の中から一番香りが弱く、理想に近いのを探す。

 さて。始めましょうか。


 ーー放課後の魔術師が彩る魔法の時間を。







 ジューンブライドの準備の間、見てた。休み時間、それこそバタバタしている放課後、たまたま通りすがった授業直前のこと。体育の授業は誰もしない準備を一人でこなして、何も無かった様に集団に溶け込み誰よりも真面目に授業を受ける姿。休み時間、花壇に水を上げて、小さな傷付いた小鳥をそっと介抱してあげる姿。座学も苦手なのだろう割りに一生懸命復習してる姿。ちゃんとあたしは知っている。どんな嫌がらせや迫害を受けても小さく笑うだけで相手の悪口も言わず、何も言わず耐えてる姿。助けに行こうとしてましろに目で制止されたこともあるから見守るしか無かったけど。(何故止めたのか後から聞いたら、衣織ちゃんも嫌がらせ受けるのボクが嫌だったんだなだそうだ。泣けた)

 彼女の生き様、強さ、優しさ。全部知ってる。だからこそ彼女には幸せにになる魔法をかけたい。そう思ったのだ。





「終わったよ」

 澪先輩の声に、悠斗さんもこっちも終わったぁと返す。

 拓海先輩は何かまだ作業してるみたいで、薬指に色を重ねてる。

 これは途中で言った私のお願いに怒りながらも了承してくれた結果である。

 それも程なく終わった様で、満足そうによしとつぶやく声が聞こえた。

 さて、順序は変わったが仕上げはこれから。

 驚きで未だにぱちくりしてるましろ先輩の前に立つと、大きな袋を差し出す。

「…なに?これ?」

「化粧して、ヘアアレンジしてネイルもしたら、残るは一つです」

 そっとその荷物縛ってた風呂敷の端を解くと、そこには溢れんばかりの白が出てくる。

「…綺麗」

 ましろ先輩から零れる素直な感想に、嬉しくはなるが、まだその言葉を使ってもらうのは早い。

 これは彼女が身につけて、ようやくそう褒めてもらいたいものなのだ。

「あっちの準備室に簡単な更衣室を準備しています。これを着てください」

「うん…なんか綺麗だから着るのもったいない気がしてきたけど」

 でも、ボクの為のですから。

 そう意気込む彼女は、そっとそれを持って、隣の準備室に消える。

 着替え終わったら呼んでくれるようにお願いしたら、ドアの向こうから分かりましたと小さく聞こえてくる。


「お前あれ完成しなくて遅くなったとか言わねぇよな?」

「あれは昨日の時点で出来上がってたんですけどねぇ……知り合いのお坊さんに帰るなとせがまれまして…」

 あの日あの後どうしてもしたいことがあり京都に飛んだ衣織は、理事長の措置によりお寺に寄ることとなった。

 一週間以上学校を休む為の特別授業。コレがクリア出来たら、全ての授業を出席扱いにしてくれ、授業の点数も補填してくれると言うなんとも優しい待遇であった。(理事長の思い付きで時間が足りないのだからこのぐらいしてもらわないと困ると詰め寄ったのもあるが)

 まぁ、そこでお寺の雑用やら掃除やらを張り切ってこなしてしまったら、お坊さんに感激されてしまいここにずっといてくれと涙ながらに懇願されてしまい、修行中のお坊さん達にも懇懇と訴え続けられ、帰るに帰れなくなってしまったのだ。

「まぁそんな事は海のかなたまで投げ捨てて」

「いや、投げ捨てるな。お前、わざわざ京都まで行ったのかよ」

 拓海先輩の質問にそうですよ、と返す。

「今回どうしても出したい色がありまして。実家で染めても良かったんですけど、京都の技術で染めてみたくて修行がてら行ったんです」

 おかけでいろいろ勉強になったし楽しかった。

「そこで京都行っちゃう当たりが衣織ちゃんらしいけどねぇ」

 苦笑を漏らす悠斗さん。普通はそこまでしないと言われるが、じゃあ悠斗さんはとても手馴染みのいい鋏を鍛えてくれる職人さんが京都に居たら会いに行きませんか? と聞いたら行くと即答された。そういう事ですよ。

「和んでるところ悪いんだけど、ジューンブライドの方仕上げなきゃ時間ない」

 澪先輩の困った様な発言に悠斗さんと拓海先輩は慌てる。

 私の方は先にましろ先輩を三人がやってくれてる間に着替えをお願いし手直しまで行った為、ましろ先輩の順番が逆になったのだ。

「私待ってるんで、三人は向こうの準備に取り掛かってください。ましろ先輩の手直しが終わり次第、そっち確認に行きます」

 ましろ先輩の完成を待ちわびてるのは皆同じだが、いくらあの巫山戯た生徒会からとはいえ、仕事を受けてしまったため生半可な完成で、女の子たちをステージ上に上げるわけには行かない。

 意地でも制限時間の一時半までには終わらせなきゃいけないのだ。

 タイムリミットは一時間半。

 悠斗さんたちは一刻も早く完璧に終わらせる事を心に決め、ジューンブライド参加者の元へと向かうのであった。







「はぁ? 居なくなった?!」

 拓海先輩の怒鳴り声に耳元を抑える。分かってますよ。そんな大声出されなくても聞こえてますよ。

「何でいなくなるんだよ! しろが!」

「それが私にも分かんないんですよ!」

 分かんないから、電話で悠斗さんだけ! 呼出したんだろうがか! オメェは呼んでねぇ! ……と、喉まででかかってるのを飲み込んで事情を話す。

 着替えの為に準備室に消えたましろ先輩。

 三人の先輩も向こうに行ってから十分ほど待っても、ましろ先輩が準備室から出てくる事は無かった。


 いくら何でもおかしい、そんなに着替えに時間がかかるほどややこしい作りはしてない。

「ましろ先輩、洋服着れました?」

 恐る恐る隣の準備室に声をかける。

 しかし、その返事はいくら待ってもない。

 嫌な予感に準備室のドアを開けると、そこにはましろ先輩の脱ぎ捨てられた制服しか無かったのである。


「お手洗いに行かれてるだけかもと思い覗きましたが見つからず、携帯にもかけたんですけど繋がらなくて…」

 もしかしたらなにか用事があってどっか行かれただけかと準備室で待っていたが帰ってくることはなく、大慌てで学園内のめぼしい所を探したがどこにもましろ先輩の姿を見つけることは出来なかった。

「どうするんだよ」

 苦々しくつぶやく拓海先輩。

 無言で俯く澪先輩。

 悠斗さんはジューンブライド参加者の元で、最後の打ち合わせを一人でこなしてくれている。

「ステージに上がる事が怖くなってましろ先輩の意思で隠れてるだけならそれでいいんですけど、何か厄介ごとに巻き込まれてたら大変な事になるかと」

「厄介ごと?」


「今回の依頼の発端です」


 彼女の置かれてる事情について二人に話す。

 確実性のある事から噂の域を出てないが信ぴょう性が高いもの。

 それは自分が京都に行く前に悠斗に頼んで調べてもらったことに付随して得た情報であった。

「じゃあそいつに攫われたってことかよ?」

「可能性は高いかなと」

「巫山戯た真似してくれるな」

 拓海先輩が苦く呟くのに被せて、科学室の扉が開かれる。


 そこに現れた人物を見て思いっきり舌打ちをかましたい気分になる。

 ――あぁ、ぶん殴りたい。

 いつだって唯一人そう思わせてくれる人物なんて目の前のこいつだけだろうとほんとうに思う。


「時間だよ」

 彼がにこやかに告げるその言葉に軽く殺意すら芽生えた。





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