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それは青春でした!  作者: 雨森晴
10/13

10

「おそいっ!」

 苛々と腹立たしげに叫ぶ後輩に澪と悠斗は小さく苦笑を零した。

「10時迄には帰ってくるって言ったんだけどねぇ」

 のほほんと呟く悠斗をきいっ、と振り向きながら睨む拓海は、はぁ?!と返す。 

「悠斗さんは! 今! 何時か! 分かりますかっ?!」

 あははと苦笑いで逃げるとちらりと壁に掛けられていた時計へと視線を流す。

 短い針は11と12の間、長い針は3と4の間を示してるわけであって、拓海の怒りもごもっともなのではあるが。

「出発する前に問題発生したらしいからねぇ。イベントには間に合わせるとは言ってたけど」

 しかし、イベント開始は1時半。

 正直言ってお昼ご飯ゆっくり食べて……なんて猶予な時間はない。今から10人の女の子とプラス1人。しかも10人の女の子の方は下は幼稚舎から上は高校生迄と大変幅広い年齢層が揃っているのだ。幼稚舎の生徒ならまだいい。髪の毛が柔らかいため纏めるのが大変なぐらいで特に時間はかからない。問題は高校生より上の組だ。

 なまじウエディングドレスとやらに拘りが有るため生半可な仕上がりは許さない。

「まぁ信じるしか無いでしょう」

 僕らのリーダーを。

 小さく悠斗が笑うと拓海は渋々といった感じにため息を着く。

「あいつのせいで夏休みが潰れたら、恨んでやる」

 思いっきり低音で呟く拓海に悠斗と澪は小さく笑うのである。


 からり。

 場の空気を壊す様に無機質な音が響いて3人はそちらを振り向いた。ようやく帰り着いたかと思うが待てど暮らせどその扉の向こうからは探している姿は現れない。

 遅れてきたことを反省して出辛いなんて言わないし潔く謝る子なのを分かっているためなかなか姿が見えないのが不安になる。

「ごめんなさい」

 小さく小さく蚊が飛ぶ様なか細い声が聞こえ、そこからひょっこりと小さな塊が頭を出した。

「あっ都月ちゃんだ。こんにちは」

 まだ衣織ちゃん帰ってきてないよー? と悠斗はおいでおいでと手招きしながらましろを呼び寄せる。

 しかしその場で根が生えたかのように動かないましろ。俯いたままで表情が全く伺えない。

「……」

 悠斗は澪の顔をちらりと見ると澪にも聞こえなさそうな小さな声で小さく問いた。

「澪ちゃん、お願いして良い?」

 そのお願いに戸惑いながらも了承を示した澪は、動かない尋ね人の元迄向かうと、どうしたの?と問い掛ける。

「……」

「都月さん?」

「……」

「とりあえず中入っておいで。衣織の事一緒に待ってくれる?」

「……っ、……はい」

 返ってきた返事に安堵を覚えながら、澪はましろを近くの席へと促す。

 梅雨の晴れ間と言わんばかりに晴れ抜いた日差しが差し込む暖かな席まで案内すると、これからどうしたもんかと、悠斗と拓海に助けを仰いだ。

 はぁ、とため息を一つ着いた拓海。

「おい、」

 つかつかとましろの前の空席に乱暴に座ると、ギョッと驚く高校生2人を横目に拓海はまたおい、と問い掛ける。

 それすら気付いてないのか俯いて顔を上げないましろに拓海は言った。

「お前も馬鹿だなぁ」

 ぐしゃぐしゃとましろの頭を撫ぜる。

「痛いです!……あれ、たっくんなんでここいるの?」

「俺もメンバーなんだけどお前やっぱり気付いてなかったか」

 きょとりと目線をあげてまつ毛を瞬かせるましろ。

「たっくんも放課後の魔術師?」

「そうだよ」

「なんか信じられないです」

「お前失礼じゃね?一応それなりに仕事こなしてんだぞ」

 似合わない、とでかかってしろは口を噤む。

「お仕事邪魔してごめんなさい」

「んや、衣織が帰ってこないから何もしてねぇよ。……有希か?幸恭か?」

 ふぅとため息を零しながら拓海は問い掛ける。

 確か数日前から目の前の友人と幼馴染である友人が拗れたというのは知っている。

 ついでにどうしてか、もう一人の友人も異様に落ち込んでいてめんどくさい。何があったんだか。


「……二人から聞いたの?」

「有希からは有希の話しか聞いてねぇな。お前の感じたこと思ったことはまだ聞いてねぇ」

 屁理屈だなぁ、と少女は笑う。でも、不器用な優しさが痛いほどよくわかった。

「あのね、有希に嫌われたかもしれないです」

「なんでそう思うんだ?」

 言いづらいのかあのね、と繰り返しながらましろはその日の事を話し始めた。







 その日ましろは一人放課後を過ごしていた。

 委員会も無いし、衣織も居らず、かと言って秘密の花園では藍沢との件が有ってから気まずくていけないし、すぐ様お家に帰る、なんてことも何と無く出来ずにただのんびり校舎内の廊下を歩いていた。

「まひろちゃんはは遊んでくれるかなぁ」

 どんなん遊びでもいい。構ってくださって、頭撫でられて時間の許す限りそばにいて欲しい。

 でも無理だろう。今は球技大会前のの大事な時期、さらにはまひろは全国大会まで控えている。

 仕方ない。もう諦めて帰ろうと教室に戻ることにする。

 くるりと回れ右をして真っ直ぐ戻るのも何だか物足りなくて、どうせなら購買に立ち寄り新作のお菓子でも買ってから教室に戻ろうと考える。

 ー本当に購買に立ち寄ろうと思ったのは、ただの偶然だった。

 購買の近くにて彼女に出会うまで、そこがどんな場所か忘れていたのだ。


「……しろ」


 この学園でその呼び方をする人は限られている。

 聞き慣れたその声に、その呼び方に、ましろはどくりと心臓が高く跳ねた。

「有希」

 ここがどう言う場所か忘れていた。

 この学園の中等部は一階が食堂になり、その地下は大きな購買部がある。そしてその横にこじんまりとした目の前の少女が所属する委員会が主に活動する保健室があるのだ。

 そんな当たり前のことを失念してるなんて。

 ましろは、目の前の有希を見つめる。

 あの掲示板の騒動から、怖くて会えなかった。

 こんなくだらない騒動を起こして情けないとか思われたくなかった。

 この優しい友人に変に心配掛けたくなかった。

 重りになりたくかった。負担になりたくなかった。

 弱いところを見せて、引かれたらと思ったら怖くて会えなかった。


 何て言われるか、想像がつかなかった。

 友達やめようと言われる覚悟なんて全然できていない。

「久振り、しろ 」

「う、ん……」

 言葉が喉につっかえて言葉が上手く言い出せない。

 その同意だけが精一杯の発せた声だった。

「怪我、してない?」

「……うん」

 心配するとこはそこなのかと思った。有希らしくて、少し安心する。

「……しろは何か私に言うことある?」

「………」

「……」 

「……」

 購買部からは威勢のいい挨拶、校庭から響く部活動生の声。

 永遠の様な刹那の様な沈黙が続く。

 先に口を開いたのは有希であった。

「しろ、私は……ずっと親友だと思ってたんだけど、私のこと信用なかった?」

「……っ、ちがっ!」

「あれっ、都月ここでなにしてんのー?」

 ましろの否定は軽快なトーンの男性の声に掻き消される。

 パッと声がした方を振り向くと、そこにはなんでか頬を怪我している工藤がやっほーと脱力気味に手を振っている。

「工藤先輩」

「……ごめん」

 悲痛めいた弱った声をあげて有希は走り去って行く。

「……有希っ!待って!」

 追い掛けて話をしようと思った。違うんだと、ボクも親友だと思っていたんだと。

 しかしその走り出そうとしたましろの肩を工藤は掴んで離さない。

「あちゃー、保健委員さんに治療して欲しかったんだけどなぁ」

「わざとですか?」

 何処までも戯けた様な口調に、ましろは一学年上の先輩を睨み付けた。

 この先輩は飄々としている様で、その実緻密に計算された行動を取ることがたまにある。

「あれー、分かっちゃたー?」

「せんぱいっ!」

「でもね、今はやめとけ、お前が何も分かってないのに追い掛けたって無意味だから」

「どう言う意味ですか?」

 ましろの質問に工藤はにったり笑うと「価値観の違い」と告げた。

「自己犠牲の友愛とだいぶ悪い意味での遠慮会釈の友愛だったって事かなぁ。どっちも自己犠牲型には変わりないけど」

「意味わからないです」

「考えな。お前らの友情なんてお前が考えなきゃ意味無いから」

 先輩の言葉にましろはどうしたらいいかわからず、ただその場に立ち尽くした。





「ってことがあって……。工藤先輩は考えろって言ったけど、考えたけど分かんなくて。あれから有希と会えないからやっぱり嫌われたんかなぁって、悲しくなって。

 でも仲直りしたい。有希のこと大好きなの。ほんとだよ。でも負担になりたくないの。迷惑かけたくないのずっと大事なの、親友だと思ってるんだな」


 ましろから話を聞いて有希話しを思い出して拓海はすれ違いの理由を察した。

 あいつも言ったあの一言。

『しろのこと好きなんだ、でも嫌われたかもしれない 』


 なんだ、こいつらホントお互いのこと大好きだなぁ。

 でもこいつら馬鹿だから、親切な拓海お兄さんがどうにかしてやろうじゃねぇか。

 お前あんときの有希みたいに切なげな顔してるから見てらんねぇんしな。

「まぁ一度整理しような。お前さ、何で有希が言うことないか聞いたか分かるか?」

「僕が今回の件説明しなかったから?」

「じゃあなんで俺らに説明しなかったんだ?」

 無意識に咎めるように聞く。本当は自分だって色んなこと言ってもらえなくて寂しかったから、ついそういう口調になってしまった。

「初めての友達に迷惑かけたくなかったから」

 優しいましろに拓海は切なく微笑んだ。そうだよな、お前、俺らと友達になった時、初めての友達だと嬉しそうに泣いたんだったな。

 あの日の言葉は今思い出しても胸が締め付けられるけど。

 だからこそ、友達として言いたいことがある。気づいて欲しいことがある。ずっと一緒にいる一生の友達になりたいから。

「お前さ、有希が不運でも迷惑だと思うか?有希がもし苛められてて、それを隠されてたらどう思う?」


 ましろは少しだけ考えるとゆっくりと頭を振った。


「迷惑なんて思わないんだな。むしろそんな不運でも負けない有希が大好きだし、もし苛められてるの隠されてたら、心配だし不安だし、有希の力になれないのかと悲しくなる」

 なんだ。ちゃんと分かってるじゃん。

「有希も同じ気持ちなんじゃね?」

 ましろは少しだけ目を煌めかせた。そうだったらいいなと願う光。

 でもその光は一瞬で消える。

「でもボク、今回の件で嫌われたかもです」

「いや、ねぇって」

 泣きそうな顔にため息を零す。

 あいつがしろの事嫌うなんてねぇ。ぜってぇねぇ。言い切れるが、目の前の友人にはどうやらそれが伝わらないようだ。


「拓海先輩の言葉が信じられないなら、直接友達に聞いてみてはいかがでしょうか」


 音もなく目の前に置かれた紙コップ。

 はて、と拓海は考える。

 すっげぇ聞き慣れたすっげぇ腹立つすっげぇ今の俺をいらつかせてる要因が喋ってる気がするんだが。

 その要因はお久しぶりです、とましろに挨拶している。いやいや、待て。とりあえず二、三点突っ込ませろ。

「おい、お前はなにか俺らにいうことがあるんじゃねぇの?」


 そう促してやれば、奴はいけしゃあしゃあとさぁ? と宣いやがった。


 俺、殴っても許されるかもしれない。






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