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退役おじさんの山守生活  作者: 松房
8/9

Ⅷ 客

コテージに戻ると待たせていた冒険者達がわしの顔を見るなり依頼書と共に感謝の言葉を突きつけてきた。

「ダランさん、アラン達の事助けていただいて済まなかったな」

「なに、山守として仕事をしたまでさ」

差し出してきた依頼書にスっと目を通す。

不備も誤植も見当たらない丁寧な正規の依頼、内容もこの山で働いて七年も経つこの集団なら危険は無いだろう。

「・・・良し。内容はヤック鳥の捕獲。その旨了解しました、どうぞ」

仕事上の定型文を口にしながら依頼書を返すと彼等は快活な笑みを浮かべ山へ消えて行った。

ヤック鳥、非常に美味であるが生息域が限られ、尚且つその生息域も人の寄り付かない原生林である事から非常に価値の高い食材だ。

彼等が向かう場所はこの山を越えた先に広がる原生林なのでヤック鳥を捕まえるまでにかかった時間にもよるが四日程で帰ってくる筈。

「・・・安否確認にも行かねばな」

わしは脳内の予定に五日後安否確認という内容を加えるとコテージへと入りすぐに片付けられる洗濯物から取り掛かる。

脱ぎ捨ててあるシャツやタオルを手早く籠に回収し、石石鹸を手に取った。

沢の水に布を浸し洗う。

作業の間、空になった頭の中で様々な想像が膨らんだ。

・・・あのブルの孫というのだからやはりエロガキなのだろうか。

そもそも性別さえ聞いていないが血は抗えなさそうである。

「逆にそうじゃなきゃ違和感がなぁ」

日は高く昇り、張った綱に洗濯物を干す、そんなお昼の事であった。


ブルが孫を迎えに行って二日程経った昼過ぎ、受け取った木材を加工した後、ふと一服している時元気で若々しい二つの声が聞こえた。

「ダランさんっこんにちは」

「こんにちは」

どうやらアランとプリュムのルーキーコンビがやってきたらしい。

「やぁ。お二人さん、依頼かい?」

「いや、今日はこの前助けていただいたお礼と言うか・・・お手伝いに来たんです」

どこか煮え切らない言い方に疑問を覚えるとプリュムが配慮や、物怖じなど知らんといった様子で口にした。

「正直に言えば仕事が無くて、時間を持て余すならおじいさんの手助けをしてあわよくば夕食をあやかろうと、むぐっ・・・」

「こらっ、そういう図々しい事は余り言うもんじゃないからっ!」

こうしている二人を見ているととても和やかな気分になるな。

「大丈夫だよ、取り敢えず上がりなさい。ハーブティーをご馳走しよう」

「あっ「ありがとうございます」」

二人よりも先に室内に入り、厨房の棚からポットを取り出すと中に香草を入れ湯を注ぐ。

香りが茶に染み付くまで蒸らす間、わしは煙草の燃え滓をパイプから叩き出して世間話へと洒落こんだ。

内容はわしとブルの爺さん二人じゃ分からん様な若者の味事情である。

ブルの孫が来るのだ、どうせなら苦だと感じる要素は減らしてやりたい。

その為にも最近の若者の好みを知っておきたかった。

「ところで最近の人達はどんな味を好むのか教えてはくれないか」

「う~ん、結局人の好みの問題だとは思いますが・・・」

アランが首を捻ると代わりにプリュムが答えてくれた。

わしは十分に染み出たと思われるハーブティーを注ぎながらその言葉に聞き耳を立てる。

「最近は街に卵料理が増えてきているかも」

「・・・卵か」

焼いて良し茹でて良しの使い勝手の良い食材だがなにぶん足が早い、この山小屋で使うには少々面倒の臭い代物だ。

「まぁ、それでもあくまで他と比べてだし、私達もそこまで詳しい訳では無いし・・・」

「いや教えてくれただけで嬉しいよ、ありがとう」

二人はそれは良かったと言うように揃って茶を啜る。

顔を綻ばせているところを見る限り茶の味は悪くなかったらしい。

今度からは茶菓子でも用意しておくべきだろうか。

自分も茶を飲み干すと手伝ってくれる二人の分も含めて脳内でスケジュールを立てる。

「それじゃあ、それを飲み終わったら外に出てきてくれ。仕事は沢山あるからな」

「「はい」」

・・・今夜の薪割りは二人に任せてわしは刃が欠けているナイフでも研ごうかな。

やる事を決めたわしは割ってもらう分の薪と鉈を置き場から引っ張り出してくるとテラスで木桶に水を張り、その中に砥石を浸けた。

砥石から出てくる気泡を見ながら全く出なくなるまでに出来た暇でまた二人と話しに行こうかと悩んでいると横の扉から二人の元気な声が近づいて来るのが分かる。

二人は出てくるとわしに何をすれば良いかと訪ねてきた。

「取り敢えずそこの薪を割っといてくれ」

二人の視線が薪へと向かう。

「・・・少し多い?」

「あぁ、今晩は風呂を沸かそうかと思ってな。少し多めに薪を作って欲しいんだ」

「分かった」

質問は単なる疑問だったのか訳を話すと二人はすぐに作業に取り掛かった。

そんな二人の様子を見てわしも負けていられんと雑巾とナイフを取り出し、砥石を台へ移す。

わしは砥石の上にナイフを滑らし始めた。

出てくる鉄粉を適度に流しながら、淡々と刃を研ぐこの時間は嫌いではないが、下から聞こえる若者達の声を背景に取り組む作業は中々に心地の良い物であった。

刃物には用途や、刃の厚み、片刃両刃によって研ぎ方に違いが生まれますが、一般的な包丁の場合は峯の方を十円玉二枚程上げてまずは直線の部分を研ぎ、次に曲面を研ぐ。これを裏表繰り返せば綺麗な包丁が出来ます。←作者がやると4~5時間かかる。

まぁ今は砥石じゃ無くてもそれ用の道具がありますし個人的にはそっちをおすすめします。

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