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退役おじさんの山守生活  作者: 松房
7/9

Ⅶ 汚部屋

「では、お世話になりました」

「・・・お世話になりました」

「昨日はありがとう。また来ると良い」

「じゃあな、お前らの子供、楽しみにしてるぜ?」

ブルのデリカシーの欠片も無い発言にアインは顔を赤くして、プリュムは外套をより深く被った。

この男、少し自制が効けば良い男なのだが・・・

「何が子供だ。もう少し自制というものを覚えろ」

「・・・あいあい。でもまぁ小僧」

「はい」

「お前は前衛を務める者であり、男なんだ。しっかりと嬢ちゃんを守ってやれよ?」

「・・・」

不安そうな顔をするアイン。

「心配するな、君は必ず強くなる。修練ならまた付き合って上げるからこれからも頑張りなさい」

「・・・はいっ」

どうやら元気を出せて貰えたようだ。

やはり彼は明るい表情が似合う。


二人が手を大きく振って去って行く。

ああいう風に勢いのある若者は個人的にとても応援したくなる。

「良いコンビだったな」

「だな。さて時間は止まらねぇぞ。この前出来なかった引き継ぎでもするか?」

「そうするとしよう。狩った動物の皮も鞣してしまいたいし」

わし達は二人とは逆方向、山の奥地へ歩いて行った。


「まさかあそこが崩れているとはな」

「だからよぉ、歩行ルートを見直すか橋を掛けるか迷ってんだけど・・・」

「かなり下まで崩れていたからルートの見直しはかなり無理がないか?」

「・・・だよな。橋の施行申請手伝ってくれるか」

「当然だ。それがわし達の仕事だからな」

そんな仕事の話をしながら山道を歩く。

何も無い平穏な時間。

この時間こそわし達山守が守るべき山の平和であり、仕事をしっかり遂行出来ているという誇りだ。

以前、休憩をとるために作った岩の台に座り込む。

皮袋に汲んできた水を口に含んでいると、ブルが相談なんだが、と話しかけてきた。

孫に関しての話だろうか。

「一応、まだ引き継ぎ期間だけど三日余ってんだろ?」

「あぁ」

「もう今日で引き継ぎに当たって必要な事は済ませたし、孫のいる街までは少し時間がかかる。たがらよ明日山を降りてもう孫を迎えに行こうと思うんだが構わねぇか?」

既に日は昇切り、後は沈むだけ。

今から作業をしてから荷物を纏めるというのは難しいだろう。

「別に構わないが、今から荷物を纏めるには時間足りないだろ?」

ブルは一口水を呷ると手を振った。

「いやいやそんな大掛かりな荷物は持ってかねぇよ。どうせ孫連れて来たらここに一度寄るんだ荷物はその時にでも持っていくさ」

「なるほど、それでも少し急がなくてはな」

わし達は休息も程々に見回りに精を出した。


翌朝。

昨晩鞣した革を紙に纏めブルへ手渡す。

「孫を迎えに行くというのについでも頼んでしまって済まないな」

「いやいや、どちらにせよいつかは卸に行かなきゃいけねぇんだ。これくらいは大した事ねぇさ」

そう言ってゴミやら革やらをぶら下げた鞄を背負って出ていくブル。

「そんじゃ行ってきますわ。六日後にゃ帰って来るからよ」

「あぁ。お前の孫の顔を楽しみにしてる」

バタリ。扉が閉まった。

いつもならここからが仕事なのだと気を張る所だがブルの孫とはいえ来るのは街育ちの若者だ。

今まではブルと二人きりだったので気に留めなかったがこの小屋は普段都市にいる人間からすればかなり汚いだろう。

壁にかけてある血濡れのツナギ。

血や油の染み込んだ調理道具。

テラスの手摺に干された生乾きのタオル。

他にも見当たるが、他の場所も合わせれば数え切れない。

・・・片さなければ。

半年の間、時間が経つにつれてまたこの状態に戻ってしまうかもしれないが少なくとも第一印象は良くしなければならない。

それに友人の孫に汚い部屋に住むだらしない爺さんというイメージを持たれるのは精神的に辛いというのは目に見えている。

「・・・半年も友人の大切な孫を預かるのだ。しっかりせねば」

わしは善は急げと、まな板やナイフラックを新調する為の材木を買いに中腹の資材屋へ走った。


途中出会った冒険者達に小屋の前で待っていてくれと伝えながら、十分ほど駆けると目的の店が見えてくる。

一見ただの倉庫の様にも見えるが中からは木こり達の野太い声がこだましていた。

生半可な音量では掻き消されてしまうだろう。

「仕事中に済まないっ!山守のダランだっ!棟梁のジークはおるかっ!?」

「おぉっ!ダランさんかっ!ちょっと待て今行くからよっ!」

扉の前で待っているとわしよりも一回り大きい大男が出てきた。

「いやー待たせてすんません。何分狭くてむさい職場だもんで」

「こちらだって突然押しかけたんだ。謝ることはないさ。それで木版を売って欲しいのだが・・・」

「おう。んで、寸法は?」

寸法と用途を伝えるとジークは顎に手を当てる。

「んーダランさん。それっていつまで待てる?今か結構でかい納品抱えちまっててよ、一日待ってくれたら確実に用意出来るんだが」

ブルとその孫が来るまでにはまだ余裕がある。

「あぁ。それで構わないよ。また明後日受け取りに来る」

最後に済まないと言葉を残してジークは工房へ戻って行く。

わしも戻って冒険者達に許可を出さねばと帰路を急いだ。

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