Ⅴ ルーキー達 前編
魔術要素もあります。(初めて文法っぽいの作って楽しかったっ!)
あの二人の足跡をつけて坂を下る。
どうやら随分と急な道を選んだ様だ。
確かに目的を果たすという意味では最短だが足を滑らせてしまえば勢いを緩める事が出来ずそのまま崖下へと転落してしまうだろう。
下っている途中で接敵する場合も考慮し、この山に慣れている者なら絶対に選ばないルート。
斜面を斜めに下り崖を回避する道なのだが暫くブルとわししか通っていなかったせいで獣道の様になり、より滑り安くなってしまっている筈。
わしは途中山菜をもぎりながら気付かれぬ様歩幅を合わせて二人を追った。
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僕は地図を片手にプリュムを手を引き斜面を横切る。
先輩からは止めておけと言われた道だが見た所そこまで危険そうには見えないし、何より迂回すると結構時間がかかるのだ。
出来るだけロスは避けたい。
視界を傾けると下に崖が見える。
背筋に悪寒が走った。
「・・・プリュム。少し急ぐよ」
「うん」
僕達が早歩きで移動を始めた時僕は僕の悪寒が当たっていた事に気が付く。
上から転がってくる石の礫。
目を向けると坂をこちらに向かって下ってくる猪が見えた。
走る。
こちらを見逃してくれるのではないかと淡い希望を持って。
しかし、猪はその蹄でしっかりと地を蹴りこちらへと進路を変えた。
「アイン。このままだと追いつかれる、私が足を止めるからアインは猪を刺して」
「良いのか?」
「うん。やれる」
プリュムは頷くと懐から赤い模様の入った紙切れを取り出すと、屈んで呪文を叫ぶ。
「ダム・ヤー・チー・ウィン・グラムッ!」
すると猪の足元の草花が伸び、絡みつくが急勾配をずっと駆けてきた猪のそのスピードと質量に草の根が抜けてしまった。
猪を転倒される事には成功したものの、勢いを殺す事は出来ず猪の体はプリュムの方へ真っ直ぐ飛んで行く。
背後には崖。
一つ間違えれば死は免れない状況で僕の体は地を蹴っていた。
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「くそっ!間隔を開けすぎたかっ!」
このまま行けば大丈夫だろうと油断していたのが間違いだった。
外套の人物、いや、少女に猪の体が当たる。
歩数にして後十数歩という所。
・・・使うか。
騎士団時代、使える様にはなったものの適正が無く切り札となってしまった加速の魔術。
若い頃でも一度眠れば半日動けなかったのだ、今の老いた体で使えばどうなるのやら分からない。
隣にいた青年が少女を庇うように猪の前に体を挟む。
・・・もう躊躇はしていられない。
たとえこの体が朽ちてでも、目の前のうら若き命を守れずに何が年寄りかっ!
「ダム・オー・ライズ・グドゥン・セール」
視点が一気に前へ進み、猪が青年の体を打ち据えるのが見えた。
わしは杖を掴み猪の体を殴りつける。
その衝撃で杖が折れてしまったがそんな事はどうでも良い。
視界に靄がかかる。
己の限界を感じ手早く二人の腕を掴むと後ろの落ちる心配の無い場所へ放った。
膝をつく。
もう歩くのもままならない。
・・・ブルは来てくれるだろうか。
わしは首に下げた笛を今持てる全力で吹き鳴らし意識を手放した。
─────ガタ、ゴト。
次に目覚めたのは手押し車の上だった。
そして隣には何故か猪が横たわっている。
「・・・痛てぇ」
「よう。目、覚めたか?」
見上げるとブルの背中が見えた。
「・・・済まないな」
「ふん・・・感謝ならあの二人にしな。折れた腕ぶら下げて俺ん所まで報せに来てくれたんだ。しかもそこから遣いまで行ってくれてだな・・・帰ったらそこの猪かっ捌いて血が中途半端に抜けた獣くせぇ肉入りの麦粥食わせてやるからよ。さっさと食って寝やがれってんだ」
「・・・本当に済まない」
ブルは口調こそ荒々しいが基本的に優しいのだ。
出来ない事は無いのではと勘違いするほど何でもこなすし、きっと傭兵時代も人望が厚かったのではなかろうか。
「まぁ、お前だってもう若くねぇんだ。あんまり無理すんじゃねぇぞ」
「・・・ふふ、そうだな。これからブルの孫の面倒も見ないといけないしなまだ倒れる訳にはいかないさ」
手押し車の車輪の音だけが響く。
日は既に落ち掛け、わし達の間には無言の時間が流れたがそれはとても心地良く、わしを再び眠りへ誘った。
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「ごめんね、やっぱもう少し持とうか?」
「いい。アインは腕折れてるんだからたまには私も頼って」
・・・反論出来ない。
だからと言ってそこまで力の強くないプリュムに荷物を持たせるというのは気が引ける。
「それにあの山守さんに対しての感謝の気持ちで御遣いをしているのにここで楽をするのは違うと思うし」
「・・・そうか。それもそうだな」
あの助けてくれたのであろう山守へ想いを馳せ山道を急いだ。
今回はシリアス回でしたが、次回はアウトドア回です。
明日もホリデー。更新出来る筈っ!