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退役おじさんの山守生活  作者: 松房
3/9

Ⅲ 賊?狩り

・・・初めて感想を貰えた。

嬉しいっ!

テーマ的に争いを避けようと思ったら警察二十四時感が少し出てしまった。

「・・・はえーいつの間にこんな物がねぇ」

「あぁ、驚いた」

草が踏み倒された跡を着けて行くと茂みの奥にまだ踏み固められきっていない新しい獣道があった。

その先には地下室の入口と思わしき木蓋が見える。

「とても山守がいることを知っているとは思えんな」

ブルが地面を指で撫で、言う。

「だな。山賊にしちゃあ余りにもおなざりだし、ゴブリンだってもう少し上手く隠す。靴跡だってよく見ると、底のしっかりした革・・・品質の良いもんだ。つまりこれは?」

「素人の、それもそれなりに地位を持った人物の仕業だと言うことか」

「そういうこった。で、どうする?いざこざを抱えるのはだるいとまでは言わんが、面倒臭いぞ」

そんな事、考えるまでもない。

「・・・第一、許可は出して無いんだろう?非認可の山に対する行為を取り締まるのは山守の仕事だ。その権利は法の下に保証されている。もし乗り気でないのなら、天涯孤独のこのわしが一人で行って来ようか?」

ニヤッと笑ってやるとブルも笑って返してきた。

「んな訳無いっての。まずお前の図体じゃあの蓋サイズの穴通れないだろ?俺が戻るまで見張ってろ」

「分かった。任せたぞ」

「あぁ。任された」

ブルが剣呑な目をこちらへ見せ穴へと向かう。


「あ、あん、あぁぁぁぁぁんっ!」


が、蓋を開け聞こえてきたのは、とてもこの雰囲気に合うとは思えない女性の激しい嬌声であった。

「・・・ブル」

「・・・あぁ、こりゃ一本取られたな。大方予想はつくが一応確かめてくるか?」

この男はあの声を聞いてもなお、中に入ろうというのか。

・・・ブルはわしと大差ない歳の筈だが、枯れてはいないのだろうか?

わしが考えている間に足音を立てない為だろう、やや気持ちの悪い動きでブルは下って行く。

なんだが友人としてとても居た堪れない気持ちになる。

「はぁ・・・」

戻って煙草が吸いたい。

そんな事を心の中でぼやく。

結局ブルが中の二人を連れて来るのに十分程かかった。


服を着た二人を連れてきたブルの口元から笑みが消えない。

「いやぁ、思った通りこの二人のおせっせ部屋だったよ。良いもん見れたわ」

・・・こいつめ。

ブルは笑っていたが、覗かれた二人はそうともいかず険しい視線で睨みつけてくる。

男性よりも先に女性が痺れを切らした。

「何なんですかっあなた達っ!こんな山の奥まで来て私達をつけてたんですか?しかも私達を覗いて・・・どうせ碌な人達じゃないんでしょうっ!?」

男の方も”そうだそうだ”と威嚇する様に叫ぶ。

うむ・・・寧ろ山守を管理する組織は国営なのでわし達は公職員なのだが。

「・・・私の同僚がお二人の行為を覗いてしまったことは謝罪致しますが、私達はこの山を管理を任されている山守です。そこの地下室ですがあれって許可を取らずに造った非認可の物ですよね?」

わしが問うと男が声を荒らげた。

「何なんだよ山守って、適当抜かしてんじゃねぇぞっ!」

山守を知らない?若者だとは思っていたが、どうやら二人は学のない若者らしい。

男は女を庇うように後ろへ寄せると腰からナイフを取り出し、こちらへ向けてきた。

・・・ここまでくると呆れてしまうな。

「ブル、武器は押収しなかったのか?」

「・・・正直、お前の入って来れない穴に立てこもられるより引きずり出した方がより確実に捕えられると判断した。何か不都合が?」

「ない。だが、今度孫と一緒にオイルサーディンを三瓶持ってくるんだな」

「あいよ」

わし達が言葉を交わしている間、若者達はゆっくりとこちらを見たまま後ずさっていた。

まるで熊にでも出くわした様である。

そして十分な距離が取れたと思ったのか背を向けて走りだした。

「まぁ、そりゃちょっとした熊よりデカいじじいを見たらそういう反応も取りますわな」

「・・・男の方を狙え、一発で良い」

「了解」

ブルの答えと共に駆ける。

後ろからブルの放った矢がわしを追い抜き男の腰へ吸い込まれた。

突如として後ろから腰という重心を崩された男は倒れ込み、手を繋いでいた女も倒れる。

こういう時衝撃を伝えるだけで相手を刺さない木の棒は山守が使う矢としてとても優秀だ。

倒れた二人を抑えると首に手を添え当てる時だけ全力の力を込める。

手刀と呼ばれる技に良く似た技だ。

気絶し、動かなくなった容疑者達を縛り上げる。

「・・・どっちが行くよ?」

追いついてきたブルが尋ねてきた。

次はこの二人を麓の街の詰所まで連れて行かねばならない。

わしはどうにも自分から行く気にはならなかった。

「お前が行け、わしは何だか行く気力が湧かん」

わしの答えにブルは眉も顰める事無く引き受けてくれた。

「分かった、今回は俺ばっかり満足してしまったみたいだし、俺が麓まで行くよ。・・・んしょっと」

太陽は既に高く昇り、余り時間をかけてはいられないと思ったのかブルは二人の縄を掴んで担ぐと足早に去って行った。

わしはそのまま見回りを続けなければならなかったが、体が”少し休ませろ”と言うことを聞かない。

山の見回りが再開出来たのはそれから十五分程後の事だった。

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