お嬢様にならないと、死ぬ。
作者はパッパラパーですわ。
「さあ、ゲームの始まりですわ!」
金髪クルクルツインテールがそう宣言した。
時刻は14時を回ったところ。国語の授業中にうとうとしていると急に目の前が真っ白に染まり、思わず目を閉じ次に目を開けたら金髪クルクルツインテールがいた。教卓の後ろ、黒板の前の隙間。いきなり横に知らん人が立っていたからだろう、先生もビックリしていた。
「だ、誰だね君は。今は授業中だぞ」
「うるさいですわ!言葉が汚らしいのですわ!『死ねどす』ですわ!!」
「何を言っているのかね!そもそもどこから...うっ」
バタリ...
ザワザワ...
「えぇ...」
「なにこれ?テレビかなんか来てんの?」
「なかなか可愛いじゃん!こっち向いてくれよーい」
「黙らっしゃいですわ!野蛮人どもは口を噤むべきですわ!『死ねどす』。」
「えぇ...」
「凝ってるなあ、登場から凄かったし、て、え、あ、うっ」
「言葉はちょっち変だけど悪くねーなあ、ん?...うっ」
バタリ...
バタリ...
シ-ン...
「ようやく静かになりましたことね。ようやく本題に入れますわ。」
「あなたたちにはこれからゲームをしてもらいますわ。」
「ルールは簡単ですわ。ワタクシのように気品ある言葉で話すこと。これだけですわ。」
「ワタクシが気に入らないとたとえ言葉遣いが正しくともアウトですわ。」
「黙ってばかりいたらイラついてしまうかもしれませんわ。」
「ゲームの終わりはこちらで言いますわ。質問や雑談は歓迎ですわ。」
「ではスタートですわよ。」
めちゃめちゃ畳み掛けてきたお嬢様(暫定)。そして倒れたままピクリとも動かないハゲ先生、サッカー部のコンドウ、囲碁将棋部のウィルソン。ちなみに「えぇ...」と言っていたのは俺だ。
ドッキリの可能性も捨てきれないが、ここまで大掛かりなものは無いだろう。本当にゲームとやらが始まったと見るべきだ。とそこでクラス委員長のタコさんが立ち上がって言った。
「発言失礼しますわ。ワタシの名前はタコ・イカミと言いますの。あなた様のことはなんとお呼びすれば良くて?」
「答えて差し上げますわ。ワタクシの名はマムミ・メメモッソ・パプアニューギルアですわ。」
「はい、マムミ・メメモッソ・パプアニューギニア様ですわね。よろしくお願いしますわ。」
あ、お嬢様(仮)のツインテが逆立った。
「違いますわよ!マムミ・メメモッソ・パプアニューギルアですわ!人の名前を間違えるなんて有り得ませんわ!!!『死ねどす』。」
「すみませんですわああああ!!」
バタリ...
シ-ン...
言いにくい上に国名に近い名前ってこれわざとだろ...わざとじゃなくても悪質すぎる、そりゃ間違えるわ。あと不謹慎なんだけど委員長、ゴリゴリのマッチョだからお嬢様言葉絶妙に似会ってなくて面白かった、少しでも笑ってしまったお詫びに君の犠牲は無駄にしないと誓います。
というか最後死ねどすって言ってたよね?どすってなんやねん。ズルいねん。って、ん?
「愛敬の意を込めてマムミ様と呼ばせていただきますわ。ワタシはサンドウ、サンドウイチマンと申しますわ。以降よろしくお願いいたしますわ。」
「あらあら、これはご丁寧にどうもですわ。ワタクシもサンドウと呼ばせていただきますわね。」
クラス一の陰キャとして名を馳せているサンドウが行っただと!?何か策があるのか?俺たちモブ生徒は固唾を飲んでやり取りを見る。今度は長続きするといいなあ。
「ありがとうございます、嬉しいですわ。ところで先ほどマムミ様はゲームとおっしゃいましたが、なぜ私たちなのか教えていただけませんこと?」
「そんなのただの気まぐれですわ。」
「気まぐれ...そうだったのですね。ではもう1つ質問させていただきたいのですが、さっき倒れた方たちは本当に亡くなっているのでしょうか?」
「見ての通りですわ。『死ねどす』と言葉を発すると相手は死にますわ。下賎のものにはふさわしい末路ですわ。」
ここでサンドウがニヤリと笑ったように見えた。
「そうだったのですわね。ですがマムミ様、大変申し上げにくいのですが『死ねどす』という言葉はお嬢様らしからぬ言葉ですわ。お気を悪くされたら申し訳ないのですが、柔らかい言葉にいたしませんこと?」
ふむ、どうやら『死ねどす』でさえなければ死なないのかも、と思ったのかな。そうであったら嬉しいけど、気まぐれでこんなゲームするくらいなら過去にもやってそうだし、簡単には変えてくれないだろうし変えても死にそうな予感。さてどうなるか。
「なかなか鋭いですわね。ワタクシもこれは本当に淑女たるワタクシにふさわしい言葉なのか疑問に思っておりましたの。アナタの案は採用ですわ。どんな言葉にしましょうかしら。」
「ワタシなんかの言葉を聞き入れてくださり光栄ですわ。そうですわね、例えば『お死にになって』などはどうかしらん?」
「それ、いただきですわ。『お死にになって』。なんていい響きなのかしら。ワタクシにお似合いですわ。『お死にになって』、『お死にになって』...。」
「ええ、ええ、ワタシながらとても良い響きですわ。これからはその言葉、あうっ、なんで俺が、、、」
「あらすみませんですわ、ついうっかりアナタのことを考えながら言ってしまいましたわ。ごめんなさいですわ。」
バタリ...
変えてくれるんかーい!ほんでやっぱり変えても死ぬんかーい!!もうコレ、詰みなのでは?登場人物すぐ死ぬし。頼れる主要キャラはもういないし。とりあえず誰か、誰か居ないのか!!
「誰か喋る人間はおりませんの?」
お嬢様(あんまり可愛くない)がツインテをいじり始めた。これはまずいかもしれない、確実にイライラしている。最初の方で黙ってばっかだとイラつくっていってたし。宣言してた分良心的まである。
「はあ。またこのパターンですの?全員、『お死ににな「はい、はい、はいですわ!!ワタシ、マムミ様のお友達になりたいですわ!」
思わず声を上げたはいいものの何も考えず口走ってしまった。言葉遮っちゃったし死ぬかもしれん。怖い。お嬢様(笑うとわりと可愛い)はニッコリしてこちらを見てこう言った。
「いいですわ、お友達になりましょう?まずはお喋りからですけれど。アナタ、お名前はなんておっしゃるのかしら?」
一世一代の大勝負、ここでやらねば誰がやる!男だろ、命をかけろ!という本を閉じて俺は言った。
「ワタシは東京特許許可局局長の一人息子のルロレルレールと申しますわ。よろしくお願いしますですわ。」
「えーととうきょうとっきょきょきゃきょ、きょかき、ょくの?とうきょうとっきょきょきかききゃ...ううっ」
バタリ...!!!
お嬢様(故)は俺の名前を言えなくて死んじゃったっぽい。自分らしからぬ失態にショック死かなんか?ともあれよかった、ちなみに俺の本名は田中山一郎太、噛むところすらない。一かバチかが上手くいってよかったがなんだルロレルレールって。もうちょいマシな偽名もあったろうに。
ともあれこうしてお嬢様言葉デスゲーム(俺命名)は幕を閉じたのであった。
めでたしめでたし