【第9話】とらみみ
「とらさん、おじゃましま~す」
バタン、と勢いよくドアを開けるねずみさん。
部屋の中は和風で、畳が敷き詰められていた。
奥に屏風が見える。
どうやら、そのさらに奥にとらさんがいるようだ。
「相変わらずこの部屋大きいし豪華やなあ~」
ねずみさんがキョロキョロと辺りを見回す。
確かに豪華だ。
金色の高価そうな装飾品や、壺、刀・・・?なんかが
ずらりと左右に並んでいる。
天井からは提灯がいくつかぶら下がっており、
薄暗い部屋をぼんやりと照らしている。
「いらっしゃい」
奥の方からゆっくりと女の子が現れた。
着物姿に狐面・・・ではなく虎の面をつけている。
この子がとらさん、なんだろうな。
微笑みながらこちらを見ている。
目がキラリ、と光ったような気がして
私はビクビクしてしまった。
「そんなに怯えなくても大丈夫よ」
とらさんはこちらを見透かしたかのように
声をかけてきた。
「あのね~アリスを連れてきたよ!」
ねずみさんがぴょこぴょこと
とらさんの方に近づいていった。
「ねずみさん、ありがとう」
「あ、あの・・・とらさん・・・?」
「いかにも、私がとらでございます」
うやうやしく頭を下げるとらさん。
つられて私もぺこりと頭を下げた。
「おや、うさぎさんの姿が見えないわね」
「うさぎ?最初からおらんかったよ~
おおかみときつねならさっきじゃれ合ってた」
あ、あれはじゃれ合いっていうのかな・・・。
「アリスをここに連れてきてと言ったのに・・・
仕方ない子」
とらさんはふうとため息をついて遠くをみた。
「とらさんも私のことを知ってるの?」
「ええ、もちろん
ねずみさんにアリスのことを教えたのも私」
「ね~!初めて聞いた時びっくりした~!」
ねずみさんがとらさんにスリスリしている。
とらさんはそんなねずみさんの頭を優しく撫でている。
「もしかしてとらさんは・・・ここの部屋のことや
みんなのこといろいろ知ってるの?」
「ええ、すべてね」
すべて・・・?
じゃあ私がどうしてここにいるのかも
知っているかもしれない。
「まあ、こちらにいらっしゃい」
とらさんに近くに来るように促される。
ねずみさんがどこからか取り出してきた座布団の上に座り、
もうひとつ私の分を用意してくれた。
「しつれいします・・・」
ふかふかの座布団の上に座る。
思わず正座になってしまった・・・
あとで足しびれちゃうかな。
「アリス、あなたは自分のことを覚えてる?
どうしてここにいるのか、自分は誰なのか」
「自分の名前はアリスだって知ってた・・・
でも、どうしてここにいるのかは・・・」
どうして名前だけは覚えていたんだろう?
「ここの子たちみんなに、
耳があることはもう知ってるでしょう?」
「う、うん」
「え?アリスには耳がないの?」
ねずみさんがびっくりしたように
私の方を向いた。
「あるけど・・・」
「これだよね?」
ねずみさんが私の髪の毛を触った。
「これは髪の毛なの・・・」
「か、かみのけ・・・?耳は?」
「ここに・・・」
自分の耳を触ろうとすると、
さっと手をとらさんに掴まれた。
「アリスは特別な女の子。
他の子とは違う力を持っているのよ」
「と、特別・・・?力って・・・?」
「アリス、あなたはここにいる全ての
“耳を持つもの”を
“癒やす”ために作られたの」
「作られた・・・?」
「あなたの手には不思議な力があるの。
気づいてたでしょう?」
とらさんは私の手を自分の耳にあてがった。
そっと目を閉じる。
特別な力って・・・どういうことだろう?
なでる力、みたいな感じなのかな。
とらさんの言っていることがよくわからなくて、
他の子たちと同じように優しく耳をなでてみる。
「・・・」
ぴくぴくととらさんの耳が動く。
気持ちいいのかな。
もっと強めに触ったほうが良いのかな?
「ま、待って、もう大丈夫」
とらさんが少し息を荒くして
私の手を止めさせた。
ねずみさんはぽかんとして
とらさんと私を交互に眺めている。
「もしかしてアリスって・・・」
はっとしたようにねずみさんが口に手を当てる。
な、なに?
一体私ってなんなの・・・!?
「とりあえずあたしもなでなでして
ほしくなっちゃったから
やってやって~」
ごろん、とねずみさんが私の膝の上に転がる。
ねずみさんの耳もそっと触ってみる。
「ふぁあ!!」
「えっ!大丈夫!?」
私はねずみさんの大きな声に驚いて
さっと手を引いた。
「ねずみには刺激が強すぎるみたいね
・・・私にも・・・ちょっと・・・」
とらさんがばたりと座布団の上に倒れ込んだ。
「と、とらさん!?」
どうしよう、2人が動かなくなっちゃった!
焦って2人を揺さぶったりするけど、
体をびくつかせるだけで反応はない。
頬が上気している。
私の変な力のせいで2人がこんなことになっちゃったの!?
どうしよう・・・どうしよう!
その時、遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お~い、アリス!どこにいるのー!?」