【第6話】うまときつねみみ
くまさんの森のような部屋を通り抜け、
次の部屋へと歩みを進める。
ぐいぐいと私の腕を引っ張っていたうさぎさんが
大きな木でできたドアの前で立ち止まる。
「こんどは逃げないから大丈夫!」
うさぎさんはとん、と胸を叩いていった。
「だからアリス、ドアを開けてくれないかな?」
うさぎさんがウルウルとした瞳でこちらを見つめる。
「・・・臆病うさぎめ」
いぬさんがまたぽつりと低い声で言った。
もしかしていぬさんは、うさぎさんのことが
あんまり好きじゃないのかもしれないな・・・。
「アリス、いぬがドアを開けるよ・・・
開けたらイイコイイコしてくれる?」
「うん、もちろんだよ。
いぬさんありがとう」
いぬさんが先頭に立ち、次の部屋へと向かうことになった。
ドアを開けるとキイ、と少し軋む音がした。
次の部屋は、落ち着いた色合いの丸太小屋のような雰囲気だった。
干し草とおひさまの香りがふわりと漂ってくる。
この部屋の人は、優しい子だといいな・・・。
「どちらさま?」
部屋の壁側に、大きな暖炉があり、
その前にある椅子に女の子が座っていた。
こちらを見て、困ったように首をかしげている。
「私はアリスです。
こっちはうさぎさん、といぬさん」
「ボクたち、ごはんを探しにきたんだ!」
女の子が立ち上がり、こちらへやってきた。
つやつやした黒髪を一つに結んでいる。
少したれ気味の耳がぴるぴると動いている。
この子の耳は、何耳なんだろう?
「ごはんがほしいの?
私はうまだから、野菜しか持ってないんだけど
大丈夫かしら?」
うまと名乗った女の子が、ちらりといぬさんのほうをみる。
いぬさんはずっとうつむいたまま、
私の手を握っている。
どうやら私以外の人としゃべる気はないらしい。
なでなでしたら、機嫌直してくれるかなあ。
「うん!食べれるならなんでもいいよ!」
うさぎさんが答える。
くまさんってうさぎさんを食べようとしてたくらいだから、
野菜よりもお肉のほうがいいんじゃないかな・・・と
少し思ったけど、言うのはやめておいた。
「にんじんとか、たくさんあるから
持っていっていいわよ」
うまさんが快くごはんをくれた。
「ありがとう!」
うさぎさんがたくさんの野菜が入ったバスケットを
うまさんから受け取った。
「ところでアリス、
あなたのお洋服、とってもかわいいのね」
「そうかな・・・?」
「かわいいリボンがついた白いフリルのカチューシャに、
水色のふんわりワンピース、そしてフリルのついた白いエプロン!」
うまさんはニコニコしながら私の服を触っている。
よっぽどお洋服が好きなのかな。
うまさんのお洋服もフリルがたくさんついていて
かわいいように思う。
今着てる服も手作りなのだろうか。
すごいなあ・・・。
「かわいいアリスにぴったりだわ!
ねえ、お願い、私の作ったお洋服も着てくれない?」
「うまさんはお洋服を作ってるの?」
「そうなの、たくさん作ってて
もうクローゼットから溢れかえっちゃうくらいなの・・・!」
うまさんが部屋中のクローゼットを開けて回った。
確かに、中にはたくさんのフリルがついた服が
大量に収納されていた。
「わあすごい・・・」
私はその服の量に圧倒された。
「アリス、ボクはくまさんにごはんを届けてくるから、
その間にお洋服を着てあげなよ!」
「うさぎさん、くまさんのところにいっても大丈夫?」
「もちろん大丈夫だよ!じゃ、行ってくるね!」
うさぎさんはさっきまで縛られ、食べられそうになっていたことを
すっかり忘れているようだ。
ぴゅん!と前の部屋の方へと走っていった。
「・・・いぬも、アリスと一緒の服を着てみたい」
「おそろいの服ってとっても素敵よね。
これなんてどう?それともこっちとか・・・」
うまさんが張り切って、いろんな服を引っ張り出した。
ワンピース、ロリータ服、ドレス、シャツ、サロペット・・・
それからそれから・・・
いろんなお洋服が飛び交う。
どうやらしばらくうまさんの着せ替え人形として
過ごすしかなさそうだ。