【第5話】くまみみ
いぬさんの鉄格子の部屋を抜けると、
森が広がっていた。
正確には、部屋の中にいろんな木々が植えられており、
壁や、朽ちた家具らしきものにツタが絡みついていて、
全体的に森のなかにいるような雰囲気の部屋だった。
歌声が聞こえる。
聞いたことのある歌・・・
そんな気がした。
「うさぎさん、そこにいるの?」
思い切って大きな声を出してみる。
「アリス!ボクを迎えに来てくれたの?」
うさぎさんの声が聞こえるが、姿が見えないままだ。
「だーれーだぁー!」
きょろきょろとあたりを見回していると、
突然背後から誰かが覆いかぶさってきた。
「わっ!だ、だれ!?」
「キミこそ誰だー?」
のんびりした声が返ってくる。
「私の名前はアリス・・・です」
「・・・いぬもいるよ・・・」
「私はくまだよ!がおー」
振り返ると、両手を広げて威嚇(?)のポーズをとっている
かわいい女の子が立っていた。
茶色いポニーテールの頭についている耳は・・・くま耳。
ほっぺたには蜂蜜らしきものがべったりとついている。
もしかしてごはん中だったのかな・・・。
「くまさんっていうんだね。
ねえ、うさぎさんの姿が見えないんだけど
知らないかな・・・?」
「うさぎー?」
くまさんが首をかしげると、
ポニーテールがふわりと揺れた。
「アリス!たすけてー!」
うさぎさんの悲痛な叫びが聞こえる。
私はサアッと心臓が冷たくなるのを感じた。
うさぎさんの身に、一体何が・・・!?
「おいしそうだと思って、
縄でぐるぐるまきにしてたんだー!」
くまさんが平然と答える。
ちょっと口からよだれがたれている。
「お、おいしそう!?
うさぎさんを食べちゃだめだよ!
離してあげて・・・!」
「仕方ないなあー」
くまさんはよだれを拭いながら、
のそのそと大きな木の上に近寄った。
「ここに縛ってるよー」
縄で縛られたうさぎさんが、
木にくくりつけられている。
「アリス、助けに来てくれてありがとう!」
「・・・逃げたくせに」
ぼそっといぬさんがつぶやく。
「この縄を解いてくれない?」
うさぎさんには聞こえてないようだった。
「ちょっとまってね・・・」
うさぎさんに近寄り、縄を解く。
暴れたのか、体中に赤いあとが残っていた。
すごく痛そうに見える。
「うさぎさん、大丈夫?」
「うん!ありがとう、アリス!だいすき!」
ぎゅっとうさぎさんが抱きついてくる。
もふもふした耳を撫でてあげると、
安心したように、体を擦り寄せてきた。
「んんん・・・きもちいい・・・」
ぴくぴくとうさぎさんの耳が動く。
とてもかわいらしく感じた。
「ねえねえーアリスー」
くまさんが服の裾をひっぱってきた。
もしかして、
くまさんも耳を撫でられるのが好きなのだろうか?
「私のご飯無くなっちゃったから、
代わりに探してきてよ」
「え・・・!?」
くまさんは、どうやら撫でられることよりも
ごはんを食べることのほうが好きなようだ。
「このさきの部屋からいい匂いがするんだー
アリス、行ってきてよ
きっとおいしいごはんがあるはずだから」
「いい匂い?」
くんくん、と一応匂いを嗅いでみるが、
なんの匂いも感じなかった。
「・・・アリス、だめだよ・・・
危ないかもしれないから
いぬの部屋に戻ろうよ・・・」
いぬさんは、くうんと、まるで行かないで、
というように一声鳴いた。
「ボクもごはんを探すの手伝うよ!
だからこのさきの部屋に行こう!
アリス!」
うさぎさんはそんなのお構いなしに
ぐいぐいと私の腕を引っ張った。
もしかして、ここでごはん探しを断ったら
うさぎさんがほんとうに食べられちゃうのかな・・・
私は意を決して言った。
「いぬさん、ごめんね
うさぎさんが食べられちゃうかもしれないから
ごはん探し手伝ってくれないかな?」
「・・・アリスがそういうなら・・・」
いぬさんは口をとがらせながらも
同意してくれた。
よかった。
「やったー!善は急げだよ!
早く行こう!」
うさぎさんがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「おいしいごはんを持ってきてねー」
くまさんが私達に向かって手を振った。