思考の違和感
色々と話の構成を考えてたら、テスト期間に入ってしまい、ここまで更新が遅れてしまいました……。
先生の声がぼんやりと輪郭を持つ。
「おい、宏海。いつまで寝ているつもりだ?」
俺は、ヒクつく筋肉に顔をしかめながら、白い陽光に顔を上げた。
不思議なことに周囲の目線は俺の方を向いている。
涙に反射した陽光が網膜に突き刺さる。
「はぇ?」
不意に変な声が出た。
「ぶっふっ!」
庄山さんが噴き出したのを皮切りに、クラスの笑い者にされた。
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その後は、恥に塗りつぶされた時間を過ごすことになった。
俺が何をしたと言うのか。
「何、『はぇ』って?ねぇ、なんなの!?あはははっ!」
なんで、こんなたったの二文字で、たった一つの音韻で、一体どうしてここまで僕を馬鹿にできるのか。
「なぁ、そろそろやめてくんない?俺の精神が限界迎えそうなんだけど」
放課後の夕暮れに、俺は庄山さんにいじめられていた。
「ご、ごめん……。ぶふっ……。ふひひ。……、ダメ、やっぱ無理」
「ちくしょう、なんも進まねぇ……」
俺たちは、放課後の教室に残って先生に押し付けられた数々の雑務をこなしていた。
「だってぇ!ふふ、君が笑わせるのが悪いんでしょ!?」
「それにしたって笑いすぎだろ……。笑いのツボが独特すぎるな」
「なんだとー!?私をバカにするとは、居眠り魔人の分際で、許せないー!」
そういうと、彼女はプリントの束を空高く放り投げた。ってか、居眠り魔人ってなんだよ。何世紀前の言葉なんだ?
「お、おい!なんて事するんだ!?」
「い・や・が・ら・せ♡」
いたずらっぽい笑みを浮かべる彼女だが、俺をバカにしているだけなので、騙されてはいけない。流石に一年も付き合いがあればだんだん分かってくる。
「ムカつく」
そういって、顔を背けると俺は引き続き作業に取り掛かった。
「釣れないなぁー」
「……」
しばらく無言の時間が続く。紙の束はだんだん片付き始めたかという時。
「なんてったって私がこんなことしなきゃいけないんだー!やってられるかー!」
「学級委員なんて引き受けるからだろ……」
全く。会って三年にもなってようやく性格はわかってきたと思ったら、もうこれだ。
中学の頃に引っ越してきた彼女の行動は未だに読めない。
俺は、彼女の撒き散らした残骸を拾っていると、スマホが通知を出した。
「ん?なんの音?」
「あ、いや、ゲームの通知だよ」
流石に、「悩メール」なんて言うのは恥ずかしい。サブカルと黒歴史の集合体であるこのアプリを使っていると言うことは、クソ陰キャであると宣言しているようなものなのだ。
「ふーん。なんのゲーム?」
俺の肩は少しビクついた。
「普通のソシャゲだよ」
「なになにー?もしかして、二次元の女の子たちとイチャイチャするやつー?」
うるさい。俺は断じてやってない。ちょっと恥ずかしいから、フォルダの見えないところに仕舞って、こっそりプレイとかしてないぞ。
「ちがうよ。そもそも通知なんか出すもんか」
「あ、それはやってると……」
こいつ……。
「で、さっきの通知の正体はなんだったのかなー???おいー、おいー?」
「うるさいな!なんだっていいだろ!」
俺は、スマホを取り出すとこっそり通知をオフにした。
「それっ!いっただきー!」
「ちょっ!?」
俺は、一瞬の隙をつかれて、スマホを取られた。そして、彼女はアプリを一通り確認して一瞬顔をしかめた。そして、数瞬の沈黙が訪れる。
「……、な、なんだよ」
空気に耐えきれずにそう声を出したのは俺だった。
「え、えと、その……」
彼女は、目を天井のあたりへ彷徨わせた。言葉を選んでいるようだ。それこそが俺を気まずくさせているのに気づいているのだろうか。
「……」
「ネットでは、友達いるんだね……」
「うるせぇ!」
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俺はその後のことは覚えてない。半分泣きそうになりながらさっさとやることを終えて、帰路に着いた。
「ちょっ!まって!」とか言う声が聞こえたけど、気にしてはいけない。
「くそ、これで庄山さんも俺と距離置くんだろうな……」
そう思うと絶望的な気分になってくる。もうこれで誰も友達がいなくなった。
登下校も彼女とよくしていたっけな。今でも朝は一緒に登校しているくらいだし。今日は寝坊したけど。
まぁ、そもそもの原因があいつなんだけど、これでついに俺はぼっちという事実に変わりはない。
高一からずっとぼっちだったから別に寂しくはないんだが。
「全く、何よ……。いつもは見に来てくれるのに……」
美少女がブツブツと何かを言っていた。正確には、下村さんが、なんかコンビニで大量のスイーツを片手に、スマホを射殺さんばかりに見つめ、指の残像が見えるほどのスピードで何かを打ち込んでいる。
こ、れは。声をかけるべきか?
俺はそこで、自分が悩メールの通知を切っていたことを思い出した。
「まさか……な」
俺は、何気なくアプリを開くと、通知が30に迫ろうかというスレッドに若干引き気味になった。いや、引いた。だって、スレ主が全部同一人物なのだ。それが
誰かは言わずもがなだが。
とりあえず、『マヂ病み、死にそう』とか『さみしぃよぉ』とか明らかな地雷そうなやつを避けて、ましそうなやつを選択した。
『スイーツ買ってきまーす!今日はやけ食いするぞー!』
198: Mentor 懐柔ダイオウ
みみちゃん、今日荒れてね?
199: Mentor しのぶら
わかりみつよい。やけ食いしたら太るよー。
200: Consultee *みみか*
to 199 ふ、太らないよー!
201: Mentor 花山クン
ほんと、チップ100超えてんのに何があったかも教えてくれないとかだいぶやばそう。
202: Mentor 懐柔ダイオウ
俺が相談乗るって!固チャおいで。
203:Consultee *みみか*
to 201 大したことないんだけどねー。ちょっと最近ストレス溜まっててー。
ストレス溜まってるとかそういう問題で片付けていい域超えてるだろ。通知30だぞ。よくもまぁ、同時に処理できるものだ。
204: Mentor ひらだいら
ちな、どこで買ったん?
205: Mentor うさなみ
to 204 過去ログみろや。低能なんですかねぇ。
206: Mentor かたやま
【悲報】スマホを上にスワイプすることすらできない猿がひつじにくる。
207: Consultee *みみか*
それは草w
!?
い、いや、草とか言ってたっけみみかちゃん!?あと、草に草生やすな。
「あぁ!?間違えた!?」
びっくりした!?下村さん!?人通りわりかしあるよ!?自重しような!?
208: Mentor あんのん
みみかちゃんが、草をお使いになったぞ、お前ら!?
209: Mentor 懐柔ダイオウ
これは、やってしまいましたなぁーwww
210:Mentor ひらだいら
wwwそんなこともあるってw
211:Consultee *みみか*
to 208 ち、違うの!これはミス!ほんと打ち間違いだから!
それは苦しいぞ……。
212: Consultee *みみか
to210 うわぁーん、だいらくんありがとうぅぅ。だいしゅきー(╹◡╹)♡
さっきから地味に「懐柔ダイオウ」ってやつが無視されててちょっと草なんだが。
まぁ、いい。
とりあえず、自意識過剰かもしれないが、万に一つの可能性に賭けよう。*みみか*ちゃんが、俺の不在でこんなに病んでいるという可能性に。
213: Mentor スカイ
ヤッホー。だいぶ荒れてるじゃん。
そうだ、俺なんかが彼女に何の影響を与え……。
「きたぁぁぁぁ!!!!!」
下村さん!?そこ、道端!人通り普通にある!?
「はああああああ!よかった!私飽きられてなかった!わーい!!!」
彼女は飛び跳ねている。割と、ガチで。近くを通った小学生には指を指されている。スカートがなんだか危ないのも気にせずに彼女はなりふり構わず、跳ね回っていた。
だが。
「あ……」
不意に、目があってしまった。
まぁ、不思議なことじゃない。だって俺はガン見してたから。彼女の奇行を。だから、偶然視線がぶつかったからといって誰が咎めよう。
彼女はすごく変な体勢のまま固まっていた。今にもスキップしだしそうな、女の子のリアルな石像だと言われたら納得しそうな感じだ。
俺は、ゆっくりと笑顔を顔に貼り付けて彼女を見た。
彼女は、彼女で、恐ろしい笑顔を顔に貼り付けて、手招きをしている。
「殺される、のかな……」
俺は、先日の彼女の言葉を思い出しながら、軽く武者震いをしながら、足を進めた。
「あら、宏海くん、こんにちわ」
「や、やぁ。偶然、だね」
お互いにぎこちない笑みを浮かべながら歩み寄る。
「今の見てたわよね?」
「何のことやら」
「とぼけないでもらえるかしら?別にあなたなんてどうとでもできるわよ?」
僕に何をする気だよ……。怖いよ!?
「わ、わかった。見ました!見ましたよ!」
「……れなさい……」
「……?」
「忘れなさいって言っているの……!」
「え……?」
「だから……うう……」
雲行きが怪しくなってきたな……。
「あの……」
「な、何よぉ……。その目はぁ!!!笑いたけりゃ笑いなさいよ!私なんてどうせ変な女よぉぉぉ!!!」
う、うん。変だよ。現在進行形で。
「わ、笑わない!笑わないから!とりあえず、落ち着いて!これ以上傷口を広げることはないだろ!」
「……。分かったわよ。……、ターゲットに慰められるなんて屈辱だわ」
「なんだって?」
「な、なんでもないわ……」
「まぁいいや。とにかく今のことは無かったことにするから、これからは外でその……。スマホに向かって話しかけるのはやめような」
俺がそういうと、彼女は涙目になった。
「じ、地味な精神攻撃を仕掛けてくるわね……。私もあなたに拒絶されたことだし明日からその路線で行こうかしら」
「それはやめて……」
「あら、これは案外効きそうね。さっさと弱味を握りたいところだわ」
彼女は、仮初めのプライドを取り戻したようで、そんな風に胸を張った。
「ってか、家近いの?こっから」
「えぇ。私の家はすぐそこよ。このコンビニにはよく買い物にくるの」
結構家が近いことに驚きだ。俺たちは、自然と帰路に足を進めた。
「……なんだか、宏海くん、あなた今朝となんだか随分違うわね」
「え?そうか?」
「なんて言ったらいいか……。物腰が柔かい……、じゃないけど、心の壁みたいなのが、なんかね」
「なんだよ、それ。まるで、俺が君みたいな美人を拒絶した……、みたいじゃ……」
「そうよ。あなた実際今朝そうしてたじゃない」
「あれ……?おかしいな……。なんで俺そんなこと」
俺は少し脳みそがこんがらがるような感じがした。
「……?」
「まぁ、いいや。なんだか今朝は失礼なことを言ったな。ほんとごめん」
「……、どう言うこと、なのかしら……」
彼女はそう言うと少し考え込んだ。
「俺にもさっぱり」
「まぁ、いいわ。私の方でも調べておくから」
探偵じゃあるまいし、とか思ったが、まぁ、僕の死を願う偏屈者の彼女のことだ。きっとそう言う妄想だろう。
「頼めるならお願いするよ。じゃあ、俺はこっちだから」
俺はそう言って、曲がり角を曲がった。
心臓のスピードが大変なことになっているのには気がついていただろうか。
顔が赤くでもなっていたら、めちゃくちゃ格好が悪いな。だけど……。あんなにも美人の女の子に必要とされているのは、その。悪くない気分だ。
嘘をついた。小躍りでもしたい気分になる。ちょうど彼女がしてたみたいに。
「ま、どうせ、俺が死ねば、それで俺以外のやつと幸せになるんだろうけど」
どうでもいいけど、緑色のアメーバーみたいな会社が作ってた乙女ゲームを思い出した。
とりあえず、アホみたいなことを考えて気を紛らわせながら、悩メールの巡回をすることにした。
「なんだこれ?」
『【急募】私の居場所。助けて。誰かが私の居場所に入れ替わってる』
というタイトル。
ドッペルゲンガーみたいなものだろうか。
そんなことを思いながらスレを見ていると、電柱に頭をぶつけた。
痛い。
犯人がわかってる小説って、サスペンスってジャンルなんだっけ?