プロローグ
いつも通りの見切り発車です。
それなりに無難な高校一年を乗り切り、それなりの友達ができた。それなりの生活をし、定期テストにそれなりに苦しめられた。
だから、今の状況は予想の遥か外側を猛ダッシュしているとしか言いようがない。
目の前にいるのは、学校一の美少女と名高い下村綾さん。誰もが振り向くような真っ白な肌に、艶やかな黒髪。校舎裏の午後4時前。
空は青く晴れ渡り、傾くには、まだ少し早い太陽から隠れるような影に身を潜めた俺たちは、今から何をするのだろうか。
呼び出された目的。そんなものは知らない。俺は、彼女のことを目で追いかけることくらいしかしていない。話したこともない。
なぜ俺の名前を知っているのかも知らない。
そんな中で、先に口を開いたのは彼女だった。
「宏海空君ね。一つ私のお願いを聞いてほしいの」
良くも悪くも平凡な高校生の俺に何ができるというのだろう?そう思うが、相手は学校一の美少女だ。頼みを聞くのは吝かではない。
「俺ができることでよければ」
俺は彼女への心象を良くするために、打算まみれの笑顔でそう答えた。
彼女は、そう。と一言言ってから俺にこう切り出した。
「単刀直入に、言わせてもらうわ。宏海君。死んでくれないかしら?」
「は?」
俺の高校二年生の春はそうやって始まった。