貴方と私と君と俺
今日もまたチャイムが鳴り、終業を告げた。
毎日変わらない今、これからは完全なる自分の時間だ。
ホームルールを済ませ、ブレザーを着終えぬまま教室を飛び出した。
目的地は歩いて30秒のご近所さん、D組。既に人が出始めている教室に、キュッと上靴の音を立て飛び込み、呼び掛ける。
「へーい!小雪ちゃーん!帰ろ〜」
乱れた髪を整えながら、小雪を誘う。
「あのさぁ...恥ずかしいからちゃん付けはやめてって」
恥ずかしがる姿を見れて満足だ。
「いーでしょ、せっかく可愛い素敵な名前なんだから。」
「.......また馬鹿にしてさ.........まぁ、いいや。
んじゃ、行くぞ真琴く〜ん」
うーんと伸びをして立ち上がる。
ほらね。「言うじゃん」
教室、校舎と外に出た時には空は紅く染まり始めていた。
他愛のない話を幾つか交わした後、小雪が提案してくる。
「ねぇ、やっぱちゃん付きで呼んでくるのやめない?わりかし恥ずかしいよ」
即答する。
「やめないよ?」
「えぇ........」
そこで何か言ってやろうと思ったが、ふと物思いにふけってしまう。
やはりコイツは忘れている。元はと言えば小雪が真琴君と呼び始めたのだ。
その頃は髪がとても短かったし、そして名前が真琴だったから。
焦ってすぐに髪を伸ばし始めて今に至るけど、小雪は気まぐれのイメチェンくらいにしかきっと思っていない。
それに、小雪の名前が小雪だったから。今みたいなめんどいことになっている。
もしも名前が反対だったなら、今の関係とはまた違ったんだろうか。
帰りのお誘いだって遊びのお誘いだってあっちからされてみたい。けど、きっと、抱いている感情が違うんだろう、いつも誘うのは私から。
「私だって、女の子なのに」
堂々巡りの長考の末に出たそんな情けない呟きは、なびく髪に絡まって届きやしなかった。
勘違いしたまま読み進めて最後に辿り着いてたら、嬉しいんだよな。