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七章〜試練〜

 

「なぁじじい。」

「なんじゃ、ボウズ。」

「あの時、何もないとこから躱神の身体がでてきたよな?あれ、どこからでたんだ?」

「…は?なにいっとるんじゃ?ボウズ。」

「いや、だから…。」

「あれはボウズと美香の情報から出来たものじゃよ。しかし、情報だけでは物質ができないのじゃ。だから、わしが力をつかったのだ。……つまりは、物質にある情報を作り出すのではなく、情報にある物質を作り出すため、じゃ。わしの寿命の一部をつかってな。」

「……どういうことだ?じじいの寿命…?」

「んなことはどうでもよい。……ボウズよ。」

「な、なんだ?改まって。」

「美香と舞をたのんだぞ。」

「!!!……頭あげろよ!全く、どういう風の吹き回しだよ?」

「そういうことだ。頼んだぞ、佐神勇刀。」

「……わかったよ。…自信はないけどな。」



 七月十日 学校にて

 俺のクラスに躱神が加わり、男性陣はテンションが急上昇だ。一部の女性陣にも人気がある。

 いつも躱神の周りは人がいる。

 ……俺か?俺は輪の中に加わってない。変な誤解が広がりかけた為である。田神さんに迷惑かけて、なおも躱神に迷惑をかけるわけにはいかない。

 何が迷惑って、俺と付き合っているなんて噂がたってみろ。めちゃくちゃ躱神が困るだろ。どうでもいい男と付き合っているっていう噂がたつのは。

「佐神ぃ〜。ぶっちゃけ躱神ちゃんとどういう関係なんだ〜?」

 ほらきた。ここから噂が広がるのはアウトだからな。相手が大城だから大丈夫だと思うけど。

「ただの仕事仲間だよ。躱神だってそう思ってるよ。」

「ふーん。そうなのか。付き合ってないんだ。」

「どうしたんだよ?……まさかお前…!?」

「いや、それはないぞ。俺には、隣のクラスの薫ちゃんがいるからな!」

 そうだった…。こいつ彼女がいたな。たしか、覇神薫はがみ かおるっていう娘だっけ。大城を気にいるとは、かなり物好きだよな。隣のクラスか。ウチがA組だからな、B組か…。

 ていうか夜神は諦めたのか。

「まっ噂が本当か確認したかっただけだよ。」

 ………なんだよ。一体。



  キーンコーンカーン♪

 はぁぁぁ……。補修ってめんどくさいなぁ。確かに休み過ぎていたのは悪いと思うけど……不可抗力なのに。

「…まあ、そろそろテストだしな。しょうがないか。」

 自分に言い聞かせる。じゃないとやってられないよ……。あぁ日もトップリと暮れているな。真っ暗だ。

 ふと俺は、そばにある公園(やっぱりオーガが出て来た所)に目をやった。

「………あれ?あそこにいるのは田神さん?」

 なんと田神さんが公園のひろーい運動場の傍のベンチに腰掛けている。

 …何してるんだろ?こんな時間に…。

「田神さん?何してるの?」

「あ…。佐神君…。来ちゃったね。とうとう…。」

 とうとう来ちゃった?どういう事だろうか。

「ごめんなさい。佐神君。」

「………へ?」

 呆ける俺。そして構える田神さん。何を構えているんだ?

「召喚!封魔陣、魔光輪!」

「!!?…ふ、封魔陣!?」

 なんと田神さんは、封魔陣という技を繰り出してきた。


 封魔陣とは、主に身体のどこかに魔法陣のような紋章を張り、その紋から魔法のようなものを出せる退魔士の力の一つだ。

 封魔陣を扱う退魔士は案外多いらしい。ただ俺の周りが特殊なだけだ。


 という訳で、

「うわぁぁ!?た、田神さん?なんでこんなこと……」

  ビュオォ!!

「のわぁぁ!!」

 田神さんが使う封魔陣は光の輪を扱う紋だ。イメージ的には、クリ〇ンの気〇斬だ。こちらをしつこく狙ってくる。

「ちょっと!田神さん!!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!佐神君、これも皆の為だから!」

 訳のわからない事言わないでよ〜!田神さ〜ん!俺死んじゃうよ!



「どうする?おじい。」

「そうじゃな…。この躱神家特製狂化剤を使うか。これならボウズも闘わざるを得ないじゃろ。」

「病院の時私が使った奴ね。ていうかおじいが勝手に使っただけだけど。」

 木陰から佐神と田神を見守っている影が。躱神とその祖父だ。

「美香に向かって、ホイ。」

  ブンッ!カツ!

 攻撃の手が止まる。

「いった〜い!?ってあれ?」

  ほわわーん…。

 投げられたものから煙りがでる。田神はそれを全て吸い込んでしまった。

「…………佐神君。」



 なんだ?あの煙りは!?しかも田神さん全部吸っちゃったよ。大丈夫なのか?

「あの〜。田神さん?」

 恐る恐る聞いてみる。

  ギンッ!!

「ひい!?」

 今田神さんの目が……、紅く光った!!?

「へへへ。佐神君?死んじゃダメだよ?」

  ビュオビュオビュオビュオビュオビュオ。

 光の輪が沢山………ありすぎ!!

「田神さん!?一体何なんだよぉ!?」

「ほらぁ♪死んじゃうよ?佐神君?へへへ。」

 光の輪がまだまだ出てくる。出て来ては、田神さんの上で浮遊している。

 そして…!

  ブワァァァァ!!

 一斉に光の輪が襲い掛かる。

  ドガァァァ!!

 砂埃があがる。

「へへへ。佐神君、死んじゃったかなぁ?」

「ええい!死んでたまるかぁ!!」

 砂埃から俺は姿を現した。ていうか本当に危なかった!

「田神さん……。俺、ちょっと怒ったよ?」

  ギンッ!!!!

 悪いけど反撃開始。



「なぁ、おじい。美香ヤバイと思うよ。」

「うん。わしもそんな気がしてきた。」

「どうするの?」

「どうしようかの?」

「佐神止めた方がいいと思うよ。」

「そうじゃな。薬も中途半端に効いてないみたいじゃし。」

 影は動き出した。



「田神さん。謝るなら今の内だよ?」

 さっきまでの勢いはどこへいったのか、田神は怯えている。

「ご、ごめんなさい!!佐神君!!」

 佐神は極上の笑みで言った。

「ゆるさなーい♪」

「ひゃぁぁぁ!!」

 少女の叫び声が夜に響く。



 その後の話。

 俺が気付くと、泣きながらへたりこんでいる田神さんと、必死な顔で俺を抑えている躱神とじじいがいた。

 俺の手にはハリセンが握られていた。ちなみにただのハリセンではなく、『封魔刀、突込刀』という殺傷力のない武器。

 何をする気だったんだろ?俺。

「これは美香の試練なんじゃ!」

 とはじじい談。

「これで晴れて美香も、退魔士一族躱神家の退魔士になったね!」

 とは躱神談。

「ごめんなさい佐神君!そういうことなの!私が躱神家の退魔士になるためのテストだったの。佐神君を気絶させるっていう。」

 とは田神さん談。

「まぁ、ボウズ相手にここまでやったからな。美香、テストは合格じゃ。」

 とはまたもやじじい談。

「おめでとう!」

 とは俺以外の三人談。

 そして………。

 俺がハリセン(突込刀)で三人の頭を叩いていたのは言うまでもなかった。



「さぁ説明して貰おうか。」

「あの〜佐神君?」

「何?」

「怒ってる?」

「ゼンゼンオコッテナイヨ。」

「ぼ、棒読みでいわないでよ〜。」

「…なるほど。佐神が怒るとこうなるのか…。」

「案外ボウズも怒るんじゃのう。」

「そこの二人!!」

「「はい!!?」」

「説明して貰おうか?」

「「はい……。」」



 俺が聞いた話はこんな感じだ。

 田神さんの中から躱神がいなくなったことで、自ら戦うことを決意した田神さん。そこで、手頃な奴で力を試してみよう。ということで俺を狙ったらしい。

「ごめんなさい、佐神君…。」

 いくら俺でもこれは許しがたい。仮にも命を狙われた訳であって、あの時の躱神みたいで結構恐かった訳で、……等々。

「…うぅ…ぐすっ……ご、ごめんひっく……なさい…うっ…。」

 ………えっ?田神さんもしかして、泣いてる?

「…ぐすっ……ぅぅっ…ごめんよ……ひっく…佐神…。」

 なんで躱神までなくんだよ!?

「ボウズ…。よくもわしの愛娘達を泣かしたな!」

「うわぁああ!!待てじじい!!チェーンソーはなし!!死ぬって!!」

「安心せい…。峯うちで許してやる。」

 あの〜チェーンソーって、両刃がぐるぐる回っているんですよ?峯うちでも人体切れますよ?チュイーンって………。

「うわぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 夜の公園に俺の情けない悲鳴が響いた……。



 その頃の田神と躱神は……、

((うわぁぁん!!佐神(君)に嫌われたよ〜!!))

 考えていることは同じなようだ。でも一番泣きたいのは、躱神祖父から逃げる佐神だ。彼はチェーンソーから必死に逃げようと奮闘している。



 七月十三日 放課後

 とうとう明日からテストが始まる。放課後に受けた補修のおかげでなんとかテスト範囲まで勉強できた。

 ところが明日からテストだというのに阿神は未だ帰ってこない。さすがに心配する。どこにいったんだよ、一体?

「どうしたの?佐神君。」

「あ、躱神さんと躱神。」

 声をかけてきたのは、元田神さんと躱神だ。田神さんはあの一件以来躱神と名乗っている。わざわざ戸籍も変更したらしい。

「ねぇ、佐神。いい加減その躱神さんと躱神はやめてよ?」

「えっ?どうするんだ?」

「み、美香とか。」

「ま、舞とか。」

 …なんか微妙にデジャブ…。どうしたものか…。

「……まぁたしかに、躱神さんと躱神、じゃあ解りにくいしなぁ…。」

 と俺。

「「じゃあ!?」」

 二人は顔を輝かせるが…。

「だが断る。」

「「ど、どうして!?」」

「この佐神の最も好きなことの一つ。それは顔を輝かせて期待している奴に向かってNOと断ってやることにある。」

「「そ、そんな…。」」

 二人は泣きそうな顔をしている。ヤバイ!言い過ぎた!?

「じょ、冗談だよ!二人共!最近読んだ漫画の真似をしただけだよ!!」

「「………………………………………………………ぷち。」」

 ぷち?なんだろう、さっきの音は?とそこまで考えてハッとした。二人の目が……。

「どうしようか?舞。」

 と躱神美香さん。声が恐い。

「そうだね…。どうしようか?美香。」

 と躱神舞さん。声が恐ろしい。

「そうだ。佐神は学年で三番に入るぐらいの優秀君なんだって。」

「そうなんだ?……佐神君?」

「は、はい!?」

 ヤバイ、俺泣きそう…。

「勉強教えてもらいたいなぁ、佐神君?」

「明日テストだしねぇ、佐神?」

 これ断ると、俺死ぬかも…。

「ゼンゼンイイヨ。ナンデモオシエルヨ。」

 一つしかない選択肢を俺は選んだ。



「佐神先輩…J〇J〇読んでるんだ。」

 夜神はぽつりとつぶやいた。



 二人の恐ろしい形相に睨まれた俺は、二人に勉強を教えることとなった。

「…じゃあ俺、なにか飲み物持ってくるから。ゆっくりしててな?」

「「はーい♪」」

 なんであの二人は嬉しそうなんだ?さっきまで怒っていたのに…。いいことでもあったのかな?

  バタン。

 俺はいろいろ思いながらも部屋をでた。もちろん自分の部屋から、だぞ。



「……行った?」

「……行ったね。」

 私たちは顔を見合わす。そして…。

「佐神君の部屋広いね。」

「だよね。一人部屋にしては十畳は広すぎだね。」

「佐神君の部屋……えっちなものとかあるのかな?」

「私が入ったときはそんなもの見なかったけど…。…気になる。」

 私たちは、部屋の中を詮索した。そしてすぐに怪しいものを見つけた。

「舞、なんか沢山本が入ってる箱があるよ!押し入れに。」

「こっちも見つけた。タンスの中にDVDが…。」

 私たちは、同時にそれらを取り出した。それらとは…。

「……〇ョ〇ョの奇妙な冒〇……のコミック全巻?」

「……ジブリ作品のDVD全集?」

  ガチャ。

「二人ともおまたせ〜。………って、わぁぁぁあ!!?」

「「!?!?」」

 私たちは、顔を真っ赤にして驚くしかなかった。



 数時間後……。

「バイバイ佐神君。」

「さよなら佐神。」

「あぁ二人とも、気をつけて帰るんだぞ?」

 あの後、いろいろとゴタゴタがあったけど、無事勉強会みたいなものは終了した。

「「うん♪また明日。」」

 二人が揃って手を振る。俺もあわせて手を振る。明日のテストは頑張れる気がするなぁ。

 それにしてもよかった。阿神が秘蔵コレクションを処分していて。結果的に阿神に助けられたな。怪我の巧妙だな、まさしく。



「……佐神君、こうゆうのが好きなんだ…。舞には黙っておこう。……私、好きになる人…間違えたのかなぁ…。そんなことないよね…、佐神君は素敵な人……だよね?」

 一人自室で悩む躱神美香であった。



 

  カリカリ……カリカリ……。

 無機質な音が教室中に響いている。

  カリカリ……カリカリ……。

 黙々と問題を解いていく。む、難しい…。

  キーンコーンカーン♪

「はーい♪それじゃあ、提出してくださーい♪」

 ああ、やってしまった。今回のテスト難しいな。



 放課後……。

 テスト期間というのは楽なもんだ。授業が午前中に終わるんだもんな。

 それでも俺はテスト勉強で忙しいけど…。

「……はぁ……。」

 つい溜息が漏れる。

「どうしたの?佐神。」

「なんでもないよ。たが……、舞ちゃん。」

 心配そうに俺の顔を見つめているのは、躱神舞だ。別に名前で呼んでいるからって恋人、という仲ではない。

「溜息なんかして…、佐神君、悩み事でもあるの?」

「別に悩みなんてないよ。たが……美香ちゃん。」

 今度は躱神美香へ返事をした。とまぁそういう訳で『躱神』という苗字を持つものが二人いるため、名前で呼んでいる。というか呼び始めた。

「……二人ともテストはどうだった?」

 先程行った、テストの出来を聞いてみた。

「まぁまぁ……ね。私自分でテストするの初めてだったから緊張したよ。」

「私は…自信はないけど。…出来た方だと思う。」

 前者が舞ちゃんで後者が美香ちゃんだ。なるほど二人共、テストは順調みたいだな。

「佐神君はどうだったの?」

「さぞかし優秀な評価でしょうね。」

「今回は駄目だ…。まるで自信がない。」

 ハァと溜息をつく。今回のテストはあまり期待できない。…重力加速度の計算ってどうだったっけ?基礎的過ぎて自信ないや。

 自信がない。と言った瞬間二人が微笑んだ気がした。

 ……馬鹿にされているのかな?

「ねぇ、佐神♪」

「…なに?」

「今日も勉強しに行ってもいいかな?佐神君。」

「えっ?今日も?…俺は構わないけど…。」

「「決まり♪」」

 なんで二人でハモってんだろ?勉強好きなのかな?二人…。

「じゃあ私達は着替えてから行くから。」

「待っててね?佐神君。」

 なんで着替える必要が……あっそうか!今はもう夏だからな。汗をかいた服を替えたいのだろう。

「わかった。じゃあ待ってるよ。」

 俺達は解散し、また会う約束を交わしたのだった。



 …………夢なら覚めて欲しい。……どうしてあたしは………。

「……勇刀。………ごめん。……もう駄目かも……。」



 あたしは今、ある部屋に監禁されている。

 あたしの目の前には大きな機械がある。なんの機械なのか…あたしには興味がなかった。

 興味を示しても、別に何も変わらないとすぐに気付いた。

 そして今の状況から逃れることも出来ないと思っている。

「華奈。始めるぞ。」

 三十代後半に見える男が言う。

「……はい。沙神鷹尋様…。」

「これが終われば、君を勇刀の所へ返す。安心しなさい。」

「…!?ほ、本当ですか?」

「ああ。本当だ。さぁ、この中に入るんだ。」

 勇刀に会える……。この作業が終われば、勇刀の所へ……。

 あたしは、言われるがまま、機械の中に入った。



  ピンポーン♪

「はーい。あっ、いらっしゃい。さぁ上がって。」

 俺の家に躱神姉妹(?)がやってきた。

 結構長かったな。解散してから二時間近く経ってるぞ。

 まぁ二人共来たからいいか。と俺はそれ以上考えるのをやめた。

「それにしても…二人共、凄い格好だな…。」

 躱神姉妹の服装は、なかなかに綺麗だった。

 美香ちゃんは肩にレースみたいなものを纏い、水色のワンピース姿であったが、妙にスカート部分が短い気がしてならない。普通は膝上五センチぐらいは短すぎると思うのだが…。最近はそんな感じなのか?

 そして舞ちゃんは真っ白なシャツに短いジーパン、ニーハイソックスだ。シャツの真ん中に大きくハートが描かれている。派手だよ、それ。しかも後で気付いたけど、後ろにもハートマークがプリントされていた…。

 そういえば美香ちゃんのワンピースもハートが小さく刺繍してあったな。

 二人共、好きな人でもいるのかな?もしそうなら頑張れ!応援するぞ!俺は。



 ………数時間後。

「ふー。そろそろ休憩いれよっか?」

 さすがにずっと同じ姿勢を保つのはしんどい。肩も凝る。

「佐神、肩こり?」

 どうやら俺が首をコキコキしているのをみてピンときたようだ。

「…まぁ、ね。」

「大丈夫?佐神君。」

 そんなに心配しなくても…。所詮肩コリだから。

「あっ。何か飲み物だそうか。二人共、何がいい?」

 そういえば何も出してなかったな。失礼なことをしてしまった。

「何でもいいよ。」

「私も何でもいいよ。」

「じゃあ、アイスコーヒーでいいかな?」

「「うん。」」

 俺は台所へコーヒーの準備をしに席を立った。

  バタン。

 そして部屋をでた。

 もちろん俺の部屋からだよ。



  バタン。

「行ったね。佐神君。」

「そうだね。行ったね。佐神。」

 二人は顔を見合わせ………佐神のベッドに突っ伏した。

「「………………。」」

 そのまま二人は動かなくなった。僅かに声が漏れる。

「佐神君の匂いがする……。」

「佐神の匂いがする……。」

 はたから見ると、変な二人に見えるが二人は大まじめのようだ。

 それほどに、佐神勇刀のことを好いているみたいだ。

 …しかし、当の佐神勇刀はそんなことに気付かない。

「……佐神君って、」

「……佐神って、」

 二人は口を揃えて言った。

「「鈍感過ぎ?」」



「ヘクシ!ヘクシ!うん?夏風邪かなぁ?」

 のんきにコーヒーを作っている佐神は二度くしゃみをした。



  カリカリ……カリカリ……カリカリ………。

 無機質で乾いた音が教室中に響く。もちろん今日はテスト二日目だ。

 しかしどうして今回のテストはこんなに難しいんだ?正岡子規が生んだ俳句を現代語訳して五つ書けって……そうそう思い出せないよ…。

  キーンコーンカーン♪


「はーい♪時間でーす♪提出してくださーい♪」

 ………はぁ。やってしまった。とりあえず解る範囲で答えたが……。自信ないなぁ…。



「………はぁ。」

 今日も溜息が漏れる。昨日と同じシチュエーションで…。

 違うと言えば躱神姉妹がいないことかな?掃除当番って言ってたな、二人共。待たなくていいって言われたし。

「……赤点の心配はないと思いたい…。」

 ぽつりと自分に言い聞かせた。

 それにしても昨日は大変だったな…。部屋に戻ったら二人共ベッドで倒れていたからな…。その後すぐに家に帰したけど。……びっくりするよ、全く。



 昨日のことや、今日のテスト、明日のテストについていろいろ考えた。

 それなりに頭が痛い。特に明日のテストは苦手な地理だ。スリランカの首都なんだっけ…。

 そんなことを考えながら帰路についていた。その時、俺の目の前に見覚えのある影が見えた。

「……阿神か?さっきのは?」

 見えた影は阿神に見えた。俺はそれが阿神なのかはやく確認したいため、走って追い掛けた。

「やっと帰ってきたのか?」

 久しぶりに会うなぁ、と思った。本人なら……という条件付きだが。

 阿神らしき影は曲がり角をくるっと曲がった。俺は見失わないようにささっと角を曲がろうとした。

 なぜ過去形なのか…。それには理由がある。

 角から少し顔を覗かせた時、阿神がこちらを向いていたからだ。

 たた単にこちらを向いていたなら問題はなかった。しかし曲がった先にいた阿神は……、

「……どうして封魔銃、速射銃ウージ・サブマシンガンなんか構えているんだ?」

 銃口をこちらに向け、銃を構えている姿だった。



 俺は考えた。なぜ阿神が銃を向けているのかを。

「……丁寧に結界まで張っている…。」

 用意がいいとしか考えられない。まるで最初から俺を殺す気のように…。

「……何かの間違いだよな?きっと。」

 そう考えた。阿神が俺を殺す訳がない。だから俺は顔を出した。

 瞬間。

  カタタタタ!カタタタタ!カタタタタ!

 まるでミシンのような音をあげ、俺を襲う銃弾。

 俺は音と同時に顔を引っ込めた。……本気だ!

 速射銃もといウージ・サブマシンガンは形が大きく、かなりの連射ができる銃だ。たしかイスラエルとかで使われているんだっけ?

 ってそんなことはどうでもいい!……阿神、何を考えているんだ!?



「ふー。お掃除終了。美香そっちはどう?」

「こっちも終わったよ。」

 残って掃除をしていた二人は、今それを終わらせたようだ。

「じゃあ帰ろうか?」

「うん。そうだ……!?!?」

「!?!?この感じ!?」

 二人は急に顔をしかめた。なにかを感じたようだ。

「強い結界だよ。……それも阿神さんの気配。」

 美香が感じとったものは、阿神華奈の気配を纏った結界の存在だった。

 それは舞も同じだったらしく、コクっと頷く。

「いってみたほうがいいわね…。」

 舞がそういい、今度は美香が頷く。そして二人は気配のする方へ向かった。



  ガキン!!ガシャン!!

 阿神の手から銃が落ちる。なぜ銃が落ちたのか…、それは俺が一瞬の隙をつき阿神の手に霊魔刀のみねを当てたためだ。

「っ!?よくも!」

「おい!!阿神、俺だ!佐神勇刀だ!」

 俺は阿神に呼び掛けた。きっと何か勘違いをしているだけだろう。だからその勘違いを解決すれば……!

 しかし俺の予想は外れていたようだ。それどころか、衝撃的な台詞をきいた。

「…佐神…勇刀……?…なんだ…妖魔じゃなかったのね…。てっきり妖魔につけられていたのかと思った。……ていうかなんであたしの名前を知ってるの?」

 はっ?What?なにを言っているんだ?まるで、俺のことを知らないよみたいな台詞は?

「おいおい、まさか俺のことわからないのか?」

 馬鹿みたいな質問をしてみた。本当に馬鹿みたいな質問を…。そして返ってきた台詞は……。

「わかる訳ないでしょう?初めて会ったんだから。」

 どういうことだ?初めて会った…?ちょっと待ってくれよ。

「阿神、悪い冗談はやめてくれよ。…心配だったんだぞ?ずっと帰ってこないから。」

「……どういうことよ?……帰ってこない?あたしが?……どこに?」

「…いい加減にしろよ。そんな悪い冗談を言うなよ。」

 さすがに少し腹が立ってきた。冗談にしては質が悪すぎる。

「……………本当にわからないわよ…。あなた、誰かと勘違いしてるんじゃない?」

「………………本気で言っているのか?」

「………ええ。本気よ。あたしがここにきたのは、あなたが言ったように帰ってきたんじゃなくて、知り合いのとこにいくためよ。……あなたのことじゃないわよ。知り合いっていうのは…。」

 どういうことなんだよ?阿神の言っていることが俺には理解できなかった。

 ……まさか記憶喪失なのか…?だからこんなことを言っているのか?



 その後阿神は、それじゃあね、といい去っていった。俺はふに落ちない気分で帰路についた。



「…?気配が消えた…?美香、気配感じる?」

「ううん…。何も感じない…。どうしてだろう?」

 二人の躱神は不思議に思った。先程まで感じていた気配がプツリと途絶えてしまったからだ。

「………多分、佐神君がなんとかしたんだよ。阿神さんと佐神君幼なじみって言ってたし…。」

「…………それならいいけど……。」

 舞はどこかふに落ちない様子で納得をした。



「………ごめんね勇刀。今のあたしにはこうするしかないの。」

 ……誰もわからない。彼女に何が起こっているのか。佐神になにが起こるのか。

 そして彼女は後悔している。もう、佐神勇刀と相いれぬ関係になってしまった。と。

 彼女の頬には一筋の水の通り道が浮き出ていた。



  カリカリ……カリカリ……カリカリ……。

 無機質な鉛筆の音が教室に広がる。そう、今はテスト三日目、最終日だ。三日だけというのは短い気がするけど……。

 それにしても、やっぱり地理は難しい…。イスラエルの首都の座標を書けって…。どこの宝探しだよ。

  キーンコーンカーン♪

「はーい♪みなさーん、テストを回収しますよ♪」

 あぁくそぅ!またやってしまった。もう駄目だ…。はぁ…。



 放課後………。

「はぁ………。」

「どうした?佐神。溜息なんかして…。」

 俺は今教室の掃除をしている。もちろん一人でなく大城と一緒だ。

「いや…テストが心配で。」

 はぁ…。と溜息をさらにこぼす。そんな俺をみて大城は……。

「気にすんなよ!人間はテストだけでは計れないんだぞ!!」

 しかし大城が言っても説得力がない。この前コイツのテストをみたんだが、地理なのに青い山脈と解答欄に書いていた男だ。

 青い山脈は歌の題名だ。はだしのげんを読んでみろ。卒業式で歌っているから。

 とまぁ大城は馬鹿だ。そんなやつの言うことはスルーするに限る。

「なんだよ。無視か?」

 はい無視です。



 数分後……。

 掃除が終わり、片付けをもすませた俺達は、解散することにした。

 そんな時、声が掛かる。

「正和。掃除終わった?」

「おぉ、薫!あぁ今終わったぞ!」

 薫…?まさか覇神薫か……?大城の彼女っていう…。

 薫と言われた女の子は背が高く、体育会系といった感じにみえた。バレー部に入っていそうだな……。

 ていうか、夜神と少しかぶる。

「じゃあな、佐神!」

「…あ?あぁ…。」

 本当に付き合っていたんだ。てっきりアイツの妄想かと思っていたのに。

 大城は覇神薫と一緒に帰っていった。



「さて、俺も帰るか。」

 正直、自分がむなしくなってきた。自分でいうのはなんだが、俺の顔は中の上ぐらいだと思っている。

 それに俺だって大城ほどとはいかないが背は高い方だし。……なんで俺はモテないんだろ?

「……中身が駄目なのか?はぁ、わからんなぁ…。」

 なんか自分に自信がなくなってきた。ていうか、たいてい一緒にいる躱神姉妹だって俺のこと、『友達』程度にしかみてないんだろうな…。

 ………男としての魅力がないのか?俺と大城、なにがちがうんだ?

  ぶつぶつ……。

 俺はやっぱり納得ができなかった。が、そんなことを考えても自分には関係ないことだと思った。

 ……俺の運命は決まっているからな。

  ピシィ!!

「…!!」

 気配を感じた。嫌な感じだ。

 ……この気配、屋上か…?

 正直、屋上という場所にいい思い出がない。病院の屋上で舞ちゃんに殺されそうになったし。

 殺されませんように…。

 俺はそんな心配をしながら屋上に向かった。



「やっぱり、思った通りだ。結界がある。」

 屋上へつづく階段の手前には、結界が張ってあった。俺は恐る恐る結界の中にはいった。

 結界自体に入るのは容易だ。ただ、出るのは難しい。病院の一件のように、ね。

  ギィィ。

 屋上の扉は少しさびていた。そして、広がる屋上をみわたす。そこで俺はみた。

「……阿神……。」

 回連銃ガトリングガン弾薬銃グレネードランチャーを構えている阿神を……。



  ダダダダダダダダ!!

  バン!!ドガーン!!

 いきなり俺にガトリングとグレネードランチャーの弾が向かってくる。呆気にとられていた俺は動くことができなかった。

「……ッ!!!!!」

  カンカンカン!!キン!!!

「………?あれ?俺……死んでない…。」

「大丈夫か?佐神君!」

 俺の目の前には、短刀をもった一人の男がたっていた。

 その男に俺は見覚えがなかった。

「…あんた、誰だ?」

 男は言った。

「それは後だ。正義の味方、とでも言っておこうか。」

 と、男は冗談まじりで、それでいて真面目な顔で阿神と対峙している。

「勇刀……。」

「!!阿神、俺のことがわかるのか!?」

「ごめんなさい。あの時記憶はちゃんとあったの。あたしは嘘をついたの。」

 淡々と、なおかつ哀しみを帯びた声で俺に言う。

「阿神ちゃん。君をそうしているのはだれだ?」

「な、なにを言って……。」

 俺は男の言ったことが理解できなかった。

「……あたしが今こうしているのは…………。」

 阿神は男の問いに答える。



「佐神勇刀を沙神の血に覚醒させるため、勇刀の父親に頼まれたから。」



「なっ?親父にだと!?」

 俺はあせった。なぜ親父がでてくるんだ。と。

 それに沙神の血?どういうことだ?

「勇刀。あなたの身体には二つの魂が眠っているの。」

 俺の心を読んだのか、阿神は話し始めた。

「一つは沙神悠刀。随分昔に亡くなった沙神の者。でも彼はまた死んでしまったわ。そしてもう一つ。」

 俺は阿神の言っていることについていけなかった。理解出来たのは悠刀兄さんの魂が俺の中にあって、その魂が死んでしまった、ということだ。ややこしい話だな。

沙神狂きょう。あなたの、佐神勇刀のもう一人の人格。狂は封印されているの、あなたの中で。そしてあたしは、狂の封印を解く。」

「ちょっと待ってくれ!」

 頭がパンクしそうだ。なんなんだ?一体。

「どうしてその狂、って奴の封印を解くんだ!?」

「それはな、佐神君。」

 男が代わりに答える。

「狂は封魔の天才だったからさ。でも君の父は狂を危険視した。幼過ぎたためだ。幼い狂が、人を殺すことを覚えると彼が不憫になる。…そう君の父は判断し、狂を封印したんだ。」

 男はまるで昨日起きたことのように話した。

「……詳しいわね。覇神謙司はがみけんじ。」

 覇神謙司と言われた男は少し眉をひそめた。

「おっと、ぼくのことを知っているとは。」

「勇刀の父親から聞いたわ。おそらく覇神謙司が出てくるだろうって。」

 俺はもう会話に入ることが出来なかった。しばらく黙っていよう。

「そうか。ならばぼくがその計画を阻止するのは言うまでもないね。」

 短刀を構える覇神。

「邪魔をするなら楽にしてあげるわ。」

 ガトリングとグレネードランチャーを消し、拳銃を召喚する阿神。

「佐神君!」

 突然名前を呼ばれた。

「は、はい!?」

「君は守りに徹っしろ!いいな!」

  タン。

 言うが否や覇神は軽やかに地面を蹴り阿神に向かう。

 覇神謙司は二十代半ばぐらいの年齢に見えた。少し茶色の髪をしている。白のTシャツに青のジーンズという格好をしている。それなりに動きやすそうだった。

「無駄よ。」

  ダダン!!

 阿神の銃が閃光と銃声をだす。覇神はそれにあわせるように阿神の回りをまわりながら接近している。戦い慣れているように見えた。

「どこを狙っているんだい?阿神ちゃん。」

 覇神は阿神の半径ニメートル程度の場所まで近付いていた。

「覇ぁぁあ!!」

 一気に覇神が距離を詰めた。ものすごく疾い動きだ。しかし阿神はその動きを制した。

 持っている銃の他に持っているものがあったからだ。

「あれは霊魔刀!!?」

 阿神は俺がよくつかう霊魔刀を握っていた。

 本来、退魔士が召喚するものは召喚する者の力が高ければ高いほど、召喚される武器も多くなる。

 俺の使っている霊魔刀は、普通の武器より性能がよく使いやすい。しかしその分、退魔士の力が高くないと召喚できない。

 俺は霊魔刀との相性がよかったらしく、霊魔刀を楽に扱うことができる。

 阿神は銃士、と言っていた。銃士はその名のとおり銃の扱いに長けている。だがその分、近接武器全般との相性が悪い。

 そのため、阿神が霊魔刀を召喚出来る、ということは阿神の力が高い。ということに繋がる。

「……!驚いたよ。阿神ちゃん。まさか君が刀を召喚するとはね。」

 覇神は予想外だ。と付けたし短刀を構えなおした。

「覇ぁぁぁあ!!」

 覇神は気合いをいれるように叫んだ。そして彼の手にダガーのようなナイフが現れた。

「二刀流がぼくの型だ。阿神ちゃん、覚悟するんだ。」

  タン。

 覇神がまたもや軽やかに動きだす。しかし今度の阿神は、覇神に目もくれなかった。阿神の目線の先には……。

 俺がいた。



 阿神は俺に狙いを変えたようだ。銃弾が何発も飛んでこようとしている。覇神はしまった!と言っている。

 そして阿神の銃の銃口が光った瞬間。

「佐神君を護って!魔光輪!!」

 後ろから声がとんできた。

 俺の前に見覚えのある光りの皿が現れた。俺が見たときは穴が空いていたが、今目の前にあるのは盾のような形になっている。そしてこの技を使うのは……。

「!!美香ちゃん!!それに舞ちゃん!!」

 屋上の扉の前には、先に帰っていたであろう躱神姉妹の姿があった。

「二人共、どうして!?」

 俺は驚いた。なぜ先に帰ったはずの二人がいるのか、と。

「佐神君の気配が急に消えたから…。私達、ずっと靴ば…ふわっ!」

「と、とにかく!佐神!助太刀するわよ!」

 舞ちゃんが美香ちゃんの口をふさぐ。なにをしてるんだ、一体。

「ははは!佐神君、モテモテだなぁ!」

 覇神は笑っている。ていうか、どこがモテモテだよ?こんなときに冗談はよしてほしい。

「はは…。形勢逆転だな。阿神ちゃん。悪いけど、反撃させてもらうよ!」

 覇神は素早く阿神に接近しにいった。

「むぐ、…ぷはぁ。さ、佐神君。あの人はだれなの?」

 美香ちゃんが聞いてくる。俺は答えようとした。が、俺の声は遮られた。

「正義の味方さ!お嬢さん達!」

 覇神が遠くで躱神姉妹に叫んだ。



「ほんとになんなの?あの人。」

「えーと……。」

 俺は答えに詰まった。なんて説明しようか…。

「………正義の味方?」

 それしか言えなかった。だってそんぐらいしか説明できないもん!

「あー…。わかったよ。で、阿神をどうするの?」

 ……えっ?どうするって?

 そういえば俺は阿神をどうしたいのだろうか…。

「………阿神……。」

「佐神?」

 舞ちゃんが心配そうに顔を覗き込む。

「……なんでもないよ。俺は…。」

 俺は走り出す。覇神がこちらをみた。なぜくるんだ?という目で訴えてくる。構うものか!

「阿神を止める!原因は俺なんだから!」

 走る!阿神のところまで!!

「……………にや。」

「!!くるんじゃない!佐神君!!」

「そういう訳にはいかな………。」

  パン!!

「……かはっ!?」

  ドサッ!

 阿神に撃たれた…?

「佐神君!!」

「佐神!!」

「くっ!しまった!!」



  あ れ ? か ら だ が あ つ い 。

 ど う し て だ ?



「佐神ぃ!!しっかりして!!」

 躱神舞は激昂する。

「さ、佐神君!!いやぁ!!」

 躱神美香が泣き崩れる。

「佐神君!!大丈夫か!?佐神君!!」

 覇神は返事を待つ。

「勇刀…。お別れね。」

  阿神は佐神を嘲笑うかのように言う。そして、それが引き金になったかのように気を失った。



「……………………。」

 痛みがないな…。こりゃヤバイな……。死んだな、今度こそ。……阿神……悪いな、おまえを止められなかったよ……。クソ親父め………。



 どこまでも広がる、おおきな青空。しかし、所々積乱雲が見える。

 それは薄れゆく意識の中、佐神勇刀がみた最後の景色だった。



 広い屋上には四人の人影が見えた。覇神謙司、躱神美香、躱神舞、そして……まるで電池が切れた人形のように倒れている、阿神華奈がいた。



「佐神……。返事をしてよ……。」

「佐神君…。起きてよ……。死んじゃヤだよ。」

 躱神姉妹は、佐神の名を呼び続けた。返ってくる答えは…。

「………………………。」

 無言だった。



「まさか…阿神ちゃんを…?」

 覇神は気絶している阿神の傍でしゃがみ込んでいる。

「………。何を企んでいるんだ。沙神鷹尋…。」

 覇神はそっと立ち上がると、拳をぎゅっと握りしめた。



 …………ここはどこだ?俺は学校の屋上にいたはず。

『おまえは撃たれたんだよ。勇刀。』

(っ!?だれだ!)

 いきなり聞こえた声に佐神は驚いた。

『おれか?おれは沙神狂。もう一人のおまえさ。』

(沙神…狂……。)

 先程聞いたばかりの名前を聞いた佐神。

 沙神狂……。佐神勇刀の中に封印されている存在である。

 その狂が佐神勇刀に話し掛ける。

『なぁ、勇刀?……………くやしいか?』

 低く、何かを誘うような声で狂が聞いてくる。

(……くやしい、ていうより哀しい。)

『……………。』

(だってよ?俺、阿神に撃たれたんだよ。仲間だと、友達だと思っていた阿神に!哀しいよ!!)

『………………。』

(………もう、さ。嫌になったよ…。狂……あんた俺の身体使えば封印から開放されるんだろ?)

『……そうだな。今ならおまえの身体を使えば封印を解くことができる。』

(じゃあさ…。使えよ。俺嫌だよ、もう誰にも会いたくない。だから使えよ。狂。)

 自暴自棄になってしまった佐神は狂に自分の身体を使うように言う。

 しかし。

『お断りだ。』

 狂は吐き捨てるように言った。

(!どうして…!?)

 佐神はまさかの返答に戸惑った。

 狂はあのなぁ、と言ってから。

『今必要とされているのはおまえなんだ。おれじゃないんだ。』

 そう言った。さらに、

『……おれはな封印されている間、おまえから全てをみていたんだ。

 おまえのまわりは良い奴ばかりだ。もしおれがおまえの肉体を使って復活してみろ。おまえが積み上げてきたものは全てパーだ。そしておまえのまわりにいたやつらも、哀しみにくれるだろうよ。』

 それにな、と狂は続ける。

『おれはそんなに外の世界に憧れてない。そりゃ全くない、といえば嘘だ。だけどな……。……勇刀。』

(………なんだよ。)

『耳を澄ませてみろ。聞こえるだろ?おまえを呼ぶ声が…。』

(え………。)

 言われ佐神は耳を澄ませる。


 佐神君!!

 佐神!!

 目を覚まして!!

 私達を放っていかないで!!

(この声は………?)

『美香ちゃんと舞ちゃんだろ?この声。』

(どうして俺を呼んでいるんだ?)

『おまえが目を覚まさないからだよ。いい加減起きてやれよ。』

 ほら、いってやれ。と佐神を促す狂。

(……いいのか?狂。)

『あぁ。行けよ。勇刀。そうだな………。今回のこれで封印も弱まったしな…。おまえが危なくなったら助けてやるよ。』

 佐神は目をまるくした。

(どういうことだよ?狂、なんでそんなことを…。)

『ん?おれの厚意だよ。おれの存在があったからおまえがこんな辛い思いをしたんだ。

 それの詫びだ。』

 狂は飄々(ひょうひょう)と語る。

(ありがとう、狂。じゃあ俺、戻るよ。)

『あぁ。気をつけろよ。』

 佐神の意識は、そこで終わってしまった。



「………おはよう…。二人共。」

「「佐神(君)!!」」

 目を覚ました佐神は、いきなり二人に抱き着かれた。

「……ぇぐっ……ぅう。佐神君!ふわぁぁん!」

「ぅわぁぁん!佐神ぃ!……よかったぁ!」

 前者は躱神美香のもの。後者は躱神舞のものである。

「二人共、なに泣いてんだよ…。俺は生きてるよ。」

「佐神君!無事だったのか!」

 覇神は信じられないといった感情で言った。

「えぇ、まぁ。……!そうだ阿神は!?」

 佐神は思い出したように阿神へ駆け寄った。

 不思議なことに佐神の身体には傷一つなかった。狂が手助けしてくれたのだろうか?そう思う佐神だった。

 そして阿神のもとへ辿りついた。

「阿神…しっかりしろ!阿神!!」

 何度も阿神の身体をゆすった。

「……ぅうん……。」

 うっすらと目を開ける阿神。そして視界に佐神の姿が見えた瞬間……。

  ドンッ!!

 佐神を突き飛ばした阿神。そして彼女は屋上のフェンスを乗り越えた。

 佐神はそれを声で制する。

「何をしているんだ!?阿神!!」

 佐神は阿神へ近付く。

「来ないで…。勇刀。来ないで!!」

 阿神は涙を落としながら叫んだ。佐神は思わず立ち止まる。

「……阿神…。」

 阿神の名を呼ぶ。

「やめて!…やめて…。」

 佐神の声を拒絶する。

「やめて…………勇刀…。あたしは………責任をとって死ぬから……。」

「……なにを言っているんだ?阿神…。どうしてお前が死ぬ必要があるんだよ?」

 阿神が言ったことに疑問を抱く佐神。

「……ないだろ?第一、責任ってなんだよ?」

「………勇刀…。あたしはね?あなたに嘘をついて、そして殺そうとしたのよ?……もうあなたの前にはいられないわよ。」

「!そんなことは……、」

「そんなことがないなんて、安易に否定させない!」

「!?」

 阿神は強く言い放った。そして続ける。今度は弱々しい声で。

「…あなたが良いって言っても、あたしは良くないの…。あたしがあなたを殺そうとしたのは紛れも無い事実だから……。」

「………なんだよ、それ。阿神…。本気で言っているのか?」

 佐神は怒気をふくんだ声で聞いた。

「……本気よ…。」

 阿神は決意の意を示すような瞳を佐神に向けた。

 佐神は俯いた。

「……そうか…本気なのか……。」

 なら仕方ないな。と佐神はつぶやき、一言付け足した。



「じゃあ俺は、お前が死んでから直ぐに死ぬかな。」



 その場にいる全員が佐神をみつめる。

 場の空気が凍る。佐神は阿神に近付く。

「それなら俺は納得できる。」

「……何言ってるの?勇刀?なんであなたが死ぬ必要があるの?……ないわよ、そんなの。」

「いや、ある。」

 佐神は言い切った。

「もしお前が死んだら、俺は罪の意識に苦しむだろう。俺はそんなのは御免だ。だからお前が死ぬのなら俺も死ぬ。その方が楽だ。」

「……勇刀……。それじゃあ、あたしが死ぬ意味がないじゃない!」

 阿神は激昂する。しかし佐神はそれに動じない。

「意味はあるさ。」

「えっ?」

「お前が死ねば、俺も死ぬ。俺が死んでしまえば狂が出てくるんじゃないのかな?そうなら当初の目的は達成されるじゃないか。」

「………本気で言っているの?」

「あぁ、本気さ。」

 佐神は真っ直ぐに阿神を見つめる。

 それに耐えられなくなったのか、阿神はとうとうへたりこんでしまった。

 そしてついには泣き出してしまった。

「うぅ…ぐす……ゆ、勇刀は……死んじゃ…ひっく、駄目よ……。」

 佐神は阿神へ更に近付く。そして声をかける。

「なぁ阿神、帰ろう?もう変な意地張らずにさ。」

「ぅん……うん。…勇刀……。」

「なんだ?」

「……ありがとう。」

「良いってことよ。」



 清々しい朝の空気。季節もすっかり夏色である。

 しかし、ここにいる佐神勇刀はそんな朝を感じることが出来なかった。

 場所は学校への通学路の途中。佐神勇刀は歩いていた。

「……なぁ?阿神…。」

「なに?勇刀。」

 佐神は横にいる阿神に声を掛ける。

 腕に腕を絡ませている形の阿神に…、

「なんで腕組んでいるだ?」

「駄目?」

 阿神は上目づかいで佐神を見る。予期せぬ表情に佐神は慌てた。

「駄目、てことは……ないけど…。どうしたんだよ?朝からおかしいぞ。お前。」

「そんなことないわよ?

という訳で勇刀の了承ももらったから……。」

  ガバッ!

「うわぁ?阿神!なにするんだ!?」

 阿神は佐神の腕に抱き着いた。もちろん佐神は慌てる。

「さすがにこれは恥ずかしい!!離してくれ!?」

 えー?という顔で阿神は抗議した。

「どうしてよぅ?」

 ぷーと阿神は頬を膨らませる。

「どうしてって!普通こういうのは、恋人同士がするもんだろ!!」

 佐神はぶーたれる阿神に抗議をする。だが阿神は引き下がらない。

「……じゃあ恋人になればいいじゃない……。」

「…………………は?」

 何を言っているんだ?佐神はそう思った。しかしすぐに考えを改めた。

「……って、冗談いうならもっともらしい嘘をつけよ。バレバレだぜ?」

 やれやれと手の平を上に向け顔の横で広げる。

「えっ?ち、ちが…、」

「ほら、急ぐよ。そろそろいかないと遅れるぞ?」

 腕を解き歩き出す佐神。阿神はしょんぼりと佐神についていく。阿神は思った。

 どうしてこんなに鈍感なんだろう? と。



  キーンコーンカーン♪

 朝の始業チャイムが鳴る。朝から阿神の冗談はきつい。結構ドキドキしたんだぞ?

 ……でもあれは百パーセント嘘だろうな。阿神と俺が恋人同士?なにそれありえないー!!

 ともあれ今俺の隣にいるはずの阿神はいない。休んでいた分のテストを受けにいっているようだ。



  ガラガラ。

「みなさーん♪オッハー♪」

 やはり一昔前に流行った挨拶で、担任教師新山千春は教室に入ってきた。

「えーと、今日の一時限目のHRは、成績表を配りまーす♪」

 な、なんだってー!!

 クラスが騒ぎ立てる。しかし新山先生は続ける。

「順位も出てますよ♪」

 ぐはぁ!!

 なんという、朝からのワンツー攻撃。

「残念ながら阿神ちゃんは休んでいたため、順位からは除外されてまーす♪」

 くっ!阿神めうらやましい!今回のテストは難しすぎたからな…。順位が公表されずにすむのはうらやましい!



 俺が通っている学校は各学年ごとに、順位が公表されるシステムになっている。しかも、でかでかと。

 そんな訳で俺達生徒は死ぬ気で勉強をしている。……恥をかかないように。



「佐神くーん♪」

 はっ!まさか俺の順番が回ってきたのか?

「………はい。」

 差し出された、閉じられた成績表を受け取る。

「…す……は佐神君です♪……です…♪」

 受け取る時に先生に何か言われた気がするがもう俺の耳には入らない。

 その後、俺は一時限目が終わるまで成績表を開けなかった。



  キーンコーンカーン♪

「じゃあ授業は終わりで〜す♪委員長♪」

 礼をし、俺は糸が切れたように席についた。

 とそこに……。

「佐神君、どうだった?」

「佐神、よかったんでしょ?」

 躱神姉妹のご登場だ。

 俺は言った。

「怖くて開けてないんだ。…二人はどうだった?」

 まってました。といわんばかりに二人はニコッとした。

「佐神君のおかげで、」

「私達トップ30に入れたの♪」

 おお、すごい。二人共頑張ったんだなぁ。

「佐神の開けていい?」

「あぁ、いいよいいよ。でも俺には見せないでね。怖いから。」

 そういい俺は机に突っ伏した。横からえぇ?と言う声が聞こえる。はぁ、そんなに悪いのか…。

「佐神君、すごい。」

「上位三位に入ってるって聞いたけど……、すごい。」

「……………えぇい!もう見てやる!」

  俺は成績表を広げて見ている二人から、それを取り上げた。

「……………えっ?」

 俺の時が止まった。成績表に書かれた文字は……。


 2-A 佐神勇刀

 現国 95点

 数学 100点

 歴史 96点

 地理 92点

 物理 96点

 英語 98点

 合計 577/600

 平均 96.2

 学年順位1位

 全校順位3位



「…………な、なんだってぇぇー!?!?」

 その後、俺はぶっ倒れて、保健室に運ばれた。



 放課後………。

「佐神君、大丈夫?」

「大丈夫だよ美香ちゃん。」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫だって舞ちゃん。」

「………むー……。」

 なんで勇刀はあの二人を名前で呼んでるの?納得いかない。

 どうしてなのよ。朝だって、てんで相手にされなかったし…。

「………勇刀……。」

「ん?呼んだ?阿神。」

 しまった。つい声に出して……!

「……ううん…。なんでも…ない。」

「………??そうか?」

「「……!!」」

 はぅ、格好悪いな。勇刀に何言っても無駄なのかな…。

 ……あれ?なんだろう、躱神さん達がこっちに…。

「ちょっと…。」

 小声で話しかけてきた。 まるで勇刀に聞かれないように……。

「阿神…佐神のこと……。」

「阿神さん…そうなんでしょ?」

 ま、まさかこの二人も………?

「あなた達……勇刀のこと……。」

 二人は無言で頷いた。

 勇刀、もてもてじゃない!?あたしがいない間に二人も……。

「二人は勇刀と付き合ってるの?」

「「………まさか…………。」」

 えっ?なんで急に二人共テンションが下がって?

「「いつまで経っても、何も変わらないの……。」」

 あたし達は顔を見合わせて同じことを言った。

「「「…鈍感すぎ?」」」



 一体なんだ?三人で話し始めて…。気になるじゃないか…。

 って、いきなり三人で笑い始めた!?

「あのー…。もしもし?」

 話しかけた俺を三人がジト目で見てくる。そしてこう言った。

「「「鈍感。」」」

「……なにがだよ?」



 なぜかその後、俺の家で三人の交流会が行われた。俺は仲間にいれてもらえず…部屋でドラえもんを読み続けた。

 アハハ、おもしろいなぁ………。

 …俺は枕を濡らした。

 なぜか自分が虚しくなったからだ。

 …もういいや。寝よ。



  ガチャ。

「勇刀〜。……あれ?」

「どうしたの?華奈ちゃん、…あっ。」

「どうしたの〜?…あっ。」

 三人が見たのは……。

 ベッドに本を散らかした状態で、枕を濡らしてふて寝をしている佐神勇刀だった。




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