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五章〜兆候〜

 

「ろっこぉ〜〜おろぉしにぃ〜、さぁ〜そぉっぉ〜と♪♪」

 ご機嫌な俺の歌は風呂場で、高らかに響いている。

 ちなみに俺は大の阪神ファンだ。今日は阪神が試合に勝ってくれてルンルン気分になっている。

「ペナントレースもそろそろ中盤だな。阪神ファイト−!」

 くどいようだが今は七月間近の六月下旬だ。学校もあと一月もせずに夏休みだ。

 とまぁ、俺はご機嫌な訳だがあいつは違っていた。

「うるさい!!勇刀!お風呂で六甲おろしを歌うな!!」

 扉ごしに阿神の声が響く。

 ……いや、別に阿神が阪神嫌いな訳ではない。逆にコテコテの虎っ娘だ。

 ではなぜ阿神がご機嫌ナナメかと言うと…。

「だから、悪いって言ってるじゃん!阿神ぃ!」

 俺がなにをしたって?それは話すと長くなるが……。



 …数時間前

「風呂〜風呂〜♪」

 俺は阪神戦が始まるまえに風呂にいこうとした。そして、脱衣所に入ると、先客が既にいたのだ。

 まぁこの場合、家にいるのは俺と阿神で、俺以外の先客といえば阿神な訳で……。

 俺は阿神の生まれたときの姿を見てしまった訳で……………………。



 という訳だ。

 我ながらとんでもない失態を犯してしまったと思う。

 当然俺は阿神にボコボコにされた。今でも傷が痛む。

「許してくれよ、阿神!あれは不可抗力なんだ。」

「うるさい!絶対に許さないから!!」

 頑なに俺を許そうとしない。少しムッとくる時もあるが俺が悪いから、阿神を責めることも出来ない。

 そこで俺は阿神の機嫌をとろうと冗談を言ってみた。

「なぁ阿神?一緒に入らないか?風呂。」

「な、ななななな何を!?いきなり!?」

「いや……、本気にすんなよ…。冗談だよ…。」

 その後阿神から全く相手にされなくなった…………。

 あれ?



 阿神が全く相手にしてくれないので俺は散歩に行くことにした。

 今夜は月がくっきりとみえる。雲一つない夜空だ。

「…そうだ。公園でのんびりするか。ここから近いし。」

 しかし俺は知るよしもなかった。この後のことに……。



「今日は月が綺麗だね。舞?」

(そうね。……なんか、あいつのこと思い出すね。佐神のこと。)

「な、なんでそこで佐神君が出てくるの!?」

(あの時の夜もこんな月だったしね。…それに私と佐神が初めてあった日に似てるしね。)

「舞。あなたもしかして、佐神君のこと……?」

(さぁ?どうだろうね?)

「う〜〜〜〜。」

 今、夜の歩道を歩いているのは田神美香である。

 綺麗な月に誘われて外にでてきたのだ。

(ねぇ美香。これからどこ行くの?もう帰るの?)

「舞が行きたいとこに行こうよ。」

 そう言うと田神美香から躱神舞へと替わった。

「じゃあ、とりあえず公園にでも行こうかな。」

(公園?なんで?)

 田神は不思議に思ったが躱神に任せた以上仕方ないか、とも思った。

 しかし彼女等は気付いていなかった。この後過激なことになるということを……。



「……綺麗……。」

 夜神はポソっとつぶやいた。

 今見ている月があまりにも綺麗だからついつい声にだしてしまった。

「何か、いいことが起こりそう。」

 夜神は外に出た。後ろで結んだポニーテールが揺れる。

 彼女がポニーテールにするのは、珍しいことだった。いつもは髪を下ろしたスタイルで行動しているのだ。

(…そういえば、ゆーにーちゃん、わたしのポニーテール見てかわいいって、褒めてくれたっけ。)

 昔をしみじみと思い出す。思い出す度に懐かしさが込み上げる。そしてふと、彼女は思い出した。

(確かゆーにーちゃんとよく遊んだ公園があったわね…。いってみようか、な……。)

 彼女は今は亡き人、沙神悠刀との思い出の場所。公園へと向かった。

 しかし彼女は気付かなかった。この後、大変なことが起こるということに………。



「全く……勇刀の奴。…あたしを馬鹿にして。……はぁ。」

 阿神は窓に身体を預けて夜空を見ていた。雲一つない夜空を…。

「…綺麗な月。……勇刀どこにいったのかな?……探しに…行こうかな。」

 阿神は佐神が出て行ったことに、少し罪悪感を覚えていた。

「普通出ていくのはあたしでしょう…?なんであんたが出ていくのよ……。」

 阿神は急に佐神が恋しくなった。しかしそんな気持ちに本人は気付かない。ただの罪悪感からくる負い目だと思い込んでいた。

「……優し過ぎよ…。絶対……。」

 しょうがない、と付けたし阿神は外に出た。

 ……月明かりが自らを照らす。どこかで勇刀もこの月を見ているのだろうか?

「……あいつ…。どこへ行ったのかな?」

 阿神はこんな時、勇刀ならどこへ行くか考えた。そして……。

「…あの公園…、かしらね。あいつならありえそうね。」

 そして阿神は公園へと向かった。

 しかし彼女は気付かなかった。この後の悲劇に………。



「みえないものをみようとして〜、望遠鏡をのぞきこんだ〜♪♪」

 阿神に無視されていたことなど忘れて、俺はルンルン気分で歌を歌っていた。軽い足取りで公園へと向かっていた。

「静寂を切り裂いて〜、いくつもの声が〜♪……ってあれ?あれは…。」

 俺は目の前にいるでかい影に見覚えがあった。

 あの影は……

「おぉ?大城か?」

「ん?おぉ!?佐神ぃ!何してんだ?こんな時間に?」

 でかい影の正体は大城だった。なにやら大きな荷物を持っている。

「ちょい散歩にな。お前こそ何してんだ?そんなでかい荷物もって…。」

 俺は大城の持っている荷物を指差した。

「これか?これはめちゃくちゃいいものだ。」

 大城は胸をはって言い切った。いいもの…か。気になるな。

「なぁ、なにがはいってんだよ?」

「教えて欲しいか?教えて欲しいか?佐神ぃ。」

 なんかうざい。

「いいからおしえろ。」

「実は、…………………………なんだ。」

「なに!?…………………………なのか?いいなぁ、それ。」

「安心しろお前にも、やるって。ほら。」

 大城は荷物から……………………を取り出した。

「大事に使えよ?じゃあな。」

 大城は俺に……………………を渡すと、帰っていった。

「ふはは、やった。大城よ、ありがとう!」

 俺は大城から貰った、筋ケシ(筋肉マン消しゴム)を大事にポッケに突っ込んだ。そしてまた、俺は公園に向かって歩きだした。




 俺の家からだいたい10分も歩けば、公園につく。腕時計をみれば既に10時を過ぎている。

「日本の未来は〜♪っと、公園についたか。」

 ひと昔前に流行った歌を歌いながら、俺は目的地に到着した。

 目的地の公園は、滑り台とブランコと砂場、鉄棒があるぐらいだ。

 あとはひろーい運動場が存在している。その、ひろーい運動場であんなことが起こるなんて、俺は考えもしなかった。



 何もすることがなく、ただボー然と夜空を眺めていた。

 雲一つない空。まばゆい光を放つ月。

 そんな空を見ていたら、近くで足音が聞こえた。

「誰だ、こんな時間に公園にくる物好きは?」

 言ってから、俺もそうか。と思った。そんなことを考えていると声を掛けられた。

「うわぁ?佐神じゃん!奇遇だね、こんなとこで会うなんて!」

「げぇっ!?躱神!!」

 声の主は躱神舞だった。俺が声を上げると不機嫌そうに、頬を膨らませた。

「なに?私と会うの嫌だったって訳?殺ろうかな、こいつ。」

「すみません。許して下さい!」

「冗談に決まってるでしょ?佐神。」

 全く質の悪い冗談だ。でも微妙に目がマジだったような…。気のせいか。

 そのまま立っているのも、なんなので俺達はベンチに座った。



「なぁ、佐神。」

「なんだ?躱神?」

「あんた、私を呼ぶときは呼び捨てなのに、なんで美香のときはさん付けなわけ?」

 私は気になったことを聞いた。先程5分程度話したが(もちろん美香もくわえて)、なぜか佐神は私と美香で違う呼び方で呼ぶのか。

 さん付けならさん付け。呼び捨てなら呼び捨てで呼んでほしい。…さすがに、ちゃん付けは恥ずかしいけど。

「え〜?なんでだろ?」

 佐神は困っているようだ。首を傾げる動作をしている。……なんか、いい…。

「二人はどうやって呼んでほしいんだ?それに従うよ。」

 ……どうしようか?私は美香に聞いてみることにした。

(私はいまのままでも…。佐神君と話が出来るだけで、うれしいし。)

(…あんた、なかなかストレートに告白したわね。!そうだ、ね!美香……。)

 私と美香の話し合いは終わった。結論は……。

「じゃあ、私たちを名前で呼びなさい!下の名前で。」

「な、なんだってぇーー!!!」

 佐神はかなり戸惑っていそうだ。さぁどうするのかな?

「さ、はやく呼んでみてよ!」

「わかった……。じゃあ…、これでいいか?舞。」

  かぁーー。

 なんだろう?急に身体が熱くなってきた…。ど、どうしてだろう?

「どうした?舞。」

「ご、ゴメン!美香に替わる!!」

「へ?」

 私はなんか居づらくなった。なんでかはわからないけど…。美香ガンバ!



「えーと、田神さん?」

「…う、うん。」

 舞が急に入れ替わると言い残し、私と入れ替わった。

 佐神君に舞って呼ばれて照れてるのかな?…でも佐神君、私のこと名前で呼んでくれないのかな?

「さ、佐神君?わ、私のことは名前で……その…呼ばないの?」

 ダメっ!どうしても佐神君の前じゃ上手く話せない。

 …佐神君、私のこと、ぼそぼそはっきりしない奴って思ってるのかな……?

「え?ああ。じゃあ話の続きをしようか?……み、美香?」

  プシュー!!

 私は意識を失った…。



 わたしが公園につくと、ベンチに佐神先輩と女の子が座っていた。

 なにかを話していたと思うけど、急に女の子が倒れてしまった。

 わたしは佐神先輩のところへ走りよった。

「……佐神先輩。何をしているんですか?女の子に危害を加えるなんて…。」

「げぇっ!?夜神!!」

 なにをそんなに驚いているのか…。それほどわたしに会いたくなかったのだろうか。

「何したんですか?言わないなら警察呼びますよ?」

 佐神先輩は、驚いた顔をしてわたしに事情を話してくれた。

 …この女の子、先輩だったの?てっきり中学生かと思った…。

 それにしてもこの女の子が躱神家の人だなんて…。それのほうが驚きだ。

「それで佐神先輩。躱神先輩となにをしていたのですか?名前を呼ぶだけで人が倒れる訳ありません。正直にいってください。警察呼びますよ。」

 わたしは佐神先輩の言っていることが信じられなかった。

「だから本当だって!なら試してみるか?」

 そういうと佐神先輩はわたしの目をみてきた。……なぜかゆーにーちゃんを思い出すな。なんでだろう?兄弟だからだろうか?

 そんなことを考えていると、ますます佐神先輩がゆーにーちゃんに見えてきた。

 ……どうして体が熱いんだろう。

「………さくら。って、どうした!?夜神ぃ!?」

 そのままわたしは意識を失ってしまった。



 勇刀を探して公園までやってきた。公園に入ってすぐに勇刀を見つけた。

 …でも女の人と一緒にベンチに座っていた。

 あたしは隠れるようにその様子を見ていた。美人って感じのポニーテールの女の人と話している。

 ……あーゆーの好きなんだろうか?まさかポニーテール萌えとか…?まさかね。

 その後もあたしは二人のやり取りを見ていた。声は聞こえないけど、様子はよく伺える。

「なに話しているのよ?むー、聞こえない。」

 ぶつぶつ文句を言ってみたけど、すぐに様子見を続けた。すると突然…。


 女の人が倒れた?


 あたしはすぐに勇刀のところへかけよった。

「勇刀!何してるの!?」

「げぇっ!?阿神!!」

 驚くのはわかるけど驚きすぎるんじゃ?そんなに会いたくなかったのかな?

 ……当然といえば当然かな。勇刀も悪いけど、無視し続けたあたしも悪いし…。

 でも今はそれより…

「何があったの!?勇刀!」

「わわわ!話すから首をシェイクするなぁ〜!」



 勇刀から話を聞いた。どうやら名前を呼んだだけで倒れてしまったそうだが、あたしは信じられなかった。

「あんた嘘下手ね。もっといい嘘つけないの?」

 あたしは毒づいた。別に羨ましがっている訳じゃない。決して!

 …でも名前で呼んで貰ったんだ。あたしなんかからかわれる時しか、勇刀はあたしを名前で呼ばない。なんでだろう?幼なじみてもあるのに…。

「……証拠みせてよ、勇刀。証拠。それであたしに謝ってみてよ。」

「えぇ!?」

 勇刀は驚いたようだ。でもすぐに平静を取り戻したのか、こちらをみてきた。ていうか、本当に謝るの?

 ちょ、ちょっとまって。なんか勇刀の目、少し綺麗に見えるし。……なんか、かっこ……。

「ごほん。……すまなかったな。華奈?」

 あたしにとって満足で最高な謝罪であたしは意識を失った。



 一人取り残された俺は、倒れている三人をほっとく訳にはいかず、三人ともベンチに座らせた。

 相変わらず意識を失ったままだ。

「なんで三人とも名前を呼ぶだけで倒れるんだよ?貧血か?」

 俺は全く訳がわからなかった。

 しかし、この後に起こったことはあまりにも恐ろしかった。それだけは、俺でもわかった。



 ひっそりとしてしまった公園で、一人月をながめる俺。

 なんかたった数十分でどっと疲れた。

 そのせいかな。俺は忍び寄る影に気付かなかった。

「グオオオオオオ!!」

「げぇっ!?妖魔!!」

 響き渡る重低音と共に俺は……

「グフゥ!?!」

 ぶっ飛ばされた。この衝撃、まさしくオーガ!?

「ウオォオオオ!」

 吹っ飛んでいる俺は公園の記念樹にぶち当たった。更にオーガは俺に追撃をしようと近付いてきている。

 ここで少し説明しよう。オーガはニメートルを軽々越えていて、力は二十馬力をも圧倒する。普段は山奥でひっそりと暮らしている妖魔だ。遭難した人々はオーガに捕らえられて食い殺されてしまうという。


 ……ありがたい説明どうも……。誰だか知らないが。

 しかしどうして山奥で暮らしているオーガが、こんな街中に?ってそんなこと考えている場合じゃないな。俺喰われるかも…。

「ウオォオオオ!!」

「っっ!!」

 すばやく間合いを詰め、拳を振りかぶるオーガ。

 俺は観念して目を閉じた。霊魔刀なんかだすひまがない。

 ……あぁ、俺の人生も短かったな。仕事上死と隣り合わせだしな…。



 そして、オーガは佐神に痛恨の一撃を繰り出した。



のだが、それはなかった。

 なぜなら……オーガの体に何発もの銃弾が浴びせられたからだ。



「勇刀!!大丈夫!?」

「立てますか?佐神先輩。」

「このぉ!よくも佐神を痛めつけたな!覚悟しなよ!!」

(さ、佐神君をいじめるな〜!)

 先程まで倒れていた三人(四人)の少女たちの、猛攻撃が始まったのだ。

 佐神は安堵の息をもらすと、意識を失ってしまった。

「ウオォオオオ!!」

 オーガが攻撃をしかける。狙いは、大剣を担いでいる躱神だ。



「チィ!私に狙いをつけたか!!」

  ドガン!バコン!

 オーガめ、私にそんな攻撃が当たると思っているのか!大振りすぎだ!

「ってりゃあ!!」

 この大三元ならオーガなんて……

  ガキン!!

「!!な、え!?私の大三元をはじいた?」

「グオオオ!!」

「キャアアアア!!」

(ま、舞!!)

 そ、そんな……。私がこんな簡単に……?



「!!躱神先輩!」

「!グオオオオオオ!!」

 オーガは今度はわたしに狙いを変えたようだ。オーガは大きく腕を突き出し、パンチとは言えないような攻撃を繰り出してきた。

「甘いです。せいっ!!」

 氷連爪をまとい、オーガの攻撃をよけて反撃を試みる。

  ガガガガガガ!!

「くっ!やはり効きませんか。」

 後ろから阿神先輩が支援してくれている。

 しかし、銃弾での攻撃はオーガにとって痛いものではないはず。それはわたしの攻撃も同じ。

「ウオォオオオ!!」

「!!!」

  ドスン!!

「アアアアアア!?」

 オーガの攻撃は、隙をみせたわたしの身体に重い攻撃が入った。



「な!?二人とも、大丈夫!?」

「「……………。;」

 返事は返ってこない。死んでいることはないと思う。

 あの二人だって退魔士。おそらく大丈夫だろう。

「もう!なんで封魔銃が効かないのよ!?」

 あたしの封魔銃、滅光銃デスライトニングが全く通用しない。せいぜい傷をつけるのが精一杯。……勝てないよ。こんなの。

「起きてよ!起きなさいよ!!勇刀!!」

 勇刀を呼ぶ。でも勇刀はいまだに気を失っているまま。

「グオオオオオオ!!」

「!!こ、来ないで!」

  ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン………!!!

 いくら撃ってもオーガはとまらない。そしてあたしの目の前には………。

  カシャン。



 誰かに呼ばれたような…?ううん……。

「いてて、オーガめ。って、みんな!?っ!?阿神!!」

 俺が見たものは、オーガの一撃を喰らい銃を落とした、阿神の姿だった。

「!!こっちにくるか!」

 オーガはその巨体に 似合わず、素早い動きで俺に近付く。召喚する暇がない!

 ん?阿神の銃が足元まで転がってきている。使い慣れてない武器だけど、背に腹はかえられんな。

 俺はそう思い、銃を、滅光銃デスライトニングをにぎった。その瞬間だった…。

  ドクン!ドクンドクンドクン!!!

「ウワァァア!!な、なんだ!?頭が痛い!!!」

「グオオオオオオ!!」

「アアアアアアアアア!!!!…………………………………………殺す。」

  パン。

「グ、オオオオオオ!?」

「お前を……殺す。」



鋭い眼光を光らせ、滅光銃をもった佐神勇刀は、まるで別人だった。

 冷酷に、しなやかに動く。そして、今まで効かなかった滅光銃の銃弾で、オーガを怯ませていた。

  パンパンパンパン。

「グオオオオオオ!!」

 苦しむオーガ。さっきまでとは違い、かなりのダメージを負っている。

「視える。……そこだ。死ね。」

  パン。

「ウオォオオオ……!」

 そしてあっという間にオーガは封魔された。それと同時に…


  ズキン!!


「くっ!頭が……。」

 佐神勇刀に頭痛が襲う。とてつもなく、苦しそうだ。そして佐神勇刀は再び意識を失った。



「………て……きて……ぉき……うと……。」

「うう…。」

 目が覚めると、俺は布団の中にいた。

「あれ?ここは?」

 目の前に広がる白い天井。………まさか。

「病院よ。勇刀。」

 声のするほうに顔をむける。

「……阿神。おはよ……。」

「……ばか。もう夕方よ。」

「えっ?俺そんなに寝てたのか?えーと、コンバンワ。」

 阿神は、はあ、とため息をして病室の外にでていった。おーいまってくれよ。

 阿神が病室から出た後再び扉が開いた。

「佐神君、大丈夫?」

「わぁ!田神さん?」

「どうも、佐神先輩。」

「わぁ!夜神?」

「ちーす。佐神ぃ。」

「……なんだ大城?」

 なんかいろいろきたなぁ。見舞いか、これは?…嬉しいねぇ、俺結構人徳あるんだな。こんなに来てくれるなんて。

「いやぁ、みんなありがとう。ただ一日寝てただけなのに、見舞いに来るなんて。」

 俺のその一言で空気が凍った。

「佐神君?今何月かわかる?」

 田神さんが怪訝そうにきいてきた。当然俺は思っていることをいった。

「六月でしょ?田神さん。」

「いいえ。佐神先輩、今はもう七月です。六月は五日前に過ぎました。」

「な、なんだってぇ!!」

 驚きの事実に俺は、絶叫してしまった。



病室の外にでた阿神は誰かと話していた。三十代後半の男とだ。

「とうとう狂が目覚めたかな。」

「……みたいですね。」

「勇刀が君の銃を持った瞬間覚醒したらしいな。怪我の功名だな。」

「………。」

「沙神悠刀は死んでしまった。勇刀のなかで…な。あれは残念な事故だった。」

「……………。」

「まぁいい。じゃ阿神帝みかどの娘。勇刀の、いや、狂の監視をたのんだぞ。」

「……はい。沙神鷹尋様………。」

(しかし、剣技が得意だった狂が銃で目覚めるとは……果たして…。)

 沙神鷹尋は嫌な予感を覚えた。




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