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四章〜狂気〜

 

「………ひまだなぁ………。」

 鼻につく薬品の匂い。目の前に広がる白い天井。無機質な部屋。白衣に身を包んだ人達が忙しそうに働いている。

 …そう、ここは病院の中だ。そして佐神勇刀こと俺は、入院している。

 …なんでかって?それは……

「…はぁ。複雑骨折に出血多量。オマケに熱か…。……あぁ動きたーい……。」

 という訳だ。

 そんな訳で俺は今、全身をギブスで包囲されている。全く動けない状態だ。

「…あぁ、なにもできないのは辛いぜ。学校が恋しいな…。」

 めんどくさい学校でも、ここまで暇だと行きたくなるとは。人間って不思議だな。

「ていうか、学校もう終わってるな…。誰かこないかな……。」

  ガチャリ。

 噂をすればなんとやら、とはよくいったものだ。さっそく誰かきたぞ。阿神とかかな?

「お〜い。生きてるか?佐神ぃ?」

「…なんだ、おまえか。大城。」

「なんだとは心外だなぁ。せっかく見舞いにきてやったのに。」

 …まぁ暇は潰れるからいいか。

「どうも。ありがとさん。」

 大城は驚いた顔をしている。なんていう顔だ。

「お、おまえが俺に礼を言うなんて…。」

「……どういう意味だよ。」

 大城は、へへと笑いそのままの意味だ、と言ってきた。失礼な奴だな。

 その後大城と他愛もない話をし続けた。話していると時間はあっという間にすぎた。

「……ッと、もうこんな時間か。」

 壁に掛かっている時計をみると5時だった。

 たしかこの病院、見舞いは5時半までだったな。

「じゃあな。佐神。」

「あぁ。またこいよ。」

 おう。と言いながら大城は病室を後にした。



「……暇だなぁ……。」

 大城が帰ってすぐ俺は言った。話し相手がいないのはかなり空しいなと感じていた。

  コンコン。

 ん?誰だろう。看護士さんか?

「どうぞー。」

  ガチャリ。

「……どうも。佐神先輩…。」

「!や、夜神…?」

 やってきたのは、俺を殺そうとしていた、夜神だった。

「御心配なく。もうあなたを殺す気はありません。」

「へっ!?」

 なんとも素っ頓狂な声を出してしまった。殺す気はない、だと?本当か?

「わたしは、もう誰も殺しません。…それを言いにきただけです。」

「……そうか…。…なんかその台詞、アニキを思い出すな…。」

  ぴくっ。

「アニキ…?佐神先輩。その人の名前は……?」

 えっ?なんでアニキの名前が気になるんだ?

「えーと…。なんでそんな事を…?」

 素直に聞いてみた。

「そんなこと、どうでもいいのです。はやく名前を教えてください。」

 うぅ。すごい剣幕…。可愛い顔が台なしじゃないか。

 ……しかし、どうしてアニキの名前を知りたがるんだ?

「別に教えてもいいけど、その前に俺を殺そうとした理由を教えてくれ。」

 アニキのことを知りたがる訳も聞きたいが、俺が一番気になっている、『俺を殺そうとした理由』が知りたかった。

「教えてくれないか。夜神桜。」

「……いいでしょう。解りました。理由を説明します。」

 やったね交渉成功だ。さて俺を殺そうとした理由はなんなんだろうか?

「佐神先輩を殺そうとした理由は……」

「………。」

躱神たがみ家が我等夜神家に、佐神勇刀抹殺の依頼をしてきたからです。」

「はぁ!?躱神家?躱神家って、俺らと同じ退魔士一族の…?」

 躱神家とは、沙神家と同じ、退魔士の力を代々受け継いでいる退魔士の一族だ。

 規模は沙神家と同じぐらい大きい……って、今の俺ん家は小さいけど。

 しかし、なぜそんな躱神家が俺を狙うんだ?沙神家が邪魔になったのか?

 俺の記憶では沙神家は、阿神家以外の一族とは比較的友好的に付き合っていたのだが……。

「そうです。その躱神家です。依頼された理由は詳しくは解りませんが、なんでも、沙神の若いのが許せない!ということらしいです。」

「…………。」

 全く心当たりがない。躱神家に命を狙われる理由に…。

「わたしが知っているのはそれだけです。さぁ、はやくあなたの兄の名前を教えてください。さぁ。」

「……えっ?あ、あぁ。名前は沙神悠刀っていうんだ。読み方は俺と同じなんだが、ゆうっていう字が勇気の勇じゃなく、悠久の悠なんだ。…まぁ、それがアニキの名前だ。もう死んじゃったけどな。」

「………そうですか。ありがとうございます。…ではわたしはこれで…。」

 何か確信めいた顔を夜神はした。が、すぐに元に戻った。そして夜神が病室から出ようとする。

「待てよ。夜神。」

 俺は夜神を呼び止めた。

「また来てくれよ?今度はアニキの話をしてやるから。な?」

 そんな事を言っていた自分がいた。

「………考えておきます。」

  バタン。

 そうして夜神は帰っていった。



「………暇だなぁ……」

 夜神が帰って数分がたった。やっぱり暇になった。

 でも流石にもう誰もこないだろう。既に5時15分だ。面会時間も、もう終わりだ。

  コンコン。

 ………って来たよ。

「はーい。どうぞ〜」

  ガチャリ。

「…あ、あの……。佐神君……具合は…どう…?」

「!?!た、田神さん!?なんでここに?」

 俺は意味が解らなかった。俺が散々迷惑をかけた田神さんが、見舞いに来てくれた…。のか?

「あ……あの…。迷惑……だった?」

 そんな訳はない。大城曰く、可憐な妖精なのだ。そんなお方が見舞いに来てくれたのだ。うれしいに決まっている。

「そ、そんなことないよ!!迷惑だなんて…。ていうか、俺の方が田神さんに多大な迷惑をかけてるし……。」

 実際そうだ。いきなり手を握ったりしてしまったのだ。

 どうとも思っていない男に……。迷惑この上ないだろう。

「そ、そんな…こと…ない……よ。…逆に……ぅれ…し……。」

 ん…。なんか最後の方、聞き取れなかったけど…。

 でもどうやら、そんなに迷惑かけてるわけじゃないようだ。ほっ。安心した…。

「ところで田神さん。俺の見舞いに来てくれたの?」

「………(こくん)…」

 頷いてくれた。

 …でもなんで顔が赤いんだろ?この部屋暑いのかな?確かにもう六月も一週間で終わりだから、気温も上がっているはずだ。きっとそのせいだろうな。

「…………………。」

「…………………。」

「…………………。」

「…………………。」

 沈黙。

 あの〜なにか喋ってほしいのですが…。

「…あ、あの……。」

「は、はい!?」

 びっくりした…!急に喋らないでよ。あれ?俺さっきまで言ってることが……。まぁいいか。

「………………お、お大事に……。」

「えっ?は、はい。」

 元々背の低い田神さんはさらに小さくなっていた。

 なにか、悪いことしたのかな……?俺。

「…じゃあね…。佐神君……。」

 田神さんが病室からでようとしている。

「あっ。田神さん!」

 ビクンと反応した田神さんは俺に顔を向けた。

「…な……なに?」

「よかったら、また来てくれない?あっ!よかったら、でいいから。嫌ならもう来なくてもいいから。とりあえず、今日はありがとう。」

「!!……………………(こくん)」

  パタン。

 驚いた顔をした後、頷いて田神さんは帰っていった。

 …なんか、やっぱり田神さん…可愛いな…。

 ……はっ!俺は何を考えているんだ!?



 ………三日後………

「…………暇だなぁ………。」

 今日の面会時間はとうに過ぎてしまった。

 今日は誰も来なかった。みんな忙しいのだろう。

 そういえばさっき来た医者が検査をした時…

「凄い回復力だ…。骨がもう完治している。これなら明日には退院出来るよ。」

 と言っていた。まぁ丈夫さだけが俺の取り柄だからな。

 しかし、それにしても…

「だぁー!…暇だ。テレビみてぇよぉ……。」

今の時間はダ〇ンタウ〇DXをみている時間だ。あぁ、みたいな…。

  コンコン。

 ん?今ノックの音がしたような…。

 コンコン。

 やっぱりノックの音だ。まぁ看護士さんだろうな。きっと。

「開いてますよ。」

  ガチャリ。

「!!!!」

 入って来た訪問者に俺は驚いた。何故なら入って来たのは、看護士さんではなく………。

「た、田神…さん?」

 可憐な妖精、田神さんがそこにいたのだ………。

  

 突然の訪問者、可憐な妖精田神さんが現れた。

 当然俺は驚いた。もう既に面会時間は過ぎている。それに病院自体営業(?)は終わっているはず…。

 ……なんで田神さんが?

「こんばんは。佐神君。」

「あ、あぁ。こんばんは、田神さん。ど、どうやって入ったの?」

「…佐神君…。」

「な、なに?」

「屋上にいこ?ここじゃ都合が悪いから…。」

 俺は彼女の言っている事がよく理解できなかった。

 …都合が悪い?どういう事だろうか?

「ついてきて?佐神君。」

 考える暇もなく、うっとうしいギブスから開放されている俺は彼女についていった。



 病院の屋上は外見と同じように、床が真っ白だった。

 月明かりが綺麗だった。それはもう人が狂いそうになるぐらい綺麗な月だった。

「綺麗な月だね。佐神君。」

「うん。そうだね…。」

 なんだろう。田神さんからくる違和感は…?なにか不思議な感じがする。

 それがなにかは解らないけど…。

「ところで田神さん。どうやって俺の病室まできたんだい?」

 えっ?ていう顔をしている田神さんがいる。しかしそれも一瞬のことだった。いつもの愛らしい顔に戻ると、いきなり……



 俺に抱き着いてきた。



 俺の思考は混乱した。なにがおきたかわからない状態だ。今の状態を理解するのに、三秒ぐらいかかった。

「た、田神さん!?」

「…………………。」

 なにかをつぶやいている。もしかして、告白ってやつか!!?

 でもそんな期待もことごとく打ち破られた。

 彼女の口から『しょうかん』という言葉をきいて…。

  ドン!!

 気付いた時には、俺は田神さんを突き飛ばしていた。

「痛いなぁ…。佐神君。なにするの?フフフ。」

  ゾクッ!

 な、なんだ?この背筋を襲う寒気は?というか、彼女は本当に田神さんなのか?

「き、君はだれだ!?」

 俺の前にいる少女は、妖しい笑みをみせた。

「誰って?私は田神美香よ。佐神君。」

「嘘だ!俺の知っている田神さんはそんな恐い人じゃない!!それに今のお前からは明らかな殺意を感じる!!」

 俺は言い切った。確信はないが、そうだと思った。

「フフフ…。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

「!!!」

 突然少女は笑った。まさか本当に田神さんじゃないのか!?

「ハハハ……。鋭いわね。確かに今の私は田神美香じゃないわ。今の私は……。」

 すっ。と腕を前にだし、次の言葉をだす。

「退魔士一族の一人。躱神舞。佐神勇刀、お前を殺しにきた。」

「な!?躱神家だと!?なんで俺を狙うんだよ!別に俺、悪いことしてないだろ!?」

「問答無用!召喚!封魔刀、大三元!!」

 少女が前に出していた手に、ニメートルはある大剣が握られた。あからさまにバランスが悪いが、少女は気にせずに大剣を振ってくる。

「くっ!召喚!封魔刀、霊魔刀!!」

 大剣を細身の刀身で受け止めら……れなかった。

「アハハハ!どうしたの?女の子の振るう剣が受け止められないの?この雑魚がぁ!!」

  バキン!!

「し、しまった!?」

 あろうことか、俺は刀を弾き飛ばされてしまった。

「アハハハ!!死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!」

 めちゃくちゃに大剣を振り回しながら俺に向かって来た。俺は逃げることにした。

 しかし……

「っ!!結界が…!!」

 既に屋上には結界が張られていた。とてつもなく強い結界で俺の力では破れず、抜け出せなかった。そして俺の後ろから声が響く…。

「無駄よ!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!!!死んじゃいなぁ!!!」

 俺は躱神の振るう大剣で真っ二つに……………………………ならなかった。何故なら。

「………?」

「あああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 突然躱神が苦しそうに、叫び出したからだ。なにが起こっているか解らなかったが俺はその隙に、躱神から距離を取り霊魔刀を回収した。

「に、逃げて……!さ、がみく……ん!」

「!!今の!?」

 確かに聞こえた。『逃げて。』と、躱神の口から……。まさか……!?

「田神さん!?田神美香さんか!?!?」

「チィ!!美香!今は出てこないで!!私は佐神を殺すのよ!!」

「ダメッ!!佐神君を殺しちゃ!!舞!」

 何が起こっているんだ!?まるで躱神の中に田神さんがいるような……、

「ああああああああああああああああああああああああ!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅ!!!」

 おそらく躱神舞だろう。躱神は俺に向かって走り出した。

  ブオン!!

 大剣は空を切った……はずだった。

 俺は大剣の攻撃範囲から離れるようにバックステップをとった。

 ……なのに俺の腕には

「な!?血が…!!」

 パックリと傷口が出来ている。

「アハハハ!!大三元の能力、チュン!!必中の念がこもっているこの能力は相手に確実にダメージを与えられる!風の刃は何処までもあなたを追いかける!!アハハハハハハハ!!さぁ!おとなしく殺されなさい!!」

 そんなの反則だろ!!何処まで追いかけるなんて!!それにあいつの様子あれは……。

「く、狂っている!!」

「狂っているぅ!?アハハハハハハハ!!!そうよ!!私は狂っているのよ!!アハハハ!!」

 ダメだ!なにを言っても通用しない!躱神を止めるには殺さないといけないのか!?

 …でも躱神は田神さんだろう。先程の様子を見る限り十中八九はそうだ。つまり躱神を殺す。ということは田神さんも殺す。ということじゃないのか!?

 もしそうなら、俺は躱神を殺せない!なんとかして田神美香を救わなければ!

「死ぬのが嫌なら逃げ惑いなさい!ホラァ!!」

  ブオン!!

  ビュオンッ!!

 振るった大剣から風の刃が飛び出る。俺はそれを受け止めようと刀を構えた。しかし…!

  ズバンッ!!

「う、ウワァァァァァアアアア!!」

 風の刃は刀とぶつからず、俺の身体を切り刻んだ。俺の身体の肉片が飛び散り、血が吹き出る。鮮血が屋上の白い床を支配した。



そして……、薄れゆく意識の中で、俺が見たのものは…。



 泣きながら俺にすがってくる、可憐な妖精『田神美香』の姿だった………。



 

 ………深い闇の中……。呑まれていく意識…。

 薄目の先に見えるのは、漆黒の闇と……真紅の血………。

 何処までいっても…深い闇の中……。

 ……俺は……生きてるのだろうか?



 目を覚ますと、真っ赤な太陽が俺を照らしていた。

 ここは……。あぁ、そういや、なにか刃物のような物で切り刻まれた記憶がある……。

「……!!そうだ!!確か俺は躱神舞の攻撃で……!」

「私がどうかしたって?佐神勇刀君?フフフ…。」

「!!ワァァァァア!!?た、躱神舞!?!?」

 いきなり現れた少女の顔に俺は驚いた。と、同時に猛烈な痛みが身体を走った。

「ぐわぁ!!いてぇ!!痛すぎるよ!なんだよコレ!?」

「佐神、あんたタフね。あんなにぐちゃぐちゃに切り刻まれたのに、痛いですむなんて。」

「いてぇ…。ってやっぱ俺、切り刻まれたの!?夢じゃなかったの!?」

「アハハハ。あんたアホね。痛みを感じちゃ夢じゃないじゃない。」

 むっ。たしかにそうだが…。アホっていうな。アホって……。へこむよ?案外。っとそれより…

「お前、本当に躱神舞か?」

 躱神舞であろう少女は、変な物を見る目でこちらをみてきた。

「何言ってんの?躱神舞に決まっているじゃない。」

 そんな馬鹿な…。あの時の躱神舞とはまるで違う、何と言うか……。

 狂った殺意は全く感じずに逆に好意を感じる。

「…お前。もう俺を殺さないのか?」

 躱神は、えっ?とした顔をした。

「殺されたいの?」

「いやいや!俺は生きたいです!!」

「冗談よ。あんた殺すと、美香がうるさいもの。それに、あんたなかなかいい根性してるしね。私もあんたを気に入ったし。」

 アハハと躱神は笑った。あの時のような寒気を感じる笑みではなく、どこか和む笑みで。

「ところであんた。身体大丈夫?」

 大丈夫な訳がなかった。少し身体を動かしただけで、全身に雷が走ったかのような激痛が走る程だ。

「まっ、大丈夫な訳ないか。私殺す気で風の刃だしたし。」

 …………なんですと?本当に殺す気だったのか?こいつ?

「ところで、もう足崩していい?」

「へっ?」

  ふにふに。

 こ、この感触は…!!まさしく『ひざ枕』!!

 何と言うことだ…。まさか俺が母親以外にひざ枕をされているとは…。

  ふにふに。

 あっ。やわらかぁい。

「……やっぱ殺そうか?佐神。」

「すみません。調子乗ってました。許してください。許してください。」

 そう言い、立ち上がろうとしたが…

「いてぇ!!!!」

 なにぶん身体から激痛を感じているのだ。立ち上がれる訳がなかった。

「すみません。立てません。許してください。許してください。」

「しょうがないなぁ。このままするかな。」

 ヤレヤレといった顔で躱神は言った。

「召喚。封魔刀、大三元。」

 躱神の手に例の大剣が…、って!!

「何する気だよ!やっぱり殺す気か!?」

ハク!」

  ザクン!!

 俺の身体にでかい刀身が刺さった…?

「い、痛………くない??」

 痛みなど全くなかった。いや、それよりも身体が軽くなった気がする。

「ヘヘへ。大三元の白。この能力は、身体を真っ白に治療する能力。あんたの傷は全部治ったよ。佐神。」

 確かにさっきまで痛かった身体が、嘘のように動く。

「フフフ。じゃあね、佐神。また今度…。」

「……は?」

 そう言うと、躱神は大剣をしまい、カクンと首を落としてしまった。が、すぐに…

「さ、佐神君…。」

「へっ?た、田神さん?」

「…うん。私は田神美香。佐神君と同じクラスの田神美香だよ。」

 なにか懐かしい感じがする。全てを癒すような可憐さ…。思わず見とれてしまう、……が、今の状況に気付き

「あぁ!!すぐにどくよ!!ゴメン!田神さん!」

 立ち上がろうとしたが、俺の頭は小さな手に押さえられた。

「……?田神さん?」

「………………いて……。」

「え?」

「もう少し……このままでいて?佐神君。」

 !!?

 このまま、ということはひざ枕のまま、ということだろうか!?

 まさか俺に気があるんじゃ?

 ………まぁまてよく考えろ。

 これはただの昨夜の罪滅ぼしかもしれない。

 つまり、田神さんは俺にひざ枕を好きでしているのではなく、『そんなにしたくない』けどひざ枕をしているのじゃないのか?

 あぁ、また田神さんに迷惑をかけてしまった。

 田神さんも嫌だろうな…。こんなトラブルの原因を嫌々ひざ枕しているなんて…。

「あのね?佐神君。」

 考えていると、田神さんが声をかけてきた。

「私ね、人格が二つあるの。田神美香と躱神舞、っていう二つの人格が…。」

「二つの人格…。」

 俺の中であの時から引っ掛かっていた疑問があっさり解決された。でも、もう一つ疑問があった。

「やっぱり、そうだったんだ。そういえば田神さん、なんで俺は命を狙われるんだ?」

「…!!そ、それは…。」

「それはわしが教えてやろう。ボウズ。」

 突然後ろから声が響く。

「…!おじいさま!」

「へ?おじいさま?」

 なんと現れたのは田神さんの祖父らしい。見た感じ、がっちりとした老人だ。

「佐神のボウズよ。お前の命を狙った理由は……、ってなに我が孫娘がひざ枕をボウズにしとるんじゃあ!!!?」

「ひっ!?」

「や、やめて!おじいさま!!」



 その後の話をしよう。

 まず俺の命を狙った理由。

 どうやら俺が田神さんを泣かした(?)ことについてひどく怒ったらしい。

 かわいい孫娘を泣かした罪は重い!ということで、わざわざ夜神家にまで俺の抹殺を頼んだぐらいだ、かなりの溺愛っぷりだ…。

 確かそのあと田神さんの

『おじいさまなんて大嫌い!!』

 という一言で、じじいは石になった。

 ……まぁ俺の命を狙った理由はそんなところだった。

 そしてその後どうなったか、というと……。

「やるわね、美香の奴。おじいを石にするなんて。」

 躱神舞がでてきたのだ。躱神は俺と向かい合うと指をこちらに向け

「とにかく、佐神!」

「は、はい!」

 ちなみに俺はひざ枕から開放されていた。あのじじいが払いのけやがったのだ。

 ……まぁ田神さんは嫌がっていたようだったし…、このほうがよかったのかな?

「これからも、私と田神美香をよろしくね!」

 と言ってきた。しかしその時の躱神の顔は反則だった。普段の田神さんからは見られないような眩しい笑顔を向けられたのだ。

 躱神舞…。恐ろしい子…!

 ちなみに俺は無事退院することができた。躱神の大三元のおかげで、以前より調子が良くなった気もするし。

 とりあえず俺は、狂った躱神舞と戦ってはいけないと、身を以って知った。

 あの時は本当恐かった。…あっ、思い出したら涙出て来た。



「ただいま〜。」

 そして今俺は家の玄関の中へ入った。

「あら?勇刀、もう退院できたの?」

 そういえば阿神がいたな。忘れてた、すっかり。

「ああ。まぁな。とりあえず俺、着替えてくるわ。」

 そう、言い残し俺は自室へ入った。

 そうだ、久々に押し入れに隠してあるアレを観るか。病院じゃあ全く刺激が………たくさん有ったが、まぁいい!えーと確かこの辺に……!?!?

「な、ない!?」

 何と言うことだ!俺の秘蔵コレクションが、ない!!一体どうして!?……………ま、まさか!?

  ガチャッ!

「残念♪そこにあったいかがわしい代物だけは全て処分したわよ♪」

 俺は今すぐにでも狂いそうだった。


 

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