第七話 最終手段を取る。
片方が短いので今回は二話連続投稿です。宜しくお願いします。
※文の改行、添削を行いました。
※改稿しました。(内容に大きな変化はありません。)10/19
師匠から「自然エネルギーを視る」という課題を出されてから、早くも一ヶ月という時間が経過し、遂に冬の季節が到来した。
そのせいで、屋敷がある王都郊外でも、雪が分厚く降り積もるほどの大雪が毎日のように降っていた。
そして俺は今、その光景を自室のベットから呆然と見つめながら、長くため息をついている。
「あーあ、ほんとにどうすりゃいいんだろ……」
もちろんこの約一ヶ月間、商人学校の入試勉強との兼ね合いも考慮しつつ、師匠からの課題をこなそうと自分なりに考えて実行するのを繰り返した。
一つ目、とりあえず一点をひたすら見つめてみた。
何度やっても当然のように何も見えなかったが、眼の乾きが原因で続行不可となり失敗。
二つ目、押してダメなら引いてみるということで、次は目を瞑って瞑想というものをやってみた。
なんとなくこれじゃない気はするんだけど、とりあえず判断に時間がかかると思うのでまだ継続中。
三つ目、師匠からの説明に「清める」という単語があったから、とりあえずそういう意味で眼に塩を振ってみることにした。
厨房にある貴重な塩を少し拝借して、眼に振りかけると、猛烈な痛みが眼を襲った。
効果なしということで失敗。
今考えてみると、明らかに「清める」の意味が違うよな……
他の細々したものと合わせて、思いつく限りのことを実行に移したが(どれも成功する期待薄だったけど)、自然エネルギーのしの字も出て来なかったので、だいぶ困っている状態なのだ。
「よし、こうなったら奥の手を使うしかないよな」
俺は、ある人にアドバイスを貰うべく、勢いよく扉を開けて廊下へと飛び出した。
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父さんがいつもなにかの仕事をしている書斎を始め、色々な所を探し回っていた途中、無駄にでかい屋敷の庭を整えていたベラに出会ったので、父さんの居場所を尋ねてみた。
「え、父さん居ないの?」
「はい。旦那様は魔術士協会の定期会合が王都の本部で開かれるということで、今朝お出かけになりました。今回は話し合うことが多くあると仰っていたので、お帰りになるのは二、三日後かと」
一応俺の課題なわけだから、父さんに聞いてみるのは最後の手段にしようと思ってたけど、少しタイミングが悪かったようだ。
「旦那様に何かご相談されるなら、その前に私も微力ながらお手伝い出来るかもしれません。お話だけでも伺ってもよろしいでしょうか?」
「え?いいの?」
あぁー、確かに大体のことを卒なくこなすベラに相談してみるのも悪くないかもしれない。
そう思った俺は、とりあえず魔法のことだけは隠して、課題のことをざっくりと説明してみることにした。
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ベラは俺の話を聞くと、考えるように少し黙り込んだあと意見を述べた。
「みえないものを視る、ですか。何故そのようなことをというのは一旦置いておいて、魔術を利用すればまだ可能性はあるかと思います」
「マジか!でもどうやって?」
「そうですね。まず視覚を魔術でほぼ遮断して余計な情報を排除します」
魔術ってそんな利用方法もあるのか、すごいな。
「そして次に視覚以外の五感、すなわち聴覚、触覚、嗅覚、味覚も魔術によって完全に排除してしまいます。そして脳以外の身体の機能を停止します」
「なんか……大丈夫か、ベラ?」
今のはなんかこう、ハッキリとは言えない、禁忌的な怖さのある言葉だった。
なにより、それを自分に向かって話しているベラの顔に一瞬陰が落ちたような気がしてならない。
「誠に申し訳ございません。聞いていて気分のよくない話というのは重々承知しているのですが……」
ベラは俺の言いたいことをすぐに察知したのか、その場から一歩二歩引いて洗練された深い礼をした。
「こっちこそごめん。俺から聞いたことなのに、なんか怖くなっちゃってさ。続きを頼むよ」
こっちだってそんな簡単に魔法を学べる(まだその前の話だけど)とは思っていない。
少しでも可能性があるのなら、多少の無理無茶があってもやってみせるさ。
「すみません、それでは話を纏めさせて頂きます。先程説明したように五感を魔術でコントロールし、僅かな視力だけを残すことで感覚が研ぎ澄まされ、それによって若しかしたらリオン様が仰られる「視えないもの」が視えるようになる可能性がある。ということでございます」
なるほどね、確かにこれを試さない手は無いと思う。
「説明ありがとう。それじゃあ、これを父さんに伝えて、俺にその魔術をかけてもらえるよう頼んでみてくれる?」
「リオン様、その魔術でしたら私も会得していますのでご安心ください」
「あ、うん。じゃあベラにお願いするよ。というか今日早速なんだけどいける?」
ベラって魔術士の適性が無いんだと思ってたけど、使ってないだけだったのか!
ということは、この屋敷で魔術使えないの俺だけか、なんだかさみしいな。
「承知しました。それでは夕食の後、私が雑事を終わらせ次第、リオンのお部屋に向かわせて頂きます」
「分かった。ゆっくり待ってるよ」
内容が内容なだけに少し怖い気持ちと、純粋に自然エネルギーが視えるかもしれないという期待感が混ざって変な気分のまま、俺は部屋に戻って勉強の続きを始めた。
あー、ドキドキする。
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そして順調に時は過ぎて、太陽は沈み、冬特有の温度がぐっと下がる寒い夜が訪れた。
「この部屋、少し寒いな」
先程まで暖炉の付いている食堂で晩飯を食べていたせいで、丁寧にメイキングされたベットにも、ひやりとした冷たさを感じてしまう。
それにしても今日は勉強し過ぎで、疲れが凄い溜まってるなぁ…………
コン、コン、コン…………
ガチャ────
「……ン様、起きてくだ……。起きないと三時のおやつが無くなり──」
「三時のおやつ!?どこ!」
そのキーワードで飛び起きた俺の目の前には、クスリと笑っているベラが立っていた。
「ふふっ、すみません。リオン様が気持ちよく微睡んでいたもので、つい嘘をついてしまいました」
いつもは硬い表情をしているベラは、俺をからかう時だけは微笑を浮かべるのだ。
とても止めろなんて言えないな……
「なんだよベラー!普通に起こしてくれればいいのに」
疲れていたのか、どうやら半分寝ていたみたいだ。それにしてもベラが昼間の時からいつもの感じに戻ってて安心した。
「それでは気を取り直して魔術の方をかけさせてもらいます。基本的に五感を始めとして平衡感覚なども失われる形になりますので、ベットに寝て頂いた方が良いかと」
俺はその言葉に従って、再びベットに横たわった。
「また、魔術が完全に発動するまで少し抵抗があるかもしれませんが、直に慣れますので安心してください。それと時間が経てば魔術の効果は勝手に切れますのでそちらの方も心配無用です」
「了解したよ。その、痛くしないでね?」
俺の軽口にニコッと笑顔をつくるベラ。でもその笑顔はやはり苦いというか、別の物が含まれている微笑のような気がするのは考え過ぎなのだろうか?
「承知しました、では魔術を発動させます。『闇よ、蝕め。暗がりの底へと』」
ベラの少し長めの詠唱を合図として、目でも見える黒い霧のようなものが俺の身体を取り囲んでいく。
そしてそれは少しずつ、徐々に、まるで体に回るのが遅い毒のように俺の五感を奪っていった。
痛いとか無いけど普通に怖い。
────もう、何処も視えない。なんの匂いもしない。何も聞こえない。
握り締めていた手のひらの感触さえも、ゆっくりとだが確実に消えていく。
「おやすみなさ──せ。リオ──」
そして徐々に、自分の思考だけが頭の中でぐるぐると渦巻き始め、何かが途切れた。
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