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第六話 難題を押しつけられる。

※改稿しました。(内容に大きな変化はありません。)10/19





 そして次の日の昼過ぎ。




「お前、また来たのか?何しに来たんだ?」


「えーっと、その、地下の片付けの続きです」


「ふんっ、それならさっさとやってこい。のろまが……」


 ルックウット書店に入った瞬間に、またネデラおじさんに睨まれたので、適当に嘘をついておいた。

 というか、昨日整理しろって言ったのはおじさんだった気がするんだけど?


 俺は思わずそう言ってしまいそうなのを寸前で呑み込んで、目的の地下の部屋へと続く階段を足早に降りていく。


「約束通り来たけど?」


 やっぱり昨日の出来事は俺の脳が血迷っていた訳ではなかったらしい。


 なぜなら、初めて入った時にあれだけ埃だらけで汚かった地下の部屋は、今では信じられないくらい綺麗になっていたからだ。


 そしてそれは『魔法』によってものの数秒で実行されたのである。


「やぁ、待ってたよ少年。僕は此処で寝ることもなく、何百年と見つけてもらうまで居たわけだけど、こんなにも時間を早く進めたいと思ったことは今までに一度もなかったよ」


 そして、このちょっと常人にはわけの分からないスケールの話をしているのが、この部屋を魔法によってホコリひとつなく掃除し、見事俺の師匠となった一つ目の喋る本だ。


 説明していると存在自体がデタラメに感じるけれど、それが事実なのでどうしようもない。よな?


「それじゃあ、少年には今から魔法について色々教えていくわけだけど、契約の時は半ば強制的な部分もあったから一応聞いておくね?まぁなにを今更と思うかもしれないけど、やるもやめるも本来なら少年自身が決めることだからさ。もちろん昨日した師弟関係もやめる場合は破棄するよ」


 この自称美女を語る本は、何百年も待たされているというのに、意外とのんびりとした口調でそう話している。


 声色一つ変えず俺に拒否する選択肢を与えてくるとか、変人なだけなのか、それともなにか考えでもあるのか、全く持って思考が予測できない。


「…………」


 正直な話、ここまで足を運ぶのにも本当は葛藤があったし、今も本当の本当には信用できていない。


 それどころか、昨日から魔法なんていうのは、やはり嘘や冗談の類なんじゃないか。と思っていたくらいだ。


 それに、商人として成り上がるために勉強すべきことは山ほどあるのだ。勉強と魔法の修練を両立させるのは困難を極める事ぐらい誰だって理解できるだろう。





 いや、それでも、それでも──だ。






 少し形が違ったとしても、もしあの潰えたはずの「約束」を果たせるのなら、人生の一つや二つくらいは賭けてやるぐらいの覚悟は元からあったはずだ。


 それに、どのみち乗りかかった船なんだから、ここまで来て乗らない手はないと思うのは必然だった。

 というか、こんなこと聞かされたら今更諦められるわけないだろ!


「……よろしく、お願いします。俺に、魔法を教えてください」


 目線を少し上げると、俺が清々しく頭を下げたことに師匠は若干驚いている(感じの目の開き方をしている)のが見えた。

 それが今はちょっといい気分だったりする。


「分かったよ。それじゃあボクも少年の誠意に応えないとねっ!…………ってことで、なにからやろうか?」


 おい、さっきまでの雰囲気を返してくれよ師匠。


「そうそう、まさかとは思うけど、魔法が無くなってても、流石に自然エネルギーとか魔力を視るくらいはできるよね?」


 え、初っ端から何言ってんの?この本。


「は、はは。てか、それって師匠には視えるものなの?」


「まさか視えないのかい!?昔は魔法が使えない人も自然エネルギーとか魔力を視ることくらいはできるのが当たり前だったのに……」


 ちょっと待て、それが本当なら大分おかしなことになってるぞ?


 まず、現代で言う自然エネルギーや魔力というのは感じることやイメージすることは出来ても、直接目視したり、それを可能とする道具も存在しておらず、魔術の発動プロセスについてもあくまで学説的に一番有力なものであるだけというのが現状だ。


 一方で、師匠の生きていた時代には自然エネルギーや魔力を視ることのできない人の方がむしろ少ないというような感じだった。


 このチグハグな知識的進歩の違いはなんなんだろうか?


「じゃあもう仕方ないね、そこから教えていくとするよ。いいかい?大切なことだからよーーーく耳を澄まして聞きなよ?」


「分かった、心して聞くよ」


 この変人師匠の事だからと少し心配はしていたんだけど、ようやく魔法のことをちゃんと学べるような雰囲気になってきたな。


「自然エネルギーや、それに続く魔力というのはどこにでもあるように感じるけど、本当の意味ではひとつしかない「世界」と一体化しているものなんだ。例えば今この瞬間でも、僕の目には自然エネルギーがフワフワと浮かんでいるのが視えているんだよ。でも少年には何ひとつ視えていない。この違いが何か分かるかい?」


 へー、自然エネルギーってフワフワ浮かんでる感じなんだ。ってのは置いておいて、違いを考えないと。


「うーん、なにかコツがあるとか?」


「ブッブー。残念、違いまーす!正解は……」


 言い方が何故かすこぉーしだけ、イラッとくるなぁ。


「僕の目が曇っていないからでしたー!ということで、君も目を清めないとね?」


「……は?」


 毎度毎度の事だけど師匠は何言ってんのかわけが分からない。

 別に今だって、目はパッチリ開いていて視界も良好だし、目も元々悪いわけでもない。


「ということで、最初の課題はとりあえず自然エネルギーを視ることだから、それが視えたらまたここにおいでよ。そしたら次の課題を出すからさ!」


 おいおい、なに勝手に話終わらそうとしてんだよ?あんだけで分かるわけないだろ!


「ちょっと待って師匠!今のじゃ何もわからないんだけど」


「……」


「せめてもう少しアドバイスとかさぁ、くれたっていいだろ!?」


「…………」


 あれ?師匠から反応がまるで無い。


 試しに本である師匠を手に取ると、なんと目も何もついていない、ごく普通の本に早替わりしていた。

 こんなことも出来るのか師匠、せこいぞ。


「嘘だろ……ていうかこれ、絶対課題を終わらせないと元に戻ってくれないやつだよな?」


 覚悟はしていたけど、やっぱり魔法を学ぶっていうのはかなり難易度が高いらしい。





 いきなりの無理難題と、わけも分からないヒントに頭を抱えながら、俺はルックウット書店をそそくさと出て行くのだった。




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