第二十四話 試練その二。
大変お待たせしました。
「……ねぇねぇ!これさ、出だしカンペキっしょ!」
「……そうねぇ、魔法使いのボウヤの反応はどうかしら?」
じーーーーっ。
そう見つめられても褒めることはないんだけどなぁ。それよりも、『湖の乙女』の試練とか言うのが気になる。
「……あ、あの〜、湖の乙女の試練っていうのは?」
じーーーーーーーーーっ。
「いや!すごい驚きました!はいっ!」
「フフン!」「あらそーう??」
俺の事を黙殺した二人は白々しくそう言いながら手を取り合って照れているようだ。
まぁさっきみたいに問答無用で襲われるよりはいくらかマシだと思うか。
「ってことでぇ、自己紹介するぜ!オレの名前は『アン』だ!そしてこっちのオネーチャンが!」
「ワタシの名前は『ヴィー』よ。よろしくね?」
湖の乙女、アンとヴィーか。この前の火の精霊は単体だったけど、二人である場合もあるんだな。
「アンブローズ・リオンです。よろしくお願いします。それで試練の内容を教えてもらっても?」
とりあえず自己紹介を無難にこなして、試練の内容を聞き出してみることにした。
「んあーーーリオン、それが考えてなかったワケじゃねぇけどまだ決まってなくてなぁ。オネーチャンなんか思いついてっか?」
「アンちゃん、そのことなんだけどね……」
その場で背を向けてヒソヒソと話を始めてしまった二人。いやあれだけ試練って言ってたわりに決まってないとかあるの?
――それから十分経過。
「お待たせしたわねーリオンちゃん、ようやく試練内容が決まったから発表するわね……せぇの」
「「その名も、『一撃入れるまでやめられま戦』です(だ)!」」
「え、あ、はい……」
――パチパチパチ。
俺の手を叩く音が静かな湖の辺り一帯に虚しく響く。なんだこのグダグダ加減は……。
「まぁ簡単にいうと、オレかオネーチャンに何でもいいから一撃当てるまで終われない試練ってことだなっ!大丈夫か?」
「この試練ではちょ〜っと痛いかもしれないけど、アンちゃんが傷一つなくしちゃうから大丈夫よ?安心してねリオンちゃん」
急に二人とも早口で説明し始めたなぁ。簡単に言うと二人と戦って自分の力を示してみせろってことか。そういうことなら――、
「分かりました、よろしくおね」
――視界が、ズレた?
「先手必勝、だよ?リオンちゃん〜」
何が起こった?分からない。分からない。分からないけど口の筋肉が強制的に止まって、それで――――。
「そらリオン!もう半割りされてんぞ!ノロマだなぁ!」
視界の目の前には、何故かヴィーさんによって
″すでに振り下ろされている大剣″が地面を大きく抉っていた。
――まるで今さっき、俺の全身を真っ二つにしたかのように振り下ろされている大剣には、恐ろしいほどに大量の血が付着していたのだった。
「……う、うああああああ!!!」
意味がわからない。あの血はどう考えても俺のものだ。だけど自分の身体をベタベタ触っても傷はおろか、衣服の綻びすらも感じられない。
「な、何が……?」
「説明不足だったかぁ?ようは、いくら致死攻撃をお前が受けてもオレが治してやるから、精一杯頑張ってやるだけってことだ!!そらネーチャンがいくぞっ!?」
突然のことに驚き、立ち尽くしている俺に容赦なくヴィーさんが詰めてくる。
「ははっ!久しぶりに楽しいね〜。リオンちゃん……しばらく動けないと思うけど勘弁して、ね?」
顔に俺のであろう血が沢山付いているのに、まるで気にしていない。それなのに、その完璧な美貌は消えず、寧ろ恐ろしいほどの磨きがかかっているようだ。
そして、その手に握られているものをしっかり視ることができた。それは水の魔法で精製されている研ぎ澄まされた大剣の刃。
薄く、鋭く、朝日に晒されたそれは、眩い輝きを放っていた。
これが水の魔法か――――、
「綺麗、だ」
――腕、脚、肩、胴体、手、首、切断、散切り、骨を断ち、そのまま無くなる、喪失、しかしその感覚はない。逆再生のように骨が繋がり、血が一粒残さず舞い戻り、肉が繋がり、傷が無かったことにされる。血が吹き出しているのにまるで死ぬ気がしない。首の位置が定まらない。視界が自分の意思に反して揺れる。これは落ちている感覚だ。そして戻る。感覚はあるのに痛みが伴わない。死ぬときはこんな風なのだろうか。ヴィーさんは強すぎる。というか肉弾戦に持ち込まれて勝てる気がしない。一発だ。一発当てればこの地獄は終わる。まずは離れなければ。いや、脚が千切られている。平衡感覚がおかしい。なんだこれは、なんだこれ、なんだ、なん、な。
終わる気配を感じさせない第二の試練がたった今、始まった。




