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第二十三話 逃亡の先で。



「……これ、走り出したのはいいけど、絶対迷ったよなっ!!」


 戦う準備万端のトロイに目眩しの魔術を放って駆け出したのはよかったのだが、その後の問題が多すぎる。


「おめぇ、オレサマの速さとハナを甘くみてんダろッ!!」


 相手は視覚を奪われたが、狼化トランスにより獲得した獣の嗅覚と俊敏性。

 それに比べ、こちらは頼りの視覚は光源のない森の中でほぼ死んでいる上に、ツタや枯葉だらけの悪路で足を取られてしまう。



 ――ていうか、手の構造も変わって四足歩行も可能なのは反則だろ!!そのまんま狼じゃねぇか!!



「!?げっ!!」


 言わんこっちゃない!一瞬トロイに意識を向けた瞬間、大樹のねっこに足が引っかかって派手に転んだ。


「へへっ!オレサマがここを選んだ理由がヤっと分かったカ!!そんジャおとなしグエ!?」


 余裕綽々なトロイの声が不意に途切れた理由、それは俺が仕掛けた「トラップ」が上手く発動したからである。


 ――原理は簡単。俺の十八番になった『シルド』の無詠唱空中設置、ちょっとした応用だ。


 相手が追ってくるのであれば、ある程度の場所は絞られるし、魔法の法則である、「発動する魔法の距離が遠いほど魔力を多く消費する」という問題もそれほど考えなくていい。


「へっ引っかかってやんのー!トロイの間抜け!」


「んだとこのモヤシヤローがぁ!!!ブちのめしてやる!!!」


 安い売り言葉に吠えるトロイを見て、俺は確信する。


 狼化トランスの穴、それは「血の気が多くなる」ことだ。

 おそらくトロイが通常の精神状態であれば、この圧倒的有利な追いかけっこで焦ることなどないだろう。


 ただ、口調が変なところといい、トロイに流れる獣の血が冷静な判断よりも戦闘――、というより狩りへの興奮が耐えきれないのだろうと俺は考察した。


「ていうかそれで当初の戦いたい理由まで忘れてもらっても困るんだけど!!」

 「マテやアンブローズぅぅぅ!!」



☆☆☆☆☆☆☆☆


 そこからは冷や冷やする追いかけっこが続いた。トロイの体力が切れるのが先か、俺の魔法が攻略されるのが先か。正直に言うと、俺の方が圧倒的に分が悪い。


「あぁもう!いつまでこれやるんだよ!もうしんどいっ!!」


 なにしろ、体力がもう限界突破してる !呼吸が苦しい!


 ――ダメだ!ベラとの修行を思い出せ!集中力が切れたら魔術士はお終いだろ!?俺ほぼ魔法しか使えないけども!!


 トロイは狼化トランスの代償で興奮状態にあるからなのか、単調な動きでしか俺を狙ってこないため、何とか魔法を使いながら逃げ惑っていた。


 ただ、それも所詮は時間稼ぎにしかならない。肝心の森の出口はもう既にさっぱり分からなくなってしまっているのだ。


 となると、学校の敷地にいる警備に助けを求めるか、素直にトロイに従ったあと出口まで案内してもらうかになるのだが、


「ガアァアア!!!」


 後者は無理っぽい。トロイがもはや言葉を話してない。ていうかこれ俺が捕まったら食われそうな勢いなんだが!?


「あーもう、どうすればいいのか分からん!って、いつの間にこんな霧が……」


 先程から追跡から逃れることに必死になっていた俺は、森の中に霧が発生していたことに気付けないでいたようだ。


 ――でも、それにしてもいきなりこんな濃い霧が発生するものなんだろうか?


「……あれ?」


 先程まで聞こえていたトロイの荒々しい足音が聞こえないことにふと気付いて後ろを振り向くと、そこには霧で空すらも窺えない静かな森が呆然と広がっているだけだった。


 おかしい。トロイとは付かず離れずの距離を取っていて、不意打ちをされないように気を配っていたはずだ。

 ただ、トロイが今まで理性がないフリをしていて油断を誘い、今俺に魔術を仕掛けているということもあるだろう。


 ――とりあえず俺は視てみることにした。


「なっ……魔法だって?」


 そのまさかだった。この森に突然発生した濃密な霧。その正体はとんでもない魔力量の、おそらく水魔法だろうと思う。


「師匠がいるわけないし、術者はトロイ?なわけないよな……あ、あれってもしかして」


 そう独り言を話しながら歩いていると、ちょうど真っ直ぐ行ったところに、何やら開けた場所が現れた。


 ――なんだろう。あからさまに誘導されている気がする。


 そう感じた俺は警戒を続けながら、ゆっくりとその歩みを止めずに進んでいく。そして、濃い霧が晴れているその先にあるのは、水面が見渡せるほど広い湖だった。


 それと同時に見えるのは、ほとりの前に立つ誰かの後ろ姿。


 深夜に開始された追いかけっこで、どれだけ長く逃げ回っていたのだろう。ちょうど白みがかっていた空に眩い朝の光が顔を出した。


 そしてその光が、おそらく先程の霧を創り出したであろう張本人の「誰か」を不意に照らし出す。



「――あら。あらあらあら、こんな所まで辿り着いてしまったのね」


「え!マジモンなやつだー!何年ぶりだよナマニンゲン!!」



 湖の前に立ってこちらに振り向く彼女達は、神々しい程の美貌を持つ二人の女の子だった。

 ただ、その人形のように整った顔立ちが瓜二つ過ぎて逆に気味が悪い所もあるのだが。


「…………」


「それじゃオネーチャン。いつも通りのいくよー?」

「はい、いきましょー。妹よ」


 というか、なんだろう。この物凄いデジャヴ感。身震いが止まらないんだが、誰か助けて欲しい。



「「はい、せぇーのっ。さぁ、魔を操る者よ。『湖の乙女』の試練を超えてみせよ!」」


 

 やっぱり精霊だったか……てか!その前にこいつらも絶妙に下手!精霊は事前打ち合わせできない奴ばっかなのかよ!!



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