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第二十話 実技の授業。(1)

だいぶ間が開いてしまいました。すみません



 「――おーい。もう起きるにゃ、リオン君」


 「いや、もうちょっと……寝かせ、はっっ!!?」


 師匠の呼び声で飛び跳ねるように身体を起こした俺は、今自分が「希望の種寮」の男子部屋に居ることに気付く。


「ふぅ、何とかなったか」


 あのとんでもない喉の乾き、めまいが全く感じられないことに少し安堵した俺。


 今まで砂漠はぜひ行ってみたい場所の一つだったが、今回のことで二度と、いや、一度も行きたくない場所になった。


「とりあえずそのまま寝てたからボクが部屋まで運んでおいたんだけど、試験はどうだったかにゃ?」


 「どうかと言えば、キツかったとしか言いようがないけど、ほら。『炎よ』」


 師匠に試練を潜り抜けたことを証明するため、魔札を取り出さずに火の魔法を実行する。


 部屋の中ではあまり大きくすると危ないので小さめだが、そこには若干暗い部屋を照らす青紫の炎が発現していた。


「いいね、うん。いいにゃ!!その魔法は取り扱いが難しいからちゃんと練習しなくちゃね」


 嬉しいのを尻尾を振って表現する師匠。本の時よりも感情表現がわかりやすくて助かるよ。


「――おはようでござるリオン殿っ!」


 そうこうしていると。どこからか戻ってきたハンゾウ先輩が扉を勢いよく開けて中に入ってきた。

 それを見た俺はすかさず魔法を消し、何事も無かったかのように挨拶をする。


「おはようございますハンゾウ先輩、どこに行かれていたんですか?」

 「なーに、早朝の修練でござるよ。拙者の日課なのでな」


 ちなみに朝だろうと夜だろうと関係なく、ハンゾウ先輩は狐の仮面を付けているようだ。

 まだ一日一緒に過ごしただけだけど、いつかは素顔が見れるんだろうか?気になるところだ。


「ぐぐ、ぐがぁー」


 先程からガーガーといびきが聞こえるな。と思ったら、三つ用意されていたベットの一つでカッサンドラ・トロイが熟睡していた。


「今日は『実技』の日なのにトロイ殿はまだ寝ているでござるな?一緒に叩き起すでござるよリオン殿っ!!」


 「……え?あっ、はい!」


 自分も完全に忘れていたので人のことは何も言えないのである。いや、師匠様様だよ。


「ボクにお礼をしたいなら魚をくれると嬉しいにゃ。というかよこしなさい」


 「師匠、まさか味覚まで猫に?」


「リオン君ね、それ失礼なのにゃ!ボクは元から好物が魚なの!!」


 師匠は魚が好きなのか、あんまりイメージしずらいな。いや、今の姿だと納得だけどさ。


「っ!?これは手強いでござるよリオン殿!独り言いってる前に手伝うでござる!本気で遅刻案件でござる!」


「わっ、分かりましたー!」


 『実技』の記念すべき一回目の授業。シード男子寮組は、結局遅刻スレスレで集合場所の闘技場に到着することとなった。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「それでは本日一回目、『実技』の授業を始めていこうと思います――」


 実技授業の場となる闘技場には意外なことにシードだけでなくフロリアの生徒までもが集められていた。


 フロリアの生徒達の中でも、入学当時の成績や今後行う試験の結果でクラスが別れるらしく、その影響もあってヘラヘラしている生徒などはいない。


 ――だが、


「おい、あれがタネか?俺初めて見たぞ」

 「あー出た、この学校に相応しくないクズ共の集まりだろ?」


 どうやら一定数、俺らのことを圧倒的下に見ている輩がいるらしい。まぁ、入学の時に薄々気付いては居たけどさ。


「ちっ!アイツらふざけやがって!やんのか!」


「はいエイル落ち着いて。お前の唯一好きな授業なのにつまみ出されたら嫌だろ?」


「うぅ、だってよぉ!ん?」




「……みな、お静かに」



 先程授業の始まりを告げた先生の声でゴソゴソと話していた生徒達が自然と黙る。


「――魔術とは心の操作を必要とします。すなわち、あなた達は常に己の思考を持ち続け、具現化するだけの心の安定が求められるのです。はっきり申し上げて、そのような体たらくでは今後の授業が心配ですよ」


 少々きつい言い方ではあるが、皆が正論を叩きつけられたことで反省の色を見せている。


「ということで、シードの方々は外で担当の先生が待っていますので、移動をお願いします」


 え?この人は結構差別意識もなさそうだし、教えるのも上手そうだと思ったんだけどなぁー。


 先生にそう言われてしまったので、とりあえず闘技場を出て、校庭に向かう。


「……こ、今年も――でござるか」


 ハンゾウ先輩が何か言っているが、どうしたのだろう?嫌な予感がするので、詳細は聞かないことにする。


「あれ?トニー先生、どうしたんだ?」


 エイルが言う通り、校庭には俺たちの担任教師であるトニー先生が立っていた。


「あぁー、これは別に私が教えるというわけではなく、あの厄介な実技担当が遅れているからで……」


「んんんー?ぬぁーにか言ったかしらブラウンちゃん?とくに「あの」辺りから聞こえてなかったわよ?」


 やれやれと言った感じで話すトニー先生の後ろに、いつの間にか身長の高い誰かが立っていた。


 そして話し方が風貌と絶望的に合っていない。だいたいブラウンちゃんってなんだよ……


「な、なんでもないですよ、えぇ。そ、それでは私はここで……」


 トニー先生はその声を聞いた瞬間、顔を真っ青にして逃げるように校舎に行ってしまった。


 ――その様子を見た俺達の間に、異様な雰囲気が生まれる。主にこの人大丈夫か、的な。


「…………なぁーによもう!ブラウンちゃんったら。まぁいいわ、ごきげんようワタクシの生徒ちゃん達!」


 こちらに向かって踏みだす脚は木の幹のように太く、揺れる脂肪などないほどに引き締まっていて、ピッチピチのショートパンツがほとんど機能を果たしていない。


 彼?が上半身裸な理由、それは胸筋と腹筋、背筋が仕上がり過ぎている上に大き過ぎる身長。そのスケールに合う服のサイズがないのだろうと邪推する。


「「「…………」」」


 「…………ひっ」


 シードの皆が黙りこくる中、サン・マリラが堪らず恐怖の声を漏らしてしまう。


 まぁ確かにあの筋肉ダルマは怖いな、その気持ちはよく分かる。でもあれ、俺らの教師だよ?


「ふっ……ふはっ……あぁやばい面白ぇ……ムキムキで半裸で虹色の髪の三つ編みだとぉ?面白すぎて俺死にそーだわ、てかもう死ぬぅー!ぎゃははは!!」


 そう、この筋肉隆々の人、おそらく虹色に染めたであろう長髪を三つ編みにして背中に垂らしているのである。


 ――そうじゃなくて、トロイぃ?


「…………へぇー?いい度胸ね。小粒が」


 「あ?ああああああああぁぁぁ」


 目にもとまらぬ速度でトロイの前まで移動した実技担当の先生は、よく分からない体術のようなもので大柄な彼を声が遠くなるところまでぶっ飛ばした。


「や、やっぱり今年もでござるかぁ……」


 今度こそ完全に場が凍りついた。


 だからいつも余計なことを言うハンゾウ先輩はこのことを知っていて黙っていたのか、教えてくれればいいのに。


 ――ま、まぁとりあえず拍手しとく、か。


 俺の拍手を合図に、パチパチパチ……と静かな拍手がなる。


「ちょっとそんなに褒めないでよォ〜リオン君、アルクちゃんに自慢しちゃおっと!」


 おぉ、俺の父さんをちゃん呼ばわりか。この人ほんと凄いな。ていうかなんで俺の名前を知ってる?


「あっ、ワタクシのことはピンキー先生と呼んでね?年齢はナイショ!スリーサイズもナイショよ!よろしくね、み・ん・な!」


 俺達生徒の死んだ笑顔を横目にピンキー先生の元気いっぱいっ!(物理)実技授業は始まりを迎える。






 ――え?ねぇ性別は?






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