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第十八話 一対一。



「というわけだから、早速始めようか?初手は譲ってやるよ」


 余裕の笑みを浮かべながら魔札を取り出してそう言ってくる俺。いや、俺っていうのはおかしいのか?あーもう面倒くさいな!


「じゃあお言葉に甘えて……っ!」


 無詠唱で『衝撃インパクト』を不意に打ち込む。こいつがどういう魔術、あるいは魔法を使うのか分からないため、様子見はある程度必要だろう。


「『炎よ、燃え盛れ』」


 俺の魔法と相手が放った人をそのまま包み込みそうなほどの火の玉が真正面からぶつかり、お互いに消える。



 ――やっぱり魔術だけ・・か?


 もしこの嫌味全開な幻か何かが俺の理想だった場合、性格は無視したとしても間違いなく「魔術師としての才能」を父親から引き継いでいるのは明らかだ。


 そして今の俺とは違った道を通っているということは、あの場所で師匠と出会っておらず、魔法を使うこともできない。それがまだ救いか。


「俺は魔法が使えない……って今頭の中で考えてるだろ?でもな、魔法なんて俺は要らないと思ってる――『水よ、渦巻け』」


 突然下から飛び出してきた土色の水によって視界が塞がれた。相手はどうやら魔術の肝である魔術のイメージが洗練されているようで、詠唱に迷いがなく、正確だ。


「……っ!それはヤバい!」


 よく見れば全方位からだんだんと迫ってくる分厚い水の壁が俺を取り囲んでいる。

 この渦潮を創り出したかのような魔術に一度呑み込まれてしまえば、まず抜け出すことが不可能だろう。

 

「『武装アムド』からの『シルド』!」


 まずは防御力を最低限あげておき、それから透明な盾を創る。今回もベラとの模擬戦で使用した敵の攻撃を受け流すための反りが入った大きな盾を採用した。


「おらぁぁぁぁあ!!!!」


 盾を前に構えて刻一刻と近づいてくる渦潮に向かって自ら飛び込んだ。俗に言う突撃というやつだ。


 そして透明な盾と相手の水魔術が接触する瞬間、己の中に存在する「魔の蔵庫マジックストレージ」から魔力をグイッと引っ張り出す!


 無属性魔法とは魔力をそのまま利用した魔法だから、込める魔力量でその強度が決定することが今のところ分かっている。

 そうすれば当然それは魔力を元に構築されている魔術にも通用するということ。そしてそれは、込められる各属性の魔力にある程度枷が付けられている魔術との大きな差になるのだ。


 強化された魔法の盾はそのまま土色の渦を抵抗なく押し退けて遂に――、


「――――残念だったな。『土よ、突き上げろ』」


 俺が渦潮の中を抜けてくるのを予測していたかのように、正面から瞬間的に発動される土の魔術。

 俺は足元から突き出してきた岩石のような魔術によって空中にカチ上げられてしまった。


「うっ!!」


 何とか不格好に着地したことで相手との距離感が近くなってしまった。それにしても、ベラとの訓練でコテンパンにぶっ飛ばされてなかったらここでやられてたかもな。


「言っとくが俺はお前の辿ってきた道を知っている。まさか魔術の才能がないとは、今まで後悔ばかりの人生を送ってきただろうに、なぁ?」


「……後悔?別に俺は誰かに慰められたいが為に今まで頑張ってきたわけじゃない。それと、それだけのことで勝った気になるなよ」


 俺は両手を余裕綽々な奴に向けて佇む。


「俺が負けるとでも?『風よ、弾丸と成りて駆けろ』」


 雲一つない夕焼け空を背景に発現したのは、風の弾丸。その数は五発。



 ――魔術の場所を把握しろ。魔術の起動を予測しろ。全てを視るんだ、全てを――――。



「『誘発盾トラップシルド』」


 魔札によって現界した五つの風の弾丸は、その瞬間に消えてしまう。


「ほぉー、これが魔法とやらの力ね。俺の魔術が簡単に無効化されたわけだ……」


「……褒めてるのならどうも」


 奴め、見事に勘違いしているようだ。


 俺は魔術が発動される場所と移動する場所を目で視た後、その場所に小さな盾を創る。そうすることで秒もかからず魔術が誘発されてその場で消滅するという寸法だ。


 実際のところ、俺は魔の蔵庫マジックストレージの容量が底が見えないほど大きいらしいので、集中力の維持が課題になるだろう。


「よし、じゃあ俺も出し惜しみなしで行かせてもらう。『風よ、弾丸と成りて降り注げ』」


 ――魔力の位置が正確に把握できない、別に魔力が視えていないわけではないんだ。あまりに広範囲すぎて、


「『守れっ!』」


 確かに一つとしては同じ風の魔術だ。しかし、その数が大凡百を超えている。今の俺では対応しきることなど不可能だった。


 ――ドドドドドっ!!


 激しい雨のように連続で射出される風魔術が、俺が急創した円形の透明な障壁に遮られる。だけど所詮は場繋ぎ、防御に徹するのは敗北への一歩だと俺は学習している。


 それにしてもある程度は予測していたけど、魔術士協会のローブを羽織っているだけのことはあるな。


「だったら俺も。『光よ、輝け』!」


 俺は敵の前に唯一使うことのできる光魔術を放つ。そして、それと同時に打ち出されていた魔術が途切れた。今が初めて出来た隙っ!


「障壁解除っ!『ロード』」


 この時を待っていた。俺は無駄に足を取られる砂漠の上に、敵へと続く透明な一本道を創り出す。


 俺は土魔術で吹き飛ばされた後から、意識してずっと距離を取らずに戦ってきたので奴との距離は目視で五歩程度だ。


 ――まだ相手は動いていない。その間に一歩、二歩、三歩で加速して、右手で何も無い掌を握る。


「『透徹剣ソード』」


 握りこんだ手の中に現れたのは、魔法で創られた透明な剣だ。この剣を扱うのにどれだけかかったか!この野郎!


 やはり最強の攻撃は最強の防御。家に置いてあった直剣を原型に創ったので見た目は地味だが、威力は十二分にある。


 ――四歩目で強く踏み込んで、腰を落とす。


 自ら創り出した透明な床から伝わる力を上半身に、それから右腕に移動させ、腕を鞭のようにしならせる。


「はぁぁぁあああー!!」


「…………」



 ――斬り掛かる瞬間、焔のように煌めく眼光がこちらを見据えていることに気付いた。


 そして、まるでさっきまで息を殺して隠れていたかのように急に大きくなる存在感。そして息が詰まるほどの危機感に襲われる――。











 ――いいですか?リオン様。格上の相手を遂にやれると思った瞬間、貴方は間髪入れずに敵を葬り去る全身全霊の攻撃を放つのでしょう。



 これはベラは口を酸っぱくして教えてくれた一対一での心得だ。でもこれにはまだ続きがあってだな?



 ――しかし、それだけではダメなのです。相手は格上、常に隠し球を持っている可能性を疑い、次の一手、二手、三手を考えるのです。そしてそのタイミングは――――、



「全身全霊、渾身の一撃と同時刻っ!!!俺の勝ちだぁぁぁぁああ!!」


 俺が剣による一撃を放ち、陽炎に何らかの形で接触する時刻と同じタイミングで背後から刺突を狙う無詠唱で創られた「もう一つの『透徹剣』」が敵を穿つ!





「…………実践も、勉強も、思考も、何もかも足りていないなお前。やり直しだ――」




 背後からの声の後、身体全体がブレる。


 そこから一瞬遅れてきた痛みに息を吸うことも吐くことも出来ず、俺の意識は潰えた。













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