第十四話 無理解な初日。
遅くなりました。
お読みください。
寮から学校へ短い登校を終えた俺達三人は今、シードの生徒専用の狭い教室で先生の話を聞いている。いや、聞いていた。
「それでは種の皆さん、今日から本格的に授業が始まるわけですが……」
「す、すすずずぅー、ズビバベン~~!!(すみません)」
「「「…………」」」
席はだだっ広い教室に、二列。
右側の列には先頭にエイル、次が俺、俺の後ろにハンゾウ先輩が座っている。
そして左側には一席、先頭には件の問題児、カッサンドラ・トロイがいつも通りしっかりと寝ていた。
そして、すごい勢いで号泣しながら水色の長髪を震わせている乱入者が部屋の入口に立っているというちょっとよく分からない状況。
——というかあの女の子、どこかで見たことがあるような気が……
「……って、マリーじゃねぇか!お前も種なのかよ、嘘だろ!?」
先生までも固まってしまった教室で、一人席を立って声を発したのは、以外にもエイルだった。
「…………え?エイル様?なんでこんなところに?私と反対で花の教室とお間違えになったのですか?」
先程まで鼻水と涙が判別できないほど泣いていたはずだったが、エイルを見た瞬間にすとんと泣き止んだ彼女。
「失礼!エイル殿はそちらの麗しい御仁と、どのような関係にあるでござるか!」
エイルの次に席を立って質問をしたのは、またもや以外なハンゾウ先輩だった。
「あぁ、こいつはヴァルナ家に仕える治癒魔術士の家系の一人娘、サン・マリラだよ。コイツ緊張しいだけど、普段の魔術の腕は凄いんだぜ?」
「エッ、エイル様!そんなことを言わなくても……」
仲が良さそうに話しているふたりをよそに、ハンゾウ先輩はサン・マリラのある一部分に異様に熱い視線を送っている。
そこには実りに実った、たわわなアレが……
幸いにも、そのことは俺しか気付いていないようだが、もしエイルにバレたら俺共々殺されそうだから、俺は知らんぷりしておこう。
————そう思った矢先。
「失礼だとは思うでござるが、よかったらマリラ殿の胸囲寸法をご教授してはいただきませぬか!?む、ムフフ!!」
「えっ!?ひゃ!!ひゃめてくだ!」
先日見た瞬間移動でサン・マリラの目前まで移動したハンゾウ先輩は眩しい笑顔、は仮面で見えないが、そんな表情をしてそうな快活な声で欲望全開な質問をぶつけている。
おかげで質問された方は、恥ずかしいやらびっくりするやらで今にも失神しそうだ。
慰めがわりに手で自分の身体を隠している。今更遅いだろうとはまさか言えないが。
「てんめぇ……ぶっ殺されたいのかこのエロ忍者が!」
エイルは鞘に収まったままの剣を先輩に向けている。やばいこれ学級崩壊とかいうやつだ……
授業が始まる前に行われた茶番は、結局先生が注意するまで続行されていた。
本当にこのクラスで授業は進行するのだろうか?俺は心配事が一気に増えてしまったように思う。
「はぁ……」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
すっかり落ち着きを取り戻したサン・マリラは先生からの質問を受け、花のバッチが間違えて自分の所に配布されていたことを話した。
「そういう事でしたか、それは……ぬか喜びさせてしまい、すみません」
「い、いえ!先生はただ間違えただけで、本当は実力の足りない私が悪いんです!」
事情を知って謝る先生に、逆にペコペコと謝り倒すサン・マリラ。
急遽生徒が一人増えたということで、カッサンドラ・トロイの後ろ、つまり俺の隣にサン・マリラの席が配置された。
————あっ、目が合った。
さっきまで鼻水垂らして泣いたりしていた彼女だったが、何故か今はそんな弱々しい雰囲気が払拭されるような意思の強い瞳を……
「あ、あの!…………よろしくお願いします……」
「あ、アンブローズ・リオンです。よろしく」
なんだー、どうやら緊張していただけらしい。俺も内心緊張しているからお互い様だよな。
「さて、それではさっさと自己紹介をしてお待ちかねの授業にしましょう。私の名前はトニー・クラウン。君達シードの「実技」以外。いわゆる「座学」なんかは僕の担当になるから、よろしくね」
その声で教卓に気だるそうに立っているトニー・クラウン先生に注目が集まった。
さっきまでぼんやりと視界に入っていただけの先生を注視してみると、ボサボサの髪の毛に大きな丸メガネ、不健康そうな白い肌。
ちゃんとしたものを食べているんだろうかと疑ってしまう。
まぁ俺的には魔法にも応用の効くような、魔術のあれやこれやを知ってる先生だったら問題ないんだけど。
「と、いうわけで記念すべき一限目。先に言っておくと……魔術に関するものではないです」
「「え」」「は?」
思わず俺を含めた何人かの疑問の声が教室に響いた。それに乗じて、ちゃっかりカッサンドラ・トロイも目を覚まして身体を起こしている。
「まぁまぁ、これはフロリアの生徒達も行う一種の通過儀礼のようなものだから。というか『召喚術』くらい、君達も聞いたことがあるんじゃないですか?」
あいにく魔術のことばかり勉強と研究をしてきていた俺はそっち方面のことは詳しく知らない。だけど、
「先生!俺、『召喚術』は家で試したけどできなかったぞ!」
「エイルさんいいこと言った。『召喚術』は純粋な魔術ではなく、魔力を利用した儀式ですから、これを行うには強力な「魔力的媒体」と「依代」が必要なわけですよ」
トニー先生は満足そうにそう言うと、教卓の後ろにある黒板に言葉を書き並べていく。
————————————
・魔力的媒体→ここでは、塔の屋上に設置された二つの「消えない灯火」を指します。
・依代→なにか思い入れのある物であれば基本的に構いません。
※各自で用意した後、この教室に再集合してください。
————————————
「と、いうことですので、十五分後にこの教室で集合としましょう。また、寮にちょうど良い依代がない場合は、またの機会ということでよろしくお願いします」
その言葉を後に依代を取りに行くため、俺達は一度解散することとなった。
「……おいセンセー、寮ってなんだよ?」
「わっ、私フロリアの寮に荷物を置いたままでしたっ!!どうしよう!!?」
「……はぁ〜。とりあえず二人ともこっちに来て」
トニー先生がわざとらしくため息をついて二人を呼んでいる。
気持ちは分からないでもないが、めんどくさいオーラが溢れ出ている。せめて隠そうとかしないのか?
「うわっ!」
「リオン殿は依代を取りに行かないでござるか?」
ビックリしたー。視界から外れていたとはいえ、足音もなく目の前に現れないで欲しい。
「驚かせないでくださいよハンゾウ先輩。それと、俺はもう依代にしたい物を持ってるので」
俺はそう言ったあと、ハンゾウ先輩にも見えるように、首から掛けていたペンダントを外してみせる。
「ほぉー!身代わりの石、サンストーンの首飾りでござるか!さてはリオン殿、良いところの出なのでござるね?」
橙色の宝石は毎日身に着けているのに、全く変わりなく鈍い光を放ち続けていた。
何となくこれを見ると体調が良くなる気がするのは気の持ちようだろうか。
「いやこれ、貰い物なんですよ。ところでハンゾウ先輩は取りに行かなくてもいいんですか?」
「大丈夫でござるよ。なんと言っても拙者…………留年する前に一度やっているでござるからな!」
相変わらず仮面で表情は分からないが、はっはっはーとか言ってるので恐らく笑っているのだろう。
ハンゾウ先輩。度々留年をネタにするけど、ビミョーに突っ込みづらいので、出来ればやめて欲しいところです。
——なんだかんだで時間は過ぎて、寮に戻ったり、先生に連れられて行ったりしていた生徒達が戻ってきた。
「よし、と。それでは『召喚術』、集中して始めていきましょう。人それぞれ違う依代に纏わる記憶を思い出しながら、私の後に続いて唱えてください」
トニー先生は目を瞑り、魔術の詠唱よりもさらに長い言葉を唱え始めた。
俺も静かに目を閉じて、集中する——。
「《我、アンブローズ・リオンは汝を求める者である。」
霙が降っていたあの日、俺は色々失って、色々手に入れた。
「今此処に、邂逅の理を歪め——」
その中で貰ったものは、「純粋な感謝」の気持ち。そしてこのペンダントはその結晶だ。
そう、これは俺にとって「成功の証」。
ちっぽけかもしれないけど、自分が成しえたことに対する対価、報酬。
「現世の姿を携え、姿を現せ。」
なんだろう。握っているペンダントが熱くなっている。でも火傷する熱さじゃなくて、何だか温もりを感じるような優しい……
「改めて、この声をもって命ずる!召喚》っ!!」
長い長文を唱え終えた瞬間、頭の中に走馬灯のように流れ出す誰かしらの思念。
「時間も足りない、力も足りない、知恵も足りない、何一つ足りていないっ!」
「それは何もかも今まで心を閉じていた自分が悪い」
「——でも、あぁ。分かったんだよボクは。助けてもらえばいいんだ。助け合うんだ」
誰だ、誰なんだ。そういえば、この前もこんなことあったような…………
ピトッ。
ふと、顔に柔らかい感触が伝わる。気になって目を開けるとそこには、
間近に見えるのは、俺の額に爪も立てずに肉球を押し当てている猫だ。
種類は知らないが、とてもスラッとしている。色は真っ黒で毛並みは良さそう。
そしてこの猫、なんと言っても印象的なのは、
″満月のように輝く真ん丸な金色の瞳″である。
——って、あれ?前にもこんなこと考えてたような気が…………
「やぁリオン君。遅くなってすまないにゃん……にゃん!?ボクは何を言ってるにゃん?う、うわぁぁぁぁぁあああ!!!!」
願わくば、誰か、この状況を教えてください。
——特にこの師匠っぽい使い魔の猫のことを。
感想などなど、死ぬほどモチベ上がるのでどうぞよろしくお願いします。




