第十二話 演説。
遅くなってしまい、すみません。進みます。
「遅くなってすまないね皆さん、私がアンブローズ・アルクだ。名前くらいは覚えておいてくれるとありがたいね」
極めて冷静かつ悠然と大広間に姿を現したのは、魔術師協会の二番隊隊長である俺の父さんだった。
分かっていたことだが、家でのんびりしている時とはまるで違う雰囲気に少しだけ違和感を覚えてしまう。
「でも、そういうことか……」
──これでやっと繋がった。
初めは魔術学校から推薦の手紙を貰ったときの反応だ。
それからその手紙について真っ先に自らの関与を否定したことも含めて、何かおかしいと思った。
その全てが父さん自身がもう校長に就任することが決まっていたからこその言葉だったんだ。
にしても自分が校長をやっている学校に息子が在学しているなんて、どんな気分だろうか?
俺だったら正直勘弁して欲しいところだけど……
「あー、それからフォルトナ・ダリア女史については、これから正式に副校長として引き続き教鞭をとってもらう。彼女は私の学生時代の極めて優秀な後輩であり、私よりも知識を満遍なく持ち合わせているので、機会があったら色々と質問してみるといいかもしれないね」
「そっ、そんなことありませんっ!!でも嬉しいです……困ったことがあれば私になんでも言ってくださいね?生徒の皆さん!」
父さんの素直な賛美の言葉に、なんかフォルトナ先生が顔を押さえている。そしていつもの言動がなくなっている。
──なんというか、乙女だ。
「うげっ、やっぱりオレあの女教師苦手だ……」
その普段と違うカマトトぶりに、エイルが苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながらそう呟いた。
その気持ちは分かるが、現息子が口に出すのを我慢しているのだから、エイルにはもう少し耐えて欲しいところだった。
「えー、まずは皆さんこんばんは。一年生、改めて入学おめでとう。二年生、三年生は進級できて良かった。よし、そんなところで本題に入らせてもらうよ」
そのような前置きをおいてフォルトナ前校長代理が話していた演台に立つ父さん、では締まらないので校長にしておこう。
「突然だけどみんなには私がここに赴任した理由を話そうと思う。というのも、君たちは最近起こった『敵国からの意図的な襲撃』を覚えているだろう?」
「────!!」
その物騒な理由に対して、思わず場に緊張が走る。
最も記憶に新しい襲撃といえば、墓参りの日に起きたものだ。やっぱりあの襲撃は国が放った刺客のようなものだったのか。
「あの目的の分からない突発的な襲撃で、少なからずその身が危険に晒された生徒もいたことだろうと思う。そこで魔術協会は君達、魔術士の卵の育成に着目した……………というのが立派な建前だ」
「————!!!」
校長が突発的に演台を叩いて出した大きな打撃音により、密かに話をしている者や惰眠を貪っていた不真面目な生徒達がビクッと身体を震わせた。
「腹減ったよぉ……」
——よだれを垂らして寝ているエイルはとりあえず無視しておくとしよう。女っ気がまるでないな、エイル。
それに加えて、俺の向かいに座っているカッサンドラ・トロイも我関せずを貫いてずっと寝ている。
こいつら、どれだけ肝っ玉が座っているのだろうか?
「いいか?君達がなぜ他人事のようにこの話を聞いているのか知らないが、わた……いや、俺は金とコネで入学した「優秀者」達のお守りでこの場に招かれたわけじゃない」
殺気にも似た重圧が一気にのしかかる。これが現役魔術士として頂点に近い人物の凄みか………
校長の強い言葉に新入生を含めた『花』、つまり『種』以外の大多数の生徒達がその顔を歪めていく。
それに合わせて、なんとフォルトナ前校長代理も顔を背けているではないか。おそらく、金に目でも眩んで花への裏口入学を許可してしまったのだろうと思う。
確かに試験の参加人数が異様に少ないとは思ったけど、そうだとしたら金と立場を持つ連中が努力もせずに『花』で入学しているのだろうか?
そういうことを聞くと、単純にこの学校に対する評価がガクッと下がってしまう。
「だからこそ、『種』だけでなく『花』の諸君には一度驕りを捨ててもらい、より実践的な魔術についての学習をしてもらわなければならない。それに伴い、私が主導となって万全な公平を期した上で「ある行事」を行うのだけど……うん、これはボチボチ話していこうと思う」
一瞬父さんと目が合ったような気がしたけど、恐らく気のせいだと思う。
まぁ何にせよ、頭が変わればこの学校の体制も変わっていくだろうから、先程までの話はあまり根に持たない方が良さそうだ。
「————さぁそれでは、宴の再開といこう!長く待たせてすまないね。一年生は特に、存分に食べたまえ!!」
「お、おいエイル!!食べ物だぞ!?」
校長の二拍手を合図として、目の前のテーブルに収まりきらないほどの豪華な料理が湯気をたてて現れた。
上級生達は特に驚いていないのでこれが日常なのだろうが、一年生は異常に感じている生徒がおおいようだ。
「んんー?くんくん……いい匂いが、ってなんじゃこれ!いつのまにか!!すげぇ!!」
俺はエイルの語彙力が足りていない感激の言葉を適当に流しながら、近くにあった肉料理を頬張るのだった。
「でもやっぱりベラの料理の方が美味いな……」
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「『種』の皆さんはこちらへ!」
歓迎会が無事?に終了した後、新入生は新しく学生生活を送るための部屋を案内されるわけなのだが——
「お、おいリオン、なんだよこれ!どこまで行くんだよ?」
「エイル……俺が知るわけないだろ?」
なんとそのまま校舎を出て、校門を出て、すぐ左。学校の広い敷地の隣にあるボロい二階建ての前で、ようやく先生が足を止めた。
ちなみに、同じ種に所属するカッサンドラ・トロイはなぜか来ていない。そのまま寝てるんだろうか?
「『種』の生徒達は代々、この目の前にある『希望の種寮』で生活するというしきたりがあります。一階は共同スペース、二階が寝室となっていますので————」
エイルが先に寮の中に入れと目で訴えてくる。
さぁ色々あったが、こうしてついに憧れのエイデン魔術学校での生活が始まる。
————そう思うと何だか、じんわりとした充実感が身体に広がっていくようだ。
「ふぅ」
俺は一度深呼吸をしてドアノブを回した。




