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第十話 入学試験。



「────!!」


 全力疾走で門にたどり着いた俺達は、とりあえず門番の人に事情を説明した。


「入学試験かい?それだったらとりあえず『闘技場』に向かわないと……」


「えっ、それって、」

「あーもうこの中にはあるんだから分かるって!もう時間がないんだろ!?」


 俺がその詳細を聞こうとするが、面倒くさくなったエイルにグイグイと背中を押されてそのまま門の中を進んでしまう。


「ではこれだけ!校舎とは別の、円形の建物を探すといい!」

「あ、ありがとうございまーす!」


 緊張と期待の門を潜る場面も、エイルのせい?おかげ?で何も感じる余裕もなく通過していた。

 なんか勿体ない気がするような……まぁいいか。


*****



「そういえば、テミスさんは?」

「あぁ、テミス姉さんは大丈夫だから心配しなくていいぞ」

「そうなんだ?」


 てっきりテミスさんも入学試験を受けるんだと思っていた。まぁ大丈夫ならいいけどさ。


 優しい門番の人に教えてもらって、次は円形の建物を探すことになった俺達二人。息を若干荒くしながら大きな校舎の脇を進んでいく。


「おいリオン!絶対あれだって!」


 エイルの言った通り、校舎を横切ってだんだんと目標と思わしき円形に厚みがあるような建物が見えてきた。

 校舎に邪魔されて見えてなかったけど、また大きな建物だ。この学校ひとつにどれだけ金が注ぎ込まれてるんだ?


「なぁ?すぐ見つかったし余裕あるんじゃないか?」


 エイルの言葉を聞いて走りながら手荒く腕時計の針を見ると、なんともう正午まで残り五分を切っていた。


「えっ、まずい。あと五分もない」

「急ぐぞっ!!」


 おいちょっと!エイル飛ばしすぎ!俺を置いていくんじゃないってば!



*****



「試験会場はここですか!!!」

「おい、いきなり何言ってって……す、すみません遅くなりました!」


 エイルが色々とヤバいが、とりあえず滑り込みで間に合った……のか?


「…………」


 当然、既に集合を完了させていた試験の受験者達からの視線が集まる。

 その受験者達なのだが、なぜか人数が少なく、十人程度しか居ない。試験の日付をずらして人数を分担しているのだろうか?


 ふと視線を泳がせてみれば、自分達が今立っているのはドーム状の建物中央に設けられた十分な広さのある平坦な場所だった。

 それからその場を囲むように設置された段差付きの観覧席も視界に入る。


「あなた方は今日『普通試験』を受験するアンブローズ・リオンとヴァルナ・エイルですね?」


 燃えるような赤毛と真っ黒なシルクハットが印象的な妙齢の女性が、その縁のない丸眼鏡をクイッと上げながらそう話す。


 変わった格好ですね……とはとても言えない雰囲気だが、ともかくこの人が教員なのは間違いなさそうだ。


「いい度胸をお持ちなことで。まぁいいでしょう、早急にこちらへ。説明を始めます」


 眼鏡の奥にある細められた瞳は、その人の厳格さを示しているように思えてくる。率直に言うと面倒くさ……


「うわ、面倒くさそー」

「分かるよ?けどエイル、でも今は静かにしとこう」


 ──と、まぁそれは置いておくとして。



 説明か。予想はしてたけど、やはり魔術の適性を図る為に用意された実践的な試験があるのだろう。


「な、なぁリオン?そのー、そのだな?何するか知らねーけど、お、お互い、頑張ろうぜ?」


 エイルがすごくぎこちない笑顔をこちらに向けてきた。口もヒクヒクしてるし、無理して俺に気を使わなくてもいいのに。


 ────でも、助かった。


「……あぁ、二人とも絶対受かろう!」



****


「────」


 俺達が闘技場に滑り込んでから少し経った後、校舎の上部にあった大きな鐘の音がこちらにも聞こえてきた。

 おそらく正午になる鐘なのだろう。


「ということで、当校エイデン魔術学校『普通試験』の為に選定された皆様方、想定外の事もあったかと思いますが、お集まりいただきありがとうございます。今回、校長代理である私『フォルトナ・ダリア』が試験を担当させていただきますので、よろしくお願いします」


 受験者達と合流した俺達二人を横目に、フォルトナ・ダリア。俺に手紙を送ってくれた人か!その人が話を始める。


「それでは試験を受けるにあたって、先に伝えておくべきことがあります。まず試験の結果がどうであれ、この場に招集されている皆様に対して入学を許可することを此処に宣言致します」


「え……」

「ふ、ふえぇぇええーー!?」


 前で話を聞いていた受験者の一人、長い水色の髪を編んでいる女の子の悲鳴にも似た驚愕する声のおかげで、何とか立て直すことができた。


「おいリオン、あれどういう意味だよ?」


「んー、ようはこの場に呼ばれている時点で俺達はもう入学する条件を満たしてるってこと」


「まぁなんでもいいけど、それって大丈夫なのか?テミス姉さんにその辺り聞いておけばよかったかもな」


 なんでもいいのかそれは……


 それにしても試験内容にもよるが、もう入学が確定している状況で実力を測ることに協力的な生徒が何人いるだろうか?


「はぁ?いやいや、正直それ受ける意味なくないスか?」


 案の定、予想は的中。


 他の生徒よりずば抜けて背の高い灰色の髪の男子生徒が反発的な質問を勢いよく投げかける。


 あいにく顔はよく見えないが、彼がこの場の注目を一気に集めていることくらいは理解できた。

 

「えぇその通りですよ、『カッサンドラ・トロイ』。別に試験を受けることを強制することはありません。ただ──」

 

 そこで言葉を一度切った教員は、どこか嗜虐的にも見える笑みを浮かべる。

 実際に俺を含めた何人かがゴクリと息を呑む音が聞こえてきた。


「既に耳に挟んでいる方もいると思いますが、このエイデン魔術学校は二つのクラス、上と下の関係が存在します。先ほどの彼の言う通り試験を受けないのであれば、当然下級クラスに配属されるでしょう」


 ここでもふるい落としがかけられるのか、まずいな。というかそもそも、推薦の手紙にもクラスが分かれるなんてことは一言も書かれていなかったはずなのだが。


「はぁ?そんなこと聞いてないぞ。魔術はいいとしても筆記は絶望的だってのに……」


 エイルが小声で非難の言葉を口にする。そういえばエイルが魔術を使うところを見たことはなかったな、口ぶりからしてその才能はありそうだけど。


「…………」


 エイルはともかく、その場にいる半数程度の受験者達は事前に情報を把握していたらしく、場の雰囲気を重いものにしている。

 どうやら嘘や脅しの類ではなさそうだ。


「…………はぁぁーーーめんどくさっ!!」


 先ほどの銀髪長身の男、カッサンドラ・トロイだったか?その彼が固まってしまった雰囲気をぶち壊すように声を荒らげたかと思うと、闘技場の出口に向かって歩き出す。


 その時見えた顔は、鋭い眼光を放つ釣り目の瞳。ツンと尖った鼻。その出で立ちはどこか狼を想像させるようなものだった。


 人を見た目だけで判断するのは良くないけども、厳ついなこいつ!


「別に俺は二年か三年間タダ飯が食えて屋根の下で寝れれば問題ねぇんだよ!しかもどーせ「上級」の方にはお偉い貴族様の後釜がいるんだろ?そんなのまっぴらゴメンだクソッタレっ!」


 言いたいことを言いたい放題垂れ流した例の彼は、その勢いのまま闘技場から出ていってしまった。


「…………」


 そして場に残されたのは、凍りついたような場の雰囲気のみ。


「それで?他の方は退出しなくてもよろしいですか?別に試験を受けずとも、学校としてしっかりサポートしていく所存ですが」


「「「「い、いえ……」」」」


 それが今日初めてここにいる生徒全員の意見が揃った瞬間だったと、俺を含めた全員が感じたことだろう。



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