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第八話 鼓舞激励会。

※帝国の名前が違っていたので修正しました。2/7



 ────遂にここまで来た。今日が地獄の特訓週間の最終日だ。しかも身体を休めるために実戦的な訓練は免除だという。


 だが、ホッとしているのもほんの少しの間だけだった。そんなものは幻想だったのだ。


 そしてそれは、俺の自室で唐突に始まったのである。



「────続いて問の998、歴史上、最も規模の大きい反逆組織の名前を答えよ。またその規模の理由を簡潔に説明しなさい」



 ────脳が、痛い。



「その組織の名前はレジスタ。場所はダルドール帝国、その七代目帝王の時代に貴族の膨れ上がった権力を見かねた魔術士の才能がある中層が結成させた。規模の理由としては物量戦を見越して、最大人口の六から七割を占めた下民の全てをも巻き込んで結成された組織であるからである──だ」


 答えがもはや反射的に口をついて出てくるようになっている。いや、どちらかと言うと脳内でその記述が載っている本を開き、速読しているような感覚だ。


 ただ、その元のページが違っていれば全てが水の泡となる。その点については自分の記憶力を信じるだけだ。そう、信じるだけ。


「……正解です」


 いくら信じると言っても冷や汗のひとつは垂れる。なんせこちらは998問連続回答なのだ。心に余裕など微塵もない。


「では問の999、反帝国組織レジスタが起こした革命は成功し、元凶であった七代目皇帝を排除することに成功しましたが、その事件によって自然発生した良い点と悪い点を答えよ」


 ここで追及問題か。まぁこの問題は魔術士として知っておかなければいけないと思うので、必然的に試験でも出されやすい問題なのかもしれない。


「良い点は、その事件の二の舞を各国が回避する策として各国の魔術士の権力を上昇させたことにより、二つの権力がお互いを監視する体制が生まれたこと。悪い点は、それによって貪欲な貴族達が著名的な魔術士を抱え込み、さらに権力を得てしまう事例が増えたことだ」


「…………お見事です、リオン様」


 ベラの引きの長さに、思わず出てしまうため息。


 しかし、このありとあらゆる分野を様々な形式で答える「ベラ教官の千問完答するまで終わらない地獄問題!!」も遂に終わりを迎える時が来たようだ。

 結果的に、俺の脳に甚大な被害を与えているわけだけど……


「そうですね、最後は原点回帰で終わりましょうか?では問の1000、この世界でその存在が唯一揺らぐことのない神の名前を答えよ。またその名前の由来も答えよ」


 原点回帰……なんせこのことは歴史を辿る書物の根底にある要素として絶対に記述されている。ようはサービス問題だ。


「──その答えは、名前は存在しない、だ。理由は遥か昔からその存在は名称の存在しない世界そのものと同列だと信じられているから……」


「──そしてそのことから魔術は神の奇跡に限りなく近いものである、でしたね。連続の問答、お疲れ様でした」


 椅子に座っている俺の傍らで、これまた美しいお辞儀をするベラ。


「それでは少し休憩の後、もういち」


「え?えええぇぇぇぇぇえええええ!!」


 今もう一度とか言おうとしてなかったか?これは幻聴?そうそう、夢だ。夢に違いない。そうだよ……


「というのは冗談で、私が管理する特訓の内容はこれで最後ですよ。リオン様は気付いていませんが、一答ずつ言葉の意味合いまで修正していたので、今はもう夕日が傾くような時間帯ですよ?」


 きつい冗談はやめて欲しいと切実に思いながら、咄嗟に窓を開ける。そうすると時が経つのは早いもので、夕日がすでに落ちていっているのが見えた。


 それと同時に冬終わりの涼しいような、冷たいような、そんな微妙な風が室内に入ってきたので、とりあえず素早く閉めておく。

 こんなときに病気にでも罹ったら目も当てられないからな。


「と、いうことで私は今から取り急ぎ夕食の準備を致します。呼びに上がりますので、リオン様はそのまま休憩を取っていてください」


 朝から夕方まで俺に付きっきりで何も見ずに問題を問うていたベラ。

 いつもこの屋敷に一人いる召使いとして過労気味なベラだが、今回に限っては不休である。かと言って料理が壊滅的に下手な俺が手伝っても、逆に負担になるのだ。


 ────だから。


「その、いつもじゃないな。今までありがとう。イザベラ」


「いえ、これが私の選んだ道ですから。でもその言葉でいくらか疲れも取れましたよ?」


 無愛想な言葉とは裏腹に、その顔には滅多に浮かばない優しい微笑が刻まれていた。ほんと、俺をからかって浮かぶ笑顔とは大違いだ。





********



 そして夜の帳が下りて少し経った頃、ベラに呼ばれて食堂へと向かう。

 半年前、ベラに絆されて決意を決めたあの夜とはまた違う意味で緊張している俺は、ゆっくりとその足を進めていく。


「どうぞ、リオン様」


 ベラが食堂へ続く扉を開いてくれている。そして、その視界の先には────。


「遅くなりました。父さん」


「あぁ、なんせ今日の主役はお前だからな、リオン。ベラが手によりをかけて作った料理を存分に食べるといい」


 すでに定位置に座っている父さんと、そこには十五歳の誕生日に食べた夕食よりもさらに豪勢な料理の品々が待っていたのだ。


「な、なんで?」


「なんでだって?それはリオン自身が今噛み締めてるんじゃないかな?」


 うーん?この半年間でやってきたことを数えると、意外とポンポン出てくる気がする。


「私やベラはお前が今まで何を芯として夢を持ち、どんな風に進んできたかは分からない。でもこれだけは言える。リオンのこれまでしてきた努力は誰がなんと言おうと絶対に無駄ではなかったんだよ」


 いつも声をあまり張らない父さんが、珍しく声高らかにそう宣言した。


 魔術学校から推薦状が届いた理由は実際のところ分からないままだ。


 だけど、わけの分からない喋る本から魔法を無理して学んで、それでもやっぱり力不足で、またいろんな人に助けてもらって、それでようやく少しだけ人を守ることを知って──、俺って文面だけみるとボロボロだな。


「そう、だから今から行うのは明日に迫る入学試験への激励と、リオンの更なる成長を祝う会、その名も鼓舞激励会だ!────」


 俺はそのなんとも言えない会の名前に苦笑いを浮かべながら、席に座ってベラの料理を手に取った。


「「神に感謝を!…………美味いっ!!」」


「美味しいと言って頂けるのは嬉しいですが、行儀よくお食べ下さいね?主様もリオン様も…………」


 こうして特訓最終日の夜はゆるりと過ぎていく。緊張で中々寝つけないのは当然だった。




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