第六話 開始。
遅くなりました。すみません
それから俺は走って知識を蓄えてと、これ以上ないほどに忙しい日々を重ねていた。
「リオン様、──です……」
そしてそんな地獄の日々を生き抜いた俺は、ついに試験まで今日を含めて一週間という所まで駒を進めたわけだ。思ったより時が早く過ぎた気がしないこともない。
そう、ベラに叩き起されていたあの一日目もつい先程のように感じ────
「──っ!?」
そんな妄想の途中で、強い衝撃とまだ若干冷たい床の硬さが同時に俺の身体に伝わってくる。
「これで3度目です。次はもうありませんよ?」
次も何も、もう俺ベットから落ちてるよ!?はいそこ、睨みつけるの禁止!
「今日からは実践と勉学、両方詰めの作業に入ります。軽い朝食を食べましたらすぐに屋敷の庭へ来てください。いいですね?」
今日もベラからいつも通りに修練の内容が淡々と告げられた、はずなのだが。
ん?ちょっと待てよ。
「え……ということはもしかして、走らないの?」
いつも通りなら何周走るとか、その後の修練に関する注意とかそういった話をするはずなのに、今回はそういうことが何も言われなかったのだ。
これは、もしかすると?
「そうですね。あくまで仕方なくですが、一週間足らずの鍛錬で多少は持久力が上昇したはずです。そこでリオン様も次の段階に、」
「よ……よ……よっしゃぁぁぁああ!!」
嬉しすぎて泣きそうだ。ようやくあの地獄が終わったぞ!ここまで来たらもはや俺の勝ちだ!!
あまりに嬉しすぎて思わず叫んでしまった俺を見て、ベラは何故か笑みを浮かべた。
「それはそれは……良かったですね?今回の修練で張り切りすぎて怪我しないようにしてくださいね?」
その軽く人が簡単に死にそうな微笑に、俺の身体は無意識に痙攣を起こした。
「…………お、お手柔らかに、お願い致します」
******
「おはようリオン、今日も朝から修練かい?」
軽い朝食を取っている俺に、これから仕事で外に出向くという父さんが声をかけてきた。
それに対して、俺はようやく実践的な特訓が始まったことを伝える。
「そうかそうか、それは良かった……あとそのなんだ……学校のことなんだけどね?」
なんか言葉の歯切れが悪いけど、俺に隠し事でもあるんだろうか?
「うーん、やっぱりやめておくよ。あー美味しかった」
父さんはいつの間にか朝食を食べ終えていたようで、結局俺に何も言わないまま食堂を出ていってしまった。
「なんだったんだろ今の。まぁいいか」
支度を終えた俺はそれをさほど気にすることなく、ベラが朝早く作ってくれた朝食をササッと食べてからマントを羽織って外に出た。
ヴァルナ家ほどではないのだが、家の屋敷にもそこそこ広い芝生の庭が存在しているのだ。
視界を広げて隅に飾ってある冬の寒さを耐えた花々を見ると、一人で屋敷の外まで管理しているベラがどれだけ凄いのかよく分かる。
よぉーし、ベラが来るまでに冷えた身体を動かす準備でもしておくか。
「────お待たせ致しました。準備は、もう大丈夫なようですね?」
しばらく経ってベラが屋敷から出てきたところで修練が開始されるのだが、とりあえず具体的な内容を聞いてみるか。
「なぁベラ、今回の修練って……」
「えぇ、今日からは詰めの作業。すなわち魔術士としての模擬戦闘を行います」
よしっ!ついに来たか。
「原則、魔術士同士が己の全てを賭けて戦闘をする場合は『決闘』という形で魔術士協会に申請しなくてはなりません。が、今回はあくまでも訓練の域を出ることはないので心配は無用です」
まぁ今回は模擬戦だけど、言ってしまえば
″殺し合い″になるわけだからな。確かにそこら辺はしっかりしておかないと。
「というわけでリオン様、さっそく訓練開始と行きましょう。えぇ、心配なさらないでください。リオン様が魔術なりで攻撃するまで私は動きませんから」
ベラは俺にそう告げるとそのまま黙ってしまう。
今のベラはこれから戦闘が始まるというのにいたって自然体だ。さらに言えば、俺のことを低く見ている態度だとも取れるだろう。
とりあえず情報を整理しよう。
一、まず、ベラについては闇属性の魔術に適性があるという他に俺が持つ情報はない。
二、対してベラは俺に魔術の適性が光属性以外にないことを知っている。
三、ベラは俺が魔法を使えることを知らない。
このことからお互い相手の知らない情報を持っているという点ではまだ同等なのだが、何分俺の方の切り札は初運用だ。差は歴然だな。
「リオン様、深く考えることも時には必要ですが、」
「お願いだからちょっと待って!!これが最初の模擬戦なんだから!」
「わ、分かりました。好きなだけお考えください……」
ベラはどうやら焦らせるのが好きなようだ。それも作戦だとか?まぁいいや。
とにかく、初手の選択肢がこの模擬戦の結果を左右することは分かり切っている。だとすれば────。
魔術の適性がほぼない事が分かってからもう少しで半年が経つ。正直まだこの道に立てていることに驚く自分もいる中、ようやくこの時が来たんだ。
だから今、自分のできること全てをぶつけてみるしかない!




