第五話 修練。②
大変遅くなりました。超難産でした。
「あー、ホントに疲れた……」
勢いよくベットに倒れ込む。ようやく長い一日目が終わったという安堵感と、ほんの少しの達成感が疲労と共に気持ちよく押し寄せてくる。
今日のところは相当長く続いたベラの魔術講義に必死で喰らいついたおかげで、夜の自由時間はなんとか確保できたわけだ。
「本当は今すぐにでも寝たいところだけど、まだやることがあるからなぁー。よしっ!」
そう自分で気合を入れた俺は、身体を起こしてあぐらをかく。そして目を閉じ、深く息を吸って深く息を吐いた。
平穏な意識の中でイメージするのは、大きな門だ。
「開けるだけ……開けるだけだぞ」
言葉の通りにその門をイメージの中でゆっくりと開ける。
────着実に、ゆっくりと、二人に手伝ってもらった時のように。
胸元に何やら覚えのある感覚が現れたところで、瞑っていた目をようやく開ける。
するとそこにはモヤモヤした真っ黒な空間が現れた。これが門ってやつか。
先日初めて魔法を使ったときは、無意識に門を開けて魔の蔵庫から魔力を引き出していたので、今日は意図的に開けることができるのか試してみたのだ。
「よし、これで一応魔法を使うこと自体はできるってことでいいんだな……くぅー!」
結果は無事に成功。これで魔法をこれからも本当に使えることが分かった。
そのことの喜びというか興奮というか、とにかくそういうものが俺の体中に駆け巡って、震えをもたらす。
「とは言っても、まだ魔法のことを全然知らないうえに、教えてくれる師匠も居ないと。毎度のことだけど、ほんと絶望的だな……」
ただ、いつもと違うのは絶望的な状況であっても、俺自身がちっとも諦めていないことだ。むしろそれだけしかない?まぁ、それがあれば十分だろう。
「よーし、それじゃあ当面の目標は無属性魔法の仕組みを理解して使えるようになることだな。それじゃあさっそく……」
こうしてヒントもなければ答えもない、そんな無茶振りだらけの魔法修練が幕を開けたのだった。
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「『盾』これで十回目かっ……も、もう限界……」
どうやら今の俺では魔法に込める魔力量を少なくした魔法でも十回発動、その場で浮かせるだけで手一杯だ。
今更だが、師匠が洗浄という魔法で何気なく膨大な本を片付けながら部屋を清潔にしていたのが、いかに高等技術なのかを知った。
なんせ今の俺では十個の魔法をただ展開していることすら困難なのだ。これが師匠と俺の魔法使いとしての差なのかと思うと、まだまだ先は長いなぁ。
ということで俺がヘロヘロになった代わりに、自分の支配下にある十通りの盾魔法が宙に浮いているわけだ。
そしてこれらの盾魔法には、全ての《込める魔力量》をできるだけ均等にし、《展開する面積》《展開する場所》を変化させることによって様々なバリエーションがつけられている。
そうすることで二つの条件の変化が″魔法の強度″にどのような作用をもたらすのか。今回の……そうだな、その名も「盾魔法破壊試験」ではそのことが一番重要な点だ。
「それじゃとりあえず、最初はこいつから試すか?」
出入りする扉の前から部屋全体を見渡すような形で立っている俺。そしてその左側目前、そこには高い天井と床の間を埋めるほどの大きさを持つ盾魔法が展開されている。
盾は奥が透けて見える硝子のような構造なのだが、何より面積が広いので中々に威圧的だ。
「まずはデコピンから……ってよわ!!!」
そんな面積だけのことを考えた盾魔法に強めのデコピンを入れたところ、早速パキンと小さな音を立てて溶けるように消えてしまったのだ。
ひとまずこの結果から得られる情報、そして結論を素早くメモする。
①大規模な魔法は、元の大きさと同じ効果を得たい場合、その規模に比例する魔力が必要である。
=込める魔力を増やせば、理論上どこまでも効果の規模を大きくすることが可能。
「流石に言い過ぎか?まぁいいか」
とにかく、これでこの前の襲撃のときに倒れた理由が判明したわけだ。
巨大な炎塊を防ぐ為に無理矢理大きく展開した盾に、通常よりも強い強度を出していたのだから、ぶっ倒れて当然である。
「それにしても思ったよりだいぶ脆かったな。じゃあ気を取り直して、次は距離の問題だな……」
状況としては俺の目線の正面にある瓜二つの盾魔法が、広めな自室の手前と奥に並んで浮いている状態だ。
ちなみに面積の方は大人の上半身を隠せるほどのものになっている。
「なるほどー、そうなるのか」
先程のように入れる力を微調整して交互に試験を行ったところ、先に″距離が遠い方″にヒビが入って消えてしまった。この状況から得た情報を即座にメモする。
②魔法の効果を発揮させる距離が遠いほど、魔力を多く込めなければ効果が薄くなる。
=込める魔力を増やせば、理論上どこにでも魔法を発動することができる。
「ま、仮定だから実際どうなるか分からんが……それじゃあ次行こうか」
さらに実験するのは俺から見て右目前に創られた、拳より面積が小さい盾である。
というか、もはや盾じゃなくない?という答えの出ない思考を抑えつつ、試験は順調に進行していく。そしてついに────、
「だめだこりゃ、下手に手加減してると壊れない。こうなったら全力で……」
ちなみに今、俺は素手で盾魔法を破壊しようとしている。
最初は魔法の『衝撃』を使おうと考えていたのだが、後になってもう魔法を行使する体力が残っていないことに気付いた。
──馬鹿か、そこのところ考えとけよ俺。
とにかく腹を決めた俺は首と手首と足首を丹念に回し、軽く飛び跳ねることで身体をほぐした。
それから目を閉じてながーい深呼吸。
「すぅーー、はぁーー」
おもいっきり息を吸い込んで踏み込む。そこから腰の捻りを利用して、右の拳!!
「おらあぁぁぁぁあああ痛っっっってぇ!!!」
メキッ……
目の前にある小さな盾に渾身の右ストレートをかましたが、見事に撃沈。拳からは骨の軋む音が聞こえてきた。
「……まっ、魔法は?」
何とか起き上がって魔法の様子を見るが、魔法の盾には傷一つ付いていなかった。どうやらその痛みの衝撃で展開された魔法が解除されることはないようだ。
そこから死ぬ気でメモする。
③強い痛みの衝撃で魔法が解除されることはなかった。
=よほどのことがない限り、展開した魔法が解除されることはない。(直接の破壊を除く)
「ぃ、痛い、痛すぎ……?」
俺は、その後も甚大な拳の痛みによって悶絶していた。のだが、
コン、コン、コン────。
「部屋から物音と絶叫が聞こえましたが、ご無事でしょうか?」
やばい、ベラが物音を聞きつけてこっちに来てしまった!今ここで説明するのも手だが、話が大きくなるのはできるだけ避けたいところだ。
「い、いや、結構動いたから足がつっただけ!」
今にもベラが部屋に入ってきそうな雰囲気。そしたらこの魔法が絡んだ状況を説明しなくてはならない。
それを未然に防ぐため、俺は目を閉じて一か八か「消えろ!」と魔法に必死で訴えた。
「それなら早急に筋肉を伸ばすのが有効ですよ。失礼しますね?」
ガチャ──。
「……何故そこで突っ立って居られるのですか?」
咄嗟に振り返った俺の姿が、疑問に歪められたベラの鳶色の瞳に映る。
だが、そこに俺の魔法が一緒に映ることはない。なぜなら間一髪で魔法を消滅させることができたからだ。
「も、もう大丈夫だよ!自分で伸ばしたから!」
やばい。ベラの視線が忙しなく動いている。やっぱりバレてたのか?
「……………そうでしたか。修練に怪我はつきものですので、また何かあればお呼びくださいね」
やっとベラが諦めて部屋から出ていってくれた。あぁいう目の時は絶対疑ってるからな、油断ならないぞ。
でも、バレてなくてよかった。そうだ、さっきのことをメモだ。
④魔法は念じることで即座に存在を消すことが可能。
=魔法の消去に魔力は不要。
実験する魔法自体が消えてしまった俺に、とてつもない睡魔が襲ってくる。
「もう限界だ、おやすみなさい……」
何とかメモを書き終えた俺は、そのままベットに倒れ込んだ。
まだまだやることは山ずみだ。
魔法の可能性は────
薄い意識でこれから行うことを考えているうちに、俺はいつの間にか力尽きていた。
魔法の性質まとめ。(現時点)
※その都度説明はあるので覚えなくて大丈夫です。
*込める魔力を増やせば、理論上どこまでも効果の規模を大きくすることが可能。
*込める魔力を増やせば、理論上どこにでも魔法を発動することができる。
*よほどのことがない限り、展開した魔法が解除されることはない。(直接の破壊を除く)
*魔法の消去に魔力は不要。




