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一章閑話 心配性。

※リオンの父親、アンブローズ・アルク視点です。

閑話ラストだと思います。

※魔術協会のマントを羽織る描写を追加(3/22)




 私がある手紙の返事を書いていたところ、不意に事務室の扉が小さく叩かれた。


 今日リオンはお墓参りに行っているはずだから、候補は簡単に絞れる。


「────イザベラです。紅茶を持って参りました。入室を許可してもらえますか?」


 カリカリと羽ペンが気持ちよく紙の上を走る音にも、整った口調の言葉を考えることにも、いい加減飽きてきたところだったので、ちょうどいい。休憩にしようか。



 了承の返事をしたあと、扉がある方に顔を向けた。


 するとそこには、結った黒髪、黒を基調とした給仕服を着用した若い女の子が、丁寧なお辞儀をしている。


「失礼致します。主様」


 彼女の名前はイザベラ。通称はベラだ。

 ちなみに、この名前は色々あって私がつけた名だ。我ながら、なかなか愛嬌のある名前だと思う。


「ありがとうベラ。それはそうと、ちょっとこっちに来て話さないかい?」

「は、はい。分かりました」


 私の真剣な雰囲気に、ベラも思わずして緊張気味だ。そんな雰囲気を出しておいてアレだけど、思った以上に話しづらい。


 とりあえず、ベラに入れてもらった温かい紅茶を一口。

 うん、スッキリした甘い匂いと、身体に染み渡るこの感じはやはり美味しい。


「あのね、この前の会議の時にも言ったんだけど、君が十五歳のときに初めてアンブローズ家を訪れてから、もう 五年も経ってるんだよ。だから、そろそろベラ自身の未来のことも色々考えないと……」

「いいえ、私は主様にまだまだ恩を返しきれていないんです……ですから!」


 珍しく声を荒げているベラ。


 でもね、こんなに色々な才能のある彼女をこのまま燻らせておくなんて勿体無いんだよ。だからもう、言おう。


「『人間というのは気持ち次第で良くも悪くも変われる、変化し続ける生き物だ。』君がリオンに言っていた言葉だよね?」


「…………聞いていたんですか?主様は本当に抜け目がありませんね」


 ベラ、そんなに睨まなくてもいいじゃないか。

 仮にも自分の娘とその弟が、精神的に大人になっていく。そんな状況は、親として見逃せないからね。


「賢い君ならもう分かっているんだろう?自分自身を偽らなくてもいいんだ。あの頃とは違って、君はもう自由なんだから、ね?」


 ベラはそのまま黙りこくる。でも、ここが親の踏ん張り時だ。根気強くいこう。


 気合を入れるため、ぬるくなってきた紅茶を一口、二口と飲む。これはこれで、紅茶本来の味が簡単に味わえて、美味しい。



 幸いにもベラは色々器用だから、どんな選択肢を選んだとしても、一流のものになれるだろう。

 もしも行き詰まったりしたなら、そのときは私が全力で後押ししてあげればいいだけの話だ。造作もないだろう……ん?



『こちら魔術師協会、「伝達班」です。全部隊に報告します……』



 風魔術によって届けられている、脳に直接響くようなこの声は、もちろんベラには聞こえていない。


 それにしても、また間の悪いときにきたな。

 しかも、「全部隊」まで伝達されるということは、大きな案件の可能性が高い。


『王城の上空、そして防壁の内側に魔法陣らしきものが多数発見されました。っ!?恐らくタイプキメラの「魔成獣」が多数転移、または召喚された模様です。王城へは筆頭魔術師ヴァルナさん率いる一番隊が向かっていますので、ほかの方々は城下町の方をお願いします!以上です……』


 そこで通信が切れる。


 「魔成獣」、それが複数か。十中八九、野生ではなく人工物だろう。どこの国か知らないが、ふざけるのも大概にしろよ。


 そういえば、今墓参りに行っているはずのリオンも心配だ。アイツは色々無茶しがちだからね。


「ごめんねベラ、呼び出しがかかったんだ。行ってくるよ。あと、この屋敷は私が守っているからいいけど、外出はしないように」


「は、はい。承知しました。いってらっしゃいませ、主様……」


 こんなひどい顔をしているベラを一人置いていくのは気が引けるけど、連れて行くこともできないからね。

 自分の中で色々とゆっくり考えておいてほしい。



 自室から魔術士協会の構成員を示すローブを取って羽織る。これを着ると何だか気が引き締まるんだよな。よし……


「それじゃ、行ってくるよ────」


 







━━━━━━━━━━━━━━



 煙が舞う戦場と化した街を少しでも見渡すため、凍った屋根の上を風魔術で補助しながら素早く移動する。


「二番隊に告ぐ。幸いたちは防衛に長けている人材が多い。それと、相手は煙幕と火の魔術を使うようだ。できるだけ街に被害を出さないよう、二人一組ツーマンセルで散れ」


「了解」

「でも、それだと隊長が一人になりますけど、大丈夫なんですか?」

「おい新入り、隊長は大丈夫だよ、なんて言ったって魔導書ノートの使い手……」


 煩わしいので、風魔術で繋いでいた通信を切る。だが心配は少しもしていない。


 俺含め、七人しか居ない二番隊だが、その実力はそれ相応のものだからな。


 まだ他の隊が対応していないであろう、防壁近くの霧のように立ち込める煙の中に入り込む。おそらくこの中に魔成獣がいるはず。


 幸いにもここらに住んでいた一般人達はもう逃げているようで、近くから悲鳴などは聞こえてこない。むしろ静かだ。


「それにしても、めんどくさいな。この煙は……」


 魔術士には、視界の確保が非常に重要となる。

 魔札を使う上で、「なにを、どこに、どれくらい」といった指針がなければ、まともに魔術を相手に当てることすら難しいのだ。


 このイヤらしさ、ますます人間が創った魔成獣だと思えてくる……


「っと!危ない危ない!」


 背後から突然の殺気。反射的に前転でその場から緊急脱出する。


 素早く振り返ると、そこには山羊のような蹄が叩きつけられていた。


「ちっ!外したか。さっさと『殺れ』」

「グルルゥウア!!」


 人が発する囁くような小さい声、続いてライオンのような頭から、重低な音の咆哮が辺りに響いた。


 先程の声を発した何者かが命令するのを聞くかぎり、彼が魔成獣を操っているようだ。


 しかし、その術者は相当遠くにいるだろうし、この煙のせいで視覚に捉えるのは無理だと思っていい。


 それに加えて、キメラ型魔成獣のステルス攻撃と来た、やけにバランスがいいな。


 魔成獣は、またも煙の中で息を殺し、絶好の機会を待っている。

 思わず身震いするほどの静寂が訪れた。


「久々にピンチか?滾ってきたな……」


 俺は懐から片手で持てるほどの、小さな本を取り出してページをめくる。

 そこから、魔法陣が書いてある紙をちぎって思いっきり握り潰す。


「解放!『穿て石槍』」


 次の瞬間、自分を中心として円を描くように、岩で鋭く創造された無数の短槍が出現して、放たれる。


 普通、魔術とは質や量を高める分だけ、詠唱が長くなるものなのだ。

 しかし、俺は人造神器アークという世界に一つきりの術具によって、それを克服している。


「グ、グオォオ!」


 魔成獣も、さすがに全てを避けきることがができず、何本かの短槍が刺さったようだ。

 人間の方は……反応なし。ということは魔成獣を挟んださらに奥、そこに術者はいるはずだ。


「大きな身体にはよく刺さってくれるな?『石槍に輝きを』」


 何も見えない視界の中に、魔成獣に刺さっている石の槍を光魔術で輝かせる。

 魔術で顕現させたものに魔術をかけること自体が高等技術だが、正直俺にとってそんなものは朝飯前だ。


「とっておきを出してやるか。解放。『熱線よ、かの者達を溶かし尽くせ』」


 もう一枚紙を破って、そこから魔術を発動させる。

 イメージしたのは圧倒的な火力と熱量、それから奥の術者のところまで貫通させることを意識した圧縮力。


「────なんだ、期待外れだった……」


 それは目に見えない速度で、一瞬だった。


 魔成獣は、絶命の叫びすら発することなく、その場に倒れる。

 やはり煙幕のようなものは魔成獣の魔術だったらしく、少しの間で消え去った。




 胸部辺りに風穴が空いている魔成獣の死亡を確認してから、術者がいるであろう方に歩いていく。

 おそらく術者もこの状況下では、冷静さを失っているはず。


「お、おい!何が起こってやがる!タイプキメラに実行させた視界を奪う魔術も消えちまってるしよぅ」


 案の定、焼き爛れた家と家の間に身を潜めているフードを被った怪しい奴がいたので、とりあえず。


「グハッ!?」


 素早く距離を詰め、不意の一撃。背後をとって首を絞めあげ、速やかに意識を刈りとった。



 リオンには軟弱そうとか思われているようだけど、父さんは一応体術にも心得はあるんだよ。


「ふぅ、これで終わり、か」




 それにしても、なにかお粗末な感じだ。




 もし、「災厄の日」を起こした者達の仕業であれば、これ如きで終わるわけがない。


 そもそも、この襲撃はなにを意味しているのだろうか?宣戦布告?挑発?囮?考えれば考えるだけ候補はいくらでも出てくる。


「────!!」


 両手で自分の頬を思いきり叩く。痛い!だけど、これで目は覚めた。


 今は考えるより体を動かせ。俺は二番隊隊長、それなら各班が担当している負担をできるだけ減らせるよう動くべきだ。


 一瞬、リオンを今すぐにでも探しに行くという考えが頭をよぎるが、俺はそれを無視して、次の目的地へと走り出す。


「俺をあんまり心配させないでくれよ、リオン。これ以上家族が減ったら、困るからな?」












 その後、無事発見されたリオンを見て、思わず泣きそうになったなんてことはない。ないったらない。







※私と俺が混ざっているのは、演出です。あまりにも分かりにくかったら修正させていただきます。

おそらく次から二章に入ると思います。これからもよろしくお願いします!!

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