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一章閑話 協定契約。

遅くなってしまいすみません!精進致します!

※主人公目線ではありません。

※改稿しました。(内容に大きな変化はありません。)10/19




「それでは話を聞こうか、宰相よ」

「はっ、皇帝陛下。では、早速お伝えしていきますと────」


 とある国の謁見の間にて、静かな問答が繰り広げられている。


 「皇帝」と呼ばれる男は、君主たるに相応しい、筋骨隆々で大柄な身体を有していた。

 そして、それとは反対に、「宰相」の方は鼠顔に猫背で痩せこけた身体をぶら下げている。


「宰相、すまぬがその話は後だ。守護騎士よ、こちらに来て辺りを調べてはくれぬか?!」

「はっ、失礼致します。皇帝陛下」


 皇帝の言葉に、外で控えていた甲冑騎士の一人が反応して、即座に謁見の間を見回した。


 しかし、今現在も騎士たちによって厳重に守られている扉以外の侵入経路は他にないのだ。

 それならば当然のように、謁見の間には変わらない風景が広がっているだけのはず。


「────どうやら異常はないようですので、下がらせていただきます……っ!何奴!」


 謁見の間全体をくまなく調べ終えた騎士は、一礼をして、この場から退出するために後ろを振り向く。

 するとそこには、ナニカ・・・が音もなく佇んでいた。


「────」


 なぜ、ナニカという曖昧な表現の言葉なのか。それは単純に「この存在が人の形をしている」ということ以外、なにも特徴を捉えることができないのだ。


 むしろ、人の姿を型どっているだけの存在というのが、なおさら騎士の恐怖心と警戒度を跳ね上がらせた。


「ここはダルドール帝国の王城、そして皇帝陛下の御前であるぞ。この蛮行は死のみでは許されぬと思え!!」


 そこで騎士は、帯刀した剣を引き抜く。


 少々無骨ではあるが、剣の鈍く輝く刀身は正しく業物といえるものだった。

 皇帝の傍に仕えているだけあって、それだけの地位と実力を持っているのだろう。


「それが、どうした?」


 心の篭っていない、小さな声が妙に鼓膜に響く。驚くことにその声の発信源は、またもや騎士の背後から発せられたものだった。


 今の季節は秋の終わり。


 しかし、彼らが全身に纏っている金属の塊のおかげで、多少はその寒さも和らいでいるはず。

 それなのに騎士は今、全身に鳥肌が立つほどの猛烈な寒気を覚えていた。


 なぜだ?俺は背後を振り向いて・・・・・・・・「ナニカ」を見つけたはずなのに。


 それ以降は、目を離していないはず……いや、剣を抜いたとき一瞬だけ目線を逸らした。

 まさかあの一瞬で、もう一度俺の背後を取っただと……!?


「寝てろ」


 ぐるぐると回る思考と王城への侵入者をそのままにして、ついに騎士の意識は深い闇に落ちた。


「……それで、アンタ達がこの……ダルドール帝国だったか?ともかく、この国の皇帝と宰相で間違いないんだな?」


 ナニカは、まるで何事もなかったかのように王座の方を振り向いて、ぶっきらぼうに、そう問う。


「なっ!?貴様、何をしたか分かっておるのか!どこの間者か知らぬが、これは宣戦布告と見られても仕方がないのだ────」


 そこで宰相は、思わずして言葉を途切らせてしまう。そして、それを成したのは、存在すらボヤけているはずのナニカが彼に向けた鋭い眼光だった。


「黙れ、寝言は寝ていうんだな。言っておくがこの王城に在中している全騎士、及び魔術師の意識はすでに奪ってある。今ならスラムに湧いた孤児の集まりでも、この王城を占拠できるだろうさ。それよりもさっさと俺の質問に答えろ」


 宰相の精一杯な弾劾に、ナニカは圧迫的な態度で言葉を重ねる。

 おかげで宰相は縮みあがってしまい、前よりも幾分か鼠らしくなっている。


「な、ななな……なんという!」


「まぁ待て、宰相殿。そなたの言うとおり、我は第二十三代目のダルドール帝国の皇帝だ。そして、こちらの少々騒がしいのが宰相で間違いないとも保証しよう。これで満足かな?御客人」


 子犬のように震えている宰相を背後に下げて、正直に己等の身分を明かす皇帝。

 どうやら皇帝は、未だ正体が見えないナニカに対して、なぜか恐怖心をさほど抱いていないようだ。


「その肝っ玉、伊達に戦帝いくさみかどなんて呼ばれていないな。まぁ、ただ察知できたところで、俺の魔法・・を見破ることなんて、できないけどな」


 ナニカはこの場に現れてから初めて場の雰囲気を軟化させた。

 それから、場を仕切る咳をひとつすると、ある行動に移る。


「えー、親愛なるダルドール帝国の誇り高き皇帝よ。高貴なる魔神教、その一柱である我等『双子ジェミニ』と共に、かの強国、マルカ王国を手中に収めようではないか」


 ナニカは、膝をおり、自らの頭を下げて、懇願するような構図をつくりあげたうえで、皇帝の言葉を待つ。


 しかしながら、この状況下においては、その優雅な所作も一種の脅しになりうる。


 普通に考えて、ナニカが嘘でもついていない限りは、この王城はすでに彼の手に落ちていることになるわけだ。

 そうなれば、この場で意識のある二人は、この帝国は、もうすでに詰んでいるといっても過言ではないのだ。


 だからこれは、彼が意地悪く用意したダルドール帝国を救うための、たったひとつの選択肢となる。


 もし、帝王が否と答えようものなら、この帝国は文字通り崩壊の一途をたどっていくだろう。


「────相分かった。そなたの願いを受け入れよう。その代わり……」


「分かってる、もちろんこれ以上この国に手を出すつもりはない。だが、遠慮なく活用・・させてもらうからな、そのつもりで……忘れるところだったな。念のため、言質を取っておくぞ」


 何かを思い出したのか、王座の前で立っている皇帝の前に何のためらいもなく進んでいくナニカ。


「手を出せ」

「て、皇帝陛下!ここは私が!」


 皇帝に手を差し出すよう要求したナニカだったが、ようやく恐怖を誤魔化せるようになった宰相に遮られる。


「形式だけのものだ、早くしてくれ」


 目前にしてもその正体の一片も掴むことができないことに、またもや恐怖を覚えていた宰相は、震える手をゆっくりと前に突き出して、ナニカの手と思われるものと、握手の形をとる。


「一つ、この協定、及び与えられる情報は秘匿すること。二つ、秘匿が暴かれた際、この場にいる俺以外の人間に死が与えられること。三つ、侵略の際、できるだけ一般人を殺さないこと。以上だ。汝らはこれらの条件を飲み、契約を誓うか?」


 ナニカが条件を言い終える度に、その身体から半透明なオーラのようなものが、迸って消えていく。

 もちろん、皇帝と宰相には、この現象を視ることなどできない。


「「誓おう」」


「これで最後だ。契約の言葉は……」




「────神に誓いを」





━━━━━━━━━━━━━━





 「ナニカ」、いや、「彼」は、ふと過去の断片的な記憶を思い出した。


 アイツはまだ、覚えているだろうか?あの地獄のような記憶を。俺たちのことを。


 いや、そんなことは関係ない。

 魔神様は現世の全てを見通して、俺達を救済してくれるんだ。




 だから絶対に、お前を救い出してみせる。



 あぁ、魔神様。俺に力を────。





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