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一章閑話 狭間の語らい。

主人公視点ではありません。

※改稿しました。(内容に大きな変化はありません。)10/19




 地面が白い。空には、見えるはずのない透明な何かが浮いているだけ。真っ白で何も無い、見えるものといえは白い地平線のみ。


 しかし、その景色を意識のある状態で見ること自体、本来はあるはずがないのだ。


 そんな悠然と続いている白い世界に、女性が一人、退屈そうに立っていた。


 その人物は青紫の髪と、月のような瞳を持ち合わせていた。知性と美が合わさったその容姿は、見るものをさぞ魅力するだろう。


 しかし、この何もない世界では、どれもこれも意味を持つことはない。


「アナタほどの者が、私の提示した原則を破るなんて珍しいこともあるのね。ねぇ、創世の魔法使い・・・・・・・さん?」


 突然彼女に向けられた意思のある思念。それが彼女の脳内に響いている。しかし、彼女は特に臆することもなく、平然と答えを返した。


「まぁ、ボクも所詮は人間だからね。神である御仁には、理解に苦しむ部分があると思うよ?」


 相手を神と呼んでいるわりには受け答えに覇気がなく、ヘラヘラしている彼女。


「だからヒトという生き物には飽きない。なんせ貴方は、魔法という原理で私の創ったルールを破っているのだから。これからは?って期待をしてしまうというものよ?……でも今回ばかりは、ね?」


 思念の数が増える度に、その声の圧が増していく。それは恐ろしいほどに大きく、激しい感情の波だった。


「あんまり私を、失望させないでちょうだい?」


 その最後の言葉で、この空間は一気に軽さを取り戻した。しかし、その優しい言葉をそのまま受け取れるわけがない。


「御仁との約束を破って、対象以外の人を助けたのは、たしかに全面的にボクが悪い。それは謝るよ」


 言ってみれば、これは「脅し」なのだ。


 自分との約束を破った彼女への厳重な注意、さらにはその罪の重さを量らせるための方法でもあった。


 平然を装っている彼女にも、実際には恐怖が頭をよぎっている。それは絶対的に勝てない相手への恐れ、人間が持つ生存本能からくるものだ。


「……それで、今後ボクはあっち側に行くことができるのかい?」


 しかし、彼女は今のところ、ひと欠片も反省する色を見せるつもりはない。それどころか、思念の主はヒトの執念を舐めているとさえ思っているようだ。


「はーー、何を言っても変わらないのね?それともうアナタを送るつもりはないわよ?あの『カギ』のことなら、こちらから干渉してなんとかするつもりだから……」


 「カギ」とやらの話になった瞬間、彼女はあからさまに不機嫌になる。


「その呼び方はナンセンスだよ?神様。あの子の名前はリオン、ものには適切な呼び方ってのがあるんだからね」


「貴方だって少年とか呼んでたわよね!大体、アナタはあの子を助けようと必死になってるけど、どういうワケがあるのよ?」


 予想以上に彼女の機嫌を損ねていたことに気付いて、話をずらそうとする思念の主。


 どうやら自分で思っているよりも嫌われている事実には気付いていないようだ。哀れである。


「それを聞くのはイジワルってもんだよ?神様。そもそも、人が人を助けるのに理由がいるなんてそんなこと、ボクが許容するとでも?」


 ようやく彼女は、話の核心に辿り着いたようだ。しかし、肝心の神様とやらはそこまで聞き入れる気はサラサラないらしい。


「いい?貴方はもう死んでいるの!それも戦に明け暮れていた、あの時代を救って。だから、もう終わっていいのよ!」


 思念からあまりにも大きい悲しみと慈しみの感情が彼女に直接伝わる。


 それは、この思念の主があの世界に生きる人間全てに抱いている感情であり、あまりにも大きすぎるその感情は、かの御仁を神と断定できる証拠にもなるのだ。


 ────だけど。


「それでも、ボクはまだ終わることはできないよ。たとえ過去に戦を止めて、魔神を封じて、世界を救ったとしても、意味なんてなかったんだ」


 彼女は、己の非力を嘆いている。


 たとえ自分が世界に干渉する力を持っていようとも、「救う」ことができようとも、この世界そのものを「変える」ことなどできないだろうと悟っているのだ。


 なぜか?理由は簡単かつ単純。彼女には、「助け合う」という立派な才能が欠落しているからだ。


 仲間を作らず、独りで全てを解決したとしても、いつかは限界を迎えてしまう。彼女はそれを一度目に死んだときに常々思い知っていた。


 だから、彼女は決めている。今度こそ「誰か」に助けを求めることを。期待を込めて、託すことを。


「神様が戻してくれないのなら、それでもいい。でも、ボクは戻るよ────」


「残念だけどそれは許容できないわ。それに出来るはずもない。私が許可を出さない限り、貴方はこの世界から抜け出すことなどできないのだから」


 この白い世界は神とやらが設定した魂の終着点であり、出発点でもある。

 そして、そこから元の世界に許可なく戻ることは、人より高位の存在に対しての反逆を意味するのだ。


 そもそも、人とは本来神によって産み出されたものである。それ故、人間は神の意志に揺れ動き、跪き、平伏すべきなのだ。


 だから、素直に思念の主の言葉に従って、彼女は向こう側に逝けばいいのかもしれない。



 ────本当に、そうなのだろうか?




 創世の魔法使いは何百年と、そんな壮大過ぎる疑問を持ち続けていた。



 例えば、ある日から突然世界中で戦争が起こった。明日も明後日も、朝も昼も夜も関係なく、兵士同士の争いは止むことがない。


 そんな世界に、平和に暮らしていた本と猫が好きな女の子がいたとする。


 そしてある晩、争いに巻き込まれて両親が無意味に殺された。自分を庇おうとして立ち向かっていった猫も、殺された。逃げる途中に親友が泣きながら死んでいくのを目撃した。


 それでもなお、自分の大好きな本を持って必死に逃げる少女は、「神様」に一生懸命願う。


 私を、世界を、救ってほしいと────。


 無駄話はおしまい。



 どうだろうか?これで少女は救われるだろうか?世界は救われるだろうか?


 まったくもって馬鹿馬鹿しい。答えは否だ。


 もし、殺される直前の言葉がそれだったとしたら、その少女は自分の生きる可能性をすべて捨てていることになる。それは所詮甘えだ。


 そう思った彼女は、自分だけでなく、世界の運命さえも変えることができる「魔法」を創り出した。


 だからこの力はせめて、自分が正しいと思うことに使う。たとえ死んでいたとしても、神を敵にまわそうとも────。


 そう彼女は己の運命に絶望した日から、決めているのだ。例外など有り得るはずもない。



「ボクの運命はボク自身が決める。せいぜい魂が無くなるまではね?『輪廻転生リスボーン』」


 彼女は、蒼炎の光を全身から迸らせて、やがてゆっくりと、消えていく。


 唯一話すことのできた「人」が消えたことで、白い世界には行き着いた魂の成れの果て、ポワポワと空中を舞うものしか残されていない。


「……まさか……そんなこともできるなんて。貴方は私にどれだけ面白いものを見せてくれるの?」


 そんな中、思念の主が狂ったように笑い始めた。


「これで二度目ね、貴方にまんまとやられたのは。でもいいわ。そこまであの世界を愛しているのなら、私はもう、なにも言わない」


 どうやら、創世の魔法使いに対して、もともと好印象だったようで、手出しをする気はないようだ。


「でも、貴方をそこまで言わせたカギ、いやリオンという子だったかしら?私もいつかは会ってみたいものね…………」



 運命は誰の為でもなく、ただ呆然とあるのみ。


 ここでその運命を動かすための歯車が動き出した。


 ────ただ、それだけの話。






合ってるか分かりませんが、一応三人称に挑戦してみました。人称の使い分けは難しいですね。

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