第二十話 俺の番だ。
遅くなりました。結構長めですので、時間がある時に読むことを推奨させていただきます。
※二度目の改稿しました。(たくさんの助言を頂いたので、少し内容を変更しました。)
瞳が焼けるような眩しさにしばらく目を閉じていたが、それが収まったところで、うっすらと目を開けてみることにした。
「リオンくん?キミは今この瞬間、本当の魔法使いになったんだ。おめでとう!」
まだハッキリとしていない脳に、師匠の嬉しそうな声が響く。
そうか、あの門はやっぱり門だったのか。俺、やっと魔法使いになれたんだ。これで約束を守ることだって……
まだ視界はボヤけているが、今の状況を知ろうと視線を上げてみる。
「しっ、師匠!?」
俺が意識を失う前、金色に輝く狙杖を持った女性の姿をしていたはずの師匠は、すでに姿を消していた。
そしてその代わりにいるのは、その全身の半分ほどが灰になっている本の残骸だった。
「いやぁー、ボクも昔と違っていろいろ制限があるんだ。それを今破ってるもんだから、しかたがないんだよ」
師匠は俺に希望を与えてくれた存在。
だからこれからも、それを与えてくれるものだと思っていた。
今になって思えば、それもただの甘えでしかない。いつの間にか師匠は俺にとって大切な存在になっていたのだ。
ふと師匠の奥を見れば、先ほどの怪獣が師匠の創った魔法の障壁を休むことなく攻撃し続けている。
今度は後ろを振り返れば、意識を失くした女性と、寂しげに泣いている赤ん坊が師匠に守られることで、その小さくて脆い命を繋いでいた。
────師匠が居なくなったら、俺が、守れるのか?
「心配かい?きっと守れるさ。だって君はボクから魔法を学んだんだよ!しかもね?」
俺の思っていることを見透かしているように、師匠はそう言う。
そして、その間にも、師匠の身体は灰になっていってしまう。
「師匠、師匠!!」
ついに師匠の依代である、本の全てが灰になった。
「何よりも、ボクには見えるんだ。その背中を……みんなが押している姿がね────」
灰となった師匠の最期、恐らく師匠の「魂」だろうか?鈍い青光りした物体が溶けるように空へと散っていく。
そしてそれと同時に俺達を守護していた魔法も消えてしまったようだ。
しかし肝心の化け物は動きを止めていて、その姿はまるで何かを待っているように見える。
「…………死んだ。死んだ死んだ死ん〜んだ!!!あのバカ奇術師、なんで攻撃しなかったんだろうぅね??ばぁぁぁぁか!!!」
これ見よがしに、フードを被った人物が師匠を笑いながら口汚く罵っている。
今の俺はどうやら、怒りで不思議なほど意識が冴えているらしい。
正直、初めて人に本物の殺意が湧いたのかもしれない。これなら、一発いけるはずだ。今度こそ目にもの見せてやる!
「…………このクソッタレ!『衝撃』」
己の中に存在する魔の蔵庫から燃え盛る魔力を取り出し、現象に変換する。
意識せずとも、何故かそこまでの順序が不自然なほど簡単に理解することができた。
そもそも俺って本当に今まで魔法を使えなかったのか?と思うほどその作業はスムーズに執り行われている。
そしてその構築する時間は僅か二秒程度、魔札を間に挟む魔術を圧倒的に凌いでいる。
そして、手のひらより発せられた無属性魔法は、師匠を殺した元凶に向かって、まっすぐに飛んでいく。
これが正真正銘、最初の魔法だ。
「それじゃカギもさっさとかいしゅぼふぇぇぇあがぁぁぁぁ!?!?」
ちょうど心臓辺りに直撃した魔法の衝撃で、被っていたフードがはだける。その痛みを刻んだ男の老け顔に、これといった覚えはなかった。
そしてその表情のまま、男は大路地の奥に吹き飛んでいき、姿を消す。
これで少し怒りは冷めた。残る問題は…………っ!?
「ガゥゥアアウォウオオオーーー!!!」
先ほどまでの大人しさはどこへ行ったのか、化け物が猛々しい咆哮をあげる。
そうか、コイツはさっき吹き飛ばしたヤツに魔術かなにかで操られてたんだ。
だけど、あいつの意識が無くなったせいで……
そう思考していた瞬間、化け物の尻尾として存在している蛇が、何かを吐き出した。
「煙……今までここら辺を見えにくくしていた煙も、全部コイツの仕業だったのか」
その煙はあっという間に、この一帯を覆い隠す。
その中にいる人は当然だが、仮に外から見ている人が居たとしても、中の状況を把握することは困難だろう。
「それならもう一回魔法を……って、めっちゃ頭痛いんだけど!!」
思えば、魔法を構築してるときに怒りで思いきり魔力を引き出してたけど、アレがまずかったのか?
魔法使い(初心者)がいきなり頑張り過ぎた。みたいな感じかよ!ふざけんな!
「────!」
考えていた時間としてはたったの数秒だが、それを「檻から解放された野性」のような化け物が逃すはずもない。
煙に潜んで繰り出されたのは、山羊のような大きい蹄による、鋭い踏みつけだった。
師匠は簡単に防いでいたが、とりあえず今の俺には無理だ。
俺は咄嗟に魔札を取り出して、光属性の魔術を発現させた。いくら化け物でもこれくらい効いてくれないと困る!
「『光よ、眩ませ』!!」
間一髪、俺が唯一使うことのできる光属性魔術の目眩しが炸裂する。
化け物の苦痛が混じった咆哮、のたうち回る振動。これは確かに効いている。
「よし、今のうちに……」
後ろを振り返るとちゃんと二人はいてくれたのでひと安心したが、両方とも意識を失っている。どうやって運ぼうか。
「うーーん、どうにかなってくれ!!」
頭の痛みを完全にほっぽり出して、イメージするのは、この二人を宙に浮かせること。
大丈夫、師匠も何物にもとらわれないイメージが必要って言ってたから!
浮け。浮け……浮け……浮け!受け?違う!浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮いてください浮いてください浮いてください浮いてください浮いてください浮いてください浮いてください浮いてください浮いてください浮いてください浮いてください浮いてください!!浮いてください神様ぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!
やっと神様に声が通じたのか、女性と赤ん坊の体がフワフワと自分の腰の高さくらいまで本当に浮いた。
だめもとが通用するとは思っていなかったので、実のところびっくりしている。
「…………うん、細かいことは置いておこう。よーし、あとは逃げるのみ!!今は逃げるが勝ちだ!!」
なんとしても守ることが最優先だ。今は復讐に取り憑かれている場合じゃない。
浮遊している二人を恐る恐る押すと動いたので、そのまま門に繋がる道に走り出す。
「今度こそ、俺が────助けてみせる」
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いつの間にか辺りの炎は消えかかっており、雪がまた降り積もっていく。その中で寒さに耐えながらも、全力で駆けていく。
視界は化け物の尻尾が吐いた煙で最悪だ。背後の音を聞いている限り、音がしないのでまだ大丈夫だが、そのうちこちらに来るだろう。そうしたら……
「いや待て、今は良いイメージをだな?」
「うっ、あなたは?」
どうやら俺が魔法を使って運んでいた女性が目を覚ましたようだ。
自分の体が浮いているのにびっくりしているので、魔法を解いて(これも一生懸命念じた)赤ちゃんも腕のなかに返してあげた。
「本当にありがとう、ございます……この子は私の仕えている貴族様の跡継ぎにあたる子なんです!本当に無事でよかった」
それは何よりです。ということで、その人には先に門に向かってもらうことにした。
無邪気に笑う赤ちゃんの笑顔に少し癒されたあと、声を出して心を落ち着かせる。
「はぁー」
飼い主が居なくなって暴走してるあの化け物が門の外に出たら、今逃げている一般人が真っ先に狙われるだろう。
そうしたら、また、たくさんの命が奪われることになる。
それだったら、俺があの化け物を街の入り組んだ道に誘導して、少しでも時間を稼ぐか?
「それにしても、そろそろ来てもいい頃だと思うんだけど……」
走りながら化け物がいた方向を凝視してみる。
だが、先ほど吐き出された煙のせいで、相当近づかないかぎりはその姿を直視することはできないはずだ。
────なにか音が、聞こえる。
霧のように立ち込める煙の中から、不意になにかのシルエットが浮かび上がる。
それはどこか、見覚えのある形をしていた。
「……なんだよ、あれ。火属性の魔術なのか?」
しかも今回は特大。大きな馬車二つ分あった化け物の全長より大きい炎塊は、門に繋がる道を真っ先に突き進んでくる。
ダメだ。衝撃でもあれだけ大きいと吹き飛ばせないし、適当に魔法を考えたりした程度では、あれはどうにかできない。
どうする?どうすればいい?考えろ、考えろ考えろ。このまま何の約束も守れずに無力に死ぬ────?
思考が定まらない、時間が足りない。その間にも、炎塊が着実に近づいてくる。
────ずっと、今まで囚われてきた。過去の惨状に、約束の重圧に、未来の選択に。
そしてそこから逃げた先に待っていたのは、罪悪感と劣等感。自分を無能だと自覚させるには十分だった。
だけど、それで理解できたこともある。
必死に動かしていた足を止め、振り向く。息は荒く、呼吸も乱れている────。
それは、すごく当たり前なこと。「独りぼっちで何かをやり抜くことは、すごく難しい」ということだ。
困ったとき、辛いとき、悲しいとき、手を差し伸べてくれる「誰か」が俺の前に立っていてくれた。
だからこそ、今俺はここにいる。そうだと信じている────。
「────」
だんだんと強くなっていく身体の震えなど知ったことかと、俺はその情報を頭の隅に追いやった。
だから、今度は俺がその「誰か」になるんだ。そしてこれは俺の「宿命」で、「目標達成」でもある。
だって『創世の魔法使い』はその手で、たくさんの人を救ったんだろ?
「だったら今度は、俺の番だ。そうだろ?」
化け物が放った魔術もどきの炎塊は、もう間近まで迫ってきている。
妙に身体が熱い。炎が近いからだろうか?それでも頭は働く、魔法もようやく使える。
想像しろ、師匠の魔法を工夫しながら模倣するんだ。
──それは、盾。
決して貫かれることのない強固な大盾。
注ぐはありったけの魔力。俺が壊れてもいい。
変質。俺の目の前に、炎塊と同じ大きさに分厚く、そして頑丈に。
「『盾』」
詠唱と同時に身体から力が抜けていく。沢山の魔力を消費したせいだろうか?
「────っ!!!」
目に見えない透明な障壁と、強大な炎エネルギーの塊がぶつかり合う。音とはいえない音が焼き爛れた街に反響する。
言うなれば、あの盾は俺そのもの。この状況で負ければなにも守れない。崖っぷちの一手。
「負けんなぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
だから叫んだ。負けてもらっては困る。これからまだ俺にはやることがたくさんあるんだよ!
力の天秤はたしかに拮抗していた。どちらに転んでもおかしくない、そんな不安定な状態だった。
────不意に、炎塊が猛々しい音を立てて爆ぜた。それと同時に盾を制御している感覚も失う。
「うっ……」
それを確認した俺は、天地がひっくり返るほどの頭痛と吐き気に、その場に崩れた。
────おそらく目前。地を揺らすほどの振動音が聞こえる。
狭まる視界をその根源に向けると、どうやらあの化け物が近づいてきていることが分かった。
あれだけ頑張って、数分粘れた程度か。でも、それでも助かる人はそれだけ増える。
もちろん、なにも悔いがないわけじゃない。でも今度こそ、立ち向かえたんだ。それだけで。
────その刹那、何か大きな「モノ」が嫌な音を立てて地面に転げ落ちる音が聞こえた。
それから、辺りの炎と霧はその姿を消した。そして、不意に静寂が訪れる。
「ごきげんよう……約束を、果たしに来たよ。リオン君」
今も見つめている暗い世界、そこに鈴のような美声が響いた。
その人物はどうやら、今の今まで化け物が存在していた場所から、平然とこちらへ歩いてきているらしい。
「……まぁ、実際は君から助けの言葉なんて聞いてないんだけどね?」
今も降り続けている粉雪によく映えるのは、白銀の長髪。透き通った翡翠の瞳。
腰に差している剣はたしかに抜いていたはずなのに、なぜかしっかりと鞘に収められていた。
「でも、勝負に負けて戦いに勝つか。そういうのも嫌いじゃないな……」
そう呟く彼女の名は、ヴァルナ・テミス。
「もう、頭が……わけ、わかんねぇ……」
もう何度目か分からない意識の離脱を感じて、俺は足早に不満を口にした。
これで一章は恐らく終わりです。次の章では女の子ちゃんと出してあげたい!!




