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第一話 十五の朝。

※改稿しました。(内容に大きな変化はありません。)10/19

※王宮お抱え魔術師を筆頭魔術師に変更。







 「──様、起きてください。今日は……の……ですよ」




 その言葉でようやく意識が覚醒し始め、ゆっくりと細く目を開ける。


 唸りながら寝返りを打つと、全開に開けられた窓から王都マルカ郊外の穏やかな風景が目に映る。


 そして容赦なく吹き込んでくる風は、冬がまだ始まっていないとは思えないほどに、冷たい。


 咄嗟に毛布に潜り込みたい衝動に駆られるが、風と同時に差し込まれた眩しい朝日が、自分に起きろと言っているようだ。


「リオン様、もう朝です。私が作った朝食のスープが冷めてしまいますよ?」


 その声の主によって、まだ下半身を温めていたフカフカの毛布が引っペがされてしまい、それだけのことで今日という日を無気力に過ごしたくなる。


 だから、秋の朝くらい丁度良い気温にしていいんじゃないかといつも思ってしまう。


 まだぼやけている視界には、きっちり結われた黒髪に黒いチョーカー。そして黒と白を基調とした給仕服と、黒の比率が多い見知った女の人が映る。


「んー……おはよう、ベラ」


「はい、おはようございます。今日は一段と早起きされましたね、いつもの三度寝などやめて、このくらいの時間に起きてみては?」


 そして、容赦なく毛布を持っていってしまうこの女性の名前は『イザベラ』。

 いつもは親しみを込めてベラと呼ばれている。


 彼女は、俺の父さんに仕えている唯一の侍女のようなもので、掃除、洗濯、食事の用意、身のまわりのお世話、政治的なアドバイスまでを多彩にこなす優秀なメイドなのだ。


 まぁ、今日十五歳になった俺とたった五歳しか離れていない。

 そのせいで、歳の少し離れた姉みたいな感覚だと、自分で勝手に思っている節がある。


「まぁ、そのうち考えておくよ」


 俺はそう彼女の提案をのらりくらりと躱しつつ、自分の身の回りのことをダラダラと終わらせる。


 そしてそのまま、だだっ広い屋敷の食堂へと向かった。



━━━━━━━━━━━━━━



「おはようございます。父さん」


「おはようリオン、そういえばさっきベラから聞いたよ。今日はいつもより早く起きれたらしいね」


 朝食の配膳を丁度終えたベラの方をちらっと見ると、父さんの後ろで澄ました感じで控えていた。

 姿勢や仕草は完璧なのだが、顔がなんとなくニヤついている時点で、心の中で笑っているのがバレバレだ。


 そんなことわざわざ言うなと文句を言いたいのは山々だけど、その顔がちょっと可愛いので今は何も言わないことにしておく。


 もちろん、いつか仕返ししてやるつもりだ。


 そして先に食堂の席についている、まだ二十代と言っても通じるであろう、穏やかそうなこの男こそ、俺の父さんの『アンブローズ・アルク』だ。


 髪色は俺と同じオレンジ色をしているが、それが余計に弱々しい印象を人に与えている。

 しかし、魔術の才能については外見と真逆で、実は筆頭魔術師の最終選考にも選ばれるほどの実力者なのだ。


 ちなみに母親は俺が十二歳の時に病で亡くなっているのだが、父さんはどうやら一生独り身を貫くらしい。

 俺としては、遺産相続の問題とかのその他諸々面倒くさそうなことを考えなくてもいいから助かるんだけど。


「リオンも来たことだし、スープが冷めないうちに食べようか。それじゃあ」


「神に感謝を」


 別にうちは常日頃から神様に信仰心とかはないのだが、この世界で公にすべての祖である神と呼ばれているのが一人しか居ないので、その辺には感謝はしておこうじゃないか。


 そんな習慣があるのだ。


 そして、今日は俺の十五の誕生日ということなので、朝食は俺が好きな寒い体が温まるコンソメスープに、いつもは入っていない肉が入っている。


 こういうことがあるからいつも誕生日が待ち遠しくなるんだよな。




 ────でも、例外はある。




「主様。今日はリオン様が十五歳になられたということで、魔術士協会の方が『魔力使用効率調査』の件でこちらを訪問されます」


「そう言えばそうだったな。小さかったリオンも遂に魔術士の門を叩くのか。私も誇らしいよ!」


「はい、そういう事ですので旦那様には今のうちに外行きの服に着替えていただきます」


 そのベラの言葉に、父さんはあからさまに面倒くさそうな顔をしている。


「どうせその調査員も魔術士協会の後輩だし、別にこのままの格好でも……」


 ベラの鳶色の瞳が、父さんの弱々しい言葉を遮った。


「お言葉ですが、そのような所でアンブローズ家の品格が疑われるというのはこちらの一方的な損失でしかないと思われます。まぁ、まだ二十になったばかりの若年者の言葉としてお受け取りしてくださればよろしいかと思いますが」


 素早いベラの返しに父さんはたじたじで、目も驚くほど泳いでる。

 その姿はまるで弱々しい草食動物のようだ。


「わ、分かったから。うん、着替えてくるよ……ということだから、リオンもしっかりと準備をしておくようにね」


「分かりました。父さん」


 若年メイドに口で勝てない俺の父さん。


 心が少し痛むが、俺がベラに口論で勝てるかと言われると負ける想像しか思いつかないので、野暮なことは言わないでおこう。うん。


 少々話が逸れてしまったが、俺はまさに今日、十五歳になると受けることが義務付けられている、『魔力使用効率調査』の対象者となっているのだ。


 この事については父さんからこれでもかと言うほど聞かされたので内容は結構知っている。


 要するに魔術士になるために必要な能力が備わっているかどうかを国レベルで調べるものらしい。

 それについて具体的な調査内容も調べようとしたが、父さんに楽しみはとっておけとか言われたので止めておいた。


 ちなみにこの調査は、貴族だろうが平民だろうが関係なく、十五歳になったという証拠があれば誰でも受けることが出来る。


 いい例としては、俺の父さんは単なる古本屋の息子として生まれてきたけれど、今では位の高い爵位にも負けない権力を持つ魔術士になっているという所だろうか。


 そして、この事業の真の目的というのは「他国に対して抑止力」を早々に育成することにある。

 そのおかけで近年は戦争も無く、穏やかな日々が続いているんだそうだ。


 そういうこともあって、今俺は人生の分かれ道というか、そういう所に立たされていると言っても過言ではないと思う。


 もし、ここで父さんの才能を受け継ぐことが出来ているなら、間違いなく名門魔術士学校から推薦状が届いて、十六歳の春から入学することで将来安泰コース突入だ。


 逆に、もし才能を受け継ぐことができていなかったのなら…………


「あぁもう、吐きそうだ……」


 それが魔力使用効率調査を間近に控えた今の俺の率直な気持ちだった。そのわりに、食事だけはちゃっかり平らげていたけれど。






毎週日曜の午後九時が更新予定日です。遅れたらすみません。

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