第十八話 霙空に誓う。③
※改稿しました。(内容に大きな変化はありません。)10/19
俺は、いや。その場にいた全員が、なんの合図もなく突然現れた女性に、自然と視線を奪われた。
特徴は腰まで伸びている青紫の髪と、パッと見て自分よりも高い身長。
尚且つ、真っ黒なローブを着た彼女は遠目から見ても分かるほどに、女性として完璧な体型をしていた。
そして、その手に軽く握られている黄金に輝く狙杖は、他の何よりも圧倒的なオーラを放っている。
「お、おおおおお、お前はだぁれだ???こんな奴はいなかったはぁずだ!!」
「ん?ボクはボクだよ。それ以上でもそれ以下でもない。それで、逆に君は誰なんだい?もしかしてだけど「マジンキョウ」のメンバーかな?だとしたらカギっていうのは……」
「や、やめぇろ!!キメラ!こいつから『殺れ』!!」
今、明らかにフードの人物がたじろいだ。「マジンキョウ」という言葉に反応してたようだけど。って……
もう一度彼女達に放たれる炎の塊。
そしてその威力も質も、先ほどの物とは段違い。それはまるで火属性の魔術のように精密に創られているみたいだった。
「む。その作り物、色々混ぜたみたいだね?もしかしてだけど「ヒト」も混ぜてるのかい?」
目に見えない何かが炎の玉の起動を真上に変えて爆発させた。今のが魔術?でも詠唱が……って、そういうことか!
咄嗟に持ってきていたバックの中身を見ると、すっかり空になっている。ということは?
「し、師匠!?」
よく考えれば、話し方から受け答えの仕方まで全てが師匠の口調だった。そして極めつきに無詠唱の魔法と来れば、間違いなどありえない。
正直なところ誰だこれ感が半端ないが、師匠が居るのならひと安心だ。
「ふー、ようやく気付いた?それにしてもどうよ?ボク、ホントにレディーだったでしょ?何か言うことあるんじゃないの?」
嘘だろこの人、本の時と全く同じドヤ顔してるよ。信じられない。
「すみませんでしたー」
「うん。許してあげよう」
「お前達ぃ?何やってるぅの?まだ何もおわってないぃんだよ?それどころぉか始まってすらいなぁい。ふざけるぅなぁァァァ!!!キメラ、『殺れ』」
その言葉に反応した怪物が、師匠と女の人の方に素早く近づいて前脚を振りあげる。
だが、振り下ろされる巨大な蹄は師匠によって創られた透明の壁のようなものによって、何度も弾き返され続けていた。
そんな師匠の背後に目をふと向けてみると、あまりの恐怖に女性の方はその場で気絶していたのだが、泣き止んだ赤ちゃんの方はなんと物珍しそうに怪物の猛攻を見つめているではないか。
「あーそれとね?少年には謝らないといけないことがあるんだよ」
珍しく師匠が声のトーンを落として話しかけてくる。
だけど、目の前で怪物の猛攻が繰り広げられているのに話に集中してもいいのだろうか?
「ちょっと前に、魔法の修練とか言って声を出せとか言ってたじゃない?あれ、ホントはまったく意味ないんだよね」
「え?…………えええええぇ!?」
それはさすがに……あんなに……恥ずかしかったのに……信じるんじゃなかった……
あまりのショックに涙が出る勢いで落ち込んでいる俺を見て、師匠が少し笑っている。
反応がイザベラとまんま同じだよもう。
「ごめんね、だからちょっとこっちに来てよ。この怪物君は変に近づかなければ大丈夫だからさ」
そういえば、さっきから怪物と怪しい人物の存在が空気だ。
なんせ怪物の方は狂ったように師匠の魔法と格闘しているし、人の方は何やらブツブツ言っている。
「な、なぜあの攻撃が通らなぁい??それならガキの方からさっさと……」
やばい!あの怪物がこっちに来る!
「あー、それをさせないのがボクの役目だからね。果たさせてもらうよ?」
その瞬間、視界がすごい勢いで移り変わる。
そして気づいた時には、師匠の背後に立っているという謎現象が起こった。これも魔法なのか?
「き、消えぇた??なんだそぉれ!!おかしいだぁろろろーーー!」
「そんなことはどうでもいいんだよ。それじゃ、これからホントーのホントーのホントーに少年は魔法使いとしての道を進むことになる。ここから先は冗談なしで後戻りができなくなるんだ。それでも、いいんだね?」
こちらを振り向いた師匠は、本だった時とは違う、月のような輝きを放つ瞳で俺を射抜いて、そのように問う。
俺自身怖くないと言ったら嘘になるけど、自然とそんなことになるだろうとは予感していた。
いつかは選択の機会が当たり前に訪れる。そしてその時が、このタイミングで来ただけの話だ。
──だから、恐れることなんて何もない。
「お願い、します!!」
「大した男だ、少年は。そうだ、もう少年という呼び方も終わりにしようか……」
師匠は少しだけ悲しそうにそう言うと、目を瞑って何かに集中し始めている。
「お、おぉい!どうしたんだァあキメラ??動けぇよおい!!」
師匠が目を閉じた瞬間、怪物の動きが壊れた機械のようにおかしくなり、まともに立てなくなっている。
そして辺りの煙は吹き飛ばされ、今も瓦礫に燃え広がり続けている炎も掻き消える。
何が起こってる?そう思った俺は、とりあえず「視て」みることにした。
「こ、これは!?」
そして目にした光景。それは師匠が発する今までに見たことのない濃度の魔力。
膨大な魔力、その圧倒的な質量は、存在するだけで周りのあらゆる現象をかき消しているようだ。
そして今も尚、その魔力は圧縮され続けている。
「さ、受け取ってよ。リオンくん。これがボクの最高傑作さ!」
ふと、師匠が微笑んでこちらに何かを渡そうとしている。
本だったときにも、こんな優しい笑顔をしていたんだと今更になって思い出す。
「────か、ぎ?」
それは眩しくて、力強い何かを有している鍵の形をした何かだった。その輝きで目がまともに開かない。
「今のキミなら出来るさ。なんて言ったって、ボクの弟子なんだから!」
なにを?そんなことを聞く暇など、とうになかった。光が視界を塞ぐ。意識はぐらついて飛びかかっている。
とにかく足掻いてくるよ、師匠。
一瞬の浮遊感の後に訪れたのは、真っ暗な視界だった。
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