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第十七話 霙空に誓う。②

※改稿しました。(ケルベロスの名称を変更)10/19




 煙に浮かび上がるシルエット。それは純粋な恐怖の形を成していた。何故か足は動かない。動かせない。


「ねぇねぇ?そろそろ見てるだけなのも飽きてきたしぃね?『カギ』だけ見つけぇて帰りたいんだぁよ?」


 どうやら、相手はこちらの位置を把握して、足音を立てながら進んできているようだ。


 おいちょっと待て、まずくな────


「あんれぇえ?もしかしぃて、早速カギ発見かぁな??歳はこれくらいだぁしね」


 見られた!!


 煙で奥が見えない広い一本道から現れたのは、マントのフードを深く被った得体の知れない人と馬鹿でかい怪物だった。


 注目すべきなのは、その怪物の常識とはかけ離れた容姿である。


 見た目だけで話すなら、ライオンの頭にヤギの胴体、蛇の尻尾という得体の知れない組み合わせなのに、その全長は馬車をも遥かに超えている巨体を持っているではないか。


「は、反則だろ……こんなの……」


 咄嗟に口から出てくる弱音。それに混じって、今まで力を入れていた体が人形のように地に崩れる。


「無理だ。なんでいつもいつもいつも俺ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ!俺のなにが気に食わないんだ!なぁ、教えてくれよ!」


 俺の口汚い質問に、フードの人物は気安く答えを返す。


「なんでぇって?そんなのかんたぁーんだよ。君が、と言っても君じゃないかもしれないけぇど?『生き残っちゃったから』だぁよ?」


「────は?」




 何だこいつ?何を知ってる?


 生き残った?それはつまり「災厄の日」の出来事を知っていて、ここに来ているってことになる。

 だけど俺は、こいつの姿も声も覚えてない。


 ────ということは、こいつ自身が、あの日の当事者・・・…………?




 それを知覚した瞬間、何かが俺の中で脈をうち始める。

 それと同時に、身体は病魔に冒された時のように熱くなっていく。






「お前……お前おまえオマエェェエ!!」


 燃えたぎる憎悪に任せて、息を半分止めて震えながら歩き出す。

 こいつは何としても殺す。殺してやる!


 脳が身体に、五感に、心臓にさえも「目の前にいる者を無残に殺してしまえ」と命令を下す。

 だらしなく下げていた頭を正面に上げ直した。


「いいいいいいいいぃーねぇぃ?その殺気。凄くかわいぃよぉー??」




 ────突然の暗転。


 どうやら、いつの間にか煙がばら撒かれて、それに視界を奪われてしまったようだ。


 だけど、それも関係ない。殺せ殺せ殺せ!殺してしまえ!


 目の前の現状など関係ないとばかりに、がむしゃらに前に進む。


 何故なら、足音がしていないからだ。


 つまりあいつは動いていない。動いていないなら音の聞こえた方に進めば、この手にかけることができる。


 ────さぁ、どうやって殺してやろうか?首を絞めるか?炎で炙るか?刃物で刺すか?いや、瓦礫に埋めてゆっくりと焼き殺してやろうじゃないか。


「っ!?」


 足に軽い衝撃。その後に煙で何も見えない視界に地面が現れる。恐らくなにかに引っかかって倒れたのだ。


「アハ?アハ?キミィ弱過ぎだよおおおお?どうしたの?頭狂っちゃったのかぁな?どうしたんでちゅか?死にたいんでちゅか?そうなの。『殺れ』」



 ふと、背中に悪寒が走る。


「グルルルゥゥゥ……」


 その勢いのままに視界を下から持ち上げると、そこには煙の中でも見えるほど近くにおびただしい涎を垂らした、怪物の口蓋があった。


「ヒッ!」


 さっきとは違う震えが身体中を駆け巡る。初めて受ける本気の「殺気」が心を締め付けて離さない。動くことなど到底不可能だった。


「さぁぁぁー!!キメラくぅん?やっちゃいぃなさぁい!!一思いに、一気に、面白く、劇的に、感動的に、『カギ』の封を解くんだァァァァァ!!!…………ん?おい、『待て』」


 何故か目の前の怪物は、フードの人物の言葉だけで静かになる。そうすると、煙で全く見えない一本道のどこかから、聞こえてくる音があった。


「────お、おぎゃああぁ!!!」


「ふざけるなぁよ???この神聖たる惨殺場に赤子の泣きごぉえ???キメラァ!さっさと見つけて焼き殺せェェェェエ!!!」


 キメラはその声に従い、前脚を使って近くの煙を払う。そうすると、そこにはまだ年若い女性に抱き抱えられた赤ん坊の姿が。


「キャァァァァァア!!!!!」


「や  」


 声が出ない。ここで引き止めれば俺が先に死ぬ。死にたくない。まだ何もやっていない。ついさっき約束をしてきたんだ。夢を叶えると、約束は守ると。


 でも……これでいいのか?


 キメラとやらの口の辺りから赤い魔法陣のようなものが浮かび上がり、そこから炎の塊が放たれる。


 女の人はその炎に背を向け、赤ちゃんを抱きしめながら身を固めている。自分を犠牲にしても守るつもりらしい。



 ────ほんとーに、このままでいいの?



 知らない誰かに、そう問われた。


 いいわけがない。そんなことは分かってる。だけど、でも、どうしろって言うんだ。



 ──────まだ、分からないのかい?



 なにが?





 はぁー、そういう時は「助けて」って言うんだよ?





 その少し悲しそうな声を聞いた瞬間、赤ちゃんを守ろうと必死な女の人とキメラの放った炎の間に、光る何かが割り込んだ。


 そしてそれは、どこかで目にしたことのある四角い何かで…………





「遅くなってごめんね。ボクが来たよ?」






 ────そこには今までに目にしたことのない誰かが、平然と立っていた。







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