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第十三話 崩れ落ちる。

※改稿しました。(内容に大きな変化はありません。)10/19

戦闘シーン、エイルの台詞を改稿しました。2/6




 時間稼ぎを行う決意をしたのはいいが、情けないことに、相手の魔術による攻撃に対して具体的な対抗手段などひとつも持っていない俺。



 さぁ、どうしたもんか?




━━━━━━━━━━━━━━




「来るなら来てみろよ、この木偶の坊!」


 こちらへ来る相手との距離が近くなる前に、俺は分かりやすい売り言葉を大声で叫ぶ。


 ひとまずこういう脳筋っぽい奴を焚きつけるためには挑発が一番効果ありだ。

 もしここで丸腰のエイルの方に行かれてしまったら、時間を稼ぐ余裕なんてなくなるからな。


「オデ屈強。お前なんかぶっ潰す!!」


 ふぅ、ひとまず挑発は成功したようだ。

 その証拠に風で捲れあがったフードの下にあった豚のような顔は、明らかに怒気を含んでいる。


「オデぶっ飛ばすぅぅう!」


 その頭の悪そうな台詞と共に、魔術で創られた武器を引き摺りながら道を塞ぐ形でこちらに突撃してくる凸。


 ここからは正直賭けだ。もし相手の攻撃をまともに受けたら、もう俺にはエイルを逃がす手段がない。


「ここで待ってて!!」


 エイルにそう言った俺は、近づいてくる敵に向かっていくようにその一本道を走っていく。

 このままエイルとの距離が近い状態のままだと、相手の標的が変更してしまう可能性が上がってしまうからだ。


「オデ必殺!『岩槌ロックハンマー』」


 レンガの壁で区切られた狭い路地の中、下から上へと勢いよくかち上げられる土で創られたハンマー


「っと!!」


 それに対して俺は危なっかしく右の壁に飛びついて何とか躱す。相手が粉砕力重視の武器を使ってくれていることが唯一の救いだった。


 しかし、雪の薄く積もる通路での急激な方向転換で足首に負担が掛かり、そのまま脚に激痛が走る。


 でも、大丈夫。当たってない!


「おい、そんなんじゃ当たんねぇぞ?どこ狙ってんだこのウスノロ!」


 時間稼ぎの間にも挑発は忘れない。と言ってもこんなのがあと何回続くのか分からないと思うと、思わずして冷たい汗が垂れてくる。


「オデ否定、ウスノロじゃない!!」


 今度は振り上げた槌をそのままに、俺に狙いを定めて力の限り、振り下ろしてくる。

 その一撃は、重力と重量の乗算で先程とは明らかに威力が異なるものだった。


「────!!!」


 巻き上がる砂煙ならぬ雪煙。一本道を高く仕切っていた煉瓦の壁は見事に破壊されたようだ。


「オデ疑問、視界が真っ白で見えない?」


「…………」

 

 その一撃を何となく予想していた俺は、相手が振り下ろす動作に入る直前に凸との間合いを詰めることで直撃は免れていた。


 だけど柄の部分が左肩に当たってしまい、じんと熱い感覚から痛みが飛び出してくる。ここは我慢だ!


 とりあえず、霧のように舞う雪を利用して一旦距離を取った。


「あれー、どこいった?オデ困惑」


 周囲の様子が窺えない状態で咄嗟に魔力を視る。そうすると凸の持つハンマーに魔力が流し込まれていることが判明した。


 つまり、あの魔術は使用中の間継続的に魔力が必要だということが分かる。ようするに俺にとっては丸見えなのだ。


 あとはどう決着をつけるか。だよな?




 そういえば、小さい頃によくレオニスと二人で遊び場を占有していた奴らを懲らしめに行ってたな。(俺は雑魚だったから、見ていただけですけど)

 

 あの時の、レオニスの豪快な拳を思い出せば、こいつ程度ならなんとか!


「────詰めが、甘いんだよ!」


 激しく舞っていた雪煙から魔力を目印として突出し、ぬっと姿を現した俺。


「う……お?」


 そこから驚いている凸に対して、アイツの動きを頭の中で思い出しながら鳩尾に思いきり拳を捩じ込むことに成功した。


 結果は見事に大成功。凸の腹に刺さる鈍い音、そしてその場に倒れる巨体。レオニスが言っていた通り、本当に手が痛い。


 よし、これでもう──!?


「そこで油断しちゃ駄目だよ。少年……」




「『水よ、縛れ』」





 師匠の助言も虚しく、何かの魔術によって手足を封じられてしまい、そのまま受け身をとることもなく蹴り倒されてしまった。


 顔を下に向けると、形質が変化して頑丈な縄のようになった水が、俺の手足を拘束しているのが分かった。


「俺はお前みたいに馬鹿じゃないからな。ほら、しばらくおやすみの時間だ。じゃあな」


 次の瞬間、頭部に強い衝撃が走った。


 狭まっていく視界で微かに捉えたのは、凹の方のフードの奥にある異常なほど美形な顔と陰湿な笑みだった。



 それを見て、今更ながらに考える。




 俺の考えって、これでもまだ甘かったのか?でも、俺は────。



 頭部の異様な熱さを感じ取りながら、ついに視界は真っ暗に染まりきってしまう。



━━━━━━━━━━━━━━



「────良いざマだなぁ?魔剣の家け……詮はこんナもん……?」


 辛うじて意識だけは取り戻せたようだが、頭部の痛みが視界をぼやけさせ、聴覚にも悪影響を与える。


 もちろん手足は拘束されたままで、立ち上がることなど到底不可能だった。


「う……」


 視線の真ん中に映るエイルは、服が所々破かれ、恐らく抵抗した時につくられた痛々しい打撲痕が白い地肌に刻まれている。


 一見自らを縛る水魔術の縄を解こうと必死に抵抗しているようにみえるが、実際には羞恥と恐怖で身体に力が入っていないようだ。


「や、ぁ──」


 やめろ。という言葉を咄嗟に出そうとした。しかし実際に飛び出したのは、うめき声のような何かだった。


「ボルコム、コイツ起きた。ど──る?」


 どうやら気絶していた凸の方も意識を取り戻したらしい。


「お前も俺サまに恥をかかせたもんな?だから使ってやんよ。おい、エイルとか言ったな?今すぐ俺様にアやまれ」


 何やら先端の尖ったものを、俺の首に添えて喚いている凹。


 いったい何を言っているんだろうか?耳があまり役割を果たしていない。


「魔剣の家系如きが、デアゴ様とボルコム様に泥を塗ってしまい、申し訳ございませんでしたって言えよ!今すぐ!」


 頭がくらくらする。あぁ、頭を打たれたせいか、それとも、この耳障りな雑音のせいか。


「……魔剣の、家系如き、が……」


「聞こえねぇぞ!?俺様を舐めてんのか?こいつの首ぶっちぎるぞぉ!?」


 凹が俺の首にナイフを押し付ける。それによって、少しだけ抉られる首の皮と肉。


「ひぅ!?」


 ────痛い。痛い痛い痛い痛い痛い、痛い、痛い。いやだ。


 滴る鮮血。その鮮血が垂れるのと同じように、目から涙が溢れ出てくる。


 痛みから変換される恐怖感が、心の中を占領してそのまま埋め尽くす。


「おいデアゴ、こいつなんかおかしくないか?」


「オデ共感。コイツ目が死んでて気持ち悪いぞ」


 痛覚が刺激されたことで、馬鹿になっている脳が再び活動を開始した。


 なんで、そんな酷いことをする?


 なんで、人の一人も助けることができない?


「なんで、こんな……に」


 ──俺は救えない奴なんだ?


 今の今まで考えることすら放置してきた様々な「なんで」が、頭の中で発せられ、反響し、広がっていく。


「…………ごめん、な?」


 エイルの謝罪の言葉が、何よりその諦めたような死んだ笑顔が、俺の心に追い打ちをかける。



 ──そしてその瞬間、今まであった「何か」が、ずいぶんあっさりと切れた。



 なにが、「助ける為に踏み出す一歩」だ。



 あの時、何もしなかった自分に戻りたくないからって、虚勢を張って嘘をついて、聞こえないふりをして、自分の弱みを隠して。


 それでもそんな弱い自分が嫌いで、変えたくて、だけど変えられなくて、「約束」っていう希望に縋り付いて。



 ──感情が、心が、均衡していたはずのものが、黒ずんで、軋んで、一気に傾く。



 どうせ現実は、こんなものなんだよ。


 もう……


「もう、げんかいだ、よ────」




 その時、道を塞いでいた壁がなんの合図もなく、突如として消え失せた。


「────っ!!!」


 その現象に各々が気付いて、動きを止める。そしてその瞬間、水を打ったような静寂が訪れた。





「────遅くなって、すまない」



 静寂を破って聞こえてきたのは、静かに燃える力を宿した美声だった。

 どうやらこの声の持ち主が、道を塞いでいた壁を破壊したらしい。


 再びぼやけ始める視界の中で、唯一見定めることができたのは、雪景色によく映える白銀の長髪。



 はっ。だから?



 そんなことはどうでもいい。

 意識が再び無くなっていくことの方が、よほど大切で、嬉しい。





 ────遠のいて、遠のいて、できればもう戻って来ない方がいい。


 そうして俺は、意識の奥に逃げ出した。





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