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第十二話 一歩を踏みだす。

ひと足早く投稿です。

※改稿しました。(内容に大きな変化はありません。)10/19




 少女は凸凹二人組を置いてきぼりにするほどに、薄暗い道を全力で走り抜けたようだ。

 しかし、ある時を境にその足音も止まってしまう。


「なっ!?一本道の癖に行き止まり?どうなってんだよこれ」


「ふん、そんな簡単にこの俺様から逃げれるわけないだろ?ちょっとは頭使えよな、この馬鹿が」


「オデ嘲笑。なんでこんなことも予想できない?謎過ぎて困惑」


 実のところ、この道は一本道にも関わらず途中で道が封鎖されており、今、少女の目の前には高い壁が立ち塞がっているのだ。


 それから辺りをキョロキョロと見渡してはいるが、周りにあるのは逃げ道のない廃屋と壁だけで、これといった逃げ道などは見つかっていないようだ。


「これ、はもう俺が行くしかないよな?師匠」


 その様子を道の端にあった木箱の物陰から見ている俺は小声で師匠に確認をとる。


「あぁー、僕もたしかに頃合だと思うよ。なにやるか知らないけど頑張ってね、応援してるから」


 何だ、そのさっきとまるで違う緊張感の無い応援は?まぁいいか。




 物陰からそっと姿を現した俺は、今さっきここに走ってきたかのような大袈裟な足音を立てる。


「あ?誰だお前。デアゴ、こいつと知り合いだったりするのか?」


 こっちがさっき自分の事を俺様とか言ってた方のヤツか。

 フードを深く被っているので人相は窺えないが、背格好的に俺と同じくらいの歳なのが分かる。


 そして、いかにも高そうなローブを着てるあたり、貴族な上に何かしらの魔術を使える可能性も高いということも考えられる。


「オデ無知、こんな奴知らない。ボルコムこそ知り合いじゃない?」


 もう一人の阿呆そうな喋り方をする図体がでかいヤツもこっちを振り返った。

 なんかこっちもローブは着てるんだけど、個人的には棍棒で殴ってきそうなイメージだな。失礼失礼。


「いえ、その……この辺りにある雑貨屋を探していたのですが、道に迷ってしまって。よければ教えてもらえませんか?」


 もちろんこの情報も俺がまだ十二歳くらいの時の記憶だが、嘘をつくなら真実も混ぜた方が本当っぽいだろ?


 それにしても、緊張感が半端ない。できればこういうのはもう二度と御免だね。


「オデ回答、その店なら売り手同士の競争に負けて最近潰れた」


 おぉ、ちゃんと答えるのかよ。もしかしてコイツ本当に頭が弱いのか?


「デアゴ、親切もほどほどにしろ。それよりお前、適当に嘘ついてこいつ助けようとか思ってんなら無駄だぞ?さっさと俺様の前から散れ」


 思った通りの反応ありがとう、悪者っていうのはこういう感じだよな普通。


「あっ、はい。教えていただきありがとうございました」


 俺の去り際の台詞に、少女は驚きを隠せていない。少なからず期待を持っていたのか、少し失望の色が窺えた。


 凸凹二人組も、俺のすんなりとした言葉で興味を失ったのか、少女の方に意識を戻そうとする。




 ────仕掛けるなら今、この瞬間しかないと、俺の勘がそう告げる。


 それを素早く感じ取った俺は、咄嗟に二人組に声をかけた。


「それからもう一つだけいいですか?」


「あ?」「ん?」


 咄嗟の呼び掛けに二人はこちらをもう一度振り返る。準備完了だ、あとは目を瞑って……


「『光よ、眩ませ!』」


 俺の詠唱を起点として、瞬間的に前にかざした魔札から発せられる強い光が暗い路地を駆け巡る。


「眩しっ!」


 目を瞑っていた俺以外の三人、特により近くにいた凸凹二人組には予想すらままならない瞳への刺激が直接伝わる、しかも暗い路地というのが相まって効果も絶大なはずだ。


「おい、手出せ!行くぞ!」


「ちょっ、ちょっと?なんなのこれ?目が痛いんだけど!?」


 突然の閃光に目を閉じている少女の手を無理矢理引いて、来た道を一気に走り抜けるべく全力で駆け出した。しかし──


「うわぁぁぁあ目がぁ!とりあえず時間稼いどけ、デアゴ!」


「オデ憤怒ぅぅぅうう!!『土よ、突き出ろ』」


 凹の方は閃光の魔術がよほど効いたのか、目元を押さえて床を転がっている。だが、凸の方は光で視力を一時的に失いながらも、何とか魔術を行使したようだ。


 どんな魔術かは分からないので、とりあえず意識を集中させて、自然エネルギーから変換された魔力の動きをみ……


「ちょっ!止まれっ!」


 その直後、手を引いて走っていた俺と少女の目の前に、自力では乗り越えられない程の土壁が魔術によって創造されていたのだ。


 恐らくだが、凸のやつは土魔術の適正レベルが高いのだろう。


 もしあと一歩でも止まるのが遅ければ、下から突き出てくる土の壁に押し上げられて今頃は虫の息だろう。それを想像して、思わず顔から冷や汗が垂れる。


「ねぇ?これってかなりまずいんじゃないの?」

 

「あぁ、緊急事態だな。これ」


 後ろで肩で息をしている少女の言っていることは的を得ている。


 ──というか、もはや大ピンチだ。


 と言うのも、逃げるのを遅らされたのではなく、一つしかない道そのものを封鎖されてしまっている。


 せめて障害物を壊せるだけの魔術が使えれば良かったのだけど、そう簡単にはいかないのが現実というものか。


「『土よ、戦鎚を象れ』ぶっ潰れろ〜〜!」


 どうやら凸がそのまま元の視界を取り戻したらしい。

 しかも硬そうな土のハンマーを引きずりながら、走ってこちらへと向かってくる。どうすればいい?


「今君が出来ることならまだ、ある。それは時間を稼ぐこと。退路を塞いでいる壁の自然消滅を狙うんだ。とやかく言う前に、少年はその女の子を助けたいんだろう?健闘を祈るよ」


 「壁の自然消滅を狙う」か。師匠の言うことは情報として知ってはいたが、そんな風にも捉えられるのか。


 まぁこの際信じるしかない。のだが、一体どれだけの時間を稼げは良いのかも定かではない。そのことに不安感が募っていく。


 そして俺は不意に視線を隣りにいる少女へ向けた。


 その身体は弱々しく震えていて、顔も青白い。今にも崩れ落ちそうで、正直見ていられない。




 しかし、その覚悟を決めたような翡翠色の瞳だけは、これっぽっちも輝きを失っていなかったのだ。




「……オレは誇り高き『魔剣の家系』、名はヴァルナ=エイル!ア、アンタ達みたいな奴にぃ、まっ、負けてぇ、ゔぅ、たまるかぁぁぁぁあ!」


 その過呼吸で何を言っているのかも分かったものではない、身体の奥底から感情を爆発させたような叫びが、みっともなく響き渡る。

 その声に家系の矜恃など微塵も残っていなかった。


 だけど俺はそんな少女が、いや、ヴァルナ=エイルという人物がとても格好良くて、それから、羨ましくも思えたのだ。


 そして同時に、自分がどれほど甘くて卑怯な考えをしていたのかも思い知らされた。





 ────これでは駄目だ。こんなことでは

″あの二人″に顔向けも出来やしない。





 俺は泣きじゃくる彼女を手で背後に下げ、今度は自分が雪の積もる路に力強く足跡をつけた。


「え……な、なんでだよ?別にアンタは関係ないだろ?なぁ!?」


 悲痛な彼女の声も、今の俺にとっては意味をなさない。


 無理?無謀?力量不足?そんなことは二の次だ。

 俺みたいなやつがそんな事考えてたら、これから先、前に進むことなんてできないと思う。


 俺は、誰にも聞こえないような小声でこう呟いた。



「なぁ。俺、やってみせるよ」



 だからそれが泥臭くって格好悪くても、どこまでも愚直に足掻いてみせるって。



 これが、これこそが。


 今さっきまで名前も知らなかった彼女に教えてもらって踏み出した、始まりの一歩だから。



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