第十話 魔法を知る。②
※改稿しました。(内容に大きな変化はありません。)10/19
「それじゃあ、改めて魔法を教えていくから、自然エネルギーと魔力を視る準備をしておいてね」
「今度こそ間違えずにちゃんと教えてくれよ?」
先程までルックウッド書店の地下部屋で、魔法を教えてもらっていたが、師匠がそこでとんでもないミスをしでかしてしまったため、教わる場所が俺の部屋に変更されたのだ。
それから、頼むから俺の部屋までぶっ壊すのはやめてくれよ?ベラにバレたらネデラおじさんより厄介そうだからな。
「そこの所は安心してもらってだいじょーぶだよ?なんと、今回は防御系の魔法を使うからね。『武装』」
そして俺は魔法の詠唱に合わせて、混じりっけのない「世界」そのものを視つめようと、瞬間的に目を凝らす。
「よし、視えた」
そうすることで、薄いシャボン玉のような質感の自然エネルギーが視界に現れた。どうやら短期的に意識したら視ることが出来る程度のコツは掴むことができたようだ。
それにしても……どうなってんだコレ?
ありのままを伝えるのなら、まず本来なら使われるはずの自然エネルギーには全く変化がなかった。
その代わりに、師匠の前に突然時空の歪みのようなものが現れ、そこから白い炎のようなエネルギー体が溢れ出して、師匠を包み込んだ。そんな感じだろう。
「僕がこの前君に披露した『洗浄』や、今日行使した魔法も全て、属性に染まっていない魔力をそのまま利用する基本中の基本。その名も『無属性魔法』というんだ!」
へー、魔術にはそんなの無かったな。
でもそうか、あの自然エネルギーとは本質的に違う炎のようなものは魔力だったのか。
だとすると、いくつかおかしなところがある気がする。
「まず根本的に、師匠が使った魔力は一体何処から出てきたんだ?周りの自然エネルギーを視てたけど、特に変化も無かったんだけど……」
そこで師匠はハッとした顔をする。
「そうか、魔札はそこから始まるもんね。だったら君の魔術も自分自身で視てみるといいよ。疑問に答えるのはその後にするからさ」
「そんなのは後でも……いや、待てよ?」
その師匠の言葉で思い出した、魔術を行使する上で必須である、魔札が自然エネルギーを魔力に変換させるといった考えはあくまでも「最有力な学説」なのだ。
なので、実際に視て確かめました。なんて人は今までに居ないことになる。
つまり、本にも載っていない魔術の真理が解明できるかもしれないと?ゴクリ。
「『光よ、照らせ』」
俺は緊張しながらも、魔札をゆっくりと上に掲げて、唯一まともに使える光属性の魔術を行使した。
そして詠唱を終えると同時に、自分のイメージ通りの光の球体が程よい輝きを放ちながら現れた。
「これはなんか……凄いな」
俺の目がまず捉えていたのは、魔札に吸収されるように集まる自然エネルギー。直にそれは白い炎のような魔力に姿を変え、そこから更に俺の意識した程の大きさになった。
そこからが全く訳分からないのだが、魔力が弾けるように消えると同時に光が輝き始めたのだ。
そして、ここまでのプロセスが一秒足らずで行われているのである。(ずっと視てると、目がおかしくなるの間違い無し)
「そう、魔術っていうのは魔札によって自然エネルギーを魔力に変化させ、属性までもを付与する高等技術の集合体。言うなれば「人が自ら生み出した神器」のようなものなんだ!これはロマンだよねー」
ともかく肝心な原理までは解らなかったが、魔術の学説はだいたい間違っていないということは分かった。
「まぁ、そうは言っても魔札を普及している人物、及び原理の発案者も不明だからなんとも言えないけど」
そう、発案者の名前に加えて、魔術は元々誰かがゼロから編み出したものなのか、はたまた魔法を模倣して創られたものなのか、それさえも情報が無い。
魔術協会の方は真相を本当に知らないだけなのか、知っていて意図的に隠しているのか。
ちなみに、この話は雰囲気的にタブー臭がするので、父さんにも聞いてみたことは無い。
「そうなのかい?それでも未だに魔札は供給されているわけだから、関係者くらいにはきっとそのうち出会えるはずだよ。楽しみだなぁー」
閑話休題、それじゃあ話を戻そう。
「それで、魔法と魔術を実際に目の前で視させた意図は?」
今まで本の身体でウキウキした雰囲気を醸し出していた(コレ凄い技術だと思う)師匠は、急に引き締まった声で話し始める。
「それじゃあ少年は魔法と魔術、どっちの方が″楽チン″だと思った?」
まさかの質問返しとは、やってくれるな師匠。でもこちらも答えならパッと出せる。
「魔法かな。だってそもそも、自然エネルギーを扱ってないんだし」
「だいせいかーい!いやぁ、君は理解が早くて助かるよ」
師匠の間延びした受け答えに、ついついせっかちが発動してしまう。
「それで何がわかるのかって──」
「つまり、僕が言いたいのは魔法のほうが踏む段階が少ない。言い方を変えるのなら、魔法の方が余裕がある。そしてそれは「魔法の自由度の高さ」に直結するということなんだ」
師匠は俺に対して急にほのぼのしたり、厳かな雰囲気を創り出したりしてくるから、とても底が読みずらいんだよな。
というかそもそも、未だに謎だらけの存在なんだけど。
「例えば、魔術では初期段階で自然エネルギーを集めるというプロセスがあるけど、その自然エネルギーの取り入れる量は魔札の性能的な限界で一定になっているはず。だから「魔力使用効率」なんてものが必要になる」
いきなり饒舌になった師匠。(舌は無いけども)とりあえず俺は静かに聞いておこう。
──って、そんなこといつの間に知ったんだみたいな事も話してるし、本当に底が知れない。
「それに対して魔法は、『魔の蔵庫』簡単に言うと魔力をあらかじめ入れておく袋みたいなものかな?それを活用して魔力の使用量をコントロールすることで、自分の好きな規模の現象を創れるんだよ」
魔術の方はまだ何となく雰囲気は掴める。
問題は魔法だ、魔の蔵庫とか言う新単語は、中々に重要なものだということくらいしか分からない。
「ということで少年が次に行うのは、魔法と魔術を明確に二分する魔の蔵庫を使えるようになることだよ。じゃあ、気合入れて行こー!」
「うわっ、なんか出来る気がしない……まぁ、やるしかないか」
いきなり難易度の高そうなことを学ぶことに対して少し躊躇してしまう。
「だいじょーぶっ!君ならできるさ!君は絶対に魔法使いに成れるよ。それは僕が保証するからね」
とりあえず本がウィンクするなよ。
それにしてもここまで言い切られるとなんか、嬉しくないこともない。
期待に応えられるよう、俺なりに少しは頑張ってみるか。