第九話 魔法を知る。①
※改稿しました。(内容に大きな変化はありません。)10/19
「ええぇぇぇぇー!凄いじゃないか、少年!よくあれだけのヒントで真実に辿り着くことが出来たね。しかもこんなに早いとは思ってもみなかったよ」
昨晩、ベラの魔術によるサポートのお陰もあって、最後は意識を失いながらも何とか自然エネルギーを視ることが出来た俺は、師匠に会う為にルックウット書店の地下部屋に訪れていた。
余談だが、なんとか自然エネルギーを視ることが出来た俺は、そのまま朝まで目を覚まさなかったらしく、その起きた時のベラの慌てようが物凄かったのだ。
「お身体に異常はございませんでしょうか?本当に?」
この言葉を軽く四、五回は聞いたくらいだ。
ほんとに心配し過ぎなんだよ、ベラは。
「本来なら、幼少期の全部を使うくらいに時間が必要なんだけど、まさか魔術で何倍も感覚を研ぎ澄まして視えるようにしちゃうなんてね。これは僕も一本取られたよ」
え、こんな前座で、そんなに時間がかかるのか?というかその前に、ちょっと待て師匠。
「俺、まだ魔術を利用して自然エネルギーを視たなんてこと、一言も言ってないけど?」
「あっちゃー、バレちゃったか。少年には申しわけないんだけど、実はね──」
俺の言葉にわざとらしく悔しい声を出した師匠は、この課題の全貌を遂に明らかにした。
「僕は隠れた所から君を見て、あくまで少年自身が自分の知恵や力を使って自然エネルギーを視られるようになるまでの過程を見守ろうと思ってたんだよ。いやぁー、君が自分の眼に塩を振った時なんかはお腹の底から笑っちゃったね」
師匠、お腹無いでしょ?
「ちょっ、こっちだって分からないなりにやろうとしたのに笑うなよ!あと、俺は今回別に一人でやり遂げたわけじゃないけど、それは大丈夫なの?」
ていうか大体どっからどうやって見てたんだ?師匠の魔法ならほとんど何でもできそうだから、全く予想もつかない。
「いやいや、僕を頼るのは別として「人を頼る」ことが出来るっていうのも立派なひとつの才能だからね。しかもそれで課題までクリアしたんだから、もっと誇ってもいいくらいだよ!」
今となってはベラと父さん以外との繋がりもほぼ皆無な俺が、その他の人(だと思うけど見た目は本)に褒められることなんていつ以来だろう。
そう考えると何だか嬉しい気持ちが少しだけ溢れ出てきた。
「ということで、自然エネルギーを視れるようになった少年には、課題じゃなくて僕が直々に魔法というものを教えていくよ?」
「よろしく……お願いします」
なんだかんだあったけど、ここまで来たからには魔法を何としてでも習得してやりたいという気持ちが強くなってきた。
「それじゃあ、今から僕が魔法を使ってみせるから、自然エネルギーと同じように魔力も視えるか試してみなよ。昨日でコツみたいなのは分かったはずだからね」
「よし、分かった。ちょっと待ってて……」
言葉を返した俺はその場で目を閉じ、自然エネルギーと魔力を視る為に集中し始める。
なぜか視えないビジョンが浮かんでこないので、多分大丈夫だろう。
「そろそろいいかい?じゃあいくよー!『衝撃』あっ……これ、は、使う魔法を間違えちゃったね」
師匠は魔法特有の詠唱を終えた瞬間に、地下部屋の入口扉が、馬鹿でかい音を立てて吹っ飛んでいった。
そしてその音の直後、こちらに向かって近付いてくる足音が聞こえ始めた。
「や、ヤバいって師匠、ネデラ叔父さんが降りて来てる!しかも俺こっそりここに来てるから絶対怒られるって!」
はっきり言って、魔力が視えたとかもう気にしてられない。
俺が緊急事態だと思ってどこかに隠れようとあたふたしているのに、事の発端である師匠と言えば全く慌てる様子もない。
自分は本だからってせこいぞ!
「まぁまぁ、落ち着きなって少年。何だったらこれから教えることの一例として、君の叔父さんから君を隠し通してみせるよ」
「とりあえず何でもいいからこの状況を切り抜けてくれるならいいよ!」
このままだと今後俺がルックウッド書店を訪れる権限を剥奪されるとか、それをネタに父さんが延々と悪口を言われるとか、ホントに不利益なことしかない。これは困ったぞ。
「僕に任せてよ。なんてったって僕は君の師匠だからね?」
今は只の喋る本だけど、不本意にもすこーしだけときめいてしまった。
じゃあ、とりあえず任せた師匠!
「それじゃあ、まずは『修復』」
「嘘だろ?魔術だったらもっと時間かかるし、相当な高等技術だぞ?魔法って本当に規格外だな……」
なんと砕けた木製の扉だったはずの破片が、魔法によって輝いたと思った瞬間に元通りになっていた。
しかし、これだけでは当然俺の存在まで隠し通せるわけが無い。
「いいかい少年?魔法というのは決められた縛りがない。だから、魔法を極めればこの世界の摂理、つまり定められたものだって余裕でねじ曲げれるんだ……」
師匠がアドバイス的なことを話し始めたと同時に、元通りになった扉の目の前までネデラ叔父さんの足音が近付いて、止まった。
「おい!誰かいるのか!?居るんだったら速やかに姿を現わせ。隠し通せるなんて思うな、見つけ次第絶対王都まで引っ張っていってやるからな!」
うわっ、ネデラ叔父さん本気でブチ切れてるぞ。これは中々にピンチな状況だ。けれど師匠はそんなことも気にせず話を続ける。
「だから魔法使いには、自制心が常日頃から必要になるんだ。じゃないと僕みたいなのが国なんかをメチャクチャにしかねないんだよね。あはは────」
ガチャ。
とうとう地下部屋の扉が向こう側から開けられてしまった。
「お前だったのか!一体ここで何をしているんだ!このアンブローズ家の汚点、恥晒しめ!」
げっ、普通に見つかったよ師匠?どうすんのこれ!
「だけど物事には何時だって、例外というものがあることを忘れてはならないんだ。『忘却』」
師匠が何らかの魔法をかけたと思われるネデラ叔父さんは、トロンと夢見がちな目になった。
「あれ。ここってこんな綺麗だったか?まぁどうでもいいか……」
そんなネデラおじさんらしくない言葉を残して、ゆっくりと元来た道を戻っていく。
師匠は、何やったんだ?
「だから君は自分が正しいと思えることに魔法を使うといいよ。いいや、その権利が僕の弟子、すなわち「魔法の継承者」である君にはあるんだからね!」
鮮やかに魔法で事を解決した師匠は格好いいし凄いし、アドバイスもいいこと言ってた。
ただ、この事件の発端は誰の仕業だったかということを少し考えてほしい。
「アドバイスどうも……それでまだ魔法の講義、続ける気なの?」
ちゃっかり格好いいこと言って自分のポカを有耶無耶にする作戦を見破られた師匠は、どうやら少ししょぼんとしているようだ。
だからといって対応を変える気は無いけど。
「…………あー、ちょっと場所変えようか。少年の部屋なんかどうだい?」
「了解。じゃあとりあえず行こうか」
まぁ、こんな感じで師匠の実践的な魔法の使用例を見学する初魔法講座は幕を閉じた。なんだろう、この虚しさは……
そうして俺は本である師匠を手に持ち、行きと同じようにコソコソとルックウッド書店を後にした。
「ちょっと君、変なところ持たないでよね!こっちは立派なレディーなんだ──」
「誰のせいで俺が変なところを持つ羽目になったのか忘れてないよな?なぁ?」
あ、少し悪いと思ってるのか、こっちを見てた目を一瞬だけ逸らしたよね?これはもう確信犯だよ?
「もう、少年はあたりが強いよね。優しくしないと女の子に嫌われちゃうよ?」
目だけじゃなくて話まで逸らしやがった。ていうか、それはまったく以って、余計なお世話だよ!